日光珈琲「もみじ市だよ日光珈琲!」

一度見たら忘れられないTシャツだ。派手な色、というわけではなく、変わった形、というわけでもなく、ベージュ色のシンプルなTシャツなのだが、注目すべきは左胸のワンポイント。「NIKKO COFFEE」の文字があしらわれた円形のロゴマークの下に、男らしい骨太なフォントで「ドリップ」の文字。このTシャツを来た、存在感抜群の男が丁寧に珈琲をドリップしている。この珈琲が、うまくないわけがない。

この男の名は、風間教司。「cafe饗茶庵」「日光珈琲」「日光珈琲 朱雀」のオーナーである。日光と鹿沼の地に新たなるカフェ文化を築いている男であり、カフェという“媒体”を通して、町に新たなる“物語”を生み出している男だ。
「物件の情報を入手したときにまず考えるのが、この地域はどういう場所だったんだろう、ということ。その物件の周辺の状況や時代背景……言って見れば歴史の発掘調査から始めるんですね。そういうものを取り込んで、じゃあここに店を作るとしたらどんな空間にするか、この場所でどんな物語を紡いで行けるのか、というのを考えて行く。それが楽しい」

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日光珈琲がある場所は、かつて宿場町として栄えた今市の繁華街から、小さな路地を入ったところにある。古い木造の建物を改装したこの場所は、かつては連れ込み宿だったという。
「部屋が細かく区切られていて、どの場所も囲われているような、秘密めいた空間でした。その雰囲気を生かしたかった。元から入っていた色ガラスを活かして、色気のある空間にしようと。裏通りにひっそりとある、大人のカフェに」

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実は今、風間さんは4軒目となるカフェを建築中。その場所は、日光東照宮に近い、“日光の中の日光”だ。
「大正天皇の御用邸につながるメインストリートだったんです。御用邸の馬車が通る道。その道沿いにある、かつて商家だった建物が新しいお店で、大正の時代の雰囲気を残しています。だから、大正、昭和に使っていた什器を使って、重厚でクラシカルなイメージに仕上げたいと思っています」

カフェの空間やメニューは媒体に過ぎない、と風間さんは言う。そのカフェが出来たことによって、地元の人でさえ忘れていた町の歴史や魅力に気づいてくれるのが嬉しいと。実際、風間さんがこれまでに蒔いて来た種は、豊かな実りをもたらしている。cafe饗茶庵がある鹿沼の街は、饗茶庵が出来たことによって、若者たちがこぞってカフェや焼き菓子店、レストランを開く、賑わいのある街となった。月に一度行われる「ネコヤド商店街」(鹿沼のお店を中心に、県内のお店が数多く出店するマルシェ)は、いまや県外からもお客さんがやってくるイベントだ。仕掛けたのはもちろん風間さんである。

とはいえ、そのカフェが“ただのカフェ”であれば、”媒体“にはならないであろう。空間の素晴らしさ、提供するメニューのクオリティの高さ、とりわけ、風間さんが自ら焙煎する珈琲の旨さを知れば、カフェとして一流であることこそが、そのカフェが良き媒体でありうる条件に他ならないことがわかるはずだ。

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日光珈琲のロゴマークには。3つのものが描かれている。いちばん上にあるのは「NIKKO COFFE」の文字。その下に描かれるのは、日光連山をイメージした山々。いちばん下に描かれているS字型の曲線は、日光例幣使街道やいろは坂、大谷川など、“流れるもの”をイメージしている。かつて宿場町だった日光市今市は、いろんなひとが流れて来て、交差して、また帰って行く場所だった。自分の店もそうでありたい、と風間さんは言う。
「店のコンセプトを、こちらから前面に出すようなことはしたくない。カフェは集まった人の“色”によってつくられるから。お客さんによってお店のイメージは作られて行くもの。いろんな人やものが交わって生まれゆくものを見つめるのが楽しい」

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地元鹿沼市では、「いずれは市長に!」という、決して冗談とは取れないような声が上がって来ている。実際、最近は市や県から声がかかることも増えて来た。しかし風間さんは「市長は飾りになっちゃうからいや。自分で自由に動きたいから」と笑う。4軒のカフェを切り盛りするようになっても、きっと風間さんは変わらない。どこかに面白そうな“物語”がひそんでいることをかぎつけたら、フットワーク良く、どこへでもかけつけるはずだ。当然のことながら、今週末、多摩川河川敷で紡がれる「もみじ市」という名の物語へも。

少し肌寒くなって来た河川敷に、いれたての珈琲の香りが漂って来たら、それは風間さんがやって来た証拠だ。目印は、日光連山と日光の山川が描かれたロゴマーク、そして「ドリップ」の文字だ。

【日光珈琲 風間教司さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
毎度お馴染み、日光珈琲です。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
情熱の「赤」ですかね?

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
自家焙煎珈琲
自家製3色スコーン
さつきポークのカラフル挽肉ごはん
実はまだ残ってました! 氷室直送、日光天然氷のカラフルかき氷

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いては、誰もが楽しい気分になれる音を鳴らすあの人たちです!

文●小木曽元哉

TORi「世界のお母さんの味と保存食」

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旅と日々の暮らしを愛する岡本雅恵さんと鷲巣麻紀子さんが始めた「世界のお母さんの味と保存食」がテーマのお店「TORi」は、来年の3月で4周年を迎えます。旅先で食べた料理にふたりの好きなエッセンスを取り込んだオリジナルの世界料理は、初めて食べるのにどこか懐かしい味。カラフルな彩りの料理たちは、すべて素材の持つ自然の色というから驚きです。

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初めてTORiに行ったときの“旅感”が忘れられません。飲食店など決してありそうもない、坂道を上ったところに突如現れた小さなお店。ちょっとでこぼこした白亜の壁にエメラルドグリーンのドア。ドアには「TORi」の文字。ドアの両脇はアーチ型に切り取られたショーウィンドウ。その佇まいは極めて映画的で、まるで自分がロードムービーの主人公になったような気持ちになりました。例えば、バックパッカーでシルクロードを旅していて、アジアとヨーロッパの間の見知らぬ国にたどり着いたとして、お腹がぺこぺこで人通りのない街を彷徨い歩いているときに、目の前に現れた小さな食堂。TORiはまさにこんな物語が似合うようなお店で、疲れてお腹を減らせた旅人が、その彩り豊かでおいしい料理を食べれば、とたんに元気になってしまうのではないかと思うのです。 

そんなTORiだから、きっともみじ市でも、とびきりカラフルな料理を提供してくれるのかなと、ワクワクしながら鷲巣さんと話していると……

「TORiには色がないらしいんです」

……パ、パードゥン?

お手伝いにきてくれた子に言われて、そう気づいたのは最近のこと。岡本さんの産休がきっかけとなり、TORiとしての活動のカタチを変え、表に出ての活動を担うことになった鷲巣さん。様々な場所でケータリングを行いながら、自分たちの料理に決まったスタイルがないことに気づきました。いろんな料理に興味がありすぎて、自分たちでも気づかないうちに、ケータリング先の希望を汲み取り、色んなジャンルの料理を届けていたのです。その柔軟な対応に感銘を受けたお手伝いの子から飛び出たのが「TORiには色がないんですね!」の言葉だったのです。

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色がないということは、どんな色にも成り行く可能性があるということ。これから先、TORiが何色に成って行くのかは、ぼくにはわかりません。きっと、岡本さんと鷲巣さんご本人も、わかっていないのではないでしょうか。でも、言って見ればそれこそがTORiの魅力だと思うのです。ロードムービーのように、ふたりがこれから出会う人や、旅する町から何かを感じ取って、TORiは進化を続けるのです。

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ケータリングを通して、TORiの幅をいっそう広げつつある鷲巣さんと、出産、育児を経て、新しい角度からTORiに臨む岡本さん。ふたりは、今年のもみじ市で、そこにやってくる人々を、何色に染めるのでしょうか?

【TORi  岡本雅恵さんと鷲巣麻紀子さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
世界のお母さんの味と、古くから伝わる保存食をコンセプトに

中目黒でCAFE&CATERING「TORi」を営んでおります。

うれしいことに、今回で3回目のもみじ市。いつも温かく楽しいながらも慌ただしく過ぎてしまうので、お客様と一緒に楽しい時間を過ごせたらなぁと思います。お会いできるのを楽しみにしております。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
エメラルドグリーン

お店の扉の色。モロッコの扉も偶然にもこの色が多く使われていて、何か縁を感じた色です。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
世界のお母さんの味にクスクスを添えてカラフルなプレートをお出しします。

定番のジャムやドライフルーツなど、自然なのにカラフルなものをたくさん詰め込んでお持ち致します!

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いてご紹介するのは、日常の何でもない“空気”を特別なものに変えてくれるあの方々。

文●小木曽元哉

たかはしよしこ「エジプト塩食堂」

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たかはしよしこさんの頭の中から飛び出したのは、小さな瓶に閉じ込められた魔法でした。その名も『エジプト塩』。

エジプト塩? エジプトのお塩?
いいえ、違います。エジプト塩は、エジプトの塩ではないのです。

エジプト料理で使われている調味料?
いいえ、違います。エジプトでポピュラーな調味料でもありません。

じゃあ、いったい何なの?

エジプト塩は、エジプトの味がする、魔法の調味料なのです。でも、あなたの知っているエジプトではありません。世界地図のどこを探しても無駄ですよ。このエジプトは、たかはしさんの妄想が築いた、異国の象徴となるイメージだから。

「ひと振りすれば、どんな料理もエキゾチックな味に大変身させてしまうらしい」

魔法のような万能調味料『エジプト塩』はまたたく間に噂となり、みんなの食卓に届くようになりました。原材料には、アーモンド・天然塩・ピスタチオ・白ごま・クミン・コリアンダーと書かれているけれど、たかはしさんの頭を飛び出した時、もうひとつスパイスが混ざり込んだような気が僕はしています。それは、エジプト塩を一番楽しんでいるたかはしさんの好奇心。だから「どんな料理に合うんだろう?」と、みんな楽しむように色々な料理にふりかけ、それぞれの異国を探し始めるようになるのです(何を隠そう、僕もそのひとり)。たかはしさんが旅のお供に用意してくれたガイドブック(ミニレシピ集)を片手に、あなたも自分だけの異国の味を探してみませんか?

たかはしさんは、また魔法を瓶に閉じ込めました。それも、エジプト塩よりも、もっと小さな瓶に。その名も『モロッコ胡椒』。

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世界地図のモロッコと同じモロッコで、実際に親しまれている激辛調味料のアリッサがベースになっています。

「アリッサは好きなんだけど、ちょっと辛すぎるんだよね……」という声に、たかはしさんの妄想スイッチがカチっと音を立てて“オン”になりました。

「辛さを抑えて、日本人の好きな旨味をプラスしたらどうだろう?」

こうして生まれたのが、モロッコ胡椒。しかし、ラベルの成分表を見ても胡椒の文字はありません。

「一時期、ゆず胡椒が流行ったから、その名前にあやかって付けちゃいました」と、たかはしさん。モロッコ胡椒の小さな瓶には、コクのある旨味とピリッとした刺激、そして、たかはしさんのおちゃめさがぎっしり詰まっています。

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今年のもみじ市では、そんな『モロッコ胡椒』と『エジプト塩』の共演が実現します。煮込みに、エジプト塩カラーの緑と黄色のクスクスを添えてプレートに。お好みで『エジプト塩』や『モロッコ胡椒』をプラスして、あなた好みの味で召し上がれ。

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彩り豊かで、いろんな味が楽しめるエジプト塩食堂のプレートは、まさに今年のもみじ市にぴったりな、見た目も味もカラフルな一皿です。

【たかはしよしこさんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
こんにちは。S/S/A/Wのたかはしよしこです。今回は2年前から2回目の出店になります。

エジプト塩という食べると異国にトリップ出来る、魔法の調味料をチームたかはしの皆で作っています。2年前のもみじ市に出場したことをきっかけに商品化したこの調味料は、その後「末広がり」というテーマだった名の通り、末広がりに愛される調味料となりました!

発売当初から変わらず、愛情をたっぷり詰め込んだ完全手作りで製造しております。多摩川に異国のカラフルな風を吹かせたいと思います! 是非チームたかはしに会いに来てくださいね!!!!

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
断然、黄色と緑!

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
今回は「エジプト塩食堂」ではいつも使わせて頂いている北海道の洞爺湖の素晴らしい生産者「佐々木ファーム」さんから届けて頂く完全無農薬の旬のお野菜や洞爺豆、北海道の士別町で育った美味しいサフォーク仔羊を使った『カラフル・クスクス』をお作りします!

チームのカラフルラッキーカラーである黄色と緑色で色付けしたクスクスに、あつあつのスペシャルな仔羊の煮込みがかかります。大好評の新作!「モロッコ胡椒」というさらにエキゾチックな調味料もカラフル・クスクスのお味を更に更に美味しくしてくれます!!!

夏が過ぎ、少しづつ甘みが増してきた彩り美しいみずみずしい根菜を使ったエジプト塩サラダも添えます。是非楽しみにしていてください!

カラフルな演出では、親友のフラワーアーティストの横山さちこさんとのコラボレーションでカラフルな特製エジプト塩のオリジナルBOXに食べられるお花やお野菜のアレンジメントをして頂き、展示&販売もさせて頂きます! こちらもどうぞどうぞお楽しみに!!!

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いてご紹介するのは、関西の鬼才イラストレーター。シュールでユーモアたっぷりのあの人がもみじ市にやってくる!

文●小木曽元哉

喫茶tayu-tau「旅のピクニックセット」(20日)

人は想像すらできないほど膨大な量の情報の海の中を泳ぎ、たくさんのちいさな選択を積み重ねて生きている。そんな中、ふと何かを感じ一歩を踏み出したことが、思いもかけない出来事を生み出すことがある。

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 喫茶tayu-tauを営むご夫婦飯島慎さんと寿代さんは運のよい人だ。若いころに勤めていた会社で出会い、ふたりの幸せな生活をイメージして漠然と「カフェをやりたい」と考えていたときに、とある雑誌の記事に出会ったことがきっかけで、やがては「喫茶tayu-tau」を開くこととなる。雑誌で気になるお店のことを知るということは誰にでもあることだろう。でもここからが他の人とは違うところだ。当時千葉県で暮らしていたふたりは履歴書を持って、茨城県にある、はじめて訪れるその店の門を叩くのである。

ふたりの予感は的中、実際にお店に入ってみてそのおもてなしに感激し、「こういうキラキラした暮らしをしている人がいるんだ!」と感銘を受ける。面接の結果、寿代さんはそのお店で働けることとなり、慎さんはお店のオーナーの紹介で別のレストランで働く機会を得る。今では全国からファンが訪れ、のちの有名店オーナーを数多く輩出することになるその店や、繋がりのあった北関東のすぐれた飲食店関係者と関わることで、いわばカフェの英才教育を受けて数年を過ごした。

そこで吸収し、見つけた自分たちの「好き」を膨らませてできあがったのが今の喫茶tayu-tauだ。「運と勢いとタイミングでしたね」と笑うふたりだが、よい運をたぐり寄せ、確かな選択を続けてきたからこその結果であり、幸せをつくり出す才能と心持ちを持っているのだと思う。

喫茶tayu-tauのふたりはきっと不器用な人だ。地元の人たちに愛されるその店は、開店後すぐに満席になってしまう。ふたりでお店のすべてを賄っているので待たせてしまうこともある。

「スタッフを増やしたい気持ちもあるんですが、自分たちの考える『おもてなし』について細かいところまで共有できる自信がなくて、ちょっとしたことでお客様に違って伝わってしまうことが怖いんです」

と少し困った顔で語る。ひとりひとりに出来たてのあたたかい料理を提供し、ていねいに説明を添える。グループ客もひとりのお客さんにもゆったりと過ごしてもらえているか店内に目を配り、時にそっと声を掛ける。店内オペレーションの効率を優先にはせず、あくまでお客さんの居心地のよさにこだわる強い意志がそこにある。

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喫茶tayu-tauのふたりはきっと欲張りだ。お店の名前を聞いて、ゆっくりとコーヒーを飲むことができる場所を想像していた。光あふれるゆったりとした空間でおいしいコーヒーを飲むことができるだけで、十分に気持ちのよいお店なのだが、取材の日にいただいた野菜プレートには驚いた。色鮮やかなたくさんの種類の野菜が個性を生かすようにていねいに調理され、見た目もたのしく提供される。人が飲食店に求めることは千差万別だが「この野菜プレートをサーブされて心が踊らない人とは仲良くはなれないな」と唸らされた。味見をさせてもらった人気のメンチカツは、なるほどお酒にも合わせたくなる、男性も満足させる一品だ。その上、寿代さんが作るフランス焼菓子はさっくりとした食感と香ばしさがなんとも好ましい。見回せば品のいい日本とフランスのアンティークがなじんでいて、オープンして1年強とはとても思えない落ち着いた内装である。一体お店のどこに焦点を当てて紹介すればよいのかとうれしい悲鳴をあげてしまう。さらには、お店の将来のことを聞いてみると、近々作家さんの個展やアーティストのライブが予定されているという。ふたりの欲張りな関心はこれからどんな素敵な変化をこの店にもたらすのだろう。

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喫茶tayu-tauの、はじめてのもみじ市出店紹介文を書く機会を得られた私はとてもラッキーな人間だ。あの気持ちのよい日射しが差し込む素晴らしい空間を体感し、色鮮やかな野菜プレートに心を踊らせ、店主ふたりが引き寄せてきた、幸運かつ必然のエピソードを聞くことができた。これからもすこしずつ形を変えて続いていくだろうそのお店のことを想像するだけで、ワクワクさせられた。おまけに自分にとって必ずや再訪することになるだろうお店を、見知らぬ土地に持つことができたのである。

そしてこの紹介文を自らの選択で目にすることになった人たちはきっと幸運の持ち主だ。何人かはこの紹介文で何かを感じ、週末のもみじ市で喫茶tayu-tauのピクニックセットを手にすることになるだろう。多摩川河川敷の気持ちよく抜けた青空と光と芝生の緑と、喫茶tayu-tauのピクニックセットが、あなたに小さな幸福をもたらすだろう。

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 【喫茶tayu-tau 飯島慎さんと寿代さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
三重県津市の喫茶tayu-tauです。大好きな日本やフランスのアンティークと音楽をあつめて作ったお店です。お店を通じて生活がちょっとたのしくなるような提案をしていきたいと思っています。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
ちょっと前までは緑色でした。今は、お店の内装に使っているような木の色が好きなので「ちょっとさびれた茶色」です。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
前回のもみじ市でぼくたちがお客さんとして参加した時のように、会場でピクニックを楽しんでいただきたくて、ピクニックに持っていくお弁当をイメージした「旅のピクニックセット」をご用意します。お野菜とお肉の2種類のお弁当です。テーマがカラフルなのでできるだけ彩りのよい野菜などで作れたらと思っています。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いてご紹介するのは新進気鋭のアーティスト。会場ではライブペインティングを行なってくれます!

文●尾崎博一

手紙舎「河辺のビストロと旅する雑貨店」

手紙舎は、私の人生を変えた。

手紙舎に出会ってから、私の毎日は、きらきらと輝きだした。
手紙舎がいつもそこにあるということに、私は今まで、どれだけ救われてきただろう。
手紙舎ができてからの四年間は、私にとって、それはもう「奇跡」としか言いようのない出来事の連続だった。

昼間元気に遊びまわっていた子どもたちも、お腹を空かせて、カラスと一緒に家に帰った。そろそろ、晩ごはんの時間だから。きっと今頃、家でテレビでも見ながらくつろいでいるのだろう。そんなことを、仕事帰りに自転車をゆっくりこいで、団地の一軒一軒の窓を眺めながら思う。 

人もまばらになり、静まり返った夜の神代団地。聞こえるのは、虫の声だけ。中央の商店街へ続く、まっすぐな一本道を歩くと、大きなヒマラヤ杉が二本、堂々と立っている姿が見えてくる。そしてそのすぐ横には、ぽっと柔らかい明かりの灯る、一軒の小さな店がある。私はその明かりを確認するとほっとして、安堵のため息をつく。ここが、手紙舎つつじヶ丘本店だ。 

IMG_4433団地のなかの“森”に佇む手紙舎つつじヶ丘本店

私はここから徒歩数分の場所に住んでいる。本棚に囲まれて、昔学校の図工室にあったような、木の大きなテーブルがふたつ並んで、ここは、まるで図書館のようだ。手紙舎の裏に自転車を停め、何段もない低い階段を駆け上がり、木枠のガラスの扉をそっと開ける。

「もえちゃんおかえり!」

私に気付くと、いつも当たり前のように聞こえてくる声があった。手紙舎を経営する、北島勲さんと、わたなべようこさんだ。その声は、もうずっと前から、生まれたときから、私のことを知っているような、そんな雰囲気があった。私は最初、その迎えられ方に少しだけびっくりして、だけどあまりにも違和感がなくて、とっても嬉しくて、もじもじしながら「ただいま」と言ってみたのを覚えている。まだ手紙舎がオープンして一年経っていないくらいだったと思う。

手紙舎は、私の「家族」だ。

手紙舎ができた当初は今のカフェスペースが編集室も兼ねていて、編集の仕事をしながら、北島さんや、ようこさん自らが、カフェの接客をしていた。今ほど知名度も無く、古い団地に突如現れたお洒落な空間を、団地の住民や通りすがりの人々が立ち止まって、不思議そうな目をして様子を伺っていた。いろいろな人が出入りして、その度に北島さん、ようこさんは、「こんにちは」と言って立ち上がって、一人ひとりと丁寧におしゃべりをして。私は、編集作業に集中できるのかな? とおせっかいに心配しながらも、ふたりがあまりにもお客さんを嬉しそうに迎えるので、その風景を、おいしいご飯を食べながら眺めているのが、とても幸せだった。ひとりで行っても手紙舎には誰かが必ずいるから、私はいつも、ひとりじゃなかった。

2009年秋、手紙舎は、古本と雑貨、ごはんの店としてオープンした。私は、工事中から毎日なかを覗いては、いつできるかな、何ができるかな、とわくわくしながら、オープンする日を待っていた。プレオープンの日には、真っ先にごはんを食べに行って、そのときのごはんが、本当に美味しくて、雑貨もすばらしい作家さんの作品ばかりで、近くにこんな店ができたことを、誇らしく思った。手紙舎の設計をした井田耕市さんに会えたのも、ちょうどその日だった。

*つつじヶ丘内観手紙舎つつじヶ丘本店のなかは、まるで図書館のよう

そうして、手紙舎が本格的にオープンするようになってからも、まるで近所に住む親戚の家に遊びに行くような感覚で、ふらっと寄るようになった。すると行く度に、そこで働く人も、お客さんも、徐々に増えている気がした。

ふらっと寄ると、いつも、モノ以外の、何かプラスアルファのプレゼントをもらった。それは、「出会い」だったり、勉強になるようなことだったりしたけれど、そのなかでもいちばんのプレゼントはやっぱり、二年前に「もみじ市の事務局をやらないか」と、北島さんに声をかけてもらえたことだと思う。私はそこで出店者紹介のブログを書かせてもらったことをきっかけにして、作家の活動を始めた。そして翌年には、手紙社主催の京都の紙ものまつりに声をかけてもらって、作家として初めてリトルプレスを制作し、参加させてもらった。何がなんだかわからないうちに事が進んだけれど、今思っても、夢のような出来事だ。それが、今の活動に繋がっていると思うと、やっぱり「奇跡」の出会いとしか、言いようがなかった。

ある日手紙舎つつじヶ丘本店に寄ると、カフェスタッフに、前からずっとここで働いているかのように自然に手紙舎の風景に溶け込み、厨房に静かに佇む、ふわっとしたショートカットの女の子がいた。彼女は、今では手紙舎2nd Storyでシェフを任されている、町田梓さん。

私は彼女に「お帰りなさい、今日はお出かけでしたか」と尋ねられるのがうれしい。彼女が厨房で黙々とパンを捏ねたり、料理をプレートに盛っている姿が、とっても好きだ。それから、2nd Storyは、主にパン中心のメニューが揃っていて、特に、彼女の作るクロックムッシュが好きだ。どっしりチーズがかかっていて、パンはほんのり甘くて、いつまでも食べていたくなる、そんな味。ここでは、少し猫背になって外を眺めたり、大きな口を開けてパンにかじりついたり、時間の許す限り気ままに過ごし、無理をしないで、自分のペースで食べていられる。それは、彼女がいつも自然体でカウンター越しに立っていて、カフェの空気を柔らかく包み込む、まるで空気のような人だからかもしれない。

しばらくして、町田さんがつつじヶ丘本店のシェフになった頃、カフェにまた、ひとりの、フレンチな服装がとっても似合う、お洒落な女の子がいた。彼女は二年前のもみじ市でもボランティアスタッフをしていた、加藤香織さん。「私にしかできないことをやりたい」と、それまで勤めていた会社を辞め、飲食業の道を進むことを決意。手紙舎にスタッフとして入った。今は、手紙舎つつじヶ丘本店のシェフをしている。私は、彼女が手紙舎で働いてくれて、心の底からよかったと思っている。だって彼女の作る料理は、食べ終わった後、誰かに自慢して回ってしまうほど、素晴らしく美味しい。それに、美味しいだけじゃなく、「作品」として素晴らしい。だから毎回その「新作」を食べるのを、私は心待ちにしていた。贅沢な料理は贅沢な空間を作る。いつも「ふふっ」と笑いながらも本当にすごいことをしてしまう彼女は、美味しいごはんを届けるシェフであると共に、鮮やかな食材でお皿を彩るアーティストなんだと思う。 

ある日、手紙舎にふらっと寄ったときのこと。関根利純さんがカフェのスタッフとして働いていた。

「群馬に住んでいるのにどうして?」と不思議がっていると「私もよくわからないんですが、働くことになったんです」と関根さん。何十年勤めていた金融関係の会社を退職し、中学時代からの“腐れ縁”である、北島さんの営む手紙社に入社することになった。「関根さんはもみじ市で人生を変えた男だ」と、北島さんは言った。もみじ市には、スタッフとして第一回目から参加していたが「気付いたら(手紙社に)入っていた」と言う。もみじ市の作家さんやスタッフの目の輝きが素敵だったこと、作り上げる喜びに感動したことが手紙社に入った理由で、今では、手紙社の(ひとり)経理部門兼手紙舎2nd Storyの店長。いつか、特訓中だという関根さんの作ったチーズケーキを試食したけれど、チーズケーキというにはちょっとばかり不思議な味だった。だけど、それから何度も何度も試作を重ねた後に食べた、関根さんの汗と涙のチーズケーキは、素朴な優しさに満ちていて、かみ締めるほど美味しさを増した。関根さんは優しい人となりで人をほっとさせる力があるけれど、心は、群馬県館林市よりもアツい。

彼女と出会ったのはいつだっただろう。彼女、とは、野村奈央さんのこと。あまりにも自然に知り合ったので、いつだったか覚えていないけれど、出会って何度目かのとき、夏の、窓を開け放った手紙舎で彼女と自分たちの夢について語り合ったことがある。彼女は、手紙舎で働くのが夢だということ、何度も入社したい旨を北島さんに打ち明けたことなど、こっそり私に話してくれた。それから少し経った頃、その夢が叶ったという。つつじヶ丘本店で働き出した彼女は、とっても穏やかに、柔らかに、少し、内緒話をするみたいに接客をする。私はこの、一所懸命にしてくれる「内緒話」のような声に耳をすませるのが好きだ。彼女が声を発すると、耳に意識がちゃんと行く。よくお客さんと話をしているけれど、彼女自身も、お客さんと話すのがとっても好きなのだと言う。たまに自転車で手紙舎の前を通ると、いつも満面の笑みで大きく手を振ってくれる野村さん。ついつい、今日もいないかなって、何度も手紙舎を振り返ってしまう。

手紙舎雑貨店は一時期、期間限定で調布PARCOに店舗を出していた。最初は手紙社の編集部の人々が店頭に立っていたけれど、いつからか、とっても不思議な雰囲気の女の子、中村玲子さんがレジに立っていた。私がそこで、雑貨を購入すると、小動物のように目をくるくるさせて、その作家さんのお話をしてくれた。その長いまつげの奥はキラキラしていて、作家さんへの尊敬と愛情が、表情からめいっぱい溢れ出していた。やがて柴崎に新店舗が出来た頃、2nd Storyの雑貨スペースに移った。ふわふわした、不思議な国からやってきた少女のような、独特の佇まい、存在感は、手紙舎にぴたりとはまっている。いつでも作家さんの作品のどこがおすすめか、どういう作家さんなのか、客層に合わせながら、丁寧に楽しそうにお話をしている。その姿を見ていたら、もっともっと作家さんのことを知りたくなる。もっともっと雑貨が欲しくなる。そんな、人の心のピュアな欲求を自然と引き出す力は、きっと誰にでもあるわけではない個性だと思う。

とびきり元気な新居鮎美さんを初めて見たのは、手紙舎2nd Storyだった。彼女は、手紙舎に全く新しい風を吹かせた人だと思う。新居さんはたまに、長い髪をゴムでくるっと束ねている。仕事中、邪魔になるからだろう。新居さんがせっせと荷物を運んだり、在庫の確認をしたりと、歩くたびに、ぴょんぴょんと毛先がはねる。そのぴょんぴょん飛び跳ねる毛先が、新居さんのきびきびした動きを強調していて、私はそれを見るたびに、「働くって、いいなぁ」と、すがすがしく思って見ている。元々、徳島で編集者をしていたけれど、結婚して東京に移り住み、雑貨店も「編集」の一環であるという手紙社の考えに興味を持ち、手紙舎で働くようになった。

彼女の働いている姿は美しい。そして何より、いつも笑顔で、ピンと背筋を伸ばして、軽快な足取りで、元気に私たちを迎えてくれる。そんな彼女が働き出してから、雑貨コーナーは、以前にも増してぱっと明るくなったと思う。新居さんに会うと、なんだか嬉しくなってしまう。こっちまで、元気になってしまう。そんな、太陽のような人だ。

さて、長くなってしまったが、この6人が、今、手紙舎の店舗を動かしているメンバー。それぞれの人生のタイミングのなかで、皆、働く場所として手紙舎を選択し、手紙舎をお客さんにとって過ごしやすい空間にするために、常に全力で自らの仕事と向き合う。その姿は、「青春」のようだ。

2nd_shop2013年春にオープンした、手紙舎2nd storyは、入り口から入って手前が雑貨スペース、奥がカフェスペースとなっており、広々としたカウンターや、ゆったりした客席が魅力

 「手紙舎を知ったきっかけは何ですか?」

この質問に、彼女たちのほとんどが「もみじ市」と答えた。もみじ市に遊びに来たことがあり、その幸せな空間を好きになって、手紙舎を知った。ここで働きたいと思ったという。

今回、そんな、手紙舎を知るきっかけになったもみじ市に参加できることが、心の底から嬉しそうな彼女たち。毎回手紙社の数々のイベントに参加しているけれど、カフェと雑貨がひとつのお店として一緒に参加するイベントは、意外にも、もみじ市が初めてとのこと。カフェは、ひとつのプレートに色とりどりの野菜や、キッシュなどを乗せたデリを中心に。雑貨は、もみじ市に出店する作家さんとコラボレーションをした、オリジナルのテキスタイルのグッズ等を、数多く揃えて出店する。また、今回は特別に、カフェと雑貨が共同でつくった商品も持ってきてくれるそうだ。

私が見てきた手紙舎は、絶えず常に“動いて”いた。人が入れ替わり、増え、だんだん大きく成長した。だけど、ずっと、変わらないこともある。

たとえば、手紙舎つつじヶ丘店では、ごはんを食べて店を出るとき、必ずスタッフがお客さんを、扉を開けて丁寧に見送る。見えなくなるまで、お客さんをにこにこ見守ってくれる。これは、手紙舎がここにできた当初から、ずっと変わっていないことだ。

とある日の夜、団地の明かりも少しずつ消えていく頃。私は手紙舎のガラスのドアを中から開けて、外に出る。

「おやすみなさい」

静まり返ったなかに、小さく響く声。みんながいつまでも、手を振ってくれる。私も何度も振り返り、手を振り続ける。小さな幸福感で満たされる瞬間があった。

どこでその幸福を感じるかは、人によって違うと思うけれど、きっと、手紙舎に来るお客さんは皆、この「小さな幸福感」を求めてやってくるのだと思う。ある人は素晴らしい作家さんの作品を見ていることに幸福感をおぼえ、ある人は美味しい食事を食べているときに幸福感をおぼえ、ある人は店内に流れるBGMやその空間にいること自体に幸福感をおぼえる。そして、手紙舎を去る頃には、心が柔らかく解き放たれて、今日という一日が、少し輝いて見える。

もみじ市当日、彼女たちはきっと、いつものように全力で、裏では大汗をかきながら、表ではふわっと涼しげな佇まいで、お客さんを迎える。

彼女たちにとって特別な、もみじ市の河川敷の会場で。
お客さんや、食材や、作家さんへの愛を、惜しみなく込めて。
あなたの一日を、きらきらと、輝かせるために。

 【手紙舎のみなさんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
こんにちは。手紙舎雑貨店とカフェ手紙舎です。普段は東京都調布市にあるつつじヶ丘と柴崎にある2つのお店で営業しております。雑貨店では、今回のもみじ市にも出店して頂ける作家さんの作品をたくさん扱っています。カフェでも、作家さんの器を使いお料理をお客様のもとにとどけています。手紙舎はもみじ市に出店されている作家さんの愛に囲まれた、そんなお店です。実は、雑貨店とカフェがコラボレーションして主店するのは初めて。今までにない、カラフルでわくわくする空間をお届けします。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
「茶色」です。手紙舎の2店舗には常にたくさんのカラフルな個性を持った作家さんの作品が並び、色々なお客様が来店されます。だからこそ、手紙舎のスタッフはプロの黒子になりたいと思っています。作家さんたちの存在を際ださせられる黒子、美味しい時間を過ごして頂けるための黒子、お客様の笑顔になれる場所を作っていくための黒子になりたい! でもスタッフで色について話し合った時に「私たちは黒じゃないね」という結論になりました。ディスプレイやパンやごはんといった、実は隠し切れない特色があるよね、と。だから黒にはなりきれないけれど、私たちはもう少し色の幅があるベース色、「茶色」です。ベージュやダークブラウンのような、個性豊かな黒子がいる場所が、手紙舎なのです!

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
今回はカフェ手紙舎が考える「これぞビストロ!」というプレートをご用意します。カスレやキッシュ、お野菜をふんだんに使ったカラフルなデリを一つのプレートにのせて、皆さんにお届けします。手紙舎にゆかりのあるクリエイターと一緒に作った、オリジナルの紙ものやテキスタイルなどを持っていきます。今回は、カフェ手紙舎の焼き菓子とコラボした商品も作ります。楽しみにしていてくださいね。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いてご紹介するのは、手紙舎を設計したあの人です!

文●池永萌

mado cafe「はらぺこオムライス屋さん」

愛知県岡崎市。JR岡崎駅から歩いて20分ほどの閑静な住宅街の中に、もみじ市に出ることをずっと夢見ていたという一軒のカフェがある。

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「暑いなか大変だったねー!」

まぶしい笑顔で出迎えてくれたのは「mado cafe」のオーナー・柴田真史さん・友香さん夫妻。閑静な住宅街の中に予期せずあらわれた一軒のカフェ。朱色の瓦屋根に、ちょこんと突き出した煙突が目印だ。手間暇かけて丁寧に世話をされていることが分かる開放的な庭には、季節ごとに目を楽しませてくれる草花や、料理に使うこともあるという蜜柑やブルーベリーの木々が青々と葉をひろげている。整然と敷き詰められた砂利までもが美しく、まだ店の中に入ってもいないのに、今日一日がとても素晴らしいものになりそうだという予感が胸をくすぐる。

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子供の頃から家族で喫茶店によく行っていた友香さん。食にまつわる仕事に就いたのはごく自然な流れだったという。根っからの食いしん坊で、喫茶店やカフェで過ごす時間が大好き。カフェでしか働いたことがないのだとか。対する真史さんは大学生の頃、1年ぐらい“ぶらぶら”していた。そのときに通っていた喫茶店やカフェで過ごす時間がとても心地よく、真史さんの人生を動かした。

「その場にいる人が思い思いに自分の時間を過ごせる喫茶店とかカフェって良い場所だなぁ、と思ったんです。このときまで、あまり珈琲を飲んだこともなかったんですが、飲食店でアルバイトをはじめて、気付けば親に頼んで大学を中退させてもらって、調理師専門学校に通っていました」

そんなふたりは、同じカフェで働いていたことがきっかけで知り合い、やがて、「いつかは自分たちのお店を持ちたい」と思うようになる。その夢をサポートしたのが、真史さんのご両親だ。「畑の土地を使ってみたら」と提案をしてくれたことで、mado cafeが物語を紡ぐ場所が決まった。お店を建てるにあたっては、設計士さんや大工さん、友人の力を借りながら、外装、内装全てに関わったという。

「ペンキを塗るのも一苦労でした。今年になって外壁の塗り直しをしたんですが、その時もたくさんの友達が手伝いにきてくれて、なんだかお祭り騒ぎでした」

いつもお店に多くの仲間が集う、mado cafeらしいエピソードだ。

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mado cafeの店内に入ると、気づく。昔懐かしいブラウン管のテレビ、そっと隙間を埋めるように置かれた古道具、存在感を放つ暖炉、行きつけの古道具屋さんで見つけて来たテーブルと椅子、開放感のある高い天井、窓から差し込む穏やかな光、優しい風……、そういうものがすべて混ざり合い、絶妙な調和を取り合いながら、奇跡的な空気感をつくっている。

ふたりが好きな時間がある。それは、お客さまが思い思いに自分の時間を楽しんでくれていると感じる瞬間。

「すべての席がひとりのお客様で埋まったとき、静かなんだけどお客さまはちゃんといて。それぞれがゆっくり過ごしている時間は特別なものがあります。鳥肌が立つような」

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いまや看板メニューとなったマドごはんは、ランチタイムに味わうことができる限定20食のプレートメニュー。調理師免許を持ち、他店で修行を重ねた真史さんがつくるマドごはんは、確かな技術に裏打ちされたプレートだ。いわゆる“カフェメシ”のレベルではない。旬の野菜を中心に乾物や豆類などを使ったお惣菜が少しずつ、大きなプレートに盛り付けられ、ご飯に汁もの、デザートがついてくる。素材の美味しさはそのままに、それぞれ違った調理法で作られる料理はおいしくて美しく、ボリュームもあるので、私のような食いしん坊も食べ終わる頃には満腹になってしまった。しかし、その満腹感は、なんとも清々しい満腹感で、「良いものを食べている」ということを、自分の身体が証明してくれているような感覚だった。

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こんなにおいしいものを提供しているmado cafeだが、真史さんと友香さんは、まだまだ満足していないようだ。mado cafeは今年4月に5周年を迎えた。これからのことを、ふたりは考えている。

「やっぱり、僕たちがやりたいのは、喫茶店なのだと。近所の人が、ふらっとコーヒーを飲みに来られるような喫茶店でありたい。僕たちにとっての喫茶店とは、オムライスやナポリタン、ピザトーストやクリームソーダ、ホットケーキ、カスタードプリンがメニューにあるお店。子どもの頃、喫茶店に連れて行ってもらって、ワクワクしたあの記憶を今でも覚えています。そしてそれは、お子さんからお年を召した方まで、みんなが好きなメニューだと思います。
色々な年代の方が自分の時間をゆっくりと過ごせるお店が僕たちの理想です。本を読みに来ただけでも良いし、少し休憩したり、手帳を整理したり、おしゃべりしたり。美味しかったと言ってもらえるのも嬉しいんですが、ゆっくりできました、という言葉をかけてもらった時の方が何倍も嬉しいです」(真史さん)

「ごはんやおやつも、お客さまが気持ちの良い時間を過ごすために上手に使ってもらえたらいいなって。実は今新たなメニューを試作している真っ最中なんですが、お客さまの時間の邪魔にならない程度の軽食、それも、喫茶店と聞いて思い浮かぶメニューを提供したいと思っています。きちんと選んだ食材でなるべくシンプルなレシピの、優しい軽食を出したい。自分たちがいちばんどきどきしてるのですが、もっとお客さんに喜んでもらえて、気軽に立ち寄ってもらえる場所にしたいなと思っています」(友香さん)

手紙社が主催するイベントに、「カフェフェス」というプロジェクトがある。良いカフェがあると聞けばどこへでも行く手紙社が選りすぐった、本当に良いカフェだけに参加してもらっているカフェと音楽の祭典だ。2011年に調布市の味の素スタジアムで行ったカフェ & ミュージックフェスティバル 、2012年と2013年にニセコで行った森のカフェフェス、そして先月横浜で行った海のカフェフェス。この4回のカフェフェスにすべて参加してくれているのがmado cafeだ。つまりそれは、日本で有数のカフェであることを意味する。カフェフェスの開場前の出店者の朝礼のとき、手紙社のスタッフが、いつもこうmado cafeのことを紹介する。

「東海地方を代表するカフェが、カフェフェスにやって来てくれました。mado cafeのみなさんです!」

美味しいものを食べることが、作ることが好きなふたりがはじめた店は、いまやカフェ好きならば一度は訪れたい店になった。そして今回、満を持して、もみじ市に参加する。決してイベント向きの会場とは言えない河川敷で、2日間とも食事を提供してくれるという。

「もみじ市が迫って来てドキドキしてきました。僕らにとっては本当に憧れのイベント。甲子園のような存在です。実は今回用意するオムライスは、これからmado cafeが進む方向への区切りとして考えています。もみじ市で用意したオムライスを、これからmado cafeの定番にできたらと思い、気合いを入れて用意します!」

今年、もみじ市が行われる多摩川河川敷は、ふだんは野球場として使われている場所だ。全国を代表する作り手が集うもみじ市は、確かにものづくりの世界の甲子園なのかもしれない。

もみじ市の朝、多摩川河川敷に、作り手たちがひと組、またひと組とやって来るあの風景が、私は好きだ。甲子園の入場行進みたいに整然としているわけではないけれど、あの風景は、もみじ市ならではの入場式なのだろう。

2013年もみじ市の入場式が始まりました。まもなく、今回初めてもみじ市に参加する作り手が入場します。愛知県代表、mado cafeのみなさんです!

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【mado cafeさんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
愛知県岡崎市のはずれにある小さな喫茶店です。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
シンプルで何事にも引き立て、なじむ、「白」が好きです。料理やデザートを引き立てる白いお皿やお客様の時間をやさしく包む白い店内。気がつけばマドにはたくさんの「白」が溢れていました。そしてそんな「白」に私たちもなれたらと思っています。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
お店ではご用意していないもみじ市特製の「マドのオムライス」をお持ちします。野菜たっぷりでやさしい味わいのマドのオムライスをぜひお楽しみに!みなさんぜひはらぺこでお越し下さい!!

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いてご紹介するのは、ガラス作家のあの人です。日々、工房で真摯に作られる作品をどうぞ御覧ください。

文●市川史織

noyama「Bottled Foods Shop」(20日)

もみじ市に欠かせないものは、何だろうか。もちろん、最高の作り手・表現者である出店者の方々が集まってくれて、足を運んでくれるたくさんのお客さまがいるからこそ、こうして続けられている。ライブステージでの演奏があるから会場には一体感が生まれるし、手前味噌だけれどスタッフ(事務局とボランティアのみんな)がいなければ始まらない。それだけだろうか? まだ、重要な何かを忘れている気がする。もみじ市で感じた、喜び、感動。その記憶を呼び起こすと、同時に沸き上がってくる感覚がある。風のにおい、太陽の光、草の感触。青空はとびきりの舞台セットになり、芝生は柔らかな観客席になる。太陽の光を受けてキラキラ輝く川面は、どんな特殊効果が束になっても敵わない。一日の終わりに日が沈んで行く様子は、まさにエンディングにふさわしい演出だ。そうだ、いつだって、もみじ市は自然の中にあるのだ。

もみじ市が自然の中で行われていること。noyamaの4人に会って、私はそのことに改めて気づかされた。それは、noyamaの活動のテーマのひとつが「自然の楽しさ・美しさ」を伝えることであり、今回その舞台となるのが、我らが「もみじ市」だから。

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noyamaのメンバーは、自然の素材をモチーフに制作をする木工アーティスト・しみずまゆこさん、食・住・自然に関する企画やライティングを行う編集者・高橋紡さん、山を撮ることをライフワークとする写真家・野川かさねさん、玄米菜食を得意とする料理研究家・山戸ユカさんの4人。それぞれ、違うジャンルながら表現することを仕事としている。ユニット結成のきっかけは、アウトドア関連の仕事で、高橋さん、野川さんと一緒になることが多かった山戸さんの発案から。

「当時はまだ、女性のアウトドアがここまで定番ではなくて。私たちが山や川に行く時に着たい服がなく、女性目線の提案をしている雑誌もありませんでした。『そういう本を作りたいよね』って私が野川さんと高橋さんに声をかけて、本を出したいと書籍の企画をたてたんです」

3人の思いが一致し、noyamaとしての活動がスタートしたのは、”山ガール”ブームより少しだけ早い2008年。

「それぞれ、アウトドア雑誌の編集やメーカーと関わりがあったので、『自然と、もうすぐそういうブームが“来る”だろうな』という感じはありました。やりたいことが本になるタイミングと、流行がマッチしたんですね」

1年以上の歳月をかけ、出来上がった1冊目の本のタイトルは『つながる外ごはん』。初心者に向けた「外ごはん」のアドバイスや、毎日の暮らしにも役立ちそうな料理のレシピが盛り込まれている。章ごとに、3人のアウトドアにまつわる小さなストーリーが綴られていて、読み進めていくうちに心が山へ、海へと旅立って行き、体も後を追いたがってうずうずとしてくる。

「料理本は短い期限の中で撮影をすることが多いんですよね。でも、この本は期限がなかったので、季節を追いかけながら撮影していたら、自然と1年以上経っていました。四季折々の変化がちゃんと写りこんでいるので、写真の質が全然違うんです」

このときは、モデルやスタイリングなど撮影の手伝いをしてくれていたしみずさん。撮影に同行する機会も多く、同じ感覚を持っていたことから「一緒にやろう!」とメンバーに。そこから現在に至るまで、4人で活動を続けている。

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アウトドアと聞くと、道具をそろえるのがたいへんそう、と躊躇する人もいるだろう。けれどnoyamaが提案するのは、もっと簡単に、日常のすぐそばにある自然との関わり方だ。

「私たちの中でのアウトドアは、インドアに対してのアウトドアなんです。もちろん山や川で遊ぶことも楽しいんだけれど、もっと広い意味での野外。ちょっとした公園だとか庭だったり、身近なところにある自然を感じることを提案しているんです。身近に自然を感じたら、もうちょっと豊かな暮らしができるんじゃないのかなと」
今年の4月に発売された2冊目の本のタイトルは「noyamaのおつまみいろは」。お酒好きという共通点も持つ4人らしく、酒のつまみがテーマの本だが、ページをめくると目に飛び込んで来るのは、彩り豊かな野菜を使った料理の数々だ。
「おつまみの本だけど、五感で感じられたらいいなと思って章分けをしています。野菜の色がきれいとか、はごたえが楽しいとか」

大きくレイアウトされた色鮮やかな料理の写真に心が躍り、随所に差し込まれたしみずさんのイラストが料理の楽しさを引き立てている。1冊目とはまた違った角度からの提案。けれどnoyamaらしいと感じるのは、4人が共に抱える、創作に対する姿勢にブレがないからだろう。

「打ち合わせは真剣です。ビールを飲みながらしたいけど、飲んじゃダメよ。まだダメよ、と。で、終わったらプシュッと(笑)。やっぱり、みんなそれぞれの世界のプロになりたいと思っている。本は自分たち以外に多くの人の手を借りてはじめて出版できるものだし、買ってくださった方からはお金もちょうだいしています。趣味のつもりでやっていたらばちがあたる。満足してもらえる質が高い読みものを作りたいし、本を通じて楽しいことを多くの方とシェアしたいんです」(高橋さん)

「noyamaはそれぞれ得意とすることのジャンルが違っていて、尊敬できる人たち。普段はひとりで料理家として仕事をしていますが、3人から『すごくいいね』と言ってもらえる料理を提案しないといけないし。そうできなかったらいやだし。その辺の妥協ができないから、話し合いも長くなる。自分ひとりじゃ出来ないことですね」(山戸さん)

「(noyamaのメンバーは)友達というだけではなくて、仕事のつながりだけでもなくて、”自然がつないでくれた仲間”というのが一番しっくりくるかもしれないです」(しみずさん)

「マイペースに、そして今回のもみじ市のように色々な方たちと関わりあいながら、たのしく、ながく活動を続けていきたいと思っています」(野川さん)

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本だけを見ると料理の印象が強いnoyamaだが、自然をテーマにした様々なワークショップも行っている。

「毎年出させていただいているキャンプフェスのイベントでは、写真を展示したり焚火をしたり、料理教室をしたり、色々なことをやらせていただいています。出るイベントによって、『前回は料理だったから今回は違うのにしようか?』など、内容を考えています。しみずさんのものづくりや野川さんの写真のワークショップをすることも。イベントに出ると、『本を読みました』と言って来てくれる人もいて。出版の仕事をしているとそんなに読者の人とお話することってないから、すごくうれしいですね」(高橋さん)

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そして今回、もみじ市でnoyamaの4人が提案してくれるのは、簡単にできる外ごはんのすすめ。カレーペーストや季節のスープなど、4種類ほどの「外ごはんの素」となる瓶詰めが登場!

「テーマがカラフルということもあって、色のきれいな旬の野菜を使った、目にも鮮やかで口にもおいしい瓶詰めを販売します。それをもって出かければ、バーナーなどで温めるだけでどこでも食べられます。お手軽だけれど、化学調味料や保存料は入っていない。ちゃんとつくったものを食べようという提案です」

さらに、シングルバーナーを使って瓶詰めのスープを温めるワークショップも開催。山戸さんによる、ダッチオーブンのデモンストレーション付き(メニューは、チキンと野菜のダッチオーブングリル!)。漫談や小咄も飛び出すという、楽しいこと間違いなしのワークショップ。外ごはんを始めるきっかけがつかめない人の、入り口になるような内容になっている。

「文化系だった私もnoyamaがきっかけで外遊びの幅が広がりました。興味ないな、私には関係ないな、という人にこそ来ていただけると、新しい扉が開くと思います。小さいお子さんと一緒でも遠慮しないでください。老若男女問わず、下は0歳から、上は100歳まで来ていただきたいです!」(高橋さん)

青空の下、風のにおい、草の感触を感じながら、ぜひ、noyamaのテントを訪ねてみてほしい。ここで感じたことは、きっと、あなたの記憶に鮮やかな色をともなって、刻まれるはずだから。

<「noyamaの外ごはんworkshop」のご案内>

開催日時:
10月20日(日)12:00~13:00
参加費:2800円
定員:10組
お申し込み方法:件名を「noyama外ごはんworkshop申し込み」とし、ご希望の時間帯、人数、お名前、お電話番号、メールアドレスを明記の上、【workshop07@momijiichi.com】へメールでご連絡ください。
お申し込み開始日:10月15日(火)午後12:00から受付を開始いたします。

※参加費は1組あたりの値段です。料理を分けるということであれば、1組複数人でご参加いただけます。

【noyamaのみなさんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
木工アーティストのしみずまゆこ、編集者の高橋紡、写真家の野川かさね、料理研究家の山戸ユカからなる出版、イベントユニット。日本中の野や山へでかけ、その土地の空気を吸い、食べ物をいただき、お酒を飲む。そんなふうに「食を通じてその土地とつながる」ことをテーマに活動しています。著書に『つながる外ごはん』(小学館)、『noyamaのおつまみ いろは』(大泉書店)があります。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
山や木々、花々、空、雲など自然の中にある色。でも、緑や茶色など地味目……。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
オレンジ、緑、赤など野菜たっぷりの美しい色のスープを作ります。材料をじっくり炒めたり煮込むことで生まれる、自然な美しさを味と共にお楽しみ下さい。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いてご紹介するのは、動物を彫ることに人生をかける彫刻家。もみじ市に初出店です。

文●吉田茜

hinatabocco「パンケーキと自家製ジャムのソーダ」

そこは、少女たちの生活に寄り添う“かわいい”が詰まった特別な空間。hinataboccoとは、そんな店だ。

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JR多治見駅を降りて、目的の店、hinataboccoまで歩く。天気のよい週末の昼間だったけれど、人通りは少ないのんびりとした道のりだ。大通りから少し入り、壁面をタイルで覆われたその建物に入ると、空気は一変した。女性客でいっぱいで、明らかに外とは違う世界が拡がっていた。

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あたたかみのある木のテーブルと、レトロな雰囲気の椅子やキャビネット。ゆったりとしたふかふかのソファ席には、おばあちゃんの家で昔見かけたようなかわいらしいニット編みのクッション。店内のそこかしこに置かれた小さな雑貨やドライフラワーは、どの席に座っても視界をにぎやかに彩る。

唯一の男性客であろうことに少々気後れしたが、幸運にも空いていた一席に案内されて腰を下ろす。ボリューム満点ではじめから持ち帰り用の袋まで付いていると噂の「野菜畑のフォカッチャプレートセット 」は残念ながら売り切れとのこと。

パンケーキが気になりつつも、名前に惹かれて「アフタヌーンティーセット」を注文。手持ち無沙汰に任せて壁に掛けられていた「今月のごはん」の説明をしげしげと眺める。「香ばしくグリルした3種のキノコとレンズ豆をたっぷりのせた秋のカレーライス」というのがなんとも魅力的だ(結局デザートを食べた後に我慢できず注文してしまうこととなる)。

しばらくしてベレー帽を被った女性スタッフが何やら大きな物を抱えてこちらのテーブルにやってきた。その正体は大きな籠に入って出てきたかわいらしい茶器とデザートのセット。目の前に置かれたそれを見て、でかい身体の自分の身なりとのギャップに、他の人の目を気にして周りを見渡してしまった。

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 当然、私の照れなど誰も気にしていない。おのおのが好きなデザートを食べながらおしゃべりに夢中になっている。ちょっと耳を傾けてみる。後ろのテーブルの女の子は、将来自分が開きたいという雑貨屋について夢中で語っているのが印象的だった。横のテーブルではつきあいはじめの恋人のことを熱心に相談しているようだ。

店内をよく観察してみると、なるほどこの店の世界観が好きであろう女の子グループのみならず、ギャルっぽい(死語?)女性ふたり組や、年配の女性グループもいる。私が注文したアフタヌーンティーセットが特別ボリュームがあるわけではなかったようだ。他のテーブルでも、料理が運ばれて来た時にはちょっとした歓声があがっていた。

“かわいい”が詰まった驚きのある盛りつけ。この店のご主人・近藤数敏氏さんは、人を驚かせることが好きで「お客さんに『わっ』と言ってもらわないとここに来てもらった意味はないと思うくらいなんです」と言い切る。食べることが好きな近藤さんが「自分が出されてうれしい料理」を提供する。それがhinataboccoの基本コンセプト。大きな皿を使った料理の見せ方は、大阪での修行時代に勤めていた店から学んだこと。この紹介ブログの動画撮影時には、「自分は表に出るタイプではないので」とスタッフに任せていた近藤さん。決して自分が自分が、と前に出るタイプではないのだが、店の料理のことを語る口調は静かだが力強い。ホールに出ることは少ないが、「お客さんはちゃんと驚いてくれているかな」と、いつも厨房から様子を伺っているのだそうだ。

“かわいい”で溢れた空間での楽しいおしゃべりと店からの嬉しいサプライズ。この店のことを噂に聞いて、はるばる県外から訪れてくるお客さんも少なくないという。みな、この店の世界観を求めて、気のおけない人たちとやってくるのだ。日常の延長にあるこのちょっと特別な空間で、ちょっとした夢を見て、良い気分になって、またそれぞれの日常に戻っていくのだろう。

そんなhinataboccoがもみじ市の会場でどんな驚きをみせてくれるのか。私は期待せずにはいられないのだ。 

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【hinatabocco 近藤さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
岐阜県多治見市のhinataboccoです。季節の野菜を中心にした料理と旬の果物を使ったデザートをお出ししていますを毎年メニューは変化させていて前の年よりもよいものを提供できるよう努力しています。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
水色です。店名の「ひなたぼっこ」からも繋るんですが、太陽が出て晴れた青空がイメージできる好きな色なんです。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
「モンブラン」や「キャラメルソースとナッツ」などを使ったパンケーキと自家製ジャムのソーダをお出しします。これらに加えて土曜日はキッシュもお持ちしようと思っています。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いてご紹介するのは、子どもを夢中にさせるワークショップを行なってくれるあの方です!

文●尾崎博一

mikumari「色とりどりミクマリサラダ、カラフル果実酒」

顔を見た瞬間、お互い「あ! あの時の!」とピンときた。

彼との出会いは今から2年前の「カフェ & ミュージックフェスティバル」の打ち上げ。ひときわ盛り上がっている輪の中心にいたのがmikumariの高橋尚邦さんだった。ウイットに富んだダジャレを自信満々で言っていたのをよく覚えている(笑)。なぜだかツボにはまって、とても楽しかった。その時は「栃木県でカフェをやっています!」ぐらいのご挨拶だったので、mikumariの方だとは知らなかった。また、会えたらいいな、と思っていた。

あれから2年。栃木県にも野菜にも縁があったので、mikumariさんの担当に手を挙げさせていただいた。そう、あの時の人がmikumariの高橋さんだとは知らずに。ブログ用の取材をするにあたって色々と調べていくと、高橋さんのブログにたどり着いた。とっても詩的で、繊細で、でも男らしく、メッセージ性の強い文章。高橋さんは照れるかもしれないが、一説をご紹介させていただきたい。

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「想いを、込める」

いつもお店に来てくれる人達は、何を思って来てくれているのだろう。
人によって、思いや考えは様々だから、どんなに考えたって、きっと解らない。
だから今日も悩み続ける訳だけど、1つだけ解っている事がある。
「想いを込める」ことだ。
それをする事で、答えが解るわけではないけれど、今できる事はそれしかない。
いや、多分この先もそれしかないと思う。
だから今日も、想いを、込める。
ただ、それだけだ。 

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どんな人なんだろう。きっと思慮深く、もの静かで繊細な方なんだろう、と想像していた。で、冒頭の再会。偶然の担当と、再会の喜びと、ブログとのギャップで驚いた。あのブログの筆者が、あの時ダジャレを連発していた愉快な方だったなんて! でも、一瞬で場の空気はあたたかくなった。ご縁があったんだなと嬉しくなった。

mikumariは栃木県の芳賀町にある人気のカフェである。その料理と空気、そして高橋さんに魅せられて、県外からもお客さんが集まる。今年でオープンして7年になるという。元々は自宅として利用していた建物を高橋さん自らが改装し、お店に仕上げた。だからなのかお店のために作られた、作為的な感じがしない。とはいえ、生活臭とは違う、自然な佇まい。

「カフェとレストランの違いって何だと思いますか? 僕はね、レストランはお料理を食べさせる場所。カフェはライフスタイルを提案する場所だと思うんです」

その言葉の通り、お店には書斎もある。2階のロフトにはベッドも置いてある。所々に旅のエッセンスを感じる。恐らくここの住人は旅好きなのだろうと想像させられる。こんな暮らしができたらいいな。高橋さんの罠にまんまとはまった。

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高橋さんはお店をされる前はカフェ、ギャラリー、ショップを展開する益子にある人気店「starnet」で料理長を務めていた経歴を持つ。お子さんが生まれて自宅にいる必要ができて、自分でお店を開店することになったのだとか。mikumariといえば野菜、と言われるほどになったそもそものきっかけは、ある農家さんとの出会いだという。益子で30年以上農薬を使わず、有機肥料を使った栽培をしている山崎さんだ。

「山崎さんのところへ行った時に、玉ねぎを囲炉裏の火に突っ込んで焼いて、オリーブオイルと塩を掛けて食べさせてくれたんです。その味に衝撃を受けました。畑も見せてもらったんですけど、お花畑みたいでした」

mikumariの看板メニューであるプレートは、肉料理などの一般的にメインと呼ばれる料理の横に、野菜がもりっと盛られていて、まるで畑を再現したような一皿だ。その季節に、栃木で採れる新鮮な野菜を本当にたっぷりと使っている。明らかにこのお皿では野菜がメインだ。野菜は地元栃木県の安全に栽培をしている農家さんたちから仕入れている。

いい素材はそのまま食べるのが一番いい。こんな話をよく耳にする。確かに一理ある。でも、高橋さんの料理を食べて、ちょっと違うなと思った。過度に手を加えることはないけれど、適切にすることで確実に味はよくなる。サラダは特にシンプルなものだけれども、ひとつひとつの野菜にきっちりと仕事がされていた。大地の香りを感じるようなフレッシュなリーフ、じっくりローストされた玉ねぎにトマト、チーズとブラックペッパーが添えられた根菜。私はじっくりローストされたトマトの濃厚で甘酸っぱい味が忘れられない。ああ、この人は野菜を美味しく食べてもらおうとしているな、野菜の味を、良さを最大限に引き出しているなと思った。高橋さんの想いが込められた、いいお皿だった。

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もみじ市にも高橋さんは栃木の野菜をいっぱい積んでやってくる。栃木の野菜は、この農家さんの作る野菜はこんなに美味しいんだよって、伝えるために。看板メニューのミクマリサラダ、そしてシチューや栃木県のお酒と果実を使った果実酒などを用意してくれているそうだ。あの河川敷で食べるミクマリサラダは格別なんだろうな。19日(土)のみの出店ということが残念でならない。でも、それも高橋さんの「想いを、込める」ということだろうから、納得してしまうのだ。

【mikumari高橋さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
栃木県芳賀町で地元の野菜をふんだんに使った料理を、目の前に広がる田園風景、裏の山からは鳥たちのさえずりが聞こえる中、季節とともに味わえるカフェを営んでいます。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
mikumariは水を分け与える場所というのを意味していますので、水色です。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
ミクマリサラダを持って行こうかなと思っています。野菜がとてもカラフルです。カラフルな帽子を被っていこうかなと思っています!

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いてご紹介するのは、料理家とイラストレーターの仲良し二人組。どんな美味しい組み合わせをご用意してくれるのでしょうか。

文●竹内省二

wato kitchen ×ナカキョウ工房「スープとブローチ」(19日)

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スープとブローチ? この屋号に「?」マークが頭に浮かんだ方も多いのではないでしょうか? でもどうかご安心を。私もそのひとりでしたので。「wato kitchen × ナカキョウ工房」という組み合わせは、2012年に手紙社のイベントである「パンフェス」そして「東京蚤の市」でも拝見していました。ですが、正直に申し上げると、この組み合わせって何なんだろう? そんな疑問がいつも私の頭の中を駆け巡っていたのです。

だから、是が非でもそこを聞いてみたかった。聞かずにはいられませんでした。私は挨拶も早々に、ふたりにこんな問いかけをしてみました 

「どうして、この組み合わせなんですか?」

その問いかけ、待ってましたと言わんばかりのニヤリとした表情のwatoさん。開口一番にこのセリフ。
「ひとことで言うと、仲良し!」
続けて中澤さん。
「そして同級生!」 

意外…、いや、むしろ期待通りと言うべきでしょうか。返ってきたのはそんな答え。私の目の前には無邪気に笑い合うふたり。この取材、長くなりそうだな…。こんな思いを抱えながら、ふたりへのインタビューは始まりました。

結論から言います。取材を終えた時の私の気持ちは、とてもシンプルなものでした。
「このふたり、素晴らしい作り手だな」
この想いに辿り着いた経緯、それはひとまず置いておいて、まずは、おふたりのご紹介から始めましょう。

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watoさんは、フードコーディネーターであり、管理栄養士でもあり、イラストレーターでもある多才な人。主宰するケータリングサービス「wato kitchen」は、今年の9月15日に11周年を迎えました。雑誌やラジオなどで活躍の場を広げているwatoさん。ご存知の方も多いのではないでしょうか? 今回、もみじ市にご参加いただくのは、2011年に続いて2回目となります。

そして、ナカキョウ工房として活動をされている中澤京子さんは、今回、もみじ市初参加。ブローチやピアスなど、身に付けられる作品(アクセサリー)を中心に制作する作家さんです。柿渋布や皮革を使い、色鮮やかな糸で刺繍を施した作品は、今年のもみじ市のテーマ、「カラフル」にぴったり。現在は、鬼子母神で開催されている手作り市が活動のベースとなっており、制作と並行して、多いときには月3回ほど様々な手作り市に参加するなど、多忙な日々を過ごされています。

そんなふたりの出会いは13年前、2000年にまで遡ります。同じイラストスクールに通っっていたことがきっかけで仲良くなり、その後バリで1カ月一緒に暮らしたそう(周囲が“怪しむ”ほど仲良しだったとのこと)。バリから帰国後まもなく、ふたりは創作ユニットを結成します。

「一週間に何度も会っていましたね。一緒にものを作ったり、友人の誕生日にプレゼントを作ったりしました」(watoさん)

「作ること自体はもちろん好きだったんですけど、とにかく人が喜んでくれることが嬉しかったんです。ニヤニヤさせたかったんです」(中澤さん)

その後、ユニットの活動をよそに、先んじて公の活躍の場に恵まれたのはwatoさんでした。2002年にフードコーディネーターとして独立し、「wato kitchen」としてケータリングサービスを立ち上げたことが、そのきっかけです。対して中澤さんは、持ち前の人見知り(中澤さんはご自身のことを「もじ子」と呼びます)が邪魔して、なかなか活動の場を広げられずにいました。作ってはいるけど、ただ作っているだけ。そんな日々が続いていました。中澤さんは、もみじ市が狛江市の泉龍寺で開催されている頃、お客様として、足を運んでくれていたこともあったそうです。

「一緒に行った友人と、いつか自分達もこんなイベントに参加できたらいいねって言いながら、相変わらずもじもじしていました」

転機が訪れたのは、2009年の11月のことでした。watoさんが、自身が主宰するイベントに中澤さんを誘ったのです。

「ずっと、制作を続けていることは知っていたし、やっぱりその作品が純粋に好きだったから、おこがましい言い方になってしまうかもしれないけれど、応援したかったんです」(watoさん)

「初めは絶対無理だって思っていたんですけど、watoが言うならと思って、思い切って参加してみたんです。そしたらその時に用意した、エスキモーインド人とパンジーのブローチが全部売れたんです。自分が作ったものを、お金を出して買ってくれる人がいるんだなって。素直に嬉しかったですね」(中澤さん)

それ以降、中澤さんは積極的に手作り市に参加するようになります。参加を繰り返していくうちに、手もどんどん動いていきました。その段階で、(手を抜かない)プロへの自覚が芽生えたと言います。

「やっと、楽しいお店ができたな」

これはwatoさんの言葉。2012年のパンフェスと東京蚤の市に「wato kitchen × ナカキョウ工房」として参加したいただいたとき、watoさんはこんな想いを秘かに抱いていたそうです。

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watoさんはケータリングの魅力についてこのように話してくれました。

「相手の要望にいかに応えるか。それがケータリングの醍醐味です。その場所、人に合った食事を、ちゃんと提供をしたいですね。身体はもちろん、それと一緒に、気持ちも元気で健康になってほしいんです」

ときに、watoさんは、思わず誰もが幸せになってしまうあるイタズラを仕込みます。 

「料理を仕込んでいるときに想像するのは、もちろん喜んでもらう姿なわけだけど、そのときに、ひとつ自分なりの企みを忍ばせるんです。要望されたこと以外にこうもやっちゃえ! とか。全ては明かさずに現場に行くんです。そうすると、皆の驚く反応が嬉しくて、ひとりでニヤニヤしちゃうんです」 

一方、ナカキョウ工房と言えば、ブローチ。ユニークでカラフルなキャラクターが特徴的。そんなイメージが、もしかしたら定着しつつあるのかもしれません。けれど、中澤さんは自身が制作するブローチに対する想いを、このように話します。

「とにかく身に付けたかったんです。そうすれば、作品を自分の傍に置いておけるじゃないですか。ブローチってピンをつければ成立するものなので。それに私、イラストの学校に通っていたんですけど、工作とか手芸のように、手を動かして切ったり貼ったりすることの方が好きだったんですよね」

もともと、気に入ったものがあればずっとそればかりで、いわゆるアクセサリーを積極的に楽しむタイプではなかったという中澤さん。正確には、身に付けたいと思えるようなアクセサリーがなかったというのが正しいのかもしれません。そんな中澤さんが、自分が身に付けたいなと思えるもの、そして、自身の作品をそれと照らし合わせたとき、「ブローチ」として見事に当てはまったのです。

「ブローチじゃなきゃダメってことでは全くないんです。希望をいただければもっと色々なものを作ってみたいし。ヘアピン、ヘアゴム、バッグチャームとか。身に付けている人が嬉しそうにしてくれることが、一番嬉しいので」

 「スープ」と「ブローチ」。作るジャンルこそまるで違うけれど、ふたりの創作の先には、必ず、楽しんでもらいたい“相手”が存在しています。話を聞いているだけで、こちらも自然と笑顔がこぼれてきます。

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インタビューもそろそろ終盤。最後に私は、おふたりにお互いがお互いに感じている作品の魅力を聞いてみたくなりました。 

「もうね、常に身につけていますよ。だって、純粋に可愛いじゃないですか。洋服を買いに行くと、店員さんからすごく羨ましがられるんですよ。それを誇らしげに思ったり(笑)。それに、ただの友達だからっていう理由だけだったら、もみじ市には絶対誘いません」(watoさん)

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「食べると本当に元気になるんです。もう、“本当に”元気になるんです!!」(中澤さん) 

中澤さんは、1年程前に一度、制作に没頭するあまり、食事は主に食パンという、そんな生 活が続く日があったそうです。倒れそうなくらいへとへとになってしまった時、あるスープに手を伸ばしました。何を隠そう、それはwatoさんからもらっていたスープ。大切に大切に少しずつ飲んでいた冷凍ストックの、最後のひとつだったのです。口にした瞬間、エネルギーがみなぎって、思わず走り出したくなる程だったそうです。

「私、たまにwatoのケータリングのお手伝いもするんですけど、その時に、彼女、『美味しくなーれって言えば美味しくなるんだよー』っていいながら、ものすごい速さで食材を切ったり、おにぎりを握るんです。でも、その一件があってからは、本当にその通りだなって思うようになりました。人が愛情をかけて何かを作るっていうことの力を感じましたね」

お互いがお互いを、友として、そして作り手として、尊敬し合っていることを強く感じた瞬間でした。

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カラフルなスープとブローチで、身体の内側と外側から、カラフルに彩ってもらいたい。おふたりはこんな想いを抱いて多摩川河川敷にやってきます。watoさんは前回のもみじ市でも大人気だった、いものこ汁で「カラフルいものこ会」を開催してくれるそう。そして、中澤さんは自身の創作の原点である、エスキモーインド人ブローチとパンジーのブローチを先頭に引き連れて、みなさまをカラフルな装いにしてくれるようなアクセサリーを、たっぷりとお持ちいただけるようですよ。

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イラストスクールで出会ったふたりの女性は、それぞれが信じる道をひたむきに進み、13年という時を経た今、誰もが認める作り手として活躍しています。そんなふたりが、唯一無二の親友として、素晴らしきプロの作り手として、手を取り合って、もみじ市に参加してくれること。そのことを、ただただ嬉しく思います。当日はおふたりの間に漂う多幸感に溢れた空気もぜひ感じてみてくださいね。

「ニヤニヤさせてやろう!」

そんな企みを考えながら、ふたりは満面の笑みで、みなさんを多摩川河川敷で迎えてくれることでしょう。

【wato kitchen × ナカキョウ工房さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
【wato kitchen】
こんにちは、フードコーディネーターのwatoです。栄養士としての病院勤務、スープ専門店のメニュー開発などを経て、現在はフリーランスで雑誌などにレシピ紹介をしたり、wato kitchenの名前でイベントに出向いてごはんを作ったりしています。

【ナカキョウ工房】
ナカキョウ工房の中澤京子です。手刺繍と柿渋布や皮革を使って主にブローチをつくっています。手にした人、見つけた人の口元が思わずゆるむような作品作りを心がけています。もみじ市への出店はこれが初めてです。憧れがつまったもみじ市へ参加できますこと、ドキドキわくわくしております。wato kitchenのスープと一緒に、目でも舌でも『カラフル』を楽しんでください!

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
【wato kitchen】
わかりません…。丸一日考えたけど、自分が何色かはよくわかりませんでした。ごめんなさい!

ちなみに好きな色は、白(生成色)と黄(からし色)です! 白はどんな色も受け止めてくれて、黄色はどんな色もつなげてくれるので。わたしもそうありたい。

【ナカキョウ工房】
好みの青緑を見かけた時、みぞおちがきゅーっとなるときめきがあります。この感覚は独特なので、きっと「わたしのいろ」なんだと思います。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
【wato kitchen】
前回に引き続き、ふるさと岩手の秋の風物詩「いものこ会」を楽しんでいただきたく、「いものこ汁」を用意いたします(いものこ会とは、河原に敷物を敷いてみんなでいものこ汁をつつきながらわいわいする会です)。

また、今回はカラフル! ということで、いものこ汁以外にもカラフルなスープを作る予定です。敷物を敷いてお待ちしておりますので、お客さま同士おしゃべりを楽しみながらくつろいでくださいね♪

【ナカキョウ工房】
ウキウキするようなブローチをたくさんお持ちします。作家活動をはじめてからずっと作っている顔のブローチ(通称インド人ブローチ)がありまして、カラフル人のお面にはご縁を感じずにはいられません。笑

そんなブローチたちをもみじ市仕様でますますカラフルにして、会場にあふれるであろうカラフル人たちの仲間入りをさせたいと思っています。その他は会場でのお楽しみ…です!

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

続いてご紹介するのは、活版印刷に魅了された3組の合同出店です!

文●加藤周一