【PROFILE】
1983年兵庫県姫路市生まれ。金沢美術工芸大学美術科油画専攻卒業。高校の美術講師として勤務していたが、突如、長年の夢だった世界一周の旅に飛び立つ。帰国し再び教職に戻るも、自由と浪漫を求め退職。その後、絵描き・イラストレーターとして独立し、現在に至る。雑誌、広告、テキスタイルなどの場で幅広く活躍中。異国情緒にあふれ、どこかアンニュイで、一筋縄ではいかないかわいらしさ持つイラストを描く。
http://inuiinui.com
【商品カタログ予習帳】
【スペシャルインタビュー「もみじ市では縁結びの神様に!? イヌイマサノリがつくる“ROUND”とは」】
姫路のアトリエにお邪魔して、イラストレーター イヌイマサノリさんに、樫尾有羽子(手紙社)がお話を伺いました。
ご縁でつながったもみじ市
ーーーー初出店となりますが、もみじ市のことはご存知でしたか?
弟(※1参照)が出ていたので、知っていました。それを見ていて、楽しそうだなと思っていたんです。あとIRIIRIさんとか、出店者さんの中に知っている方もいるので。巷にはクラフトフェアはたくさんありますが、イラストレーターが出られるものは少ないですし、クラフトとイラストレーターがミックスされたもみじ市のようなイベントは他にはないので、ワクワクしています。あと西淑さんとか、ニシワキタダシさんとか、手紙社さんで取り扱っている作家さんに好きな人も多いので、関わることができて光栄です。
(※1:イヌイさんの弟は、木と鉄を使用した室内道具や家具を制作してしている作家「枯白」さん。今年は、残念ながら不参加)
ーーーーもみじ市にはどういったものを持ってきてくださいますか?
絵はもちろん、ポストカードや一筆箋、ペーパークラフトといった紙ものです。ブローチもたくさんつくったんですよ。あとふだんつくらないものを持って参戦しようと、陶器をつくっています。手捻りでつくっているんですよ。陶芸は初挑戦なんで、楽しいですね。きちんとお出しできるか、今の段階ではまだわからないですが(笑)
ーーー今回のもみじ市のテーマは“ROUND”ですが、イメージするものはありますか?
ぐるっと1周まわった円という意味から、人のご縁もそうだなと思いました。なので、それに関わるようなものをつくりたいですね。『おみくじ』とか。縁結びの神様になろうかと思います。そもそも、ご縁ではじまったもみじ市ですから。なんでもご縁だと思うので、このおみくじからも何か生まれるかもしれないですし。ちょうど悩んでいたんですけど、俄然、楽しくなってきました!
イラストレーションは身近にあるアートである
ーーーー子供の頃から絵が好きだったんですか?
幼い時から好きでした。さらに好きになった大きなきっかけは中学校に入ってからです。自分の通っていた中学には連絡帳があって、その中の連絡事項を書く部分の下が空欄になっていたんですね。なんでやろうと思ったのかは今となってはわからないんですけど、そのスペースに毎日絵を描くようになりました。ずっと描いていたら、先生も褒めてくれて、クラスのみんなからも注目を浴びるようになりました。中1から3年間、描き続けましたね。
その後、美術系の高校、そして美大へと進み、油絵を描いていました。美大に入りましたけど、その時は、将来、絵を描いて生きるというような強い気持ちといったものは、そこまでありませんでしたね。
ーーーーそうだったんですね。その後どうやってイラストレータの道に?
大学を卒業してからは、地元に戻り、非常勤講師として働きはじめました。先生をしつつ、友人からライブペインティングの声が掛かれば出たり、グループ展をやったりと、描くこと自体は止めることなく。ただそんな毎日を過ごしていたんですけど、これといってやりたいことが見出せなかったので、とりあえず世界一周いこうと思って、旅立ちました。旅にスケッチブックも持っていったんですけど、その間、ほぼ絵は描かなったですね(笑)。
帰ってきたら、運よく先生の仕事につけることになって、働きはじめたんです。でも、これから何をしたいかを考えた時に、今までずっと絵を学んできたし、なんだかんだとずっと描き続けているので、一度、絵で勝負してみようと思って、先生の仕事を辞めました。ちょうどその頃ですね、油絵からアクリル絵の具に変えたのは。また同じ頃、先輩が教科書の挿絵をやっていたこともあって、イラストレーターという仕事を意識しはじめました。やはりアートは美術館や画廊といったイメージで敷居が高いですが、イラストレーションはもっと身近にあるアートだなと感じたことが大きかったです。そういう方が自分にあっていると思ったんですね。そこから、イラストレーターとしてスタートしました。
ーーーーイラストレーターになってみて、いかがでしたか?
いろいろなコンペに応募して、賞を取ったりしたんです。でも講評としてに書かれたのは、これはイラストというより壁にかける絵だといったものばかりでした。そこで今まで学んできたものは、“絵として仕上げる”というやり方だということに気づかされたんです。そこからイラストと絵の違いっていったいなんなんだろうと考えるようになりました。画面いっぱいに描いていたものをそぎ落とすようにしたり、自分の礎となっているものを壊すことをはじめたんです。とても苦しかったですけど。そうしているうちに、徐々に展示の声がかかるようになって、今に至ります。
イラストレーションの確立を目指して
ーーーどういうところから画風が変化されたと思いますか?
以前は、こうしなきゃいけないとか描き込まなければいけないみたいな思い込みがあって、自分の中での縛りがあったんです。でも、それを紆余曲折して、あがきながらも解放できたことで、ずいぶん変わりましたね。絵としての色合い的なものは、世界一周から戻ってきてから変わったと思います。あとは、海外のコンペで賞をいただいたときに、イギリスまでいったんですね。その時に美術館に行く機会があったんですけど、そこにはデザイン性が高いものがたくさん展示されていたんです。そこで、形のおもしろさとか色の組み合わせとかを変えたらいいんじゃないかとか、自分の描き方について気づけたことも大きかったように思います。
ーーーー現在、イラストは、苦悩なく思い通りに描けているですか?
逆に思った通りにいくようになってしまって、だから最近また崩していこうとしているのかもしれません。イラストレーションという方向に舵を切ったころは、いろいろ発見がありましたから。でも最近は、こう崩したらこうなるというのもわかってきてしまって、煮詰まっている感じがしているんですね。なので、陶芸をはじめた気もします。何かしらの発見が欲しいなと思ったときには、つい攻めたくなるので。
あとは、まだ自分のキャラクターを確立できていないという思いが強いので、見ただけで誰の絵かわかるような、統一性を持ったイラストを描きたいという気持ちもあります。現在、出版した絵本をすべて違う絵柄で描いてしまったこともあって、逆に広げすぎたかなという反省したりしています。振り幅が広い分、まだ探している感じが否めないですね。
ーーーー器用さと力量があるからこそ、悩まれている気がします。
描くことの喜びを噛み締めて
ーーー絵を描く時間は決められているんですか?
決めてなくて、描ける時に描いてしまうスタイルです。好きな時に起きて、好きな時に寝て、好きな時に描いている状態ですね。なので、朝起きて午前中から描くというような、すごく規則正しい生活の時もあれば、真夜中まで描いたり、朝まで描いてしまう時もあったりと、かなり自由な感じです。このやり方は、あんまりよくない気もしているんですけど、乗ってる波をとめられなくて。
ーーー大切にされていることは?
今は、健康管理に力を入れています。最近、ジョギングとかウォーキングとかしてるんですよ。やはりいいモチベーションをどれだけ保てるかが大事なんじゃないかと思って。心と体のコンディショニングをキーワードにして、やっているんですね。コンディションが悪いと作業的なことできるけど、絵を描くなどの創作活動はうまくいかない。仕上げることはできるんですが、いい絵にならないんですよ。結局、そういうのは見た人が気がつくと思うんです。だから、なるべくいい状態の時に描きたいんですね。なので、描けない日には無理にやらないようにしています。もちろん、締切は守りますが、自分の心に正直に生きるようにしています。コンディションがよくても、ダメだと感じるときは、潔くあきらめて、別のことをするようにしたりして。一番は、やはり楽しく描けるかどうかを大切にしています。
ーーーこれからの目標は?
実はそれを探して、海外に行ったりもしたんですけど、みつからなくて、ちょっと鬱々とした気持ちになっていたんですね。でもある時、気がついたんです。やりたいことばかりに向かいすぎて、描くことの楽しさを忘れていたことに。何かしたいというのは大切だけど、本当は、描くこと自体が楽しいんだという感覚が戻ってきて、今、すごく良い感じですね。
ーーー本日は、どうもありがとうございました。イヌイさんが新しくつくられた陶芸作品とおみくじがお目見えすること、楽しみにしています。
〜取材を終えて〜
実は、イヌイマサノリさんにお声掛けしたのは、弟である枯白さんを通じてではなく、本当に偶然からでした。ある作家さんの個展で、たまたまお会いしたことがきっかけです。これももみじ市がもたらした不思議な巡り合わせ。今回のテーマ“ROUND”にも通じるこの出会いに感謝しています。そんなイヌイさんのおみくじですから、すごいご利益があるんじゃないかと思っています。絶対、引きます!