井田耕市「もみじ市立体会場マップ」

僕はいつも手紙舍にいるから、知っているのです。それは、例えば秋の午後4時、傾きかけた日の光が壁に飾られた寺澤太郎さんの写真や本棚にやさしく降り注ぐことを。夏の暑い日でも、奥の小屋からキッチンの横、そして客席へと涼やかな風が通り抜けていくことを。そして、店内から団地の商店街を眺めると、建具によって四角く仕切られたその風景が、まるで映画のワンシーンのようにノスタルジックに見えることも。たくさんの人が手紙舍でうれしそうに写真を撮っていくのは、そんなふうにこの場所にいくつものうつくしい時間、うつくしい場所があるからなのだということを。そして、そんな多くの人に愛される場所をつくりだしたのが、井田耕市さんだということも。

井田さんの仕事は、建築物や空間の設計。これまでさまざま物件に携わってきましたが、手紙舍をはじめ、オカズデザインのアトリエである「カモシカ」、合羽橋のカフェ「itonowa」、国立のお菓子屋さん「foodmood」、そして吉祥寺のお菓子屋さん「tatin」の設計を担当したといえば、みなさんには彼がどのような仕事をする人なのか、わかっていただけるのではないでしょうか。

「設計という仕事は、できるだけたくさんお施主さんとコミュニケーションをとって人を“読む”部分と、場所を読んで作り上げる部分があると思っています。もともとはなにもなかったり、ボロボロになってしまった場所に、ここにカウンターを置いたらどうか、ここに階段をつくればいいんじゃないか、などと考えていくと、その場所が“解ける”ときがくるんです。それが設計をやっていて楽しいところですね」

読むと言うのは、たとえばお施主さんがどんな建物や空間にしたいと思っているのかという、人の思いを汲み取ることであり、どのようにすればその場の持つ特長が活きるのか、その場所を見極めること。場所が解ける、というのはその場所を活かす方法を見つけること。井田さんは、何度もコミュニケーションをとり、何度も足を運んでその場所を見て、丁寧にその場にあるべき空間の姿を見つけるのです。

いつも井田さんは「それが誰の作品か、と聞かれたら、お施主さんの作品だと思います」と、言うのです。どのような素材を使って、どんな空間を作るかを施主に提案するわけですから、設計した空間には井田さんの個性が出ます。そしてその場所で多くの人が満たされた時間を過ごしています。だから手紙舍をはじめとして井田さんが設計を担当した建築物は、すべて井田さんの誇るべき作品だと僕は思います。それでも、「僕の作品ではないです」と井田さんは言うのです。でもね、僕は知っているんです。そんなふうに謙虚で、相手の思いを深く理解しようとつとめる優しい井田さんだからこそ、手紙舍のように誰もが憩う、あたたかい空間がつくれるのだと。

そんな井田さんが、今回のもみじ市で、会場の入り口付近に立体マップを設置してくれることになりました。それは大きさが910×1820mmもあって3×6版という大きさの板を6枚も使うもの。一般的にはスチレンボードなど加工しやすい素材でつくられる「コンタ模型」(等高線によって段がついている地形模型)を、木の板でつくるのです。刃渡りが120mmの引廻鋸というちいさな鋸でキコキコと板を切り(指をマメだらけにしながら!)、やすり、オイルを塗って、会場マップの土台をつくってくれました。そこには出店者さんたちが手づくりしたちいさなお店が並べられます。ガラスでできたもの、パンでできたもの、ちいさなちいさなティーセット、紙粘土でつくられたもの、お菓子に旗を立てたもの、木、陶器、紙、などなど。本物のもみじ市と同じように、たくさんの作家さんの個性が、この場所に詰め込まれています。

「模型は家の高さに目線を持ってきて見るのが楽しいですよね。想像の中でその世界を歩き回る。そうやってこの模型の世界に入ってほしいですね」

どうか、少し目線を下げて、立体マップを覗いてみてくださいね。そこにはもうひとつのもみじ市があって、その世界にきっと、あなたは引き込まれていくはずだから。立体マップのそばにはいくつかの小さな木の家が置いてあります。それを立体マップの好きな場所に加えてください。そうすればもうあなたも、もみじ市というちいさくて、にぎやかな架空の町の一員です。そう、これは井田さんと、出店者さんや僕たちスタッフと、みなさんの、つまりもみじ市に関わるすべての人による作品なのです。ぜひ、会場でご覧になってくださいね。そして、あなたのお家を加えて、この立体マップを完成させてください。

立体マップのそばには井田さんがこれまで手がけてきた建築物の模型を展示します。もちろん手紙舍の模型もありますよ。当日も井田さんは立体マップ周辺をうろうろとしているはず(笑)。お店を始めたい方、自宅のリフォームをお考えの方、ぜひ井田さんに声をかけて相談してみてくださいね。

*井田耕市さんに聞きました

Q1 今回はどんな“いでたち”で、もみじ市のパレードに参加していただけるのでしょう?
鼻歌交じりに参加できればと思います。

Q2 もみじ市をどんなふうに楽しみたいですか?
鼻歌交じりにひとつひとつのブースをゆっくりと見てまわりたいと思います。

Q3 もみじ市の宣伝部長になったつもりで、来場されるお客様にメッセージをお願いします!
鼻歌交じりにのんびりぶらぶら歩きを楽しんでもらえればと思います。

さて続いては、ライブのお知らせ。あの人とあの人が手を携えて登場です。

文・セソコマサユキ

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