ジャンル:CRAFT

ivory+安藤由紀

【ivory+安藤由紀プロフィール】
徳島県在住の木工家。武蔵野美術大学短期大学卒業後、家具販売や工芸ショップにて勤務後、2009年に独立。木と向き合い、ていねいにていねいにものづくりをする人。ずっと使っていたい、そばに置いておきたいと思わせる、心がほんわかする作品をこしらえる。手掘りのため、味わいはひとつひとつ異なり、色合いも素材や塗料によって出方が違ってくるが、道具としての使い心地は言わずもがな。くたくたになるほど使い込みたくなる木の生活道具を目指して、日夜制作している。
https://ivory-plus.jimdo.com

【商品カタログ予習帳】

oval plate
YAMAプレート(藍染)
くりこざら
オトナスプーン
珈琲豆用スプーン
藍染gururiブローチ
rintoピアス・イヤリング
深さ6㎝の器
お花コバチ

【スペシャルインタビュー「つくりてとしての苦悩、新たな挑戦」】
木工作家 ivory 安藤由紀さんに、樫尾有羽子(手紙社)がお話を伺いました。

もみじ市との出会い
ーーーそもそも、もみじ市はご存知だったんですか?
安藤 もみじ市は、森のテラスでやった最初のときから知っていました。雑誌『自休自足』に載ったのを見て、なんだか素敵だなーと思いました。でも、すでに徳島に住んでいたので行けなくて、親にお願いして、見に行ってもらったんです(笑)。それで、どうだったか聞かせてもらっていました。だから、もみじ市の初回からのファンです! ビデオとかも見て、憧れていました。最初、出店のお声掛けいただいたときは、心踊るほど、嬉しかったです。私の作家活動の中で、手紙社さんと関われるようになったことは、大きな変化でしたね。

ーーーやっぱり、もみじ市は特別ですか?
安藤 そうですね。もみじ市って、他のクラフトフェアと比べて、十人十色で、誰一人として同じような作品がないんですよ。例えば、同じ木工作家であっても、松本寛治さんと私は違うと思いますし。いろんな作家さんがいるので、本当に楽しいです。みなさん活躍されている方ばかりだから、その仲間に入れていただいてありがたいなと思っています。そして、すごく刺激を受けていますね。

ーーー松本寛司さんと仲がいいのですか?
安藤 先輩なんですよ。学生の頃から作品を拝見していて、イベントなどでお話させてもらったりしてたんですけど、「自分も木の作家さんになりたいんです」とは言えませんでした(笑)。そんな方とご一緒できているのが夢のようです。寛司さんは、毎回、もみじ市に行くたび、いろんなことを教えてくれます。他のクラフトフェアでは、あまり木工作家さん同士、技術のお話をすることも少ないのですが、寛司さんは、オープンだから、教えてくれるし、こちらの手法についても興味深く聞いてくれます。寛司さんの作品は、個人的にも、大好きなんです。

ーーー今回のもみじ市のテーマは“ROUND”ですが、最初に抱いたイメージはどんなものでしたか?
安藤 なかなかイメージできなくて。とりあえず“ROUND”の意味を調べました。なにせ横文字に弱くて(笑)。日本語の方が、ぽーんと響いてくるタイプなんです。調べてみると、丸とか、円とかの意味の他に、つながるというものまであって、おもしろかったです。

丸とか円とかという意味で考えると、作品が全部そうなので、どういうふうに見せていくかを、もやもやと考えています。自分の中にある、糸を手繰り寄せて、なにかにひとつでも繋がると、急になぞが解けたみたいな感じで、つくりはじめられるんですけどね。

ーーーアイデアが降ってくるんですか?
安藤 この辺り(宙を指しながら)に、ぼんやりと浮かびはじめるんです。そうすると、手を動かしはじめます。やってみて違えば止めて、よさそうだったら、方向性を絞っていくというのを繰り返していますね。それがどんどん変化していって、作品になっていきます。去年のもみじ市でお披露目した「お花コバチ」は、本当にギリギリにできたんですよ。

ーーーすごく素敵な作品で、大好きです! 大きさも秀逸ですもし、スイーツだって、アクセサリーだって入れられますよね。
安藤 ありがとうございます。昨年のテーマ“Flower”も、花の本をたくさん図書館で借りてきて、すごく調べたんですよ。すでに作ったものでなんとかするのはおもしろくないなと思っていたので。でも、なかなか作品には結びつかなくて…。あのときもぼんやりと自分の作品をながめていて、閃いたんです。つくってみたら、すごくかわいくできて。あれからいろんなイベントに出展する際、並べているんですけど、大好評です! お花の形をした木工の小鉢は、なかなかないですし、きっかけを与えてもらって、ほんとうに感謝しています。それができるまでは、ずいぶんモヤモヤしてましたけれど(笑)。

ーーー安藤さんのつくるものは、想像がふくらむものばかりです。そして、写真で見るより、実物を見るとため息が出るほど、かわいいんですよ。
安藤 そういっていただけて、すごくうれしいです!

ーーーその年のテーマに向けて、すごく果敢に挑戦している、壁にどんどん突進していくイメージがありますが、いかがですか?
安藤 そうですね(笑)。辛い方にあえて飛び込んでいくところがあります。要領がいい人って、どうすれば早くできるかという判断が最初にできると思うんです。私はその判断がすごく苦手で真っ向から、どーんとぶつかっちゃうんですよ。だから、しんどくて、疲れちゃうところがありますね。

ーーーそんなご苦労をされながらも、毎回、新作をきちんとつくってくださるモチベーションはなんですか?
安藤 新作は、いつもつくらなくちゃいけないと思っているんですよ。ありがたいことにリピーターの方がいらしてくれるようになったので、その時に「新しいのできたんですね」と言われたいと思うし、喜んでいただきたくて。そのためにも新作を、新作をって、必死です(笑)

ーーーインスピレーションの源は?
安藤 自然に触れることですね。今、本当に山登りが好きで、時間がない時でも、行っていますね。刻々と景色が変わるし、その中で、生えている植物とか、落ちている石とか、その全部の色合いって自然のものだから、同じものつくろうと思ってもつくれないところがいいんです。そういうものを見たり、さわったりするだけで、蓄えになっているんじゃないかと思っています。生えてる木を見ることで、例えば、自分が使ってる木だったら、枝ぶりがこうだから、木目がこうなっているのかなと思って見ていますね。新作をつくるときに、思い出しているかといわれれば、どうかはわからないけど、蓄積されていて、結果的に繋がっているかもとは思います。正直、自然の中に行かないと体と心のバランスがとれないですね(笑)

ーーーそれは、大切ですね!

器やお皿は主に丸鑿や彫刻刀を使って彫ります。くりこざらを彫っているところです。

制作にあせりと不安はつきもの
ーーー安藤さんは、とてもていねいにものづくりされているイメージですが、どのようにつくられているんですか?
安藤 いろいろ悩みつつ、つくっている状態ですね。ivory+として活動を始めて、8年になるんですけど、やっぱりまだまだ不安も大きくて。なので、現在、活躍されている方が、どういう風にもがいて、今があるのかを知りたいくらいです(笑)。私は亀みたいな歩みなので、みんなが追い越して通り過ぎていっているイメージがあります。

ーーーそうなんですね。
安藤 自分では、無駄な時間が多いと感じています。どうしても選択することに迷いが出てしまって…。こっちを選択していいのだろうかと思いつつ、迷っているうちに、わからなくなって、答えが伸びたりして。結局は自分で選択しなければならないので、これ! と、最終的には決断してつくってはいますが。いっそ誰かにこっちにしなさいっていわれたいと思うときもあります(笑)。

ーーー迷いがあるときは、作品に出たりしますか?
安藤 調子の良し悪しは、彫り目に出ますね。いい時はすごくバランスよく彫れて、彫り目が揃うんですよ。でも、心が乱れている時は、バランスよく彫ろうと無理が生じているのがわかります。自然に彫っているときは、サクッサクッサクッという風にリズムよく進められるし、全体的にきれいな彫り目になるんですよ。でも心がガサガサしているとダメですね。バランスよく彫ろうと意識しすぎていて。やはり、意識しているかしていないかで、心の状態が違いますね。でも、そこを直していきたいと思っています。

ーーーでは、調子よく彫っている最中は、無の境地なんですか?
安藤 いやいや、全然、無じゃないですね。邪念だらけで(笑)。他の作家さんとも、その話になって、無じゃないと知った時は、すごく安心しました。

自然から抽出した白い色のついたオイルを塗って乾かしています。塗装はこれから3回×3日かけて染み込ませて塗ります。

一筋縄ではいかない、ものづくりの世界
ーーー制作において、ご苦労されていることは?
安藤 目下、カップに力を入れてつくっているんですね。そのカップの白い塗装が、乾きにくくて、試行錯誤しています。白い塗装が乾くと、その上にウレタン系の塗装を染み込ませて塗っていくんですけど、その最初に塗った白い塗装がとれやすくなってしまったんですね。今の時期が、すごく暑いので、乾きづらくなっているのか、原因もまだよくわからないんですが。

ーーーずいぶんやりなおしをされているんですか?
安藤 そうなんです。白い塗装が乾いたと思って塗るんですけど、やっぱりとれてしまうというのを繰り返しています。

ーーー暗中模索の状態ですね。
安藤 まさにその状態です。塗装に関しては、まだまだ悩むところがあるんですが、かえって勉強になりました。ものづくりの難しさを改めて感じたといいますか。今まで塗装が剥がれることはなかったですし、今回、本当に難しくて。特に塗装は、彫り終わってから行う、最後の最後の過程なんですね。そこで問題が生じると、思った以上に打撃を受けてしまって。

ーーーもうちょっとで拓けるんじゃないでしょうかね。苦労した分、得るものっていっぱいあるじゃないですか。今は、まだ結論が出ていないと思いますが、綺麗な塗装のほうにいくのか、ちょっと剥がれた塗装を生かしたつくりをしていくのか、どう転ぶかわからないですけど、負ではなくハードルを越えるための準備運動のような気がします。

安藤 確かに、いいきっかけになったなとは思ってます。ただ、まだ解決しているわけではないんですよ。普段は植物性のオイルを使っているんですが、お椀とか水物を注ぐために必要なものがウレタン塗装なんですね。水分の染み込みを止めてくれるので。実はこのウレタン塗装に自分好みの新しいものをみつけたので、実験していたんです。だけど、それもうまくいかなかった。とにかくこれが、ベタベタして、全然乾かない! しかも、お椀をつくっていたんですが、歪むし、水を入れたらパカって割れるしと、散々な結果になってしまって。それで前の塗装に戻したんです。なのに、剥がれる事件が勃発してしまったという。弱り目にたたり目というか。正直、新しいものの方を使いたいんですね。ですが、失敗続きで、こんなに難しいのかと愕然としました。なので、現時点では、無味無臭になる安全なウレタン系の塗装をしていますが、より自然でより良い仕上げ方法を常に探っている段階です。

ーーーそれは大変でしたね。冬季限定でつくるのはどうですか?
安藤 旬のある木の器! 今の時期しかつくれませんということですね。おもしろいです。器はそれまでに仕上げて、塗装のみ、冬季限定にするとか…。新しいなにかのきっかけになるかもしれませんね。

昨年も同じものを使っていたのですが、今回のようには剥げなかったから、木の問題かなとも思っています。やはり、自然を相手にしていると、自分の思うように意外とならなくて…。この際、思うようにならないことを楽しんだ方が勝ちかもしれませんね(笑)

ーーー落ち込んだりしないんですか?
落ち込んだりもしますけど、自分がつくらないとすすみませんから、前より打たれ強くはなりましたね。沈んでいる時間は短い方がいいですよね。自分でコントロールしていかないと。

ーーー沈む時間があるからこそ、ものづくりに活かせるのかもしれませんね。

テーマ「ROUND」にちなんだ新作の「まるこざら」。様々な樹種で4種類の大きさの小皿をたくさん作っています。順々に重ねてみたり、いろんな使い方できます。

これからのivory 安藤由紀
ーーー今後挑戦したいことはありますか?
安藤 最近は、かわいい系のものより、渋めのものが好きですね。なので、作りたいものは、使いやすくて、それでいて存在としてもその佇まいが美しいものが、いずれ作れたらいいなぁと思っています。

ーーー最近刺激を受けた方っているんですか?
安藤 いろんな方の作品との向き合い方にいつもすごいなぁと思うのですが、最近であれば手紙社さんのsoelでも取り扱っている「filithematerira(フィリテマテリラ)」さんですね。布糸植物をつくられている方です。たまたま徳島に展示に来られていてお話を伺ったんですが、採ってきた植物をみて、触って、調べて、図鑑をつくるような感じで作品を制作されているそうなんですね。葉っぱとかも全部染めてつくっていて、ひとつひとつの工程にものすごく時間をかけているところに感銘を受けました。私の場合は、生活道具だから、一つの道具にそこまで時間をかけてしまうとお値段がすごく上がってしまうので難しいですけど、せめて向き合う時間だけでも丁寧にしようと思うようになりました。作品を見ただけでは、そこまで伝わらないかもしれないけれど、その方とお会いしたことで、より興味が持てました。自分も、もっとていねいに、じっくりつくろうと、改めて思うようになりました。

ーーーもみじ市は、作家さんがブースにいらっしゃるので、そういったお話が直接聞けるからいいかもしれないですね。安藤さん、本日は、どうもありがとうございました。河川敷に安藤さんが一生懸命つくられた作品たちがずらりと並ぶのを楽しみにしています!

〜取材を終えて〜
ivory 安藤由紀さんの担当は、今年で3回目になります。気持ちがほんわかするようなものをつくられているのですが、すごく苦悩しながら、すこしずつ前にすすむ実直さに、いつも頭が下がります。今回は特に壁にぶち当たっているところに押しかけてしまったのですが、自分の気持ちをさらけ出してくれて、嬉しく思いました。担当として、向き合うことができたように思います。この苦悩を乗り越えた時、新しいivory 安藤由紀さんとして、また大きく羽ばたく気がしてなりません。
(樫尾有羽子)

【もみじ市当日の、ivory 安藤由紀さんのブースイメージはこちら!】

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