小谷田 潤「陶磁器と小さな十月遊園地」

キーン、キーン。おそるおそる叩いてみると、高く美しい音が響きわたった。もう一度叩いてみる。今度はちょっと優しく。コン、コン。今年5月末に手紙舎で開かれた、陶芸家・小谷田潤さんの個展「陶器は奏でる」でのこと。会場奥の小屋につり下げられた「楽器」に、目を奪われた。よく見てみると、それらは陶器のかけらだった。
「焼き方、厚さ、ほんの少しの違いで音が全然違うんだよ」
小谷田さんはそう言って、笑った。その時、わたしはいつも以上に小谷田さんの発想の素晴らしさに驚いたのだった。

小谷田さんは、若き陶芸家だ。その手から、多くの人に愛される作品を次々と生み出している。もみじ市には第1回目から参加していただいている作家さんのひとりだ。いつも新しいことに挑戦し、たくさんの時間を費やして万全に準備をしてきてくれる、とても頼もしい人。そんな彼のことを、わたしたちは心からの敬意を込めて「情熱の陶芸家」と呼んでいる。

わたしが初めて小谷田さんの作品に出会ったのは、今から3年ほど前のこと。ひとり暮らしを始めたばかりの頃のことだった。「花市」で見かけた白いマグカップのかわいらしい形と質感が気に入って、連れて帰ることにした。それを使うようになってからというもの、自分でいれるコーヒーが少しだけおいしく感じられるようになったし、スープ皿を買ってからは、料理があまり得意でないわたしが作るスープも少しだけおいしく感じられるようになった気がした。そう、自分で作った料理が小谷田さんの器によそるだけで、ちょっとしたごちそうに感じられるようになったのだ。作家さんの器というと、ちょっと緊張して使わなくてはいけないイメージがあるけれど、小谷田さんの器は、初心者のわたしをおおらかに受け止めてくれて、生活を楽しむ余裕を与えてくれたような気がする。

小谷田さんが作る器は、土の質感を生かした、あたたかみのあるものだ。例えば一輪差し。すっとした細い口と、ぽてっとしたフォルムのバランスがなんとも愛らしい。例えばお皿。それ1枚でも十分使い勝手がいいのだけれど、食器棚に何枚も無造作に重ねて置いた時の光景が、でこぼこしていて、それもまた愛らしいのだ。素朴な色と、シンプルな形は、生活のあらゆる場面にすぅっとなじむ。最近では、綺麗な色の磁器の作品も増えてきて、それもまた嬉しい。選ぶ楽しみがまた増えたのだから。

「自分が欲しいと思うものを作っているだけ」

先日お会いした小谷田さんは、かっこつける訳でもなく、ごくごく自然にそう言った。飾らない小谷田さんらしい発言に、わたしは微笑ましくなった。定番のお皿や飯碗、鍋、ポットに始まり、部屋に彩りを与えてくれる花器や、かわいらしいマスキングテープ台といったものまで、必要なものは何でも作ってしまう。そういった生活の細かいところにまで作品の方向を向けられるのは、小谷田さんが日々の暮らしをとても大事にしているから。家族を大事にし、仲間を大事にする小谷田さんだからこそだと思う。きっと、使う人たちの喜ぶ顔を思い浮かべながら、せっせと手を動かしているのだろう。その時その時の自分の心にまっすぐに、作品を生み出す小谷田さん。きっとこれからも、小谷田さんの作り出す世界はどんどん広がってゆくのだろう。

さて、今年のもみじ市では、どんなことを考えてくれているのだろうか。定番の作品を販売する他にも、ある楽しい企みを考えているとのこと。工房を訪れた際に、少しだけ見せてもらったのだが、これがとってもかわいい! 実は、ある作家さんと一緒に、子供も大人も楽しめる「あるもの」を作ってくれているそうだ。今回も、見る人みんなをびっくりさせる素敵な世界が、もみじ市当日の小谷田さんのブースには広がっているはず。どうぞ、楽しみにお待ちくださいね。

*小谷田潤さんに聞きました

Q1. 今回はどんな“いでたち”で、もみじ市のパレードに参加していただけるのでしょう?
自分の作品のほかに、ある作家さんと一緒に「小さな十月遊園地」を作ります。 誰でも自由に手に取って遊べますので、お人形片手にこの遊園地をパレードしてもらいたいです。 ほかにも、ちょこっとします。

Q2. もみじ市をどんなふうに楽しみたいですか?
お母さんが作品をゆっくり選んで、横でこどもたちが笑顔で遊んでいる平和な光景を遠くから眺めて、感動したいです。

Q3. もみじ市の宣伝部長になったつもりで、来場されるお客さまにメッセージをお願いします!
必ず一度は、なんだか分からない胸騒ぎがおこるはず。それは、ほんとうに好きなものに出会った瞬間です。 音楽、たべもの、作品、その出会いを大切にして頂ければ、ぼくもうれしいです。

さて続いては、京王線の線路際に佇む、かわいくておいしいベーグル屋さんが初登場!

文●早川絵梨

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