【PROFILE】
通販とイベントでしか手にすることができず、一カ月先まで予約が埋まってしまう『幻のパン』。時間をかけ、じっくり低温で発酵することで素材本来の味を引き出す王道のパンと、決して華やかとは言えないけれど、シンプルに真摯につくられた焼き菓子。奇をてらわず、だからこそ素材の味がストレートに広がる。それを口にすれば、1ヶ月以上待つことだって許してしまう。いつかもみじ市へ、と想いがついに叶い、rocaのパンが今回初めて函館からやってきてくれる。そして、そのパンに彩り添えるのが、同じく函館の陶芸家megoこと牧野潤さんの器だ。こっくりとした色合いと土の感触。持った時の安心感は、暮らしの中で毎日使って欲しいのと想いからなのだろう。食卓にrocaのパンとmegoの器が並べば、至福の朝が約束されるはずだ。
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http://mego33.exblog.jp
【商品カタログ予習帳】
【スペシャルインタビュー「函館からはるばるやって来る二人の作り手」】
今回のもみじ市が初出店となるrocaとmego。これまで何度もアプローチをしてきた末、ようやく念願が叶った。改めておふたりの魅力を探るべく、渡辺洋子が彼女たちの住む函館へと飛んで行きました。まずはrocaさんのお話から。
東京では初出店で注目のroca
−−−これまで東京での出店経験のないとのことですが。今回どうして出ていただけたのでしょうか?
roca:いつも出店していた「森のカフェフェス」(毎年ニセコで行っていた手紙社主催のイベント)が、今年は開催がなかったのですが、お客様に「今年はやらないの?」とすごく聞かれていて。もみじ市に出店することを決めました。
−−−今回、megoの牧野さんとご出店してくださるのですが、どういう経緯でご一緒されることになったのでしょう。
roca:牧野さんの器とは、随分前に出合ったのですが、使いやすさと佇まいがすてきで……。飾らない魅力がいいんですよね。実は、10年ぐらい前からオンラインショップでrocaのお菓子とmegoの器のセットを販売していました。でも、イベントで同じブースで出店するのは「森のカフェフェス」くらいでしたね。今回のもみじ市には、私からmegoさんを誘ったのですが、震えるほど喜んでくれて(笑)。
カフェで出していたパンが人気に
−−そもそも、rocaさんはいつからパン作りを始めたのですか?
roca:2007年からで、今年でちょうど10年になります。以前は、夫婦でカフェを営んでいて、ランチに出すパンを焼いていました。そのうちパンだけを買いたいというお客様が増えてきて、3種類のパンだけ予約を取って焼いておくようになりました。そうすると、段々そちらのボリュームが増えてきて、パンだけを切り離したことがrocaの始まりです。(※現在カフェは閉店)
−−−パン作りはどこかで修行をされたのでしょうか。
roca:どこかに習いに行ったり、修行したりしたことはないです。はじめは本を参考にして、その通りに作ってみたのですが、それがあまりにおいしくなくて(笑)。それから図書館の机にパンのレシピ本をたくさん積んで、それらを読みながら「これかもしれない」と、1日にひとつずつ試作しました。材料を足したり引いたりしながら、なんとか自分の好みに合うよう試行錯誤を重ねましたね。塩バターのパンは、その頃にできたレシピです。カフェでもずっと出していたもので、rocaを始めるきっかけにもなったパンです。
母との思い出のプリン
−−−焼き菓子も独学なのでしょうか? ご両親からの影響はあるのですか。
roca:特別お菓子作りをしてくれる家庭ではありませんでした。でも、小学校2年生の時に、母が読んでいた婦人雑誌に、帝国ホテルのワンホールサイズの大きなプリンのレシピが載っていたことがあって。母に「作って!」と頼んだら、逆に「作ってみたら?」と言われたんです。次の日、学校から帰って来たら、なんとプリンを作る材料が全部揃っていて、母が「買っておいたから」って言うんですよ。レシピにもフリガナがふってある(笑)。カラメルだけは危ないから一緒に作ってくれたのですが、その時に焼いたプリンがおいしくて。それ以来、家でプリンを焼くのは私の担当になりました。今でも、ときどき母から「プリンが食べたい」と電話がかかってくるんですよ。いまも、イベントなどで販売しているプリンは、当時のレシピのままなんです。
−−−お母さんの導き方は大成功でしたね(笑)
roca:「あの時ママがプリンを作ってあげなかったのが、良かったでしょ」なんて、しょっちゅう言われています。そのたびに「ありがとう」と応えています(笑)
−−−すてきなエピソードですね。焼き菓子もその頃から始めたのですか。
roca:プリンをきっかけにして色々なものを作るようになりました。図書館へ行って、「子どもでも作れるお菓子の本を探してほしい」と司書さんにお願いしたら、たくさん本を持ってきてくれて……。「これはおいしそうだけど、スーパーに材料が売ってないからだめね」なんて、一緒に考えてくれるやさしいお姉さんでした。私でも作れそうな本を借りて、家でお菓子を作って、そのお菓子を持って本を返しに行くということを繰り返していました(笑)。
みんなで分けられるパンとお菓子を作りたい
−−−rocaさんは、奇をてらわないストレートなお菓子やパンを作られていると思うのですが、『これがrocaのお菓子である、パンである』というテーマはありますか。
roca:「これは一体何だろう?」と、食べる前から気構えてしまうようなものにはしないようにしています。子どもが見ても、お年寄りが見てもすぐにそれがどんなものかがわかって、口に入れてもらえるようなパンや焼き菓子を作りたいと思っています。自分たち用にはスパイスを作ったパンやお菓子も好んで作ります。でもそういうものは、箱をあけた時に「これは子供には食べられないからお母さん用ね」ということになるので。だから、みんなで分けられるようなパンや焼き菓子だけを販売するようにしています。
−−−今回、初めてのもみじ市ではどんなものを持ってきてくれるのですか?
roca:一番人気の塩バターのパンと、焼き菓子を持っていきます。焼き菓子は日持ちがするので、パンより多くなると思います。
ここからは、もみじ市をとても楽しみにしているというmegoの牧野潤さんにお話を伺います。今年から東京で大学生活を送っている娘さんを助っ人に伴い参戦してくれるそうです。
子どものために会社をやめた先には
−−−もみじ市をご存知でしたか?
牧野:もちろん! 手紙社さんのイベントにはいつか遊びに行きたいと思っていたんです。だからニセコの「森のカフェフェス」に声かけていただいた時は、本当にうれしかったです。今回は「もみじ市」にも出させてもらえて、念願が叶いました。
−−−先日送っていただいた器をいくつか拝見して、緊張しないでどんどん普段使いしたくなる器だと感じました。ご自身としては、お気に入りの作品はありますか?
牧野:できあがって満足度の高いのは板皿です。少し手間がかかり、ロスが出やすいということもあります。亀裂が入って全部だめになることもあるんですよ。だから、うまくいくと「やった!」という気持ちになります。
−−−器作りを始めてどれぐらいになりますか?
牧野:13年ぐらい経つと思います。その前はフルタイムの会社員として働いていました。でも娘との時間を大切にしたくて、子供が年中になった時に会社を辞めたんです。それ以来、これまで出来なかったことや、習いごとなどを全部一緒にやろうと決めて、あっちへ行ったりこっちへ行ったり。そんな日々の中で、娘と一緒に行った陶芸教室の体験で、土に触れてみたら「もう、これでしょう!」と感じてしまって。
−−−ビビっと来るものがあったんですね。ずっと陶芸に興味があったのですか?
牧野:小さいころから茶道を習っていたので、焼き物がいつもそばにある生活でした。日々さわって見ていくうちに、焼き物への興味が湧いてきて、器の収集も始めました。実は陶芸をするのは老後のお楽しみに取っておくつもりだったんですけどね(笑)
娘さんの就学を機に独立
−−−陶芸を始めてからは、師匠につかれたのですか?
牧野:はい、先生のところへ行って「給料はいらないので勉強をさせてください」と伝えました。1年ほど勉強させてもらって、すぐに仕事にしようと決めました。ちょうどその頃、娘が小学校に入ったのですが、「ただいま」と帰ってくる時間にいられるように、家で仕事ができたらと思い始めて。それで、工房付きの家を建てたいと主人にプレゼンしました(笑)。作品が売れなかったら教室をやるとか、収支まで出して説得しましたね。
−−−すごい行動力ですね。
牧野:やるなら本気でやろうと思ったんです。これまでの人生、中途半端で生きてきたのですが、これだけは全うしようと決めたのが30歳の時でした。
−−−独立までが早かったので迷いもあったと思うのですが、何か作りたいもののビジョンはあったのですか?
牧野:最初は手探り状態でしたね。まず苦労したのが土選びです。知識もまだ浅かったので、ある程度「これだ」という土に絞って試してみて、土に合う釉薬を作っていました。最初は粉引を3年ぐらいやっていましたが、粉引はデリケートなんですね。これだと普段使いが難しいと限界を感じて、普段使いしても大丈夫な器作りをしようと思いました。今作っているような白っぽい器にシフトチェンジして、もともと作りたかった黒の器を作るために、黒の釉薬の調薬も始めました。
−−−そして今のスタイルになったというわけですね。基本的に白と黒の2色使いですか?
牧野:全部1色のパターンと、外側と内側の付け分けがあって全部で4パターンです。他の色や絵付きの器も作ってみようかと考えることもありますが、自分で使うことをイメージすると、最後はこの2色に落ち着きます。やはり自分が使いたいと思うもの、かっこいいと思うものを作りたいですね。
もみじ市はmegoにとっての運命!?
−−−作家として活動したり、販売したりするために、どのようされてきましたか?
牧野:器作りを始めてすぐの頃から、函館のリーヴズというカフェ&レストランで作品を置かせてもらっていて、rocaさんと知り合ったのも、ここで作品を買っていただいたのがきっかけです。営業したり初対面の人とお話したりするのが苦手なのに、次々と人に恵まれて、ここまで来ることができたことに感謝しています。rocaさんとのつながりから手紙社さんへと……。
−−−今回もみじ市に持ってきていただくのはどのような作品ですか? 今回のテーマは「ラウンド」ですが、四角の器もすてきですね。
牧野:丸と四角、両方のプレートがあるので迷っています(笑)。あれもこれも持って行きたくなりますが、北海道から配送するのである程度絞らないと……。でも、なるべく多くの種類を見ていただきたいなと思っています。
−−−今後、こんなふうに続けていきたいというビジョンを教えてください。
牧野:お店にも卸したいし、ギャラリーで展示もしたい、イベントにも出たいですね。ちょうど娘が今年から東京で大学生活をしています。だから東京での活動を増やしたいと思っていたところだったんです。そんな時にもみじ市に誘われて、感動しちゃって。なんだか運命を感じているんですよ。
〜取材を終えて〜
ちょうど今頃、遠く函館の地で、もみじ市のために準備を進めてくれていると思うと、もみじ市当日が楽しみでなりません。rocaさん、牧野さん、ありがとうございました。(手紙社 渡辺洋子)
【もみじ市当日の、rocaとmegoさんのブースイメージはこちら!】