ジャンル:CRAFT,出店者紹介

安達知江

【安達知江プロフィール】
ガラス作家。岡山県の山の中、自然に囲まれた小さな工房でガラスのオブジェや器を制作。主にキルンワークという技法を使い、身の回りのささやかな出来事を作品にしています。豊かな想像力を武器に作品に投影する技術力には圧巻。安達さんのまっすぐな黒い瞳を通し自然の豊かさや美しさを表現している作品たちに誰もが心惹かれるはず。その中でも「横たわる闇」という大きな黒い狼が横たわっている作品。背中から尻尾までの毛並の一本一本の中に誰しも心の奥底に抱えている闇が入り込んでいるのです。そんな姿を見て安心する私がいます。なぜなら、そんな闇を抱えていても瞳の奥は優しいから、安達さんの表現力にいつもいつも驚いてばかり、今度はどんな驚きがあるのか楽しみでなりません。


『月刊 安達知江』記事一覧

7月号「絵本の世界へ」
8月号「絵本の世界へ その2」
9月号「絵本の世界へ その3」
10月号「絵本の世界へ その4」


【月刊 安達知江 7月号】
特集「絵本の世界へ」

安達知江さんの制作する作品には私たちの心の中に湧き上がる様々な気持ちが投影されています。特に、実物を見るとまるで生きているのかのように錯覚してしまうほど! そんな安達さんと送る月刊企画は「絵本」。それも安達さんの作品で作り出す世界。毎月毎月、安達さんの世界を立体に起こしていく過程をお届けできればと思っております。

さて今回絵本の企画を考えた時にすぐに思い浮かんだのがレオ・レオニーの「スイミー」。今回その中の一場面を制作していただけるそう。

「スイミーのお話の1シーンというよりはスイミーが赤い魚たちに外の世界へ出てみようと説得するキッカケとなった……スイミー自身が一匹となり心細さと悲しさ、寂しさの中、逃げている時目にして感動し、負の感情を癒してくれたものたちを作る方が良いのかなと思いました。」(安達)

水中ブルドーザーのようないせえび、風に揺れるもも色のやしの木みたいないそぎんちゃく、色とりどりのドロップみたいなキラキラとした岩、etc…今から安達知江さんのフィルターを通した作品を早く見て見たい! と待ち望んでしまうのは無理もありません。

今月の1枚

安達知江さんの作り出すスイミーの世界のラフ

(編集・並木裕子)

《次号予告》
いよいよ制作へ!


【月刊 安達知江 8月号】

特集「絵本の世界へ その2」

原型作りへ

暑い暑い8月になりましたね。さて先月号の「スイミーの世界へ」では実際に製作するデザインのラフをお見せしました。

さて今月は、オブジェ製作に必要不可欠な、ガラスにするための原型作りをご紹介。画像と安達さんのコメントを交えながら、主人公のスイミーを制作する過程をご覧ください。今月からいよいよスイミーの形が見えてきますよ!

原型の素材は何でも良いのですが、私はワックスをよく使います。お湯に入れると柔らかくなり、冷えると固くなる。火で炙れば溶ける便利な素材です。

まずは大まかに形のあたりをつけていきます。

ワックスが固まったら、道具で細部を彫り込んだり、ワックスを付け足したり……。思う形に近づけていきます。

形が大分整ってきました。ここからは、先の細いヘラで細部を仕上げていきます。

今月の1枚

出来上がった原型達。これらを次は型取りしていきます……to be continued!

(編集・並木裕子)

《次号予告》
次号も安達知江さんのスイミー制作の工程を!


【月刊 安達知江 9月号】
特集「絵本の世界へ その3」

型作りへ

スイミーの世界がどんどん出来上がっていく過程を見ているうちに、気付けば、この連載も3回目。まだ夏の入り口だった7月号から季節も移り変わり、いつの間にかもう秋の香りが近づいてきましたね! さて8月号は原型を完成するところまでお見せしました。今月はいよいよ型取りです。

型は手を抜いて作ると、焼成時失敗の元になるため、丁寧に作業します。今回は細かく色つけをしたいので割り型にします。*割り型とはその名の通り、型を何個かに分割する型取りの仕方です

今回は2つ型にしたいので、原型の半分まで粘土で壁を作ります。

壁が完成したら、そこへ耐火石膏をかけていきます。この時泡が入らないよう、細かいところまで石膏が入るよう注意しながら作業します。泡が入ってしまうと型に穴が開いてしまい、原型が台無しになりますので大切なポイントです。程よい厚みでかけ終え、石膏が固まったら次は反対の型取りです。

石膏をかける前に離型剤を塗ります。この膜が無いと型が割れなくなってしまうのです。

反対もかけ終えました。固まり、石膏が落ち着くのを待って次は原型を取り出します。

ワックス原型なので蒸気を当てると溶けて流れ出ます。流れ出なくなるまで蒸気を当てていきます。

綺麗にワックスが溶け、ひとまず原型の第一段階が完成です。次は細かい細工や色つけをしていきます。今回はスイミーの世界、海の中ですので波を思わせる模様を石膏に彫りこもうと思います。石膏は柔らかいのでこういった細工がしやすいメリットがありますが、反対に脆いのがデメリット。壊さないように扱います。

鉛筆でつけたアタリを彫ります。

彫れた溝に色ガラスの粉を入れ、そのほか色をつけたい場所に色ガラスの粉など塗り、絵付けが完成です。

絵付けが終わったら型を合わせ、針金で固定、その上からもう一度石膏をかけて補強し、これで型取り終了です!

《次号予告》
次回はいよいよ焼成、研磨、完成までの道のりです! to be continued……

(編集・並木裕子)


【月刊 安達知江 10月号】

特集「絵本の世界へ その4」

スイミーの世界へ

安達知江さんが作り上げる「絵本の世界へ」もいよいよ最終回。お話の主人公、小さくてカラス貝のように黒いスイミーの制作工程、出来上がった作品のお披露目です。赤い魚たちの中で唯一違う体の色を自分の武器として活かし、皆で協力しながら力強く生きていくスイミー。安達さんはどのように作り上げ、命を吹き込んだのでしょうか。

もみじ市当日、安達さんのブースには、キラキラとした太陽の光を身体中いっぱいに吸い込んだスイミーや仲間たちが展示されます。お子さんはもちろん、大人の方にも自分らしく、イキイキと生きる光をくれるはず! 魅力的な他の作品と一緒にぜひご覧ください。

 


型が完成したら、いよいよ窯入れです。イメージする配色になるようにガラスを型に入れていきます。この作品の場合は、グレー→スキ(クリア)→青 の順番です。

 

ガラスを詰め終えたら窯に入れ、焼成です。約820度〜860度で溶かしていきます。ガラスは冷める時、歪みが起きやすく、割れの原因になるので数日をかけてゆっくりと冷めるようプログラムを組んで焼成します。

 

焼成後、窯出し。きちんと焼きあがりました! 先はまだ長いですが、ひとまず、ホッとする瞬間です。

 

焼成後の石膏は脆いので、木槌で慎重に型を壊し、中のガラスを取り出します。強く叩きすぎるとガラスが割れてしまうので慎重に……。この型は一回しか使えない使い捨てです。再利用はできないのです。

 

あらかた石膏を落とし終えました。ここから余分な部分を切り落としたり削ったりして掃除をしていきます。

 

余分な部分は機械で切り落とします。水が出る電動の切断機です。ガラスは加工時、摩擦熱を持つと割れてしまうので基本的に濡らしながら加工します。

 

底を磨いていきます。板ガラスの上で金剛砂と言う砂と一緒にすり合わせ、平面を出します。徐々に砂の荒さを変えると、表面が滑らかになるので、自分が納得いくまで磨きをかけます。

 

底が磨けたら次はバリ取りです(合わせ型なのでどうしてもバリが出ます。)そこをリューターと言う機械で削り取ります。

 

全て綺麗に削り終えたら、次は彩色です。ガラス用のエナメル絵の具で細かい部分を彩色し、約570度で焼き付けます。

 

研磨、彩色が終わりついにスイミーが完成しました! 色も表情も綺麗に仕上がったように思います!

 

作品を制作するには、たくさんの工程がありますが、1つずつが意味のある大切な要素で、制作はこの作業の繰り返しです。コツコツとした作業が永遠と続く地道なものですが、その分日々の積み重ねが形になった時の達成感、そうして生まれたものを誰かに共感して貰えた時の喜びは大きく、原動力になります。

今回は、普段お見せすることのない制作の様子をご覧いただきました。作品が誕生する工程から普段とはまた違った作品鑑賞の視点を持てたら面白いのではないかと思います。

もみじ市当日はこうして出来上がったスイミーの世界を展示致します。スイミーが心動かされたものたちをコツコツと制作してきました。海の中のゆったりとした空気をスイミーが楽しむ様子をご覧いただけたなら幸いです。(安達)

 

もみじ市当日はスイミーの世界の他に、大人気のgirl、動物や星のオブジェなど、たくさんの作品が皆様をお迎えしますよ!

girl   小さな女の子シリーズ、今回は少し大きいものも何点か持って行きます。

 

猫の花器 / 星   一見オブジェかと思えば実は花器になっている猫と星のオブジェ。

 

馬の花器 / 星   一見オブジェかと思えば実は花器になっている馬。

 

(編集・並木裕子)