ジャンル:FOOD

mikumari(14日)

【mikumari プロフィール】
栃木県芳賀町の、のどかな田園風景の中に佇むカフェレストラン。屋号の「mikumari」には、「水を分け与える場所」という意味が込められています。店主・高橋尚邦さんが自らの手で作り上げたという店内にはアンティークの家具が並び、心地良い夢のような空間が広がります。そこで味わえるのは、地元の旬の野菜をふんだんに使ったメニュー。彩り鮮やかな一皿は芸術品のように美しく、じっくりと眺めたくなるほどです。まっすぐに日々の暮らしを見つめて作られた格別の美味しさを、多摩川河川敷でご体感ください!
http://mikumari-homusubi.com


【商品カタログ予習帳】

もみじ市11回目ということで、地豚の赤ワイン煮込みをメインに11種類のおかずを詰め合わせた弁当、その名も『波紋』をお持ちします。14日(土)のみの出店ですが、宜しくお願いします。

【スペシャルインタビュー「ゆっくりと、大きく育つ木のように」】
田園風景に佇む「mikumari」の店主・高橋尚邦さんに、担当の富永(手紙社)がお話を伺いました。

生命の源を分け与える場所に

ーーーお店に足を踏み入れた瞬間、その美しさに鳥肌が立ちました。ここまで世界観が完成されているお店は見たことがありません。
高橋:ありがとうございます。店内のディスプレイは、妻と二人でやっているんです。店内にはそれぞれにテーマを設けた空間を設けていて……。大きな窓から光が差し込むスペースは“船室”をイメージしていて、貝殻だったり海を題材にした本をさりげなく置いてみたり。一番奥の部屋は、植物学者の部屋のような雰囲気にしています。お店の裏にはツリーハウスも作ったんですよ!

ーーー「mikumari」という店名にはどんな思いが込められているんですか?
高橋:以前ある方から、「生命が一番みなぎっているときは、水分に満ちて透き通っている」という話を聞いたとき、非常に大きな感銘を受けたんです。だから、「水」という言葉は絶対に使いたかった。お店をオープンした当時はフランス語だったりイタリア語のおしゃれな名前が流行っていたんですが、僕は日本語にこだわりたくて……。日本語の中でも不思議なニュアンスの言葉を探そうと思って、古事記や日本書紀を調べていたら、天水分神(あまのみくまりのかみ)という神様の名前が出てきて、そこから「mikumari」という名前が生まれました。

ーーー神様の名前だったのですね!
高橋:3年前に増築したショップスペース「homusubi(ほむすび)」は「火を結ぶ」という意味があります。「mikumari」は、生命の源である水のような恵みを分け与える場所。「homusubi」は、人の思いが結ばれる場所にしたいなと思っています。

植物学者の部屋をイメージした空間
机の上には物語が詰まっています

ーーー今年でお店を始めて12年目ということですが、それ以前は何をされていたんですか?
高橋:25歳まで、家電メーカーで働いていました。電子レンジや炊飯ジャーの開発のために、色々な料理を作ったりするうちに本格的にやりたくなって、会社を辞めて調理専門学校に通い始めたんです。スタートが遅かったぶん、そこからはもう必死でした。ターニングポイントになったのは、栃木県益子町の「スターネット」というお店との出会い。専門学校を卒業後、そこでカフェのことはもちろん、家具作りとか、ベンチとか椅子の張替えとか、色々やらせてもらって。ここで学んだことが今のお店に繋がっていると感じています。

ーーー料理だけではない幅広い体験があったからこそ、この世界観が生み出せるのですね。
高橋:スターネットで働いていた頃は、そこで学べる全てのことを貪欲に吸収しようと思っていました。そして、吸収したことを自分のスタイルにどう当てはめるか、ということは常に意識ようにしていましたね。そうしないと、いざ独立したときに何もできないと考えていたから。

ーーーこのお店は自宅も兼ねているんですよね。
高橋:住み始めた頃は、トイレも扉もない、本当に何もないところところでした。でも景色はいいし、近くに神社もあって川もあって。自宅兼なら家族とも一緒に居られるし、良い選択だったと思います。

船室をイメージした部屋
高橋さんが少年時代に拾ってきたという貝殻や化石もディスプレイの一つに
屋根裏部屋もあります

決断のときは逃げ道を残す

ーーーこれまでにいろんな選択をされてきたかと思いますが、何かを決めるときに大切にしていることはありますか?
高橋:僕は、独立してフリーで何かをやってみたいという人に相談を受けることもあるんですが、そのときは必ず「逃げ道を残しておけ」って言います。「逃げ道を残さないで、自分を追い詰めた方が良い」って言う人もいるけれど、そうは思わない。独り身だったらそれでもありだとは思いますどね。莫大なお金をかけてやったことがダメになったら、家族みんなダメになってしまうから、それは絶対避けなきゃいけないんです。

ーーーいざというときの選択肢を用意しておく。
高橋:初めのうちは、なるべくお金をかけないでやったほうが良いと思っています。軌道に乗ってきたら、一つ大きな買い物をする。うちもそうやって少しずつ増築を重ねて、12年目でここまで辿り着きました。やり方は人それぞれだけど、逃げ道を残しておかないと心に余裕ができないと思うんですよね。それは、自分でお店をやってみて確信したことの一つです。

ーーー12年の間に、その逃げ道を選ぼうと思うことはありましたか?
高橋:ありました。違うところに店舗を出そうかとか、別の仕事をしようかとも思ったことがあります。でも、もうだめだ、という領域になってから見つかることも結構あって。イベントに出店をするようになったり、ギャラリーを増築して個展を始めるようになったり、いろんなやり方に気づくことができました。いろんな運もあって、なんとかここまでこられたと思っています。

ーーー25歳の時に思い描いていた未来と、今は違いますか?
高橋:やっぱり違いますね。違うけれど、今の自分で良かった。良い方向に行ったと思っています。若い頃は、フランス料理やイタリア料理など、ビシッとした料理以外は料理じゃないなんて思っていた時期もありました。価値観がガラッと変わったのは、やはりスターネットでの経験が大きいです。それまでは、メニューを決めてから食材を集めていたものを、今ある食材で何を作るか、ということが求められるようになって。そのものを見て、どう調理をするか決める力がついたんです。スターネットとの出会いがなければ、ひょっとしたらコテコテのフレンチレストランを開いていたかもしれないですね(笑)。

作家の作品などが並ぶ「homusubi」

肌で感じたものから生まれるもの

ーーー高橋さんの生活に欠かせないものはありますか?
高橋:第一はやっぱり家族ですね。子供や妻に教わることも多いから。あとは、ここの周りの空気感だと思います。早朝のまだ暗い時間に仕込みをしていると、鳥の鳴き声が聞こえたり、風で森の木々が擦れ合っている音が聞こえたり……そういうものが周りにあるから、今のスタイルがあるんじゃないかなっていうのは感じます。ここで生活をしていないとわからないものを纏っているというか……。美しい鳥のさえずりだけではなくて、時々、鳴き方が変なのがいるでしょ。そういうのも重要で、あんまりビシッと格好つけすぎないようにしようと思っているんです。例えば、店内の目立たないところにこっそりリスのぬいぐるみを置いたり、どこかクスって笑える遊び心を大切にしたいなって。そういう感覚は、周りの自然とか、取り巻いているものから生まれてくるものなんじゃないかなと思います。

ーーー高橋さんの作る料理は、どんなところからインスピレーションを受けているのでしょうか。
高橋:お店では、15~20種類の野菜を盛り合わせたワンプレートをメインに提供しています。その始まりは、栃木県の有機農家さんの畑を見たことがきっかけでした。その畑では、一緒に植えるとお互いに良い影響を与え合う、という野菜を組み合わせて栽培していたんです。それを見た時に、いろんな野菜がバラバラに植えられているのが、お花畑みたいに美しく見えて。そんな野菜畑みたいなプレートを作りたいと思ったんです。

ーーーお料理に使っているのは、栃木の食材ですか?
高橋:そうですね、ほとんどが地元の食材です。新鮮なものだったりオーガニックのものだったり、そういう方が扱っても美味しいし、作っていても気持ちいなと思います。食材以外にも、店にあるテーブルも日光駅で使われていたものだったり、建物の梁も栃木の木を使っていたり。やっぱり自分が生まれ育ったものの中で暮らすのは居心地がいいですから。でも、あまり押し付けがましくはしたくはないと考えていて、メニューにも “オーガニック”とか、“栃木県産”っていうことは書いていないです。

“料理人”ではなく“暮らしを提案する人”に

ーーーお店を続けていくうえで大切だと思うことを教えてください。
高橋:僕は、お店というのは、一本の木だと思っているんです。お店を長く続けて行くには、そこでいかに自分の木の特性を見極めるかが重要なんです。枝を折って水につけておけば根っこができる、挿し木もできるお店。土を掘って他のところに移転して大きくなれるお店。差し替えをしてしまうと枯れてしまう木もある。うちの店は、年月をかけていけば、屋久杉のようにゆっくりでも大きくなれると思っていています。それを実現させるには、一つ一つを極めて行くことが大切だと思っています。野菜を20種類近く盛りつけた料理を出したり、内装をとことんこだわったり……。他の人が真似できないように、極めて極めてどこにもない個性を出していくしかない。たとえ自己満足になったとしても、気に入ってくれる人はいる。それでいいと思うんです。

ーーーお話を伺っていて、高橋さんは“カフェの店長さん”というより、“作家さん”のような印象を受けました。
高橋:僕の中では、自分は料理人ではなくて、暮らし全般を提案する人だと思っています。食事を食べて終わりではなくて、「このカフェで使っている器が素敵だね」とか、「あの家具はどこで買ったんだろう」とか。そんなふうに暮らしを豊かにする種を与えられる存在になれたらなと感じます。

もみじ市は、大人の文化祭

ーーー今年のもみじ市のテーマ“ROUND”と聞いて何を思いましたか?
高橋:僕は、”ROUND”から、“大航海時代“を思い浮かべました。なので今回は、船のようなブースを作ろうと思っています! もみじ市の会場を巡る、船で航海するようなイメージ。あとは、これまで自分が巡ってきたことから感じたものを発表しようというイメージです。「波紋」というメニューもそこにかけているんですよね、実は。

ーーーすごい! ロマンチックですね〜!
高橋:以前“紅白”がテーマで、出店者が紅組白組に分けられたことがありましたよね。僕は紅組だったから、闘牛士の格好で出たんです(笑)。ブースも闘牛場みたいにして。「mikumariさんはコスプレ好きなんですか?」って言われました(笑)。もみじ市は、大人の文化祭だから特別なんですよ! 今回も船乗りのようなイメージで、コスプレまではいかないけれど、度が過ぎない程度にやっていきたいなと思います。

「mikumari号」の舵を取る、キャプテン・高橋!

ーーー当日はどんなメニューが登場するのですか?
高橋:「波紋」というメニューを出す予定です。一滴落とした水が広がって、広がって、というイメージ。もみじ市が11周年に合わせて11種類の野菜で“ROUND”を作ろうと思っています。食べた方に、少しでも幸せな気持ちになって貰えたら嬉しいですね。

ーーー最後に、もみじ市に来る人へ一言メッセージをお願いします!
高橋:もみじ市に来た人は、僕と一緒に航海に出ましょう!

ーーーありがとうございます! 当日、どんな姿の高橋さんが「波紋」を広げてゆくのか、楽しみにしています!

〜取材を終えて〜
田園風景の中車を走らせていると、突然目の前に現れるカフェ。息をの飲むほど洗練された世界観と料理に出会えば、訪れた人を一瞬にして物語の主人公に変えてくれます。船室をイメージした部屋に散りばめられた貝殻や化石は、高橋さんが子供の頃に拾ってきたものだそう。「mikumari」は、そんな少年時代の夢の世界と、大人になった高橋さんの今が詰まった空間でもあるのかなと、個人的には感じています。一つ一つの要素を極めながら大きく育ってゆくそのカフェは、人々の生活に“豊かさの種”を蒔き続けているのです。(手紙社 富永琴美)

【もみじ市当日の、mikumariさんのブースイメージはこちら!】

河川敷に現れた「mikumari号」を訪れて、もみじ市の航海へいざ!