ジャンル:ILLUST&DESIGN,出店者紹介

岡崎直哉

【岡崎直哉プロフィール】
グラフィックデザイナー、写真家。CDジャケットや映画のポスターなどのデザインを手がけるほか、全国各地で写真を撮影し作品を制作する。作品づくりに欠かせない、プリントや断裁、小箱の制作まですべての工程を自らの手で行っている。移り変わる季節、過ぎ去る時間の中で、変わらない美しさ、そして変わる美しさを鮮明に映し出した岡崎さんの写真に心を奪われた人は数知れない。
http://www.color-travel-guide.com/


『月刊 岡崎直哉』記事一覧

第1話 『撮影散歩』
第2話 『暗室』


【月刊 岡崎直哉 7月号】
特集「Color Travel Guide」

担当の鈴木が写真家・岡崎直哉さんに密着取材! もみじ市までの4ヶ月間、岡崎さんの背中をみて感じたことを思うがままに綴っていきます。

第1話 『撮影散歩』

【撮影散歩 鎌倉編ルート】
11:00 鎌倉駅集合
12:30 老舗喫茶「ミルクホール」作戦会議のち出発
13:00 日焼けする人が集まる由比ヶ浜の浜辺
13:30 「手紙舎鎌倉店」でひと休み
14:30 バラが見頃の鎌倉文学館
16:00 喫茶「RONDINO」にてふた休み
17:00 鎌倉駅解散

2018年5月12日(土)午前11:00。電車から降りた途端に襲ってくる人混みの熱気と燦々と降り注ぐ太陽の光。絶好の写真日和、そして絶好の観光日和だな、と考えながら、今回の撮影散歩のスタート地点「鎌倉駅」に降り立った。本日の隊長・岡崎さんと合流し、老舗喫茶店「ミルクホール」で作戦会議と腹ごしらえをした後、本日のルート、鎌倉駅の南側、由比ヶ浜・長谷エリアへ。普段から写真を撮るときはあまり目的地を決めないという岡崎さん。「海」・「鎌倉文学館」をキーワードに住宅街の脇道を進む。

岡崎さんが撮影するのは、“花”や“建物”、“影”などさまざま。完成した作品を見ているとどの写真にも統一感(岡崎ワールド)があり、被写体を選別して撮影しているものだと思っていたが、ビビッときたものはとにかく撮影する岡崎さんの姿があった。

木漏れ日から生まれた模様を撮影する岡崎さん

岡崎さんが選ぶ被写体はどれも私では気がつけない、空間の中にしっくりと馴染んでいるものたち。何気ない景色を歩くなかで、常にアンテナを張り続ける姿はさすがとしか言いようがない。被写体の見つけ方もそうだが、切り取り方も岡崎さんにしか生み出せない世界観がある。

岡崎さんの相棒「RolleiFlex」

その世界を作り出すのが、愛用の二眼レフカメラ「Rolleiflex」。カメラ好きならば誰しもが憧れる二眼レフの元祖である。一眼レフとの大きな違いは、ファインダーを上から覗くこと。試しに私も覗かせてもらったのだが、そこに映し出される世界は、肉眼でみるものよりもずっと叙情的で、何枚でもおさめたいと思えるほど美しかった。

二眼レフカメラを構える岡崎さん

二眼レフカメラの場合、ファインダー越しの景色が反転して見えるため、調整するのも慣れるまでは一苦労。なによりも構図決めが難しい。やっとのこと構図を決めて、ピンとを合わせたらシャッターを切る。多くのカメラは潔いシャッター音を鳴らしてくれるのだが、このカメラは実に静か。その姿までスマートで美しい。私が撮った写真がうまく撮れたかは全くわからないが、シャッターを押した感覚が忘れられず、すっかり「Rolleiflex」の虜になってしまった。

手紙社に入社する前から憧れの存在だった岡崎さんの担当になって3年。ついに念願叶って撮影に同行させていただいた。もともと写真を撮ることが好きだった私にとっては、今回の撮影散歩は発見の連続だった。被写体の探し方や構図の決め方、そして意外とデジタルカメラでも撮影するということ(笑)。岡崎さんの作品の初めの一歩にご一緒できたことはとてもいい経験になった。次回はいよいよ暗室での焼き付けの作業。どんな写真が焼き上がるのかドキドキだ。

 


第2話 『暗室』

2018年7月19日(木)午後3時、東新宿の駅で岡崎さんと待ち合わせた。今日の取材では暗室に同行する。岡崎さんの通うのは、レンタルカラー暗室「WORKS」。以前は2箇所の暗室を利用していたそうだが、ここ10年ほどはもっぱらここでプリントしているという。なかに入ると何部屋か仕切られており、部屋ごとに引き伸ばし機のサイズが違う。引き伸ばし機とは、現像したネガを印画紙に焼き付ける際に使う機械のことだ。印画紙のサイズにより機械が変わるため、部屋ごとで分かれているのだ。今回は、3番の部屋を使う。

慣れた手つきで準備を進める岡崎さん。このレンタル暗室で、カラー写真を1枚作るのに必要なものは、ネガ・印画紙のみ。あとは暗室で借りることができるので初心者でも安心だ。

プリントしたいネガをキャリアにセットする

まずは、現像したいネガを選び、キャリアにセットする。この時にネガが曲がっていたり指紋がついていると、そのままプリントされてしまうため、注意が必要である。キャリアに固定したあと、ブロアーでゴミを飛ばす。そこまで終わったら、引き伸ばし機にセット。

引き伸ばし機。上部には色味を調整する絞りがついている

ここまでセットしたところで、暗室らしく部屋の電気をオフに。真っ暗な状態でネガを投影し、フォーカススコープというレンズを覗いてピントを合わせる。カメラのファインダーを覗いてピントを合わせるのとは違い、ここでのピントは、肉眼では合っているか確認できない。そのため、スコープを覗き、写真の粒子が鮮明に映るように調整する。ピントを合わせたら、いよいよ焼き付けの工程に。写真の色味は、撮影した時間や場所により、赤みを強くしたり、黄みを強くしたりと調整が必要になってくる。また、印画紙への露光時間(照射する時間)によっても、写真の濃度が変わってくる。そのため、ネガごとの色味や露光時間を記録した紙をもとに、イエロー・マゼンダ・シアンの値を合わせていく。岡崎さんの写真は、一目見たら「岡崎直哉の写真」というのがわかる一貫性がある。ここでの調整は岡崎ワールドを作る上で大切な工程だ。

印画紙を固定するイーゼル。正方形にプリントするために、型紙のサイズにバーを合わせる。

すべて合わせたら、ついに印画紙に照射。この際、暗室は真っ暗に。なぜ電気を消さなければいけないのか。それは、印画紙は少しでも光に当たると感光してしまうためだ。こんなに真っ暗な状態は体験したことがない! というくらい、本当に真っ暗な世界なのである。そのため作業は全て手探りで行わなければならない。真っ暗ななか、イーゼルに印画紙をセットし、露光開始。ここでかかる時間は、たった10秒ほどだが、やけに長く感じる。露光した印画紙を光が通らないボックスに入れたところで、やっと電気をつける。

自動現像機を使うことで5分ほどで現像から乾燥までできる。テストプリントが出来上がる様子。

ここまで終わったら、別室の自動現像機へ。露光した印画紙を機械へ入れると5分ほどで、プリントされた写真が出来上がる。自分で焼き付けるとなると、現像液や定着液につけて水洗いし、さらに1日かけて写真を乾燥させなければならない。しかし、この自動現像機を使えば、その工程を5分ほどでこなしてしまう、とても便利な機械だ。

プリントした写真を、事前に用意したサンプルと照らし合わせて、色味を調整していく。例えば赤みを強くしたい場合、単純にマゼンダの値をあげればいい、というわけではない。値を変えるごとに、露光時間も変わっていくのだ。これは、岡崎さんお手製の表(非公開)をもとに調整。そして、またプリントするのである。

以前プリントした3枚と並べて、色味を確認する

「レンタル暗室のいいところは、時間の制限があるところ」と語る岡崎さん。時間の制限がないと、納得するまでプリントしてしまうため、どんどん迷走していくこともあるという。しかし、制限があることで集中して作業でき、効率がいいのだとか。

実は、私も岡崎さんに伝授していただきながら、現像に挑戦。真っ暗な空間に浮かび上がるネガが投影された光。その時間はわずか14秒ほどなのにもかかわらず、どんな写真が出来上がるのだろうと心が踊った。現像機から出てきた写真を見たときの感動は格別! レンタル暗室は初心者にはハードルが高いと思っていたが、自分で写真の色味を調整できることや、すぐに写真が完成することなどから、もっと身近な存在になってもいいのではないだろうか。

次回は、断裁の作業を取材。箱の形成やスリーブの断裁などすべて手作業で行う岡崎さんに密着する。

(編集・鈴木麻葉)

《次号予告》
第3話 『断裁』