ジャンル:CRAFT

小菅幸子

【小菅幸子プロフィール】
陶芸家の夫、1歳になるべびまるくん、愛猫のレモンと暮らす自宅兼アトリエがある三重県津市を拠点に、ブローチ、器、ボタン、フェーブ(幸せを運んできてくれると言われる陶器製の小さな置物)を制作。“おばあちゃんになるまでお気に入りで使えるようなモノ”を陶器で表現しています。インターネットで「ブローチ」「陶器」「作家」のワードを入力すると「小菅幸子」が検索結果の上位に表示され、手紙社が運営する店舗、イベントで販売の告知をすればオープン前から長蛇の列ができる、もはやブローチ界の伝説の人。彼女が生み出すブレることのない純粋無垢な作品は、どこかにありそうでどこにもない、愛らしく柔らかで、心がぽかぽかあったかくなるものばかりです。
http://kosugesachiko.com/

【商品カタログ予習帳】

ヤドリギ、ちょうちょ
忘れな草、コーヒー豆(茶色)
ブラウス、車
つゆ草、バスケット
眠る月、おどけた星
のらねこ、こねこ
ラベンダー、ピック
親指姫、フェンネル
歯車、アザミ

【スペシャルインタビュー「小さくとも偉大な存在感を放つ陶器ブローチの誕生秘話」】
もはや紹介は不要かもしれない。けれど、ブローチを手がける作家について語る時、彼女の名前なくしては絶対に始まらない。小菅幸子、三重在住。肩書きは陶芸家だ。コーヒー豆、マーガレット、ネコ。陶器で表現されるそれらのモチーフにお洒落なブローチガールたちは、こぞって「かわいい…」とため息を漏らす。お目当てのブローチを身につけられるのはごく一部、実物を目にすることだって容易ではない。現在、不定期ながらも取り扱いのあるお店は全国で10店舗ほど。それ以外で彼女の作品を手にできるチャンスがあるのは、年に2〜3回行われる個展とイベント出店の時のみ。もみじ市は、その貴重な場所のひとつである。「どんな風にして作品が生まれているのか?」

私(担当:新居)だけではなく、きっとみなさんも思っているであろう素朴な疑問の答えを探しにアトリエへ伺った。

趣味から始まったブローチ作り

———小菅さんの人気ぶりは、年々広がっていて留まるところを知らないという感じですが、やっぱり小さい時から何かしらモノ作りをしていたんですか?
小菅:ぜーんぜん! 美大系の学校にも行ってないし、就職先も一般企業でOLでしたよ。

———えぇ、なんと!! それが今、何故ゆえこんなことに!?
小菅:28歳くらいの時に粉引の器にハマって「自分で何か作ってみたい、やってみたい」と思って趣味で始めたんですよ。とある老人ホームの一角でやっていた陶芸教室に通うことにしたけど、先生はいなくて。私以外の生徒さんは、70〜80歳くらいのおじいちゃん、おばちゃんで目的は雑談。制作しているのは私だけっていう(笑)。気ままな陶芸教室だったので、何を作ってもよかったし、先生がいないので作り方も自由でした。

———その陶芸教室では、何を作っていたんですか?
小菅:ブローチや置物を作って楽しんでいましたよ。やったことも作ったこともなかったけど、私の母が多趣味で油絵、グラスアート、陶芸など、いろいろやっている人で…あ! 私が小さい時に母が紙粘土で作ったブローチ見る?

小菅さんのお母さんが作った紙粘土のブローチ。まじまじと見させていただきましたが、とても細かく丁寧に作られていました。

———◎△$♪×¥●&%#?! かわいいぃぃ!! 小菅さんの作品に通ずるものがありますね。
小菅:「ブローチを作ろう」と思ったのは母の影響を受けていたのかもしれないなー、今思うと。作り始めたその時は「ブローチだったら自分で付けて楽しめる」って思っていたけど(笑)

ブローチが導く陶芸家への道

窓から差し込む光が清々しいアトリエ。色付けされる前のブローチかズラリ100個以上も並んでいて「これをひとつひとつ手作業で色を付けていくのか…」と開いた口がふさがりませんでした。

———趣味で始めた陶芸を本格始動させたのはいつからですか?
小菅:先生のいない陶芸教室では、何を作るにも独学だったので、そのうちに「学校でちゃんと習いたい」と思うようになって。仕事を辞めて、愛知県瀬戸市にある陶芸の学校に通い、それからは製陶所に勤めました。就職先の製陶所では、仕事とは別に自分の作品も作ってよかったのでやっぱりブローチをメインに作っていました。

———お店でブローチを販売されるようになったのはこの頃から?
小菅:陶芸の学校に通う前くらいに自分でHPを作って、そこで販売していました。モチーフの違うブローチ一点一点を撮影してはHPにアップして。当時はSNSもなかったので、何かの検索でたまたま見つけてくれた人が注文してくれる程度。3ヶ月に1人くらいでしたよ。だから、自分が身につけて楽しんでいました。陶器のブローチを付けている人も少なかったので、付けていると「何それ? かわいい」って言ってもらえて。褒められると嬉しくなって「じゃーあげる」ってプレゼントしているうちにお店をやっている友人たちが「ブローチ置いてみる?」と声をかけてくれるようになり、徐々にお取り扱いのお店が増えていきました。気がつくと仕事の合間だけでは制作が追いつかなくなっていて、独立することに。陶芸家として活動ができたら素敵だけど、そんなことは夢みたいな話で絶対にないって思っていたのでありがたい話です。

———ブローチのモチーフは、昔と今で変化ってありますか?
小菅:あんまり変わってないかな。今も昔も鳥とか花とか誰でも思いつくようなものばっかり(笑)。でも、お取り扱いのあるお店の方の希望や提案を参考にする時はあるかな。レンコンのブローチは、madoさん(愛知県岡崎市にあるカフェ『mado cafe』。今回のもみじ市にも出店されます)が「野菜のイベントをするから、野菜モチーフのブローチを作ってほしい」というお願いがあって作ったんですよ。まさかこんなに人気が出るとは…(笑)

ひと塗りひと塗りサッサッサッと手早く仕上げていく小菅さん。職人技を感じたワンシーンです。

どこかにありそうでどこにもないデザイン

———現在、ブローチのモチーフは何種類くらいありますか?
小菅:うーん60個とか? 数えたことがないのと、毎回全種類を作るわけではないのではっきりと言えないけれど、多分それくらいはあると思う。

ブローチの原型を作り、そこに石膏を流して取った型。この型も60個くらいあるわけです。

———数々のヒット作がありますが、アイデアやイメージはどのように?
小菅:どうやっているんだろうねー好きな本とか旅先の思い出とか? 先日、友人が住むイギリスへ家族旅行に出かけたんです。スコットランドにも行ったのですが、国花がアザミだって。だからアザミのブローチを作りました。そんな感じです(笑)。新作は半年に2個くらい作っているかな…とくに決めてはいません。ゆったりとぼんやりと考えて、頭の中でイメージができたら一応スケッチをしたりラフを描いたり。イメージさえ固まれば、割と形になるので試作もそこまでしないんです。

イギリス旅行がきっかけで作った新作のアザミブローチ。「向きがラフと反対になっちゃった」(小菅さん)。

今年のもみじ市に並ぶ陶器のブローチは?

———もみじ市は、ことしで11回目なのですがご存知でしたか?
小菅:知ってましたよ! お客さんとしても行ったこともあります。出店のお話が初めてあった2014年はとくにびっくりしましたよ。お声がかかる度に「絶対にやる!」って思う。

———私だけでなく、みなさんが気になっている今年の内容について教えてください。
小菅:ブローチをひとつでも多く並べたいと思っています。8月に個展を行って、その時にお客さんが「秋冬っぽいブローチを並べてほしい」って言ってくれたのでそういうモノを並べようかな? お客さんのほうが、私の作品について詳しいんですよね。「久しぶりに○○のブローチ作ってください」なんてことも言われて「…あ〜あった!あった!そのブローチ」と。並べられるといいなー(笑)

———新作のアザミブローチもですが、最近、銀や金のブローチをよくお見かけします。それは並びますか?? 今までの作風とは少し違う、大人っぽい雰囲気が個人的に気になっています。
小菅:陶器に銀彩や金彩を合わせているブローチですが、コートや厚手の洋服に付けたら素敵ですよね。私が作るブローチは、基本、自分が身に付けたいモノ。ここ数年は落ち着いた、渋めのモノが気になっています。元々アンティーク店で並んでいる高価なモノ、100年くらい前のシルバー、ダイヤモンドを使ったブローチに興味があるんです。自分で作れたら楽しいし、手頃な価格で購入できたらいいかなーって。もみじ市でも多分ある…かな?

———当日まで何が並ぶかはわからないってことですね(笑)
小菅:そうそう内緒! いっぱい、たくさん見てもらえるように頑張ります!

これらのブローチが当日並ぶかどうかはわかりませんが、今回のもみじ市のテーマ「ROUND」を意識してパシャリと一枚。

〜取材を終えて〜
つくづく不思議で、つかみどころのない方なのだ。第一印象は、おちゃめでかわいい。だけど、話すほどに知るほどに何だかしっくりこなくなる。ある時は大胆でかっこよく、ある時は繊細で控えめ、ある時は…。約2時間の取材、その後に小菅さんのご家族と『喫茶tayu-tau』(三重県津市にあるお店で今回のもみじ市にも出店されます)に出かけたので計3時間ほどの時間を一緒に過ごしたけれど、その時その時で印象がまったく違う。思えば、小菅さんが手がけるブローチにもそんな気配を感じていた。自身の直感と閃き、好きや憧れといったものを素直に思いのままに表現する小菅さんの作品には、たくさんの妙味が秘められている。言葉では説明できない、解き明かすこともできない、それこそが彼女の作品の最大の魅力なのかもしれません。(手紙社 新居鮎美)

【もみじ市当日の、小菅幸子さんのブースイメージはこちら!】

陶器のブローチをたくさん並べる予定です!