ジャンル:ANTIQUE

古書モダン・クラシック

【PROFILE】
オンラインの古書店「古書モダン・クラシック」。店主の古賀太郎さんが男性向け、妻の加代さんが女性向けの本をセレクトしています。インターネットが発達した時代で、本でしか得られない情報と価値を改めて見出し、すぐに手に取れる新書ではなく一期一会の出会いである古書の魅力を人々に伝えています。手紙舎の店舗にある古書も、すべてモダン・クラシックさんによるセレクト。古くも、新たな物語を感じることの出来る本ばかりです。
http://www.mc-books.jp

エプロンメモ
日々の生活に役立つ暮しのヒントがおさめられたかわいい装幀の本。
すばらしき日曜日
土日2連休など無かったあの時代ならではの、人それぞれの休日の過ごし方が興味深いです。
上手なせんたく
青空の下、洗濯物がハタハタとたなびくように見える、すがすがしくさわやかな装幀です。
手しおにかけた私の料理
料理への情熱が強く感じられ、ところどころに家族への愛情が伝わるエピソードもある良書。
コーヒー関連の本いろいろ
「紅茶・珈琲誌」は限定本で、贅沢なつくりの本。
コーヒー関連の本いろいろ
上目づかいな女性の表情が印象的な「コーヒーの本」。
「コーヒー・ブック」は、明治屋発行の小冊子「嗜好・別冊」シリーズの中の一冊。
暮しの手帖 第一世紀(パンの装幀)
並べられたこのパンは木村屋のパンだったと思う、と、大橋鎭子さんのお話をどこかの記事で読みました。
つれづれの味/巴里の空の下オムレツのにおいは流れる
どちらも上質の文章で、食のエッセイではこの2冊がおすすめです。
帽子の作り方

【スペシャルインタビュー「人生さえも変えた本との出会い」】
実店舗を持たないオンラインの古書店、古書モダン・クラシックの古賀加代さん。古本との出会いと物語の魅力について担当:上野樹がお話を伺いました。

花市、そしてもみじ市へ

ーーー手紙社のイベントに参加されるようになったのはいつからなのでしょうか。
2008年の春に開催していた「花市」から参加しています。もみじ市にはその同じ年の秋に行われた時からになります。

ーーー10年近く前からご参加頂いているのですね。
まだその頃のイベントは北島さん(現・手紙社代表)が手紙社を立ち上げる前でした。
今のもみじ市の会場となった多摩川の河川敷に決まる前、そこでイベントをやりたい、となった時にも北島さんたちと一緒に現地まで行ったりもしていたんですよ。

ーーー下見にも一緒に行かれていたんですね。
作家さん何人かとご飯なんか持ち寄って、ちょっとしたピクニック気分でした。その時の雰囲気がとても心地よくて。ここでイベントが出来たら楽しいだろうなと思っていました。

ーーー実際に河川敷の気持ち良さを感じての参加。それまでそういったイベントには出られていたのですか?
小田急線の経堂にあった、ロバロバカフェさんが「春の古本市」というものを開催していて、そこで古書を販売させて頂いていました。ロバロバカフェさんと北島さんがお知り合いで、その繋がりで声を掛けていただきました。そもそも古書モダン・クラシックとして活動を始めたのも2007年からで、イベントの参加というのもすぐのことでした。

ーーーお店を立ち上げた当初は、外で古書を販売すると思っていましたか?
古書モダン・クラシックはオンラインのみの古書の取り扱い店として始めたので、まさかたくさんの人が来るようなイベントで自分たちの集めた本を販売するようになるとは思いもよりませんでした。なぜ自分たちが古書のお店を始めたいと思ったか、それを今日はお話しできればと思って、資料を見つけてきたのでお持ちしました。

家宝の本。時代を感じます。

ルーツ、それは医学

ーーーこれは随分古い本ですね。
これを語るには、主人の古賀家のルーツからお話し出来ればと思います。古賀の家系は九州・佐賀で代々医者をしているのです。主人は4代目になるのですが、1900年以前から続く家柄で、この古い本は幕末から明治にかけて初代がその時代に長崎にてオランダ人医師から学んだ医療技術を記した手書きの本になります。

ーーーなんと!
当時はまだ医大など無かった時なので、先生から学んだ事を仲間同士でここに記していたそうです。記録帳のようなものですね。全国から医師を目指す若い人たちが、西洋医学発祥の地と言われる長崎に集まって来ていたそうです。これと同じ内容を書いた本が全部で3冊あるのですが、親族でこれを大事に家宝として保管しています。


ーーー細かな内容はわからないのですが、西洋の最先端の医学がここに詰まっていそうですね。
曾祖父、祖父(軍医でもある)、義父と代々医者を生業としていて、当然主人もその道に進むものとされていました。でも本人は、医学より芸術とか文学とか、そちらの方に小さい頃から興味がありました。実家の歯科医の手伝いもしていたそうなのですが、「こんなに大変なことを一生続けていくことは出来ない!」と思って自分には医者は向いてないと感じたようです。

ーーーそれから本の道へはどのように?
とにかく本が好きだったようで、今でもそうなのですが、本の山に埋もれるような中で暮らしているほどでした。でもやはり医者になるための勉強もしていて、学校にも通っていました。その時に私と出会ったのですが、これが主人の人生を変えてしまったのじゃないかと思っています。


ーーーどんな出会いだったのでしょうか。
私はそれまで長年、事務職をしていました。全然本とは関わりのないような仕事でした。昔から自分のなりたい職業がなく、そのことを気にしていた時もあったのですが、なりないものがないのだから仕方がない、それはそれでいいじゃないかと思い、ずっと同じ仕事を続けていました。20歳を過ぎたあたりから無性に本が好きになり、昼休みには本屋さんに毎日のように通っていました。30代に入り、ちょうどその頃2001年くらいでしょうか、オンラインで古書を販売する素敵なお店が出始めてきました。その時ですね、これだ! と思いました。生まれて初めてなりたい職業がある日突然にやってきました。主人にその話をしたらとても興味を持ってくれて、自分はその長く勤めた会社をきっぱり辞め、主人も学校を辞めることにしたんです。


幕末から明治にかけて書かれ医学の記録書。

ーーーそれぞれやってきたことを辞めて、古書の道に進んだんですね。
私の一言で、主人の人生の方向性を全く違うものに変えてしまったのではないか、私に会わなければ家業を継いで医者になる道を進んでいたかもしれない。今でもそういう責任のようなものを感じています。


ーーーお二人にとって、本当にやりたいものに出会えたんですね。
そうですね、憧れていた好きな本に囲まれて生活出来ているので幸せですね。

本との巡り合わせ

ーーー好きなものに囲まれてお仕事が出来ているのは素敵ですね。本を見つけてくる時はどうされているのですか?
私たちのような古書組合員が入ることのできる市場がありまして、そこに全国から古書店のみなさんが古書を買い付けに来られます。主にこの市場から仕入れたい本を見つけます。


ーーー市場のイメージはオークション会場のような場面を想像していましたが、そういった所ですか?
全くそういった雰囲気ではなく、欲しい本に値札を書いて入札する形式です。なので現場はとても静かです。


ーーーどういった古書に魅力を感じるのでしょうか。
まだ見たことのない、素敵な表紙の本をまず手に取るようにしています。そのあと中も読んでみて、自分が欲しいと思ったものを購入するようにしています。パラパラと読んだだけで何かホッとさせるような、特別感動させるような話じゃなくても日常の些細なことが書いてあるエッセイなどに魅力を感じます。人々の暮らしの風景を読み取るのが好きです。


ーーーお客さんからのリクエストがあったものも仕入れたりするのでしょうか?
お客さまからこういった本がありませんか? と言われたものは憶えるようにして仕入れに行ったりするのですが、すぐには見つからないものです。1年とか2年、ご本人も忘れた頃に出会えたりします。でもそれが古書との巡り合わせであり、一期一会の魅力的な世界だと思っています。それくらい古い本って価値のあるものですよね。


ーーー本との出会いって、予期せぬところから生まれますよね。
本の魅力もそうなのですが、古い本のある空間そのものも好きですね。主人は全国の古書店を取材し、それを業界紙で連載をしています。

古賀さんの好きな古本(新書)。素敵なタイトル、そしてイチゴの表紙がかわいいです。暮らしのエッセイです。

次の世代に伝える

ーーー全国を取材して回っているんですか。
そうなんです、どんな古書店なのかお話を伺って、文章とともに店主さんの写真を撮影し紹介しています。一番遠いところで北海道の釧路まで行きました。

ーーー凄い偶然で僕、釧路出身なんです。
ええー!そうだったんですか。釧路もそうなのですが、日本各地に面白い古書店がたくさんあって。そういった方のお話を聞くのもまた面白いんですよね。ただ、後継がいなかったりしてどんどん良いお店が無くなっていってしまうんです。それを記録として伝えていく役割としてやっている部分もありますね。


ーーーたしかに古書店というと、おじいさんおばあさんが一人でやられているようなお店が多いですよね。
こうした素敵な雰囲気と趣向を凝らしたお店があったという事実を、次世代に繋げていきたいんです。

ーーーお店として、古賀さん自身として、この先やりたいことなど教えて下さい。
これは主人の夢になってしまうのですが、いつかオンラインではない古本屋をやれればなと思う時はあります。お店というよりかは、自宅の一室を店舗スペースにして自由に手にとって見てもらえるような空間を作れたらと構想はしています。

ーーー古賀さんたちの古本屋、とても行ってみたいです!
自分が欲しくて欲しくて堪らなく仕入れた秘蔵の本など、まだ世に出していなものもたくさんあり、そういった本とか好きな古書をどんどんお披露目していければと思っています。

ーーー今回のもみじ市ではどういった古書を持ってきて下さるのでしょうか。
“ROUND”にちなんだ本も選んで持っていきたいですね。小難しいものより「あ、これ知ってる」と思っていただけるようなラインナップを心掛けていきます。でもさっきも言ったように、探している時って中々見つからないんですよね。周りの人たちから情報収取しながら見つけていければと考えています。

ーーー古賀さん、貴重なお話ありがとうございました。当日並ぶ本が楽しみです!

〜取材を終えて〜
実店舗を持たない古書モダン・クラシックさんの家系が代々医者だったという、不思議なルーツの話をお聞きし、好きなことを仕事にするための意思の強さに心打たれました。インタビューのあと、調べて分かったのですが、夫の古賀大郎さんが取材したという北海道・釧路の古書店というのが自分もよく知る故郷のお店であり、古書が人と人を繋げる役割をしているのだなと、そこでも本の持つ魅力を感じざるを得ませんでした。運命的な出会いを果たすことの出来る一冊を見つけに、古賀さんセレクトの本が並ぶ河川敷のブースにいらして下さいね。(手紙社 上野樹)