【PROFILE】
1975年生まれ。神奈川県出身。イラストレーター。安西水丸氏に師事。アルミ板をカッティングする技法で作品を制作している。雑誌・書籍・広告などの分野で活躍中。2010年講談社出版文化さしえ賞受賞。『ぴたっ!』『いもむしってね・・』(福音館書店)といった絵本を多数制作している。また「えほん寄席」(NHKエデュケーショナル)では、アニメーションも手がけた。無機質なアルミに息吹を吹き込める、唯一無二の存在。
http://azumimushi.com
【商品カタログ予習帳】
【スペシャルインタビュー「不器用さを極める! あずみ虫のアルミ板の世界」】
アルミ板を使い、独特な風合いで作品をつくりあげるイラストレーター あずみ虫さんに、樫尾有羽子(手紙社)がお話を伺いました。
運命の画材に出会うまで
ーーーつくりてになったきっかけは?
あずみ虫 イラストレーションに関しては、子供の時から、絵が本当に好きで、絵に関係のある仕事をしたいと思っていました。イラストレーターや絵本作家に憧れていましたね。なので、絵本の専門学校に進みました。ですが、卒業しても、すぐにプロとしてやれるわけはなくて、持ち込みをすることも知らなかったですし、自分の絵も定まっていなかったので、就職をしようと思って、絵の仕事に近いデザインのほうに進みました。
7年間デザインの仕事をしたんですけど、やっぱりイラストレーションの仕事がいいなと思って、夜間のパレットクラブスクールというところに通いはじめました。そこには同じような気持ちの方がたくさんいて、楽しかったです。あるとき、イラストレーション誌の編集長が講師できてくれたんですね。ちょうどバイト募集もしていて、運よくそこに入ることができたんです。その頃から環境が整ってきて、コンペに出したり、持ち込みをするようになっていきました。
もともとは紙にアクリル絵の具で絵を描いていました。でもそのときは自分の個性も出せなかったし、なんの芽も出なくて、コンペにももちろんひっかからなかったですね。
ーーーそこで得たものは?
あずみ虫 距離感を持って描くことを知れたのは、デザインの仕事してたおかげです。イラストレーションは、距離感が大切なので。バイトで経験したコンペで集まった作品の仕分けをしていたこともよかったと思います。どういうものが賞に選ばれるのか、何千枚も見ているとわかってくるんですよ。プロになる前の方々の絵を見られたことは、本当に勉強になりました。もちろん、自分もずっと応募して、ずっと落ち続けていましたから。
人生の岐路はイラストレーター安西水丸先生の一声
ーーーアルミ板を使う手法には、どうやって行き着いたんですか?
あずみ虫 安西水丸さんの個人塾に通っていた時期がありまして、安西先生の著書『アトランタの案山子、アラバマのワニ』という本に出会ったことがきっかけです。その本の中に、R・Aミラーさんというブリキ板を切っている作家さんがいて、その作家さんの作品にシンパシーを感じました。そのことを安西先生にお伝えしたところ、「君もブリキい切ってみたらいいんじゃない?」とのお言葉をいただいたんです。切ってみると、すごくしっくりきて、おもしろくて、安西先生にもお見せしたら「いいね」といってくださった。それで、進みはじめましたね。
ーーー安西先生が背中を押してくれたんですね
あずみ虫 そうなんです。それからは、金属板の硬質なフォルムの新鮮さで、コンペとかで受賞するようになりましたし、だんだん仕事もくるようになりました。今はアルミを切ってますが、この画材に出会わなかったら、イラストレーターにはなれなかったと思っています。すごい転機でした。
ーーーこの『アトランタの案山子、アラバマのワニ』という本を手にしたきっかけは?
あずみ虫 安西先生の本なので、気にはなっていましたが、持っていなかったんですね。ある日、同じ塾生の家に行ったときに、見せてもらって。あまりにもよかったので、自分でも手に入れました。本当に素晴らしい本です。そもそも、R・Aミラーさんが載っている書籍はそんなに多くなくて。だから、本当に運がよかったと思っています。
ーーー人生の転機になる素晴らしい出会いだったんですね。
あずみ虫 そうなんです。絵を描いている頃は、自分の器用さがいやだったんですね。わざと形を変にするとそれはあざとくなってしまって、素敵にならないですし。そんな時、ブリキ板と出会ったんです。ブリキ板をハサミで切ると硬くて、自然に不器用になるので、不思議な形になる。それが本当に嬉しくて。例えば、子供のつくるものって、計算がなくて、素晴らしいじゃないですか。そんな子供の感覚を、自分はもう無くしてしまったので、そこに近づく方法としても、金属板という素材はぴったりなんです。ちょっと歪んでいたり、偶然できる形にしたいという気持ちでつくっています。
でも、最近は、器用に切れるようになってしまって、ワークショップでお客さまが初めて切る形をみるといいなと思います。自分の作品も、昔の方がフォルムが瑞々しいんですよ。思い切って左手で切ってみるという方法もあるんですが、しっくりきてなくて。模索中です。
フォルムのおもしろさの虜
ーーー最初に切りはじめたときはもどかしさはなかったんですか?
あずみ虫 そこまでのもどかしさはなかったですね。発見の方が強くて、切るのが楽しくてしょうがなかったです。どうしても切っていると、曲がってしまうとか、そのちょっと曲がってしまう感じがちょうどよかったんです。すごく突飛な形にしたいわけではないので。
ーーーはじめて切ったときにも、思った通りの出来栄えだったんですか?
あずみ虫 そうですね。予想以上におもしろい出来栄えでした。フォルムによって、絵の印象が全く変わりました。
最初に形をつくってから塗るのって、わくわくするんですよ。絵を描くというよりは、工作している感覚ですね。この形にどうやって色を塗ろうとか、描いてから切る方法をアドバイスされたこともあるんですけど、それだとわくわくしないんですよね。変な形になっちゃって、これにどうやって色をつけようって思う方がわくわくする。下書きもせずに切ることで、ずれちゃう形を大切にしたいんですよ。ワークショップは楽しいですね。それぞれの人の魅力的な形に自分も刺激を受けます。
ーーー作品が完成するまでは、どういう流れで進めていますか?
あずみ虫 テーマを決めてからスタートします。でテーマに沿った絵を思いつくまで、すごく悩んで、時間を費やしますね。描き直したりもします。イメージが固まれば、早いですが、その要になる絵ができるまでは、迷ったりしていますね。決まるまでは、紆余曲折ばかりです。決まったら、ラフを描いて、実際に切りはじめます。切りなおしたり、部分的に差し替えたりしながら、完成を迎えます。
ーーーあずみ虫さん、どうもありがとうございました。あずみ虫さんがつくるアルミの作品が河川敷でずらりと並んぶことを楽しみにしています! そして、ワークショップでは、どんなものができあがるのか興味津々です。
〜取材を終えて〜
あずみ虫さんは、ほがらかな方で、サービス精神も豊富な方でした。笑いの絶えないインタビューで、その際、アルミを切らせていただきました。一筆書きのように切ると教わったのですが、カーブは上手く切れないですし、思った以上に難しかったです。猫にしようと思ったのに、できた形は、なぜかどうみてもお腹の出たおじさん! ですが、できあがった形をみて、最初につくろうと思ってたものと方向転換したりできることを教わりました。うまくいかないことを楽しむとはこういうことかと目から鱗がでした。改めまして、あずみ虫さん、本当にありがとうございました。
(樫尾有羽子)