ジャンル:CRAFT

小谷田潤

【小谷田潤プロフィール】
1978年東京生まれ。立命館大学卒業後に信楽と常滑で陶芸を学び2004年八王子にムササビ窯を築窯。もみじ市には初開催時からの皆勤賞ながら、毎回新しい試みに挑戦し続けてくれています。常に悩みながら探求していく姿は、名のある作家となった現在でも変わりません。どっしりとして清潔感のある作品の数々はもはや“小谷田潤の器”というジャンルを確立しているように思えます。私(担当:小池)と同じく埼玉の某野球チームの大ファン。獅子のハートで今年も挑みます。
http://www11.plala.or.jp/koyata/index.html

【商品カタログ予習帳】
しのぎカフェオレボウル

しのぎ角マグ

しのぎ丸珈琲碗

ハイジボウル

丸ポット

丸皿

丸湯のみ

朝顔ボウル

氷コップ

涙壺

【スペシャルインタビュー「つくりたいものが他の人に響いてくれたら良し」】
もみじ市作家第1号(?)、陶芸家・小谷田潤さんの工房・ムササビ窯で話を聞くことができました。

まさに今、つくっています

ーーーもみじ市まで1か月ですが、お忙しそうですね。
小谷田:年明けまで個展が続いているので。もう毎日ひたすら作っています。この時期は朝から夜中近くまで工房で作業する日も多いですね。なるべく夕飯は家で食べるようにしていますが。もちろんもみじ市用の作品も作ってますよ。テーマが「ROUND」だからやっぱり円形の美しいものを、まだ焼く前ですけど。

「ROUND」テーマの大皿
伝統的なガラス皿の意匠をモチーフにした小皿

ーーーこの大皿は迫力ありますね。この紋様の入った小皿も珍しい。
小谷田:リムのない大きい皿を作ろうと思って。小皿の紋様は、元々は伝統的なガラス皿に使われているものなんですけど、陶器に合わせてみました。ガラス皿の場合は裏面に模様付けるけど陶器は透明じゃないから表に付ける。うまくいくかな。

ーーー基本的には型から取って、轆轤(ろくろ)で削ってという作業なんですね。
小谷田:手びねりはできない、というか絶対うまくいかないと思う(笑)。それでもひとつひとつ高台作って、バリを取って整えて。けっこう手間かかってます。

ーーー1人ですもんね。大量生産というわけにはなかなかいかない。“かきべら”も使い込んでらっしゃる。
小谷田:新しいのと比べると金属部分が細くなってるでしょ。粘土とはいえこれだけ回してればね。僕の場合、学校の教材用カタログにあるかきべらが一番使い易くて、それを大量に買ってます。他の道具もだいたいホームセンターで調達してます。

轆轤の上に乗った「かきべら」

ーーー器によって手触りの違いがありますけど、一番は土の違いですか?
小谷田:大きく分けて2種類の土を使ってます。定番の白や黒のものには、石が粗く混ざっているような土。これ、粗さが出ないようにスタイリッシュに作ろうと思っても、手の温もりのようなものが良い具合に出てしまう。綺麗に綺麗に作っても不思議と“いびつさ”が出てしまう。うまく言えないけれど、例えば明治期前後の日本人が、一所懸命西洋風建築を真似てもどこかイモくささが残ってしまうのに似ている。僕はそこに味わいがあって好きだから、そういう器にできたらと思っています。もう1種類の土は、色を着けるのに最適の土。ガラスのようなイメージの土ですね。

ーーー粗さを消したいけど、完全に消したらつまらない。ちょうど良い塩梅で出てくる土の抵抗のようなものが、小谷田さんの器の魅力に通じているんですね。
小谷田:最近では、より完成度を気にするようになりました。いかにスムーズに作ることができるか。工程の中でひっかかりがあると、やはりでき上がりも良くない。スムーズにいくと良い仕上がりなんです。種類も数も多く作る、その中で完成度を上げていく。そこですね。

まだ熱の残る窯

ただ、できるようになりたかった

ーーーすっかり陶芸一色の毎日ですが、小谷田さんが陶芸の道に進もうと思ったのは10代の頃ですよね? 他のことは考えなかったんですか?
小谷田:10代といっても、大学の陶芸サークルになんとなく入ってから今に至っている感じですね。「陶芸で食べていく!」とか「陶芸で身を立てる!」とかそんな意識は全くなく、ただ「できないからできるようになりたい」一心でここまできた感じです。そういう意味では陶芸だけやってきました。

ーーー「できるようになりたい」が現在まで続いている?
小谷田:そうですね。だってできるようになりたくない? サークルは特に先生がいたわけではなくて、先輩がやっているのをなんとなく真似るような程度。だから、本格的に学びたくて信楽と常滑の技術学校に通った。信楽は轆轤で大物を作るところだったので、もっと小さいもの、急須とか作ってる常滑にも行ったという具合です。

ーーーそのまま学んだ土地で工房構えて陶芸を続けるという選択肢もありましたよね?
小谷田:特に常滑なんかはそのまま制作を続けることを支援する制度もありました。でも、たまたまかもしれないけど、いわゆる陶芸の偉い人たちが僕の美意識とずれていたんです。良い作品を作っていても、普段の装いとか、ライフスタイルとかがその良さと乖離してしまっている。そこに疑問を感じて、東京の地元で1人、窯を開くことにしたんです。

自分が欲しいものをつくる

ーーーそこからもとりわけ「陶芸が仕事」という感覚はなく?
小谷田:「何かつくるのが他人より得意」くらいの感覚で(笑)。つくりたいものをつくって、ある程度希望した値段で売って、それを買ってくれて、嬉しい。このループ最高じゃないですか。もちろん最初の2年くらいは、ただ作って終わりのような日々でした。それでも「売れるものをつくろう」という風にはならなかったですよ。何しろ「陶芸で稼ぐ」という感覚がなかったから。自分の家に欲しいなとか、こういうのが良いなとか、そう思えるものをつくって、それを人が「これ良いな」と気に入ってくれたらそれで良し、と思って今まで来ています。

窯入れ前に整える作業が続きます

ーーー他の方の作品とか気になりますか?
小谷田:今は全然気にしていないです。昔、特に結婚する前なんかはちょっとした嫉妬心なんかもありましたけど。ちょっと宣伝が上手くて、ガッと売れて、みたいな人がいると(笑)。今はむしろ買い手の側を心配しています。今の買う人の動向を考えると、自分の目で見ていない気がしませんか? 本当に自分が良いと思っているのか怪しい。流行りに乗っているだけかもしれない。そんな動きが目立つようになりました。例えば5組出店するイベントに100人のお客さんが入ったとして、好きな作家の嗜好がちょうど異なって、5人の作家さんに20人ずつ並ぶようなバラけ方があって普通だと思うんです。今は、80人が1作家に集中して、20人が1作家に集中して、あとの3組には目もくれないような状況。もっと自分の目で見て、自分が欲しいと思ったものを買えば良いと思うのですが。

ーーー「SNS映え」という言葉の功罪を考えてしまいますね。最後に、もみじ市に初回から全て出店している数少ない作家のお一人として、今回のもみじ市についてひと言お願いします。
小谷田:昔のことすぐ忘れちゃうからな、一年前のことすらも(笑)。僕はもみじ市からはじまって、手紙社のおかげで名を売ることができて、陶芸作家としてやってこられていると思っています。たった2日間であっという間に終わってしまいますが、その2日間での情報量は想像以上です。出店される方には一番のPRの場になりますし、お客さんにとってはこの上ない開拓の場だと思います。怒涛の2日間の中でお互いに良い出会いがありますように。

ーーー小谷田さん、どうもありがとうございました。“ROUND皿”の完成も楽しみにしています!

〜取材を終えて〜
もみじ市の大先輩ということで胸を借りるつもりで担当していますが、丁寧にひとつひとつ仕事や普段考えていることについて話をしてくださいました。小谷田さんは信頼できる。今回改めて思ったことです。作家として、人として、正直に生きている姿が心地よく胸を打ちました。共通の趣味でもある野球についてのトークが今回は抑え気味だったので、次はまた野球場で色々とお話聞きたいと思います。(手紙社 小池伊欧里)