【大護慎太郎 / atelier coinプロフィール】
“時そのもの楽しむこと”を大切にした作品作りをしているatelier coinの大護慎太郎さん。2009年から東京は吉祥寺のアトリエで真鍮や銀と革を使った腕時計を作っています。金属の少し燻んだ色合いと、古い紙をイメージした文字盤にユニークな針を組み合わせ、既に何年もの時間を共に過ごしてきたかのようなデザインの時計。私(担当:上野)はスケルトンタイプの手巻き式腕時計を使っています。出かける前に時間を合わせてリューズを巻き、中の歯車が動く様子を時々眺めるのが、なんとも楽しいのです。
http://www.joieinfiniedesign.com
【スペシャルインタビュー「喜びを感じられる時計」】
時計作家として活動しながら、お店の経営もしている大護慎太郎さん。作家として、店主として日々どんなことを考えているか、担当:上野樹がお話を伺いました。
3つ名前で活動
ーーーこちらのアトリエ兼ショップの「atelier coin」。本当に良い空間ですよね。
この場所へは3年ほど前に移ってきて、その前はもう少し離れた同じ吉祥寺で6~7年前まで同じくお店をやっていました。実はお店よりも前にブランド「JOIE INFINIE DESIGN」として始めたのは14、15年前になるんです。
ーーー作家活動が先だったのですね。
始めた時は自宅の一軒家の一階をアトリエにしているような状態で、展示会とかで作ったものを発表していました。
ーーーブランド名の由来をお聞きしても良いですか。
「JOIE INFINIE DESIGN」のJOIEはフランス語で「喜び」、INFINIEは「終わらない」を意味していて、終わらない喜びをデザインする、という意味があります。と言っても学生の頃仲間内で考えて使っていた名前なんですよ。友達とバイクにその名前を入れたステッカーを貼ったりして。
ーーーその時から使っていたのですね!
どんなブランド名がいいかなと考えていた時に、ずっと使っていて馴染みもあったので、友達に「これ、使っていい?」くらいの軽い気持ちで聞いて付けました。あまり名前自体には深くこだわりとかはなくて、時計を作っていこうと思っていた時にちょうど字面も良く、意味も合ってるなと。お店の名前の「atelier coin」はcoinと書いてフランス語で「コワン」って読むんですね。意味としては「隅っこ」とか、少し狭い場所を表す言葉です。お店の場所が細い階段を上がっていったところにあったのでこの名前にしたのですが、今思うともっとわかりやすいものにすればよかったなと(笑)。海外の方とかに説明する時、凄くややこしいんですよ!
ーーー個人の名前ではない屋号にしたのはなぜですか?
自分の名前で活動している作家が、当時周りに殆どいなかったんです。デザイナーさんとか服飾関係の方くらいしかいなかったような気がします。そういう時代に自分が作ったものを発表していくには、ブランドとして始めた方が良いんじゃないかと考えたわけです。「セイコー」とか、そういった時計を代表するブランドにしたくて。
ーーーそれからお店を作り、個展を開催したりワークショップも行ったりとどんどん活躍の場を増やしていっていますね。
自分の中ではブランド、お店、作家の3つの要素で活動していこうと考えているんです。なのでその時に応じて名前を使い分けていければと。作る物としては時計がメインなんですが、真鍮とか銀、革を使ったものなどその時その時で作れる作品が出来たらと思って日々製作をしています。
人との出会いと、もみじ市
ーーー作家活動を始めた当初、野外のイベントで活動するとは考えていましたか。
最初はアトリエで作った時計を卸していく業務がメインになると思っていたので、こんな大々的に外で作品を販売するようになるとは全く考えていなかったですね。それでもご縁があって、こうやってイベントに出させてもらうようになって、色々な人と出会えたのは良い経験になったと思っています。
ーーーイベントならではの繋がりとはどういったものでしょうか
普段出会わないジャンルの作家さんと繋がりが持てるのが醍醐味ですよね。染色の方や陶芸家の方、ガラス作家さんなどもそうですし、手紙社さんのイベントならではの作家さんと繋がれた方もいらっしゃいます。キノ・イグルーさんもその一人で、活動拠点が同じ吉祥寺だったこともあって、そこからご縁が深まりました。
ーーー以前キノ・イグルーさんと合同のイベントもやられていましたよね
この前のもみじ市では、うちがピッチャーマウンドでキノ・イグルーさんがホームベースの場所で参加させていただきました(笑)。不思議な縁で、映画と時計という、普通にしていたら交わらないジャンルの方と一緒になにか出来るって楽しいですよね。イベントの時って、普段は制作に打ち込んでいて、滅多に会うことの出来ない作家さんが出ていたりするじゃないですか。特にもみじ市に参加されている方って、個人としてもとても力のある方ばかりなので、あの場所に一同に集まる機会っていうのも楽しいですよね。
ーーーみなさん仰っていますが、スター作家さんが集まっていますよね。
作家さんもそうですが、あれだけ多くのお客さんに見てもらえるのも魅力の一つですよね。ものづくりや作品が好きな方が実際に手に取って見てくれますし、反応もその場で伝わってきます。中々アトリエに籠っているだけじゃわからないものが、あの場にいると感じられて有り難いです。
ーーーもみじ市ならではと思う点はどういったものでしょうか。
東京蚤の市とかは古いものが好き、全国から集まってきた宝物を探しに行こうというような感じです。もみじ市は物を見に来てはいるんですが、それを通して「作り手」の方に触れ合いに来ている人が多い印象ですね。お店とかでは決して出会えない、限られた時間や場所で自分の作品を見せようと、言ってしまえば“瞬発力”のある作家さんたちが多いですよね。そういったフレッシュさを求めて、お客さんも来ているんじゃないでしょうか。
楽しい方に進んでいきたい
ーーー普段はお店で製作をされているんですか。
そうですね。有り難いことに最近では取り扱ってくれるお店も増えましたので。その物も作ったりしています。日本だけではなくてアメリカにも少し、アジアのほうは香港とか韓国のほうでも気に入ってくれる人がいたりして。
ーーーどんどん世界に進出しているのですね。台湾にも行かれていましたよね。
台湾は手紙社さんのお陰ですよ、本当に! 良い時に連れて行ってもらえて、お店の方にも良くして頂きました。そこから台湾の方にも時計を手に取って頂ける機会も多くなりました。アジアも面白いですし、この前はタスマニアの方がいらしてくれたり。
ーーーアジア以外からもお客さんが来てくれるのですね。
その方は観光局とかのお仕事をされていたんですが、WEBのブランド紹介ページの英語版のほうを「こっちのほうがより伝わりますよ」とアドバイスをくれてメールを送ってきてくれたりと。その後もまた来ていただいて時計を選んでいただきましたね。
ーーーとても熱意のある方ですね。
嬉しいですよね。よく旅先とかでも親身になってくれる人が多くて、初めて行ったスイスの時計職人の街とかでも英語が全く話せない僕に現地の人が優しく説明してくれたりして。それからですね、海外の方には特に優しくしようと思うようになったのは。でもそういったところから自分の作品を深く知ってくれたりするので、本当に有難いです。何か面白そうな方向に転がるかもと思ったものには、積極的に飛び込んでみるようにはしていますね。
ーーー何事もチャレンジなのですね。
嫌だと思って何もやらなければそこで終わりですが、思い切ってやってみることで新しい道が開けたりするのが楽しいです。イベントで出会える人、お店に来てくれる人、人との繋がりを大切にしています。
ーーーこの前映画のお仕事もされていましたよね。「真夜中の五分前」、とても良い空気感の映画ですよね。 あれは僕のお師匠さんからお話をいただいたんです。最初はどんな内容のお仕事かもわからなかったのですが、単純に面白そうだなと思って始めたんですよね。
ーーー映画で使われた時計の制作と技術指導として現地にも行かれたのですよね。 実際に舞台の中国に行って、俳優さんに時計のセットなどをしてきました。これもまた初めての経験でしたが、映画の世界に少しでも関われましたし、そこから繋がった方もいます。また機会があったら参加してみたいですね。
変化を受け入れて今がある
ーーー時計を作っていこうと決めた一番の理由はなんでしょうか。
時計を作ろうと思ったのも、まず身につけるものを作りたいって気持ちが第一にあったんです。その中でも時計は“動く”という要素があって、アクセサリーとはまた違う、長年使う相棒のような存在だと思ったんですね。それに、昔から古いものが好きで、学生の時からジャンク品を山のように販売しているお店によく通っていたんです。今思うと宝の山ですね。その中でよく集めていたのが時計でした。
ーーーこれからもこの場所でもの作りをしていきたいですか?
一人で始めたものが、少しずつ仲間も増え、やれることも広がっていきました。そんな中でも変化は常にしていかなければならないので、同じ状況っていうのはないと思っています。その時になったら柔軟に対応していって、可能性があるほうにどんどん進んでいきたいですね。それがどういう形になるかわからないですが、色んなことを考えてお店を任せてしまってもいいし、みんなでどこか行ってもいいですし。
ーーー最初は一人で始めたものが、どんどんと仲間が増えていくって素晴らしいことですね。
今一緒に製作してくれている井田が来てくれた時はとても狭い所で作っていたので、お店の扉を開けたらすぐ背中が見える位の距離感で手伝ってもらっていました。このお店を作る時もまずは彼の机を用意して、少しでも良い環境で仕事をしてもらいたいと。それからはイベントの時に手伝いに来てくれる人がいたり、お店を手伝ってくれたりと人も増えていきました。変化していく中でも、軸をぶれることなくやっていけばいいですね。
ーーー僕が初めて買った大護さんの時計と同じモデルが今もあるのが嬉しいです。
時計の形とかはなるべく前に作ったものも変わらず作り続けていこうと思っています。新しいモデルも作っていきたいですが、ベースの形は変えずに文字盤や仕上げの仕方などで違いなど出せていければ良いですね。あとは買ってくれた人みなさんが長く使っていけるように、修理とかもしながら末長く身に付けてもらえるようにやっていきたいです。
ーーー今年のもみじ市は、どんなテーマで臨まれますか。
ROUNDを意識したブースにしようと思っています。時計の他にもアトリエで作った小物やアクセサリーも持っていきます。間に合えばもみじ市モデルの時計も用意していきたいですね。とにかく、河川敷でたくさんの人と会えることを楽しみにしています。
ーーー大護さん、ありがとうございました。
〜取材を終えて〜
昔から大護さんの時計のファンだったので、こうしてゆっくりものづくりに対する思いが聞ける機会を頂き、嬉しくもあり少しこそばゆい感覚の中インタビューに臨みました。時計を作りながら、それを手にするお客さんの顔を想像して毎日お仕事をされていて、改めて大護さんの優しい人柄を感じることが出来ました。もみじ市では、時計を通じて「大護慎太郎」という一人の作家を感じてもらえたら嬉しいです。(手紙社 上野樹)
【もみじ市当日の、大護慎太郎 / atelier coinさんのブースイメージはこちら!】
ROUNDということで、繋がり、循環などから連想して什器や時計なども以前のモノと再度向かい合って、練り直して、作り直して持って行きます。