ジャンル:ILLUST&DESIGN

夜長堂


【夜長堂プロフィール】
夜長堂は関西を拠点として活動する井上タツ子の屋号。かわいくてレトロな雰囲気の紙もの「モダンJAPAN復刻ペーパー」などの商品展開を自身で行うほか、さまざまなアーティストや企業とのコラボレーション商品の開発・イベントの企画など、幅広く活動中。また、ビルの魅力を紹介するBMC(ビルマニアカフェ)のメンバーとして、“いいビル”を使ったイベントの開催やリトルプレス『月刊ビル』の発行にも精力的に携わっています。夜長堂の由来は坂口安吾の短編小説「夜長姫と耳男」から。姿は見えねど何時でもどこかで開店中。
http://www.yonagadou.com

【月刊 夜長堂 7月号】

夢売り
なつかしい駄玩具もみなさまをお出迎え

夜長堂こと井上タツ子さんの周りには人が集い、楽しい笑い声が絶えません。大阪の情緒を色濃く持つ天満橋にある夜長堂の店舗には、色とりどりのペーパーやレターセットが所狭しと並ぶ。だるまやこけしといった懐かしい郷土玩具や、店主が骨董市で集めた古道具など。はたまた歌川国芳、葛飾北斎の浮世絵ものや、妖怪ものなど、居並ぶ商品には美しくも怪しい一面が。そんな賑やかでどこか覗きたくなる夜長堂の原点を、担当丸本が綴っていきます。

夜長堂が語る手紙の魅力

夜長堂というと、かつて着物などで親しまれていた図柄を印刷した「モダンJAPAN復刻ペーパー」がすぐに思い浮かぶ。タツ子さんが紙ものに興味を持ったきっかけはグラフィックデザイナーの立花文穂さんからもらった名刺だったという。「選んでいいよ」と差し出された名刺には、1枚として同じものがなく、当時大学生だったタツ子さんが紙の魅力にとりつかれた瞬間だった。

店内の壁一面に広がる「モダンJAPAN復刻ペーパー」の数々
便箋と封筒の組み合わせを変えても楽しい

手紙用品を作りたいという思いがずっとあった。実際、20代前半にはよく手紙を書いていたタツ子さん。橋の上で出会ったおじいさんと、亡くなるまでの3年間ずっと文通を続けたというドラマチックな話がある。その方との文通を通して多くのことを学んだといい、その中のひとつ「千里如面(せんりじょめん)」という封印がとても粋なのだ。古から伝わる、手紙の封をする際に書かれる封字(封印)のひとつで、遠く離れていても文通によって面と向き合っているような親しい関係が生まれることを意味する「千里如面」の4文字。タツ子さんがもっとも好きな言葉の一つだ。他に女性におすすめしたい封字が「蕾(つぼみ)」。これから開く(開封する)ことを表す風情ある表現だ。見えない相手を思いながら封を閉じる所作を想像するだけで、健気で美しく、感動的だ。

「私にとって文通は、相手に気持ちを伝えるものというより、日々の独り言を綴っているようだった」とタツ子さんは言う。人には言えない、言葉にならない気持ちを手紙に書いたことも数知れない。若かりしタツ子さんは、このように人生のターニングポイントで未来を左右するキーパーソン達と出会い、そして手紙を介して自分と向き合い、今の「夜長堂」となる基盤を築いてきたのだった。

取材を終えて
人が好きなんですね、という問いに「どちらかというと、人恋しいのかも(笑)。でもね、人に興味を持つって面白いですよ。それがものづくりの肥やしにもなっています。」とタツ子さんはおっしゃいました。今も昔も変わらず、時間を作って興味のある方へ向かうフットワークの軽いタツ子さん。今日もどこかで誰かと新たな活動に向けて始動中なのかと思うと、次号取材で近況をお伺いするのが楽しみでなりません。そして、手紙の魅力を教えてもらった私は、久しぶりに旧友に手紙を送りました。封には蕾を添えて。

(編集・丸本菜穂)

《次号予告》
夜長堂が案内する 大阪散歩