ジャンル:ILLUST&DESIGN,出店者紹介

TAKAHASHI AYACO

【TAKAHASHI AYACOプロフィール】
写真学科卒業という、少し変わった経歴を持つ絵描きのTAKAHASHI AYACOさん。まるでカメラのファインダーから覗いたかのように、印象的なワンシーンを切り取ったイラストを描いている。そのアイディアの源は、耳に入ってきた会話や街中にある看板、流れている音楽の歌詞など、“ことば”によるところが多いそう。「シャッターを切る」ように、書き留められた膨大なスケッチから、絵に落とし込んでいくのだ。そうして生まれた作品は、在りし日々のような懐かしさと、まだ見ぬ近未来のような目新しさを見る人に与える。この不思議で幻想的な絵の世界へ飛び込んだが最後、もう戻れなくなってしまうかもしれない。
http://takahashiayaco.tumblr.com/


『月刊 TAKAHASHI AYACO』記事一覧

7月号「TAKAHASHI AYACOを形づくるもの-小さな家-」
8月・9月合併号「TAKAHASHI AYACOを形づくるもの-本-」


【月刊 TAKAHASHI AYACO 7月号】
特集「TAKAHASHI AYACOを形づくるもの-小さな家-」

小さな家


「月刊 TAKAHASHI AYACO」7月号は、私の趣味嗜好のルーツと言えるかもしれない、幼少時代に暮らした「小さな家」にまつわる話です。

生まれてから小学2年生の終わりまで暮らした小さな家には「オレンジ色の小屋と青い自転車」が描かれたポスターが飾ってありました。ちょっと模写してみました。

A1サイズ程のそのポスターはアルミフレームに額装されて、四畳半の居間のザラザラの繊維壁に掛かっていました。このポスターを思い出すときには自動的に繊維壁まで思い出されるのが面白いです。

背景に空と黄色い地面、手前にオレンジ色の小屋と青い自転車。シンプルな絵なのですが、小さい頃の私はよく眺めていた気がします。自転車の構造を飽きずに見たり、小屋の中のことを想像したり。

このポスター、今はもうないと思っていたら、なんとまだ残っていました。母が引っぱり出してきたこのポスターを目の前にするうちに、当時暮らした家の風景がイモづる式にするすると蘇ってきました。
家具やインテリアの色や配置など、幼かったわりにその記憶は妙に鮮明に思い出されます。アルバムも眺めつつ、中でも印象深いいくつかのものたちを描いてみました。

緑色の電話機と溶岩と観葉植物が置かれた風景、秋田木工のベビーチェアの座面のブルー、他にも、オリーブイエロー色の冷蔵庫、曇った水色をした洗面台、黄色いベンチと紺色のゴルフ、ミントグリーンの二層式洗濯機など、当時の家に散らばる景色や色が、私の今に至る趣味嗜好のルーツに、そして描きたいもののベースになっているのではという気がしてきます。

同じような小さな家が8軒立ち並ぶ風景は、高速道路の建設によって、今や跡形もなくまるっとなくなってしまいました。もうない方がかえって記憶の中に色鮮やかに残るものかなと思ったりしますが、緑色の電話機は、調べたところ某フリマアプリで3000円で出品されていたので、ちょっと欲しい気もしています。

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TAKAHASHIさんの作品を眺めていて、いつも不思議に思うのはその着眼点。「なぜこの絵を描こうと思ったのか」「どうしてこういうタッチにしたのか」。彼女のアンテナに触れたものが、その頭の中を通って独自の形に変換され、絵に落とし込まれていく。その過程に興味があり、TAKAHASHIさんの現在の製作活動にも影響を与えているという、幼き日のエピソードをお届けしました。中でも個人的に印象に残ったのは、当時家にあったという家具の色合い。他の家庭にはあまりない珍しい色の家具たちに囲まれて育ったからこそ、TAKAHASHIさんが描く絵の色彩も、豊かな表情を見せるのかもしれません。

(編集・藤枝梢)


【月刊 TAKAHASHI AYACO 8月・9月合併号】
特集「TAKAHASHI AYACOを形づくるもの-本-」


今回のテーマは「本」です。もみじ市の担当者さんが提示して下さった数冊の中より1冊選びまして、あれこれと描いて書きます。


さて、今回取り上げますのは、『アンソロジー お弁当』より、向田邦子著「お弁当」です。

この本には41人の作家の41篇のお弁当にまつわる読み物が掲載されています。宇野千代さんの作る間違いなくおいしいお弁当のこと、南伸坊さんのレイアウトにこだわるお弁当作り、など心惹かれる作品がいくつかありましたが、やはり結局、好きな向田さんの作品を選びました。

向田邦子著「お弁当」の前半は自身の小学校時代のお弁当にまつわるお話です、そして後半に向田さんがお父さんから聞いたエピソードを綴っています。どうもこの後半部分の情景構成が面白くて、脚本家向田邦子ならではの描き方のように思いました。お父さんのエピソードを、お弁当箱に詰めるみたいな具合に4コマで描いてみました。


「渓流釣りの最中に弁当を川に流してしまった父が、近くにいた人に豪華な弁当を分けてもらった、名前も名乗らず高級車で帰って行ったその人が、もしかしたら有名な華道家ではないかと後日気づき驚いた」と父から聞いたが、確かめることもなく父も故人になり実際のところはわからない」。簡単にまとめるとこんなお話です。

ここの文章から、私はなぜか、いっさい書かれてもいない向田家の茶の間の光景が見えてきます。父から聞いた話を向田さんは距離を置くように淡々と書き並べているのですが、その書き方のせいなのか、それはドラマの中の音のない回想シーンみたく浮かんできます。父が亡くなってからだいぶ経ったあとに、茶の間に集まった母や兄弟たちとお煎餅でも食べながら、何かの拍子にその話が話題にのぼり回想している、そんな具合です。時間に制限のあるラジオやテレビドラマの脚本を手がけていた向田さんは、一つのシーンの中で、具体的に描くことなく見る側に別の光景を想起させる、なんて技をエッセイでも使っていたのかもしれません。

ところで、以前に向田さんの作品からインスピレーションを得て描いた絵があります。


眠る盃』の中の「水羊羹」というエッセイなのでですが、青山の骨董通りにある菊家の水羊羹を、いかにして美味しく食べるかを瑞々しく綴った作品です。

向田さんはほかにも、「食べもの」について書いた作品を数多く残しています。思いつくものを、ちょっと描いてみました。


ドラマの中で食べものは印象深く効果的に使われるし、エッセイをペラペラとめくってぱっと開いてみると、かなりの確率で食べものの話に当たります。恋人に宛てた手紙にもその日に食べたものを書いているほどでした。

向田邦子全対談』という本の中で、向田さんは水上勉著『土を喰う日々』のファンだと言っています。作家の水上勉が作る十二ヶ月の精進料理のエッセイのようなレシピのような本なのですが、以前購入して一つのレシピも作らず、そのままにしていたのを思い出しました。9月のページを見てみると「しめじめし」というわりかし簡単な料理が載っています。書いてある紫しめじは手に入らなそうなので、代わりは舞茸でもよいでしょうか。上手に作れたらお弁当に入れてみようと思います。

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今年の3月、TAKAHASHIさんが参加しているグループ展にお邪魔しました。好きな本を選びそこから生まれた作品を展示するというものだったのですが、描かれている絵はもちろん、その選書や切り取るシーンがまた秀逸で、少しだけ彼女の頭の中を垣間見れたような気がしました。私自身は、ストーリーを実写の映像のような形で想像しながら本を読んでいくのですが、TAKAHASHIさんは実写だったり絵だったりと、本によって異なるとのこと。そんな違いが面白く、今回は私がセレクトした書籍を何冊かお送りし、それにまつわる絵を描いていただきました。「どの書籍、話を選ぶのか」「どんな絵を描くのか」「何を感じて、何を考えているのか」。ちょっとドキドキしながら待っていた私のもとに届いたのは、向田邦子さんへの愛情が溢れる絵と文章。向田家の茶の間の考察など、TAKAHASHIさんだからこその目のつけどころに、やっぱり驚かされました。

(編集・藤枝梢)