【マエガミマールコプロフィール】
代官山のアパートメントの一室にサロンを構える美容室「マールコ」。鮮やかに息づくたくさんの植物とクールなヴィジュアルブック、質のよいアンティークな調度を背に、店主の大門しょうたさんは「いつ訪れても印象の変わらない、ほっとする場所でありたい」と話す。そう、ここは髪だけでなく、心のありかまで自分らしい位置に導き整えてくれるアトリエ、なのだ。もみじ市では、“前髪をつくる”専門店をオープン。梳かれた前髪で開けた視界からのぞく世界は、日常でありながらいつもよりすこし美しく、そっと輝いて見えるはず。
http://marco-salon.ciao.jp
【商品カタログ予習帳】
世界でここだけ、“前髪をつくる”専門店
【スペシャルインタビュー「僕らが髪を切る理由」】
どんな訪問者にもフラットに、だけどどこか品よくクールで。構えるサロンでももみじ市でもそんな<いつ訪れても印象の変わらない、ほっとする場所>であり続けようとする、まるで彼そのものでもあるようなその想いの所以を知りたくなった。
創りたかったのは、美容室ではなく空間
そもそも、美容師を志したきっかけはどんなものだったのだろうか? そう切り出すと、どこかバツが悪そうにはにかみながら口を開いてくれた。
「じつは、もともとはなんの興味もなくて。むしろやりたくなかったくらい(笑)。小さなころから洋服が好きで、ファッションかグラフィックのデザインの方に行けたらいいなとは思っていたんです。で、いろんな選択肢のなかでヘアメイクと美容師なら、ファッションと繋がってるように感じて。とはいえファッションなんて、いってしまえばほんの一握りの人しかモノにならないし、手に職、って思いもあって。そしたらヘアメイクより美容師だな、と(笑)」
かくして大阪の専門学校を卒業後、心斎橋の美容室からキャリアをスタート。そして原宿の美容室を経てフリーランス、と運命に身を委ねたその視線が次に向いたのは、“空間を創る”ということだった。
「そんな調子なんで、独立心みたいなもんでもなく(笑)。だから美容室を持つ、っていう意識はあまりなくて。あるとき、ふと『あ、いまやったらこういう空間が創れるな』と思ったんです。それを見て、いま来てくれているお客さんはどんな風に感じるんだろ、自分の人となりをどう思ってくれるんだろ?っていうのを、確かめてみたくて」
余韻ができるだけ続くような仕事を
彼がたどりついたのは、代官山駅からほど近い、東急東横線の旧線路沿いのヴィンテージマンションの一部屋。バルコニー一面に美しく広がる瑞々しい木々の隙間からは、訪れた季節を見失うほどつねにやわらかな陽が差し込み、そのデジャヴすら感じるあたたかな光景は、誤解を恐れずにいえば、世界一スタイリッシュな縁側、である。
「たとえばごはんを食べに行くとき、よけいなことを考えずに『あ、あそこ行こう』って身体が動くような場所ってあるじゃないですか。特別なことをしてくれるわけじゃないし、奇をてらってるわけでもなく、いつも同じメニュー、スタンスで『いらっしゃいませ、ありがとうございました』っていう。それでいて、自分がいいと思えるモノにいい塩梅で囲まれた空間が創りたかったんです。あたりまえのことをふつうにやっている場所を、いろんな経験を経て自分自身が好きになってきたんでしょうね」
だからこそ、なのだろう。彼はいつ誰を迎え入れても、つねに同じ距離感を保ちながら、訪れる者の日常をその場に引き寄せ、「マールコ」に触れた証をさりげなく添えてまた日常へと送り出す。あの店の「ありがとうございました」のように。
「『こうしたいんです』っていう要望を、ちょっとでも超えたいんですよね。たとえば前髪ひとつとっても、いままでにない感情を覚えるようなものにしてあげたいな、とか。それは一瞬のできごとなんだけれど、生活にもどったときに周りの人が気づいて『いいね』っていってくれたりすると、そのあともすごく豊かになるじゃないですか。そういう余韻ができるだけ続くような仕事ができたらいいなあ、と」
一歩踏み出してもらえるような、いつもの場所でありたい
そんな「マールコ」にとって、たったひとつの別の空間でもあるもみじ市こそ、つねに身近なモチベーションなのだという。
「ほかで営業を一切していないというのもあって、出れば毎年少なからず反響があって。次の一年のあいだに『もみじ市で知って』ってお客さんがポンポンポンと入ってくるんですよ。だから僕のなかでは、ずっともみじ市が続いてるんですよね。それこそ当日なんて、お盆やお正月のような存在。次回呼んでもらわれなかったら、正月がこないです(笑)」
来るべき「マールコ」にとってのもうひとつの正月?!であるもみじ市、「みんなで集まって膝突き合わせてワイワイする場所、ちゃぶ台やん(笑)」と茶目っ気たっぷりに連想してくれた今年のテーマは<ROUND>。表現へのかけがえない愛が並列で向き合う情熱のテーブルを舞台に、彼ははたして<いつ訪れても印象の変わらない、ほっとする場所>であり続けるはずだ。
「髪の毛を切るって、とくにはじめての人に切ってもらうのって、ちょっとした勇気が必要だと思うんです。悩んで悩んで悩んで、やっぱり今日はやめとこうって人もいるし。そういう気持ちの昂りのなかで、一歩踏み出してもらえるようないつもの場所であれたらいいな、と」
〜取材を終えて〜
取材に訪れようと「マールコ」の入居するマンションの階段の前にたどりつくと、不意に上の階から開店前の準備中だった大門さんの声が。そのとき屋外で交わしたあいさつは、サロンで迎え入れてくれるいつものそれとまったく同じ、<いつ訪れても印象の変わらない、ほっとする場所>で聴くあの声で。取材で感じた「マールコ」のアイデンティティは、この日もすでにそこにあったんだな、と。(手紙社 藤井道郎)