【PROFILE】
橋本宣之・橋本美香が営むパン屋。東京都目白で10年間店を開いていたが、2017年3月に多くのファンに惜しまれながらも閉店。そして、宣之さんが美香さんと出会ったという思い出の地で新規オープン。その地とは、立川市の鈴木農園。店頭には以前から評判のパンや焼き菓子はもちろん、鈴木農園の新鮮な野菜を使ったサンドイッチなど、新しいメニューも並んでいる。パンを買い、その紙袋を抱えると、焼きたての温かさと幸せな匂いに思わず、顔もほころんでしまう。
http://kaijyuya.hatenablog.com
【商品カタログ予習帳】
チョコチップコッペ
チョコレートチャンクマフィン
フルーツパン(グリーンレーズン・自家製オレンジピール・カルフォルニアレーズン)
ルッコラのリュスティック
紅茶クッキー
酵母スコーン
黒糖ココナッツクッキー
大麦チョコクッキー
【スペシャルインタビュー「もみじ市と同様、11年目を迎えて」】
東京都立川市でパンとお菓子を作っている橋本宣之さん・美香さんに、担当の柳川夏子(手紙社)がお話を伺いました。
パンの振り幅が広くなってきて、ちょうど面白い時代
ーーー作業場にお邪魔させていただきます。こちらは、オーブンですか。
宣之:ドイツのWelker(ウェルカー)というオーブンです。日本製は間口が横に広いものが多いですが、ヨーロッパのものは横もありつつ奥行きがありますね。場所が変わっても、ガスオーブンでパンを焼くことを変えるつもりはありませんでした。
ーーーガスと電気、パンの出来上がりに違いはあるのでしょうか。
宣之:良くも悪くも電気は軽い仕上がりに焼けますが、パンの水分が飛んでいってしまいます。それに比べ、ガスの方は水分が残ります。水を多く入れた方が扱いが難しいんですが、うまくいくと美味しいですね。パンとは、水を焼くようなものなので。いま、“高加水”(こうかすい)のパンを焼く方々も増えていますが、水が多く入っていると消化も良く、体に入ってきやすいんですね。
ーーー高加水というのは昔からあった作り方なのですか。
宣之:それを高加水と呼んでいたかどうかはわかりませんが。水を多く入れる作り方をしていたと聞いたことがあります。昔の人たちはシンプルに、いかに少ない粉で多くのパンを焼くかということを求めていたのだと思います。
ーーーなるほど。パンの作り方に流行りはあるのでしょうか。
宣之:あると思いますね。今では、当たり前のように国産の小麦を使っているお店が多いですが、少し前までは一部のパン屋さんだけでした。国産の小麦でも、海外のものに負けないものが作れるようになったので、国産小麦かつ天然酵母で作るパンがスタンダードになっていると思います。
ーーー国産小麦や天然酵母というキーワードは、当たり前になってきている感はありますよね。
宣之:自然素材にこだわる方やヨーロッパのようなパンを作る方、食パンやコッペパンの専門店と多種多様にありますよね。振り幅が広くなっているので、ちょうど面白い時代になってきていると感じています。
ーーー目白で10年お店を営業されていましたが、立川市に移動して来た経緯をお伺いしても良いでしょうか。
宣之:以前のお店では制約が多くて、思うようにパン作りがしづらかったのも大きく、徐々にこのままでは良くないなと思うようになりました。そして、そういったタイミングの時に偶然ここのお話をいただき、行こうと決めました。また目白でも販売スペースを構えてパンを運ぶことも考えましたが、断念しました。
ーーー自分の手と目が届く範囲から、ということでしょうか…?
宣之:“二頭追うものは一頭も追えず”ではありませんが、自分たちの手の届く範囲でという気持ちが強かったんだと思います。
ーーー場所を移動して、変化したことはありますか。
宣之:やっていること自体は変わっていないですが、鈴木農園さんの存在は大きかったですね。毎週水曜日にサンドイッチの日を行なっていて、それはここに来なかったら考えなかったことです。カラフルで珍しくて、そして美味しいお野菜が近くにあるからこそ、生まれた変化だと思います。
ーーー次はぜひ、水曜日にお伺いします! サンドイッチの内容は季節によって変わるのでしょうか。
美香:だいたい3~4種類をご用意しています。鈴木農園さんのお野菜と相談しながら、どんなサンドイッチができるか考えています。明日は、ジャガイモを使ったコロッケやホットサンドにしようと思ってます。
ーーー美味しそうですね! ここに移動してから、お客様は変わりましたか。
宣之:変わらないと思います。というのは、かいじゅう屋のパンを求めに来てくださるという意味です。
オープン初日は、一時間ぐらいですぐ店を閉めてしまったんです
ーーー担当させていただいてからずっと気になっていたのですが、「かいじゅう屋」という店名の由来は何でしょうか。
宣之 よく聞かれるんですが、本当にこれしか思いつかなくて。「降りてきた!」なんて言えば、カッコイイですけどね。
ーーーそうなんですね。何か絵本などの引用なのか、もしかして何屋さんなんだろうと想像をさせるために付けたのかなと勝手に色々と考えては楽しんでました。
宣之:「怪獣」と聞いて、皆さんが思い描くのはそれぞれ違うと思います。共通して知っている言葉だけど、実際は存在しない。そして、想像する姿は様々。そう言った意味ではなんとなく良かったのかなと思っています。
ーーーとても印象に残ります。かいじゅうという、響きもとても心地いいですし。
宣之:今もし、店名をつけるとしたら、いろんなことを考えすぎてしまって、あんまり良いのが出て来ないと思います。
ーーーお店のオープン初日、店頭に並んだ最初のパンはなんですか。
宣之:オープン初日は、開けて一時間ぐらいですぐ閉めてしまったんです。
ーーーえ! 何かあったのですか。
宣之:いつオープンとはあまり公表していませんでしたが、お祝いに知人が数人来てくださいました。ひと段落して、パンを食べて見たら、自分が納得する味ではなかったんですね。これは大変だ…とすぐお店を閉めました。買ってくださった方にお金を返しにその日は回り、お店を閉めて、1ヶ月後の3月14日に再開しました。その後に、彼女(美香さん)に来てもらって、一緒に始めたのでなんとかやっていけたと思っています。その時初めて、彼女と一緒に仕事をしましたが、不思議と自然だったんです。阿吽の呼吸と言いますか…同じ職場だった訳ではないのに(奥さんの美香さんは、ゼルゴバの元スタッフ)。彼女が作るお菓子と、僕が焼くパンを並べた時に全然違和感がなくてね、ってそれは勝手に僕が思ってるだけ?(笑)
美香:(笑)
宣之:違和感ないなって。似てるというか…ね。
宣之:パンは歴史が作っているものだから、自己を表現する為にとは思っていません。主役ではないけれど、無いと困る。お米と一緒です。普遍性って言うのかな…? お菓子を作る時、どういう想いで向き合っているの?
美香:今の自分にできる精一杯のことをするだけです。そしてそれを喜んで食べてくださるの嬉しくて。
ーーー今回のもみじ市はROUNDというテーマですが、イメージするものはなんでしょうか。
宣之:もみじ市と同様、僕たちも11年目なんです。doing(何かしなければいけない)の延長線上には、having(何かを手に入れる、得る)があり、その前には「being」があります。それは、向き合い方を見つめ直す事だと思うんです。ROUNDという事で一巡、特別なことをするのではなく、どういう風にパンと向き合うか、そういった事を思いました。また、彼女と知り合った思い出の地で、やり始めた事はとても、なんかこう……うん。
美香:ROUNDだね(笑)
ーーーそれでは最後に、もみじ市にやってくるお客様に向けて一言、お願いいたします。
宣之:イベント初の出店!もみじ市に参加させて頂いたからこそのご縁を大切に、僕らも楽しみたいと思っています。もみじ市に来られた方々、全ての皆様にとって素敵な時間でありますように。かいじゅう屋より、たくさんの気持ちを込めて。
ーーーありがとうございます。河川敷で、再会できるのを楽しみにしています!
~取材を終えて~
触るとじんわり温かいパンのように、言葉ひとつひとつから熱量を感じました。とても誠実に、とてもまっすぐにパンと向き合っているからこそなのではないかと思います。そして宣之さんと美香さん、お二人のやりとりがとても心地よくて、お腹も心も満たされる時間となりました。”サンドイッチの水曜日”にも、ぜひお伺いしたいと思っています…! 素敵なお話をありがとうございました! (柳川夏子)