ジャンル:CRAFT

市川岳人

【市川岳人プロフィール】
愛知県にて活動する、木工作家の市川岳人さん。長い歳月を経て育まれた木目や、木材が持つ元々の色味を活かしたものづくりを行なっています。完璧なまでにシンメトリーなその作品は、息をすることすら忘れてしまうほどの美しさ。初めて作品を拝見した時、シンプルな見た目ながらも、力強さを感じさせる厳かな佇まいに、ただただ言葉が見つかりませんでした。実際に触れると感じられる、なめらかな質感にも意表を突かれます。ぜひ、あなたもこの喜ばしい驚きを感じてみてください。
http://takehitoichikawa.com/

【商品カタログ予習帳】
「高杯」
高脚付きの器。直径約28cmのものは8号サイズのホールケーキも乗せられる大きさです。

「装飾台付花器」
一本の角材から削り出した花器。

「装飾台付花器」
オブジェとしてもお使いいただけます。

「ドライフラワーベース」
ドライフラワー用の一輪挿し。木目や色合いはひとつひとつ異なります、お好みの一本を見つけていただけたらと思います。

「ドライフラワーベース」

「ドライフラワーベース」

「ドライフラワーベース

「ガラスドーム」
オブジェなどを入れて飾っておく台。真ん中に小さな穴が開いていますので、ドライフラワーや鳥の羽根などを挿して楽しむこともできます。

「ボトルストッパー」
ガラスの瓶に合わせて削り出した木の栓。同じ形のものはなく、すべて一点物となります。

【スペシャルインタビュー「曲線で描きだす静謐な世界」】
今年のもみじ市に初めて参加することになった、市川岳人さん。作家になった経緯や普段の製作の様子を、担当の藤枝梢(手紙社)が聞いてきました。

オンリーワンの木工作品を目指して

ーーー「木とは思えないほど滑らかで美しい」というのが、市川さんの作品に対する第一印象だったのですが、いったいなぜ木工を始めようと思ったのでしょうか?
市川:大学時代は全然ものづくりの世界と関わりがなく、ほぼバスケットばかりやっていました。就職もバスケット関係のところでと漠然と考えていたんですけど、実際就活を始めてから無理だなと諦めてしまって。昔からプラモデルを作るなど、手を動かすことが好きだったこともあり、専門学校の家具デザイン科に入りなおしたんです。その学校で良い講師の方との出会いに恵まれて、学んでいるうちに木工の魅力にはまりました。

ーーーそこから作家になるまでは、どのような道のりだったのですか?
市川:専門学校を卒業後、家具工房に就職しました。作り付けの家具製作を行う時など、たくさんの職人が入り乱れている現場だったんですが、時間があまりない中でみんなが殺伐としている雰囲気が性に合わなくて。かつ、“やりたいこと”と“やるべきこと”との隔たりを感じていたんです。自分一人で完結できるものを作りたくて、作家として独立することを決心しました。

ーーー家具と比べるとだいぶ小さいものを製作されていますが、当時から現在のような作風だったのでしょうか?
市川:元々小物を作ることが好きだったので、自然とこのような流れになりましたね。その頃は実際に使ったことはなかったんですが、ずっと旋盤に興味を持っていて。ちょうどいいタイミングだったこともあり、旋盤に切り替えて作品の製作を行うようになりました。

ーーーなぜ、旋盤をやってみたかったんですか?
市川:家具づくりをしていた時は直線のデザインばかりだったので、その反動か、きれいな曲線を表現できる旋盤に心惹かれました。最初の頃は下書きをしていたんですが、今は削りながら形を全部決めていくような状態です。そういうぶっつけ本番な感じも、面白いですね。

旋盤での荒削りの様子

ーーー市川さんの作品は花器や燭台だったり、必ずしも必要ではないけれど、暮らしのアクセントになるものが多い印象です。何か理由があってのことなのでしょうか?
市川:単純に自分が好きで、作ってみたいと思っていたものを作っているというのが一番ですね。自分も作っているんですけど、木工作家ってやっぱり器を作っている人が多くて。そんな中で、他の人が作っているものと同じものを作っても面白くないし、世に溢れているものよりも誰も見たことないものを作れればと思っています。

どう使うかは、お客さんに委ねたい

ーーー作品ができるまでの過程を教えていただけますでしょうか?
市川:購入した材木をある程度の大きさにカットして、旋盤で削ってから、仕上げるという流れですね。

ーーーだいたいどれくらいの時間がかかるのでしょう?
市川:ものにもよりますが、一輪挿しだと30〜40分ぐらいでできます。

ーーーそんなに早いんですね! 好んで使っている木材とかはあるんですか?
市川:ナラという木が好きで、よく使っています。加工がしにくいんですけど、「木らしい木」というか。すごくいい表情をしているんですよね。

作家として独立した当初から作り続けているナラ材の燭台

ーーーそういう話を聞くと、このテーブルの木材が何なのかとか気になっちゃいますね。
市川:ありますね。服屋さんとかに行っても、服ではなく什器ばかり見てしまったり(笑)。

ーーー工房はどんな場所なんでしょうか?
市川:つい最近までは、自宅の1室を使ってました。今は新しく工房を借りたので、そちらで製作を行なっています。旋盤を使って作る作品で、今はいっぱいいっぱいの状態なんですが、新しい工房に移ってから機械を増やしました。今後は、違う機械を使った作品も少しずつ増えていくかもしれません。

ーーー今回初めてもみじ市にご出店いただくわけですが、テーマの“ROUND”を聞いて思い浮かぶものはありますか?
市川:自分が作っている作品が回転体なので、ぴったりだなと思いました。

ーーー確かに、左右対称なデザインですしね!
市川:高杯にしろ燭台蝋燭にしろ、丸いものが多いですね。よくお客さんに、「この器には何を入れたらいいの?」とか聞かれるんですけど、個人的には何を入れるのかは自分自身で考えて探すのが楽しいのではないか、と思っています。そういう機会が増えれば、自然と普段の生活も楽しくなって、必然的に世の中もよくなるんじゃないかな? 自分で選んだものを飾った時に、すごくいい雰囲気になったら余計に嬉しく感じると思いますし。

すべての経験をものづくりの糧に

ーーーもみじ市に関心がある人の中には、作家の卵のような方もいらっしゃるのですが、プロの作り手を目指している人に向けて、アドバイスをいただけないでしょうか?
市川:やめないことが大事だと思います。家具製作や仏壇製作など、自分も紆余曲折があって今の道に落ち着いたのですが、木工というジャンルだけはずっと変わらずに続けていたことだったので。

ーーー諦めたり、挫けそうになったことはなかったんですか?
市川:ありますね(笑)。最初に入った家具工房も、辛くて逃げるように辞めてしまった部分もあり……。ただ、他に自分ができることがなかったので、続けていたら今に至ったという感じです。

先ほど言ったこととはちょっと矛盾してしまうんですけど、自分に合わないことを、やらなきゃという責任感で続けるのはあまり良いことではないと思っています。木工だけを突き詰めるのもすごいことですけど、どっちかと言うと自分はそっちのタイプではなかったので。色々なことに興味を持つ人間ですが、その経験は今にも活きていると感じるため、他のことにチャレンジしてみることも大事かなと思います。

ーーー例えば、どういったことに興味を持っていたのでしょうか?
市川:お店とか建築などを眺めているのは好きですね。あとは映画のような創作物を見たり、山に行って自然を堪能したり。最近は、借りた工房が田舎の方にあるということもあり、鳥の鳴き声を聴きながら、「この鳥はどんな鳥なんだろう?」とか考えたりもしています。

ーーー作品を製作する時に、インスピレーションの源となっているものはあったりするのでしょうか?
市川:ガラス瓶に合わせたボトルストッパーを作っているんですけど、あれのアイディアはヨーロッパのお城の屋根の形からきています。ですが、他のものに関しては、特にイメージしているものとかがあるわけではなく、今まで生きてきた中で感じ取ったことが表現されています。何かに強要されると良いものは作れないと思うので、「こういうのが作りたい!」と思ったときに新しいものが生まれてくるイメージですね。

ーーー心の奥底から湧き上がってきた想いが、創作意欲につながっているのですね。市川さん、ありがとうございました! 初めてのもみじ市、どうぞよろしくお願いいたします。

〜取材を終えて〜
今回の取材で初めてお会いした市川さん。作品の雰囲気から、勝手に少し恐そうな方をイメージしていたのですが、まったくそんなことはなく気さくにお話ししてくれました。取材後は、一緒にビールもいただいてしまい……(笑)。個人的に印象に残っているのは、「どんなものを飾るかはお客さんに委ねる」というエピソード。些細なことですが、何を添えるかで作品の表情は一変するので、その違いをみなさんにも楽しんでいただきたいです!(手紙社 藤枝梢)