出店者紹介,ジャンル:FOOD

アンリロ

【アンリロプロフィール】
2005年、フレンチレストランで修行を積んだ上村真巳さんが栃木県鹿沼市に開いたのは、野菜をおいしく食べるフレンチベジタリアンの「アンリロ」。「地元で採れた野菜を美味しく食べてもらいたい」。そんな願いのもとにつくられた料理が、多くの人を魅了するのには、さほど時間はかかりませんでした。2008年には、2号店として地元の食材を使用したお料理とおいしいワインが楽しめるビストロ、「ル・ペリカン・ルージュ」をオープンします。肉や魚を一切使わないフレンチベジタリアンとは、一体どんなものなのだろうと思った方。アンリロのブースで食べられる名物・人参フライをはじめとする品々をどうぞお楽しみに!
Facebook:https://www.facebook.com/an.riz.leau/


【アンリロ・植村真己の年表・YEARS】

【アンリロ・上村真己さんインタビュー】

アンリロ始まりのきっかけは、益子のとあるお店から

ーーー宇都宮の料理学校に通われて、その後東京のフレンチで働いてらっしゃったんですね。
上村:そうなんです。そのフレンチでの先輩が益子で、穀物と菜食のみのお店をやっていると耳にしました。濃厚な乳製品や、旨味の強い肉や魚が当たり前に登場するフレンチの世界にいた僕には、そのお店でどんな料理が出てくるのか、まるで想像がつかなかったんです。でも同時に、面白そうだな、と心惹かれて足を運びました。そうしたら本当に美味しくて、しかも食べごたえがあって。マクロビオティックだから野菜が美味しく調理されている、と言うよりも、そもそもの野菜が美味しくて、それを生かして調理したら、結果的にマクロビオティックになっていた、とも感じました。そのお店での食事が忘れられず、その後5年間働きました。

ーーー今のアンリロのベースとなる「マクロビオティック」との出会いだったんですね。マクロビオティックと聞くと、動物性タンパク質を食べず、絶対的な菜食主義というかたいイメージがあるのですが、考えとしてはどういったものなのでしょうか?
上村:陰陽論をもとに、日本人が発案した食事に関する思想ですね。マクロビオティックを語る上で、2つの大きな原則があるんです。1つは、「一物全体」。食材を丸々、皮や茎・葉っぱに花・根っこまで味わうという意味です。どんな食材にも部分ごとに陰陽があるため、全体を摂取することでなにかが偏った状態ではなく、中庸にすることができるんです。もう1つが、「身土不二」。自分の生活圏の半径50kmで採れたものを食べていれば、健康でいられるという考えです。その土地の気候の中で育った食材を摂取すれば、その気候にあった体が作られる。すると、自然に健やかに、というサイクルが生まれます。もちろん、アンリロで出す料理は、ここ鹿沼の野菜が中心ですよ。

ーーーカタカナ語のマクロビオティックが日本人が考案したものだったとは驚きました。海外から入ってきたものではなかったんですね。その益子での5年間でどんな影響を受けましたか?
上村:マクロビオティックや新しいジャンルとして確率したフレンチベジタリアンの基礎となることはもちろんなのですが、先輩であるオーナーの人柄にはとても影響を受けました。オーナーは本当にセンスが研ぎ澄まされている方で。旦那さんがインドネシアの方だったこともあり、なんでも受け入れるおおらかさと、同時に良いものを選び抜く審美眼をお持ちでした。だから、アンリロの店舗を作り上げるときにも、益子のお店の空気感には影響を受けたと思います。

鹿沼にお店を構えて

ーーーご自身の地元ではなく、ここ鹿沼に出店されるになったのは、どんなきっかけですか?
上村:僕の友人がお店を出すにあたって場所を探していた時に、日光珈琲の風間さんがその友人にここを紹介してくれたんです。でもその友人は違う場所にすることになって、この場所の話を僕の方にしてくれました。日光珈琲さんを始め、鹿沼にはこれから面白くなる要素が散りばめられているように感じて、決心したんです。お店の内装は、風間さんに色々教えてもらいながらも、ほぼ僕一人で1年半かけてDIYの末、完成させました。本当にコツコツと、今振り返ると気が遠くなるような作業もありましたね。オープンからもう14年経ったので、あちこち経年もあったり、周囲の植物がこの建物を侵食してきている部分も目立つようになってきました……(笑)。

東日本大震災を経て

ーーー2店舗目のルペリカンルージュオープン後の東日本大震災が1つの転機になった、というのはどんなことがあったのでしょうか?
上村:東日本大震災が起こり、それがアンリロのの転機のひとつになった、というのはどんなことがあったのでしょうか?
上村:震災前をきっかけに、これからも愛され、長く続くお店とは……と考えるようになりました。考えた末に周りのそういったお店にはある共通点があると気づいたのです。それはお店で共に働くスタッフのこと。長いこと地元に根をはっているお店は、地域の主婦の方がいきいきと働いているんですよね。アンリロは店舗で働くスタッフのほとんどが独立希望者が中心でした。数年間、共に働き、そして巣立っていく。そんな中で、より安定したスタッフの基盤と共に、地域との結びつきを強めたいと思うようになったんです。その後、地域の主婦層の方々を積極的にスタッフとして採用していきました。とにかく主婦層のスタッフが働きやすいお店にしたかったので、思い切って日曜日は定休日、ディナー営業はなしの16時クローズの体制に変更。これ飲食店ではなかなか思い切ったことなんです。

ーーーそこまでガラリと体制を変えられたんですね。飲食店はディナータイムが主軸と言うイメージがあるので驚きました。
上村:営業体制だけでなく変わったことも色々ありますね。お母さん視点の意見をもとに、キッズメニューの導入や、小さいお子さんと来店しやすいように座敷席を設けるようになりました。働く主婦スタッフが、自身のこどもを連れてきやすいと思うお店なら、周りの知人にもお薦めしたくなりますよね。地域のお母さんたちのネットワークに、アンリロのことが出るようになるのと、ならないとでは、お店の経営としても全く異なりました。アンリロは日曜休みの16時クローズにはなりましたが、2店舗目のルペリカンルージュが夜のお客さんを受け止めるお店となったことも大きいです。アンリロは地域のお母さんたちに支えられて、ここ鹿沼により深く根をはることができました。

アンリロと上村さんのこれから

ーーー昨年9月にフレンチと薬膳を融合した3店舗目のEAU DE VIE(オードヴィ)がオープンしましたね。EAU DE VIEには、お惣菜を購入できる「DELI」と、店舗での飲食機能の「BISTRO」、そして「LABO」があると聞きました。DELIとBISTROはイメージができたのですが、「LOBO」はどんな機能があるのでしょうか?
上村:ジャム、ドレッシング、焼菓子などの製作、販売、OEMなどを受ける工場=ラボラトリーなんです。鹿沼の農家のみなさんが、大切に育てた野菜を無駄にしないように、加工をして売れる商品開発のお手伝いをします。今、考えているのがレトルト食品の開発なんです。「レトルトって美味しくない、栄養が偏っている」そんなイメージが強いと思うんです。でも一人暮らしの高齢の方々は、1人分だけの料理を作る手間や負担から、レトルト食品を口にすることが少なくないと聞きました。それから震災のような自然災害が起きたときにも、レトルト食品が登場しますよね。既存のレトルトのイメージを払拭するような、そして食べて満たされるレトルトを作ることが僕の役目でもあるのかな、と。

ーーー薬膳やフレンチのエッセンスが入った上村さんが手掛けるレトルト、美味しくないはずがないですね! 私まで楽しみになってきました。お店についてなのですが……以前、過去の上村さんのインタビュー記事を拝見した際に、インドネシア(バリ)にお店を出したいと書いてあるのを目にして驚きました。今でもその夢は描かれていますか?

上村:はい。その夢は健在ですよ。インドネシアは、益子のお店のオーナーの旦那さんの影響もあり、家族も共に何度も足を運ぶようになった場所です。おおらかな空気感で、ベジタリアンも多く、どこの飲食店にに入っても当たり前のようにベジタリアンメニューあるんです。マッサージやエステといった文化も根付いていて、身体の内側と外側の双方から、心身を綺麗にできる国だと思います。観光地でもありますが、ただ大衆受けを狙った設えなのではなくて、現地の文化や自然を生かしたお店が多いのも特徴ですね。柱と屋根だけの、オープンエアの空間で、田んぼや渓谷を見渡せる、開放感に満ち溢れたお店に沢山出会いました。人の手が生み出した造形の美しさにも心惹かれますが、自然が作り出したそれには、とても敵わないと感じます。そして、心地よさが圧倒的に違うんです。そんな自然に囲まれて、自分の料理をふるまえたら最高だろうな、と描いています。

アンリロともみじ市

ーーーアンリロオープンからおよそ5年後、もみじ市の前身となる花市に出店くださったんですね。改めて、もみじ市は、上村さんにとってどんな存在でしょう。
上村:そうですね。本気のぶつかり合いの場だと思います。初めて出た頃も今から周りの出店者のレベル、それから北島さん(手紙社の代表)のセンスには脱帽しているんですよ。イベントの規模も本当に大きくなりましたよね。でも、大きくなりながらも、その世界観が変わらないことに驚いでいますし、この場に立ち続けるられることに誇りを持っています。

ーーーもみじ市のアンリロと言えば、人参フライが欠かせない存在ですよね。
上村:有り難いことに、初めて出店したときから、そしてこの店でも沢山の方に喜んでもらえるメニューになりました。「アンリロ=人参フライ」、その期待に応えたいと思っています。ただ、15年経つと変えていかねばならないと言う葛藤もあって……。もみじ市出店の歴史の中でも実は、オードブルを数種用意してチケット制にしてみたことや、パスタを出したこともあるんです。でもやっぱり今は人参フライに戻ってきていますね。今年もたっぷり用意して向かいますよ!

ーーー秋空のもと、たくさんのお客さんが口いっぱいにアンリロのごちそうを頬張り、笑顔が生まれる。そんなもみじ市の風景が、今年も見られること、とても嬉しいです!

《インタビューを終えて》
細い細い路地を通り抜けた先に、緑の木立にすっぽりと包まれるように佇むアンリロ。その空間は、一歩足を踏み入れると、自然と深呼吸したくなるような薫りが立ち込め、なんだか心がふっと緩むような空気に満ちていました。上村さんが腕を振るう料理を口にした人はきっと誰しもが、食べることの純粋な幸福、そして自身を労る大切さを感じることでしょう。慌ただしい日々の喧騒の中で、少し疲れたと感じるあなたも、アンリロを訪れれば、きっと明日への元気がじわじわと沸いてくるにちがいありません。

(手紙社 柴田真帆)