ジャンル:CRAFT

liir

【liirプロフィール】
“liir”の作品は、福井県に構えたアトリエで、森谷和輝さんの手によって生み出されます。透明なガラスと、独特の表情を持つリサイクルガラス、異なる特徴を持つ素材を用いて作品を作るliirさんは素材の持つ表情からインスピレーションを受けているそう。まるで水を集めてできたかのような花器、和紙を閉じ込めたかのような十角皿……。その作品は、日常の中で、時間や場所、光の差す条件によってまるで違う趣きを見せてくれます。
http://www.liir1116.com/

【商品カタログ予習帳】
 sun cup

八角皿

八角皿

リネン皿6寸

角取皿

フォールグラス

kou

sun glass

sei

コーヒー匙

【スペシャルインタビュー「ガラスという素材に魅せられて」】
薄く透明なグラス、淡く曇りがかった厚みのある器……。素材の持つ豊かさを教えてくれるガラス作家・liirの森谷和輝さんに、手紙社の本間火詩がお話を伺いました。

ガラスの自然な振る舞いを残す
ーーー大学でガラス工芸を学ばれていたそうですね。ガラスに興味を持ったきっかけはなんだったのでしょうか?
森谷:初めは、吹きガラスをやっているのを見て、自分が全く触ったことのない素材に興味を持ったんです。土や粘土、木などは学校でも触る素材だと思うんですけど、ガラスは全く機会が無かったので、やってみたいなと。ただやってみたら全然思ったような形は作れなくて……。素材に触れるのは面白かったんですけど、例えばコップのような綺麗な形を作りたい、と思っても技術的に難しかったんです。

ーーー最初から順調なスタートだったわけではないんですね。大学ではどんな作品を作っていたんですか?
森谷:大学では吹きガラスと型をとって作るガラス、両方を学んでいたのですが、ある時、型の中で上手くガラスが溶けきらずに、穴がいくつも空いたものができたことがありました。それが、今まで目にしてきたガラスとは違って、自然のもののように見えたんです。そこからすごく楽しくなってきて、大学にいる間は器ではなく、ガラスが溶けていく様を表した作品を作ったりしていました。今は器を作っていますが、ガラスの自然な振る舞いのようなものを残したいという気持ちが僕の根底にあります。

ーーー大学の頃から作り手になりたいと思っていたのでしょうか。
森谷:ガラスで、と思っていたわけではないのですが、何かものを作る仕事をしたいなと思っていました。ガラス自体がすごく面白い素材なので、ずっと続けてこられたのだと思います。

ーーー大学を卒業されてから、作り手としての活動を始めるまでの道のりを教えていただけますか?
森谷:大学を出て、3年くらいは知り合いに紹介してもらった吹きガラスの工房に入っていました。その時は器を作りたいと思っていたんです。

ーーー何かきっかけがあったのでしょうか?
森谷:大学の時もコップを作って友人にあげたりはしていたんです。すごく分厚くて、ちょっと歪んでて、作る時の道具の跡もいっぱいついているような(笑)。ある時、あげたコップを使って友人が公園の芝生でお茶を飲んでいるのを見たら、そのコップをすごく綺麗だなぁと思ったんです。それまで僕は工場で作られた既製品のコップしか知らなかったんですね。自分で作ったんですけど、手で作られて、色んな表情を感じられるガラスっていうのが、改めていいなあって感じて、それから器やコップを作りたいと思うようになりました。

ーーー素敵なエピソードですね。工房に入られてからはどのようなものを作っていたんでしょうか?
森谷:工房の母体がお蕎麦屋さんだったので、そのお店で使う器を作っていました。大学を出て、急に自分で器を作らなければいけない、となったんですが、技術的にも未熟で思うようなものは作れず……。「もっと色ガラスを使ってみたらどうだろう」とか、下手なりに見えるものを作るようになっていってしまって、自分の作りたいものと離れていくような気がしていたんです。そんな時に、京都のあるガラス作家さんに出会いました。透明にこだわって自分でガラスを調合している方で、見学に行かせてもらったその場で、研修生として入れてもらえることになったんです。「一から学び直そう」と弟子入りするような形で、京都で2年半ほど勉強させてもらいました。

ーーー今も京都でよく展示をされているのは、その時のご縁なんですか?
森谷:そうですね。京都にいた頃は仕事と並行して、自宅の窯で作品を作っていたので、手作り市などに出すようになりました。そこでお客さんやお店の方とも知り合うようになって、そうやってどんどん自分の作品を作りたい気持ちが膨らんでいきました。

今は福井県に構えている、liirさんのアトリエ。平屋の土間を利用したアトリエには、キルンと呼ばれる窯やバーナーなどが並びます
バーナー

素材と技法と形の関係

ーーー森谷さんは透明なガラスの他にも、少し曇りのあるリサイクルガラスを使われるのが印象的ですが、使い始めたきっかけはどんなことだったんですか?
森谷:実はリサイクルガラスは元々興味があって、それを作っている工場に就職したいなと思っていたんです。唯一就活で行ったところでした(笑)。金沢にある工場で、何度か足を運びましたが就職は難しくて……。数年後、その工房のガラスが一般にも販売されるようになったのを知って、縁を感じて使うようになりました。とても面白いガラスで、すごくムラが多くて普通の透明のガラスに比べると扱いにくいんですけど、その分表情が豊かに見えるんです。ガラスって透明なものだけじゃなく色んなものがあって、もちろんその中でどれか1つ、と選んでいってもいいのですが、僕は今のところその1つ1つに対して「この素材だったらこういう風に作りたい」という思いで制作しています。

リサイクルガラスの表面。沢山の泡と、淡く靄がかかったような独特の表情が魅力的です

ーーーこちらのリサイクルガラスのものはしっかりと重量感があるのですが、透明のガラスのものはすごく軽くてびっくりしました。
森谷:組成というか、成分が全然違うんです。技法によっても作れる形が違うんですよ。型で作るものだったら厚みが必要になってくるんですけど、その分ガラスの中の泡やテクスチャを楽しむことができます。作りやすい形もそれぞれにあって、型だと平たい形の方が作りやすいのですが、吹いて作るものはコップのような形が作りやすいので、作品に合わせて素材や技法を選んでいます。

厚みのある、薄く色づいたリサイクルガラスの器と、薄く透明なガラスのカップ

ーーー素材と技法が組み合わさって作品の表情が変わるんですね。作品作りの工程の基本を教えていただけますか?
森谷:リサイクルガラスの作品を作る時は型を使っているんですが、まず最初の原型をワックスで作ります。それを今度は耐火石膏で包んで、ワックスを蒸気で溶かして型を作ります。そこにガラスのかけらを詰めて、溶かして作るのが基本の作り方です。石膏の型は割らないと取り出せないので、割って、その後磨きをかけて完成ですね。僕は割と型から出たそのままのざらざらとした質感を残したいと思っているので、最低限、触って痛くないくらいの仕上げに留めてガラスの表情を残すようにしています。バーナーで作るものは使用するガラスと設備が違って、軽い素材のガラスなので、薄いものは作りやすいんですけど、分厚いものは作れないんです。だからこのガラスを使う時は薄くて軽いものを作りたいなと思っています。

ワックスの原型と耐火石膏の型

ーーーこちらのリサイクルガラスの丸いお皿(リネン皿6寸)は、表面はざらっとしていますが裏側はツルツルしてるんですね。
森谷:こっちは最初に丸い板ガラスのようなものを作って、それをお皿のような型の上に乗せると窯の中でだんだん柔らかくなって、重力で型に沿った形になるんです。スランピングという技法ですね。このお皿は木綿豆腐みたいに表面に布を当てているので、ざらざらとした質感になっています。

布を当ててできたテクスチャが美しい、リネン皿6寸

ーーー自然にガラスが溶けて型に沿った形になるんですね。
森谷:そうなんです。こっちのフォールグラスも丸い板ガラスを使うんですけど、こっちは穴の空いた型に挟んで、とろーっと溶けさせるんです。重力で次第に落ちていってグラスの形になるんですよ。伸びて薄くなって透明度が出るので、重みでガラスが溜まる下の方と透明度が違うんです。泡も上の方は伸びていて、下の方は丸いままなんですよ。

フォールグラス。上の方は透明度が高く泡が伸びていて、下の方にガラスが溜まっていくイメージが浮かびます

ーーーすごい! 重力で自然に生まれる形なんですね。こちらの透明なガラスの中に泡が入っているものも、吹いて作られているんですか?
森谷:これはそれぞれ作り方が違うんですけど、例えばこのsei(金属とガラスを組み合わせた花器)は、長いガラスの棒を作って、カットしたものをもう一度とろけさせて作っているんですけど、その時に下に粉を敷いておいて、テクスチャをつけているので泡のように見えるんです。こちらのコーヒー匙の柄はまた違って、酸素バーナーという道具を使ってガラスを溶かして作るので、その時に泡を入れるようにして作っています。吹きガラスでコップとかを作る時、ガラスのパイプから作るんですが、パイプの両端に吹けるところがついているんです。吹き終わった後その部分はとってしまうので、その余った部分をもう一度溶かしてこういうパーツに使っているんですね。吹きガラスで使ったパーツなので、中にいっぱい泡が残るんですよ。口で説明するのも難しいんですが……(笑)。

花器・seiの底。粉の跡が窪んで、テクスチャを生み出しています
気泡の入った持ち手が美しいコーヒー匙。柄と本体は異なる方法で作られて最後に組み合わされるのだとか
吹きガラスの作品を作る工程で生まれる、溶けたガラスのパイプの端切れ

ーーー色んな作品があってすごく面白いです。作品を作る上で、どんなものからインスピレーションを得ているのでしょうか?
森谷:素材からでしょうか。例えば失敗してできた何かからなどでも、素材を見て、これだったらこういう作品を作ったら面白いんじゃないかと思って作ります。あとは今は色んな方に見ていただく機会が増えたので、実際にいっぱい使ってもらって、自分でも沢山使って、もっとここをこうしたいとかそういうところから形を浮かべていったりします。使ってみるとわかることってすごく沢山あると思っていて、洗い物をしている時とかに、「これはもうちょっと軽いといいな」とか、「これはちょっと薄いから割れやすいな」とか、そういう気づきも作品に活かしていきます。

“ROUND”のもみじ市には、外に持って行きたくなるようなガラスを

ーーー昨年もみじ市に初めて出店して、どんな印象でしたか?
森谷:来てくれるお客さんも、やっている人たちも楽しそうだなって思いました。普段はもっと工芸に限定されたイベントに出ているので、出店者のバラエティに富んだ感じもすごく面白いです。映画館みたいなものもあるし、前髪も切れるし、ごはんもあるし……自分もお客さんとして回りたいなって(笑)。色んな人に教えてあげたくなりますね。こんなに面白いことがあるよって。

ーーー嬉しいお言葉、ありがとうございます。今年のもみじ市のテーマ、ROUNDと聞いて思い浮かんだものはなんでしょうか?
森谷:世界一周とか旅行みたいなイメージが浮かんだので、外に持って行きたくなるようなガラスを作りたいなと思っています。まん丸の、携帯できる花器みたいなものを作りたいなって。

ーーー携帯できる花器ですか?
森谷:うちの奥さんが旅行に行く時に、その辺に咲いていた花とかを飾ったりするんです。そうするとなんていうか、殺風景なホテルとかも、いい感じになるんです(笑)。そういう時に使う花器があったらいいなあって。もみじ市も外でやってるから、それを持ってピクニックとかも楽しいかなと思って、そういう花器を作りたいと思っています。

ーーー持ち歩ける花器、素敵ですね! 楽しみにしています。森谷さん、ありがとうございました!

〜取材を終えて〜
ガラス作家・liirさんのインタビューは、商品カタログ予習帳にある作品をずらりと並べて行いました。1つ1つ、作品ごとに異なるエピソードや成り立ちのお話……。その幅広さに思わず夢中になって聴き入ってしまい、すっかりとガラスの魅力の虜になった、あっという間の楽しい時間。みなさんにお伝えしたい作品の魅力がありすぎて、書ききれないくらいでした。穏やかに、生活に寄り添うように作品作りを行うliirさん。これからは作品と出会うたび、これはどんな風に生まれたんだろう? とワクワクしてしまいそうです。
(手紙社 本間火詩)

【もみじ市当日の、liirさんのブースイメージはこちら!】

光の差し方によって表情を変えるliirさんの器。秋の河川敷ではどんな光を映しているのか……。もみじ市当日を、どうぞお楽しみに。