ジャンル:CRAFT

安達知江

【安達知江プロフィール】
ガラス作家。岡山県の山の中、自然に囲まれた小さな工房でガラスのオブジェや器を制作。主にキルンワークという技法を使い、身の回りのささやかな出来事を作品にしています。豊かな想像力を武器に作品に投影する技術力には圧巻。私(担当:並木)が印象的だったのは『雨降り』というオブジェ。雲から降り注ぐ雨は濁りひとつない豊かな水で、そこに安達さんのフィルターを通し自然の豊かさや美しさを表現している作品。雨が降るという自然現象をこんなにも美しい形にしてしまったことに驚きや感動を覚えました。

【商品カタログ予習帳】

雨降り
海の記憶 船

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刻絵皿

 

 

 

【スペシャルインタビュー「山と海にもらった製作への道しるべ」】
ガラス作家、安達知江さんに並木裕子(手紙社)がお話を伺いました。

オブジェ製作の原点

ーーーガラス作家になろうと思ったきっかけは何ですか?

安達   育った土地が焼き物(備前焼)の産地ということもあり、実は作家という職業がとても身近…というか、一般的な仕事という感覚でした。母親も備前焼作家なんです。環境から影響され、いつの頃か作家として生きていこうという意識が根底に存在していましたね。ごく自然な選択でした。ただ、ガラスを選んだのは天邪鬼からで、やるなら慣れ親しんだ陶芸じゃないものが良い。と

ーーーでは今の作品に至るまでの経緯を教えてください。

安達   大阪の美大を卒業して実家に戻ってから今のような作品を作るようになりました。実家の周りは自然が豊かで、車で数十分行けば海も見える山と海の間のとっても素敵な土地です。大学に入るまではそれをあまり意識しなかったのですが、どこまでも続く海、季節が進むごとに日々変化する山の美しさは都会の風景を見慣れた目に眩しく写りました。美しいなって…純粋に感動したんです。そこから改めてこの景色を形にしたいと思いました。海と山は作品を作る上での2大要素ですね。

『海の記憶  船』

作品を作り続ける理由

ーーー作品制作は朝から取り組むのですか? また必須アイテムなどありますか?

安達    はい。自分なりのルーティーンがあり、朝8時から工房に入ります。途中何回か休憩をとって、その日の制作内容に納得がいくまで制作に取り組みます。必須アイテムはジーンズですかね。制服という訳でもないのですが、ジーンズを履くと「さぁ、やるぞ」と制作のスイッチが入ります。

 

原型や型を制作する作業台とガラスを焼成する窯

 

ガラスを加工する機械です。

 

ーーー安達さんのオブジェは人が奥底に抱えている気持ちをうまく作品に溶け込ませることがとてもうまくて感心してしまうのですが、どういったイメージを持って制作しているのですか?

安達   ありがとうございます。具体的なイメージを強く持っている訳ではないんです。日々暮らす中で降り積もった経験をコラージュのように組み合わせる感覚というか。よく山を探検するのですが、その時に発見した自然や現象だったり、人から貰った「言葉」、旅の思い出とか。日々溜まる経験が作品に変わる感じですかね。アイディアが固まるのは手を動かしている時で、ふっと繋がったイメージを逃さないよう、一気に制作に取り掛かります。なんだか虫取りや魚釣りみたいですよね 笑

 

『あの気配・・・』

 

ーーーイメージを丁寧に作っているから、あのオブジェが出来上がるのですね。では作品作りの工程を教えてください。

安達  原型を作り石膏で型取りをします。そして原型を石膏型から抜き、そこにガラスを詰め、焼成します。実はこの型は一度しか使えないのです。ですので1点ずつ原型→型取りを繰り返します。ガラスの詰め方や粒の大きさでも透明感や質感を変化させることができるので、イメージに合わせて使い分けていきます。感覚で様々な色彩を重ね作品を作り上げます。物にもよりますが、その後の加工も合わせてここまで約3週間です。

原型を型取りします。

 

型にガラスを詰める→焼成が基本的な制作過程です。

 

ーーーすごい工程ですね。でも時間をかけるからこそできる作品。大切な時間ですね。では安達さんにとって作品を作る理由は何ですか?

安達  最初は自分の為だったと思います。気持ちや瞬間瞬間に感じた感覚を整理する為の行為や場所というか。しかし、生み出した作品が徐々に人の手に渡るようになり、たくさんの方から反応が返ってくるようになりました。「癒されました」とか「嬉しい気持ちになりました」とか、なかには「救われました。ありがとう」という言葉まで。そのキャッチボールが本当に嬉しくて、今、社会の一員として存在していると思えるんです。だから制作しているのかもしれません。

ROUND

ーーー安達さんの作品でお気に入りはありますか?
安達  動物ですかね。動物を制作する時、一つの生命を作る感じがして一番楽しいです。ガラスって透き通っていて水を思わせますよね。生き物には水分が満ちてます。焼成する時、熱で真っ赤になった窯の中、型へドロリと溶けていくガラスを見るたびに、何か作品というよりも命に近いものが出来上がっている気がしてドキドキします。

ーーー安達さんの作品を見ていると命と水が満ちている感じがよく伝わってきます。では安達さんにとっての”ROUND”とは何でしょう?

安達  パッと浮かんだのはガラスです。ガラスって溶かし直すことができますよね。どんなに昔のガラスも溶かして次の形に変えることができる。(条件はありますが)そこが他の素材にない魅力の1つだと思います。次、その次。形を変えて、時代を超えてどんどん繋がって巡っていくイメージです。

ROUNDから繋がる期待

ーーーもみじ市初参加ですが、お誘いを受けた時どうでしたか?
安達  嬉しさと同時に驚きました。でも実はもっと驚いたのがその後です。

ーーーえっ! どうしてですか?
安達   「もみじ市」で検索したんです。すると、手紙社さん主催のとても大きいイベントで有名な作家さんたちが軒を並べていて、心当たりもなかったので私が? なんでだ? わっ大変だ! ってなりました。世の中何があるか分からないなって。でもよく考えると今回参加というご縁をいただいたことでこの先にはどんな未来があるのだろうって、興味津々です。

ーーー確かにご縁って不思議ですよね。私もこうして安達さんとお話ししているのもご縁ですし、では今回参加されるたくさんの作家さんの顔ぶれを見てどう思いますか?

安達  素直に素敵だな! と思いました。私が普段あまり接することのない分野の作家さんも大勢いらっしゃいますよね。私は普段クラフト中心の展示が多いので、たくさんの視点が交差するもみじ市はとても新鮮です。

ーーーもみじ市を主催する側としてとても嬉しいです。では初めてのもみじ市どんな風に楽しみたいですか?

安達  関東で展示することが少ないので果たして楽しむ余裕があるのだろうかと、内心思ってしまいますが、折角の機会ですし来てくださったお客様とたくさんお話しできればと。土地が違えば物の見方も変わりますし、お客様の視点から出てくる独自の感想をお聞きしたいです。できればそれを次に繋げられたらと、考えただけでワクワクします。

ーーー私も先日、安達さんの作品を見た時、本当にたくさんの感情が生まれましたしワクワクしました。ではもみじ市でこんなことしたい! と思うことはありますか?

安達  私の作品を見てこれはどうやって作るのですか? という質問を受けることがよくあるのでよく使う「パートドヴェール」という技法をぜひ目で確認していただきたくて、実際に型や原型も一緒に展示して説明しようかなと思っています。

ーーー確かに説明があるとわかりやすいですよね。実際聞いた私も『なるほど』ってなりましたから、素敵な考えかと、では、そのほかにどんな作品をお持ちいただけるのですか?

安達  瀬戸内で暮らす日々の記憶をガラスに写し込んだ小舟や森に住む動物などのオブジェを持っていきます。その他に版画の質感を取り入れた絵皿や銀箔を使ったピアス、ブローチを持っていく予定です。どれも少し頬が緩むユーモアを感じていただける品物ですので楽しんでいただけたらなと、

 

『ハルジオンブローチ』

 

ーーー動物ということはあの大きな狼が横たわっている作品(『横たわる闇』)を持ってくるのですね!

安達  大きい作品ですがぜひ見ていただきたくて、持っていく予定です。

ーーー本当ですか! あの作品は頭から表情、背中の毛並みや尻尾まで全部、心の奥底に抱えている闇をうまく溶け込ませている作品で、それでいてなんだか見ていると心の毒を消してくれるようなすごく好きな作品です。

安達  時間をかけて制作した分、その時間と手の跡をなぞるように見ていただきたいな…と作り手側の誠に勝手な気持ちがあるのでそう言っていただけるとそれが叶っている気がして、本当に嬉しいです!

ーーーよかった! またあの狼に会えるんですね。ぜひお客様にも見ていただきたいです。ありがとうございました!

【取材を終えて】
颯爽と現れ、インタビュー中の黒いまっすぐな瞳はとても印象的でした。あの瞳が安達さんの重要な
フィルターとなり生き生きとした作品を作り出しているのだな。と改めて感じました。とにかくまっすぐで想像力が豊かな安達さん。ふと私も作品にしてもらいたいと思ってしまったのはここだけの話です。
(並木裕子)

【もみじ市当日の、安達知江さんのブースイメージはこちら!】

イベントではいつもイラストにあるような棚たちをを持っていき、お客様に見やすいように陳列します。