ジャンル:CRAFT,出店者紹介

竹村聡子

【竹村聡子プロフィール】
美しい乳白の磁器と銀彩で生み出される動物たち。長野県で活動する陶芸家・竹村聡子さんが命を吹き込む作品は、いまにも動き出して物語を紡ぎ出すような、唯一無二の存在感を放ちます。手にした人の肌にすっとなじむ柔らかな質感も、その魅力の一つ。私(担当:富永)は、長野県の人形劇の歴史や、動物に込められた背景など、取材するたび新たな発見をくれる竹村さんのお話に、いつも心をときめかせています。そんな竹村さんの日課は、工房へ向かう道中で飼われているヤギを観察することなんだとか! 繊細な作品たちの中には、思い思いに生きるヤギの姿から得た発想も込められているのかもしれません。
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【商品カタログ予習帳】

銀獣ブローチ(うさぎ三種、キツネ、ワニ、ヤギ、オオカミ、写真にはないですがニワトリ)


銀蟹豆皿


銀獣マリオネット


『月刊 竹村聡子』記事一覧

7月号 特集「インスピレーションの種」
8・9月号 特集「作品に命が宿る瞬間 〜素材、製作風景その①〜」
10月号 特集「作品に命が宿る瞬間 〜素材、製作風景その②〜」


 

【月刊 竹村聡子 7月号】
特集「インスピレーションの種」

見つめるほどに、そこに込められたストーリーや奥深い背景を知りたくなる。そんな竹村さんの作品の魅力を、ご自身の解説とともに紐解きます。初回は、“インスピレーション”の種。竹村さんが生み出す美しい白磁の色合いや、動物たちの瞳に宿る輝きの秘密を、のぞいてみましょう。

●“白”に秘められた無限の可能性
竹村:私の現在の制作におけるインスピレーションは、20代の頃に心を揺さぶられた発見の中からジワジワと昇華して生まれてきています。

竹村:私は陶芸を始めた頃に偶然観た画家・藤田嗣治(レオナール・フジタ)の作品の「素晴らしき乳白色(gland fond blanc)」の美しさに感動したことがきっかけで白磁を選びました。白磁土と「白」色に内在する様々な可能性を求めて制作しています。

●命を吹き込む“アニメーション”との出会い
竹村:もう一つは、人形劇と人形アニメーションからの影響です。現在私は“人形劇のまち”といわれる長野県飯田市に住んでいて、以前人形美術家の川本喜八郎さんの作品に関わる仕事をしていたことがあり、川本さんの人形や人形アニメーション(こま撮りアニメーション、ストップモーションアニメーション)作品を観てその制作背景を追っていく中で、能や文楽などの日本の伝統芸能や様式美などを知ることができました。

また、人間の手で人形に命を吹き込むこと(animate)ができ、眼のあるものには心が宿ることもわかり、そういった目に見えないものに対する日本独自の感覚を自分の制作にも投影したいと思うようになりました。

竹村:私の制作しているものたちは一見西洋かぶれっぽくて可愛らしいと反応してくださる方が多いのですが、根底には日本ならではの様式美や静けさ、翳り、幽玄さなどを求めていて、そういった感覚を大切にして制作しています。

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ご自身の言葉から伝わる、ものづくりへの真摯な姿勢。考えに考えを重ねて作られる作品の中には、そんな竹村さんだからこそ感じ取れる、さまざまな分野のエッセンスが注がれていました。料理を作るとき「美味しくな〜れ」と声をかけると、美味しくできる。などと言いますが、きっと竹村さんも心の中で、たくさんの言葉をかけながら作品を作られているのではと、勝手ながら妄想しています。次回は、そんな制作の様子をご紹介。みなさまどうぞお楽しみに!

(編集・富永琴美)

《次号予告》
作品に命が宿る瞬間 〜素材、制作風景〜



【月刊 竹村聡子 8・9月号】
特集「作品に命が宿る瞬間 〜素材、製作風景その①〜」

竹村さんの作品の中でも特に印象的なマリオネット。それらは、東欧の人形アニメーションや絵本作品、特にロシアのアニメーション作家のユーリー・ノルシュテインからインスピレーションを受けているのだとか。最近は、彼の絵本に出てくる動物たちを中心にマリオネットを制作しているそうです。今回はその中から、うさぎのマリオネットの制作方法を公開します。竹村さんの仕事は、どこを切り取っても惚れ惚れしてしまうほどに“美しい”。凛とした空気感を放つ作品がどのように生まれるのか、丁寧に、綿密に進められる作業風景を、2回に分けてご紹介します。

●美しい作品は、美しい仕事から
(1)はじめに銀獣のアイデアスケッチをして大きさや動かす箇所、パーツの形などを決めます。

(2)使用している土は「白磁土」で、薄いベージュ色をしています。しっとり滑らかでキメの細かい美しい土です。

(3)土を練り、叩いて少し平たくして、「たたら」という板を使って土を均等に薄くスライスします。

(4)そこから下絵で描いたパーツをそれぞれ切り出し、要所に穴をあけて、一日ほど乾燥させます。(乾燥すると土の色は少し薄くなります)

(5)乾燥して少し硬くなったらパーツの角を刃物を使って削り、厚みを整えます。土の水分を飛ばすために一度窯に入れて一日素焼き(750℃)をします。

(6)素焼きの窯出しをすると、白磁土は桃色に変化します。

(7)ヤスリを3種類(粗目、中目、細目)順番に使ってパーツの表面を滑らかにしていきます。

そして二度目の窯詰めをして二日かけて本焼き(1200℃以上)をします。

(8)窯出しをします。本焼きをすると色は白く硬く焼き上がり、白磁土本来の質感と色になります。

(9)左から 本焼き、素焼き、白磁土を焼く前の状態 です。焼くと約2割収縮します。

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昨年アトリエを訪れたとき、私も竹村さんの轆轤(ろくろ)をお借りして、湯飲みを作りました。後日送っていただいた完成品を見た私の第一印象は「小さい!」。焼いたことで想像以上に収縮した姿を見て衝撃を受けました。素人目線で恐れ多いなと思いながらも、収縮率を想定しつつ細かな装飾を施し、繊細な作品を仕上げる竹村さんは本当に素晴らしい作家なのだと感動したことを覚えています。マリオネットの製作は、ここから銀を使った絵付けやパーツの組み立ての工程へ。次回は、素材である白磁土やマリオネットそのものへの竹村さんの思いとともに、完成までの道のりを最後までお届けします!

(編集・富永琴美)

《次号予告》
「作品に命が宿る瞬間 〜素材、製作風景その②〜」



【月刊 竹村聡子 10月号】
特集「作品に命が宿る瞬間 〜素材、製作風景その②〜」
マリオネットの製作もいよいよクライマックス。竹村さんの、一切妥協のない細やかで丁寧な手仕事を、どうぞ最後までご覧ください。

(10)本焼きしたパーツに銀で着色(animateと呼んでいます)をしていきます。使用しているのは陶芸用の銀液です。本物の銀です。

(11)筆を使って眼や耳、尻尾などを描いて着色していきます。ここで眼を入れるのが一番集中力が要ります。眼を入れた瞬間から鼓動のようなものが伝わってくるまで(個人の感覚です)何度も描き直します。

銀で描いた部分をしっかり乾燥させたら、銀を焼き付ける為に3度目の窯に詰めて1日焼きます(約700℃)。ここでは焼きによる収縮はありません。

(12)窯出しをしたら、銀で着色した部分の焼成によってできた酸化皮膜を専用の布で取り除いて磨きます。

(13)パーツを順番に組み立てていきます。

(14)支柱となる金属棒をペンチで折り曲げて手を入れて操演できるように形を作りします。

(15)最後に操り糸をつけて完成です。

(16)銀の塗り方で模様を変えて、種類を増やしたりもしています。

白磁土の白さが能楽の面(おもて)や文楽の首(かしら)に使われている胡粉(貝殻をすり潰し膠で解いて使う白い顔料)に、白磁土の硬さが生物の身体を形成する骨に近似しているように感じられたことから白磁土でマリオネットを作る意味を自分なりに見出しました。それらのマリオネットたちはウサギっぽいけどよく見るとウサギっぽくなかったり、何の動物かわからなくて擬人化されている部分もあるようで、あやふやな部分があるのでさっくりと「銀獣」と呼んでいます(時々「珍獣」と呼んでくださる方もいますがそれも正解です)。

マリオネットは西洋的な人形の形式ではありますが、銀で描いた眼など、経年変化で静かに色が移ろう様子を日本ならではの感覚で表しているつもりです。また東欧のマリオネットの歴史的背景や日本語では「傀儡(かいらい)」と訳されることから、ほんの少しだけアイロニカルな表情(ちょっとひねくれた顔をしている適度のことです)にもなっています。

よく「ひとつのものを作るのにどれくらい時間がかかりますか?」とご質問を頂くのですが、乾燥を待つ時間や窯に入れて焼く時間、窯出しするまでの時間などがあります。(器もほぼ同じ工程で作りますが、これよりもう少し手間と時間がかかっています。)今までずっとお答えできなかったので、この制作工程を見てあれこれ推測して頂けますと幸いです。

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銀で着色をする工程をanimate(アニメート)と呼ぶ竹村さん。その言葉には“命を吹き込む”という意味があるのだそうです。銀で描いた動植物は、手にした人のもとで異なる酸化の仕方をして、表情を変えていきます。「自分自身より長く生きて欲しいなって思いながら作ってます。」そう語る竹村さんに命を与えられた作品は、持ち主の暮らしの風景、特別な瞬間を見つめ、生き続けるのです。

(編集・富永琴美)