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ユーリ白樺かご

【ユーリ白樺かごプロフィール】
自ら樹皮を採取し、幾重にも編み重ねることで“白樺かご”を作る。20年前、北欧で暮らしたことをきっかけに白樺の木に出逢い恋に落ちる。白樺かごを編み重ねてゆくことは、生きることそのものと語るユーリさんの目はあまりにもキラキラとしており、本当に恋をしているのだとわかるほど美しい。白樺への愛に満ちた作品は、少女らしい無垢さと女性らしいしなやかさを秘めており、身につけるだけでホッと落ち着くような安心感がある。

http://juliwebsite.wixsite.com/juli


【商品カタログ予習帳】

白樺樹皮で編んだワンハンドルの丸かご。

ワンハンドルの白樺かご


『月刊 ユーリ白樺かご』記事一覧

7月号 第1話 「白樺と出会い、白樺と生きる」
8月号 第2話 「白樺樹皮カヌーへの想い、北極圏での暮らし」
9月号 第3話 「白樺樹皮カヌーに想いを浮かべて……」
10月号 第4話 「白樺樹皮カヌーの夢の先にあったもの」


【月刊 ユーリ白樺かご 7月号】

第1話 「白樺と出会い、白樺と生きる」

6月1日。私は北海道の長沼町にあるshandi nivas cafeにいた。広大な畑の中にあるこのカフェを訪れたのは、今回の主役、ユーリさんの展示があるからだ。もみじ市でユーリさんの担当になるのは今年で3回目。年を重ねる毎に、ユーリさんの考えの深さや白樺への想いの深さに感銘を受ける。

今回お邪魔したユーリさんの展示のタイトルは「七月のたからもの」展。カフェの扉を開けてまず飛び込んできたのは、白樺の樹皮で編まれたかごが美しく並んだ姿。ユーリさんを代表する作品のひとつである。ユーリさんがこの白樺かごを編むようになったきっかけは、20年以上前に遡る。関西で生まれ育ったユーリさんは、就職をきっかけにスウェーデンへ移住。その北欧での暮らしのなかで出逢ったのが“白樺の木”だった。北欧ではどこにでもある木だったが、ユーリさんにとっては初めて目にする白い樹木。そして、そのまっすぐな美しさに心を奪われたという。けれども、その白樺の樹齢は約70年程と短い。木部が弱く、中が朽ちやすく、強風で倒れることもしばしば。しかし、他の木が根をはらないような痩せた土地や荒れ地にこそ白樺は根をはり、大地を肥やし、そうして白樺が樹齢を終える頃に、その痩せた土地を豊かな土地へと変貌させる。そのため北欧では“マザーツリー”と呼ばれている。次に生まれ来るもののために自らの精一杯の力を捧げるような白樺の生き方に、ユーリさんはずっと魅了され続けている。だから、白樺かごを編み続けているという。

愛する人のことをもっと知りたいと思う気持ちと同じように、白樺のことを深く知りたいと思っているユーリさんは、常に白樺の木について学んでいる。だから、白樺かごを編むことだけでなく、かごと同じ白樺の樹皮で作られていたカヌー制作にも取り組んだ。この白樺樹皮カヌーづくりは、ユーリさんの長年の夢。2017年7月、カヌーの歴史を学ぶため、まずはカヌー発祥の地・カナダへと渡った。


【月刊 ユーリ白樺かご 8月号】

第2話 「白樺樹皮カヌーへの想い、北極圏での暮らし」

ユーリさんは長年想いを馳せてきた白樺樹皮カヌーづくりへの夢を叶えるため、まずはカヌーの歴史をたどるべくカヌー発祥の地・カナダへと渡った。白樺については何事も自分の目で見て感じることを大切にしているユーリさんの行動力には毎度驚かされる。滞在期間は、2017年7月〜10月の3ヶ月間。この3ヶ月間、カヌーの歴史を学んだことで、さらに白樺への想いが深まったと語る。

今から484年前の1534年、新大陸へ渡ったヨーロッパ人が、現在のカナダの地で先住民が移動・運送手段としていたカヌーを発見した。その地の先住民にとっては既にカヌーは生活に欠かせない道具のひとつ。その後、対外貿易として物々交換をするなかでヨーロッパにカヌーが渡ったと言われている。このカヌーの歴史をたどっていくと、ここでも始まりには、白樺があった。当時、彼らも白樺樹皮を用いて、カヌーを作っていたのだ。白樺とカヌーは切っても切り離せない関係にあることを改めて深く感じたユーリさん。白樺樹皮カヌーへの想いは募っていくばかり。10月にもみじ市のために一時帰国したあと、11月〜2018年1月下旬まで、実際に白樺樹皮カヌーを製作するため、白樺と初めて出逢った地でもある北極圏へと渡った。

カヌーは4人の長年の友人とともに製作。その4人はユーリさんが白樺と出逢った20年以上前に、白樺の魅力を教えてくれた大切な人たちだ。国籍も年代もそれぞれに違っていたが、ユーリさんの一声で皆が真冬の北極圏に集まった。実は、ユーリさんを含めた5人のなかで白樺のカヌーをつくったことがある人は1人しかいなかった。しかし、そこに不安はなかったという。友情があるからだ。7年前から自分で採取し、準備しておいた白樺の樹皮を根っこで縫い留め、その穴は松ヤニで埋める。すべてが森からの材料を用いてつくる白樺樹皮カヌー。完成の瞬間は、計り知れないほどの喜びに満ちていたことだろう。

「大切な仲間や白樺かごを通じてお客様と出逢わなければ、20年以上も、ひとつの夢を想い続けることはできなかった。白樺かごを編み、白樺を伝えていくことで、星の数ほどのたくさんの人に巡り逢え、その気持ちを大切に編み重ねてきたから、完成したんです。だから、これは友情から生まれたカヌー。白樺への想いは、かならず、人と人、その心と心を結んでくれます。それはとても素敵なこと。」そう語るユーリさんの目は少女のようにキラキラと輝いていた。

 


【月刊 ユーリ白樺かご 9月号】

第3話 「白樺樹皮カヌーに想いを浮かべて……」

2017年12月24日。長年の夢の白樺樹皮カヌーが完成。それは、日本時間ではクリスマスイヴの聖なる夜のこと。そして、なんとそのカヌーは、ユーリさんとともにフィンランドから真冬のロシアをずっと陸路で横断し、ウラジオストクからは小樽まで船に乗って、日本までやってきたという。

 

2018年4月11日。北海道の原生林のなかを静かに流れる美々川にはじめて白樺樹皮カヌーを浮かべた。「とても嬉しかった。何よりも嬉しかったのは、白樺かごを通じて巡り逢ったお客様、仲間たちが、喜んでくれたこと。白樺樹皮カヌーをつくることは夢だったけれど、決してカヌーを作ることが目的ではなくて、その過程が本当に大事だった。こうして自分が信じたことをいつも胸に想い描き、その過程で巡り逢えた人と重ねてゆく気持ちが、いつも大切だったから。」とユーリさん。その日はあいにくの雨。しかし、その雨音さえも、まるで一緒に喜び、拍手をしているかのように聴こえた。そして、水面に幾重にも描かれる雨の波紋は、これまで巡り逢えた人との心の輪のように美しく、それは一生忘れられない幻想的な光景だった。

 


【月刊 ユーリ白樺かご 10月号】

第4話「白樺樹皮カヌーの夢の先にあったもの」

昨年のもみじ市を終えてから今年のもみじ市を迎えるまでの間に、長年の夢を叶えたユーリさん。でも、その先にはもうひとつの白樺の夢があった。それがこの「白樺樹皮キャニスター」だ。白樺が身近に育つ国では昔からある道具のひとつであり、白樺かごを編む誰もが虜になってしまうほど、その作り方がまるで”白樺マジック”とも言われているという。

まず、このキャニスターのフタを開け内側を見ると、どこにもつなぎ目がない。それは、キャニスターの太さが元々の1本の白樺の幹の太さ、そのものであることを意味しているのだ。それを知った上でキャニスターに触れていると、まるで白樺の幹に触れているような感覚にもなる。かご編み用の樹皮は太い白樺からシート状で採取するのに対し、キャニスター用の樹皮は間伐した細い白樺から。そしてシート状ではなく、その木部を叩くと、なんと筒状で、スポッと樹皮だけが抜けるという。そうして、この筒状樹皮の上に、もう1枚の別のシート状樹皮を巻くように樹皮や根っこを用いて組み、それを熱湯の中に入れる。すると、樹皮は柔らかくなり、その樹皮の上下をそれぞれ折り返し乾燥すると、何の接着剤も使用していないというのに、内側の筒状樹皮と外側に組んだ樹皮はピタリと美しく接着され、一体になるのだという。

北海道には弓のように曲がった細い白樺が多く、それは、かごの素材には適さない。でも、だからこそ、北海道のその風土にあった白樺の可能性を深めていくことが大事だと想い描き、長年その細い白樺の可能性を研究しながら、じつはもう14年以上ものあいだ、この白樺樹皮キャニスターを作り続けていたという。しかし、これまでそれを作品として一度も展示販売しなかったユーリさん。それは、白樺樹皮カヌーの夢を叶え、その先にある夢、目標と考えていたからだ。カヌーを制作し、実際に北海道の湖に浮かべ、そしてその白樺樹皮の強さを自分自身で確認してからと、自分に言い聞かせていたという。ユーリさんは、いつのときも多くの白樺の夢を想い描いている。けれども、それを実現することだけにとらわれず、逆に遠回りすることを選びながら、ひとつひとつに多くの時間をかけていくことで、その過程に内包されている物語を大切にしているのだということが伝わってくる。だからこそ、ユーリさんの作品は、どれをとっても物語という深い魅力を持ち合せているのだと思えてならない。

白樺樹皮キャニスターの表面には、一日の風景を想い描いたという絵が施されている。このように樹皮のうえに絵や模様を刻むことは伝統的な手法であり、それはひとつひとつの模様のスタンプを作り、それを木槌で叩いて樹皮に刻んでいく。樹皮の上に刻まれた絵をキャニスターを回しながらゆっくり見ていくと、まず朝陽がのぼり、次にはその太陽がいちばん高いところにきて、そして、日が暮れて、最後には三日月や星々。すうっと、ゆるやかに引かれた線は丘であり、そこには小さな家や木々、鳥たちも。あえて人を描いていないのは、この樹皮に刻まれた絵を見た方が、そのなかに、それぞれに大切な人を想い浮かべたり、陽がのぼり、沈み、月が出て、その繰り返される一日一日を大切に想っていただけるように……という想いが込められている。

そして、1艇の白樺樹皮カヌーを作ることでさらに深まった、白樺との絆。白樺を慈しむ気持ちが詰まった作品を手に取ると、込められた想いがじんわりと伝わってくる。「白樺かごを編むことは、生きることそのもの」と語るユーリさん。そこにいつもあるのは、ユーリさんの純粋な愛なのかもしれない。

(編集・鈴木麻葉)