ジャンル:CRAFT

松本寛司

【松本寛司プロフィール】
1976年愛知県一宮市生まれ。仏像や仏具を制作修理する仕事を経て多治見市のstudio MAVOで木工作家としての歩みを始めました。現在は渥美半島の海岸近くに工房を構えて、趣味のサーフィンと木工を行ったり来たりの毎日。木の板から読みとったかたちを彫り出し削り出し、生活の中で手に馴染み長く使える道具を制作しています。木から、海から、インスピレーションを受け、木の特性を生かした作品は、ひとつひとつ手仕事によるもの。スプーンの角度ひとつ取っても細かい調整がなされています。私(担当:小池)が愛用するのはスプーンとフォークが一体になったアウトドア用のカトラリー。インドアでも重宝しています。
http://kanjimatsumoto.com/

【商品カタログ予習帳】
カッティングボード(楢)

木べら(楢)

コーヒー匙(楢)

コーヒー匙ロング(栗)

デザートスプーン(楢)漆仕上げと木地

フォークスプーン(ウォルナット)

ベビースプーン(楢)漆仕上げ

ベビーフォーク(楢)漆仕上げ

丸皿(楢)

【スペシャルインタビュー「人の手からつくることに価値がある」】
8月に手紙舎2nd STORYでの個展も開催した木工作家・松本寛司さん。もみじ市への思いと日々の制作について聞いてみました。

もみじ市と歩んできた作家生活

ーーーもみじ市を黎明期から見てこられましたよね。
松本:開催前夜、多治見の工房で活動していた頃から気にかけていただいていたので、色々な思いが詰まっています。今回のテーマ「ROUND」と聞いてまず浮かんだのが北島さん(もみじ市を主催する手紙社の代表)の顔でした。1周まわってきたんだな、と。

ーーー長く参加していると、他のつくり手たちとの繋がりも多くなっているのでは?
松本:同時期から出店している小谷田潤さんとかヘブンズテーブルさんとか、やはり意識してしまいますね。ちょっとしたライバル心のようなものも出てきます。「おー、あんなに列できてる!」なんて焦ったり。あと、たまたま隣同士になった左藤玲朗(左藤吹きガラス工房)さんとは、今ではコラボ作品を作るようになっていますし、良い出会いが多いですね。

左藤玲朗さんとのコラボ作品(コーヒー豆ポット)

ーーー今年もみじ市初参加の赤畠大徳さんがおっしゃるには、松本さんの愛用するナイフ、赤畠さんの兄弟子が作ったものだったのだとか。
松本:京都でつくってもらったあれ(下掲写真参照)ですよね。さすが、ものが良い。今度は赤畠さんにつくってもらおうかな。

京都「火づくり刃物 祥啓」さんの小刀。一番左のものを愛用している。

“人がつくる”ということ

ーーー一流のつくり手が手がける道具は表情から違いますよね。松本さんの作品もしかり。ご自身の作風として以前と変わっていることはありますか?
松本:これも1周してきた感があるんですが、個人作家には、プロダクトデザインにできないことがあると思っています。手作業じゃないとできない部分に、僕のできる価値があると思って、感覚重視で制作するようにしています。もともと仏像・仏具をつくる仕事をしていた頃は、“職人”として、感情を抑えた作業を求められていましたが、その経験があって今のクラフト作家としての自分があるんです。轆轤(ろくろ)を使ったシャープな器を作る作家が増えてきましたが「僕は手作業をもっと加えて作りたい」と思ってしまいます。

ーーー手で、自分の感覚で、自然から取り出すかたち、というところに松本作品の魅力があると思っています。
松本:自然は螺旋で、螺旋形の中にあらゆるかたちが潜んでいる、といったロダンの言葉が頭の片隅にあります。非合理的であっても、自然の中の美を見つけて取り出すことが、ものをつくる人としての存在意義なんだろうな。一方で、最近では自転車のフレームだったり、サーフボードだったり、実用の中から生まれた有機的な曲線にも惹かれます。実用と美の間にある流線型。

渥美半島の海岸にほど近いアトリエにて

ーーー大好きなサーフィンの影響もあるんでしょうね。
松本:そうですね。サーフィンそのものも良いですが、海から受けるイメージも大きいです。三男が生まれるまでは早朝からアトリエ近くでサーフィンをやって仕事に臨んでましたが、今はそうもいかず、それでも週に3〜4時間は波に乗るようにしています。体調を整える意味もありますし、制作にとって今は不可欠な時間ですね。

ーーー木工は腕とか腰に厳しい作業ですし。
松本:利き腕は一本で、フォームも決まってくる。だいたい半日を板を切ったりする機械作業、もう半日を彫ったり磨いたりする手作業にして変化をつけてはいますが、どうしてもガタがきます。海の中で体を動かしはじめてから、目に見えて改善されるようになりました。

ーーー続けられる、というのもプロのつくり手としては大事なことですよね。
松本 そうですね。クラフトやり始めて、3年とか5年とか経って、ようやく再注文が入るようになりました。一度きりではなくて、気に入ってくれてまた買ってくれる、そうなって初めてプロとしてやっているという自覚というか責任感が出てきたんです。淡々と続けていたからこそのことですし、そうなると次のラウンドまで続けなきゃという意識も出てきます。

ーーー最後に、今回これを手にとってみて欲しいというものは何ですか?
松本:土鍋の栓! これは去年も作りましたが、2017バージョンも見て欲しいですね。なかなか無いでしょ? あとはミニチュアあのマグネット、それから1本で2度美味しいフォークスプーンも一押しです。

ーーーどうもありがとうございました。松本さんの作品はなんといっても河川敷に映えるので、当日が楽しみです!

〜取材を終えて〜
今年は個展を担当させていただいたこともあって、寝食を共にしたり海へ出かけて泳いだり、松本さんのことを深いところで知ることができました。どこか孤高の作家というイメージがありましたが、実に開放的で地元のつくり手仲間を大切にし、家族を愛し、自然を愛する。人間的魅力にあふれていました。確固たる自身の考えを持ち、実践しているのもさすがです。人間性がダイレクトに表れるのが木工作品だと思うので、松本寛司さんの作品から伝わる命の輝きに妙に納得できました。(手紙社 小池伊欧里)