ジャンル:ANTIQUE

仁平古家具店

【仁平古家具店 プロフィール】
栃木県の益子町と真岡市に店舗を構え、日本各地で捜し集めた希少な古い家具や雑貨を取り扱っています。長い年月を旅してきた古いものでも末長く使えるようにと、丁寧に水洗い、修理、再生して販売。私[担当:富永]は両方の店舗にお邪魔しましたが、店内に美しくディスプレイされた家具たちを眺めているだけで不思議と気分が落ち着き、そこに流れるゆったりとした時の流れに心が癒される感覚になりました。もみじ市の会場でも、それぞれの品が持つストーリーに思いを馳せながら、一点物との出会いをお楽しみください。
http://www.nihei-furukagu.com


【商品カタログ予習帳】

スツール


小抽斗


丸盆



薬瓶


浮き玉


花火の型


卓上ランプ


卓上ランプ アップ

【スペシャルインタビュー「古道具の世界の入り口でありたい」】
日本の古道具の魅力を届ける「仁平古家具店」の店主・仁平透さんに、担当の富永琴美(手紙社)がお話を伺いました。

途方にくれた記憶が、一歩を踏み出すきっかけに

ーーー「仁平古家具店」はオープンから何年になるんですか?
仁平:今年で9年目になります。1号店がオープンした1年半後には2号店を益子町の方にオープンさせました。お店ができる1〜2年前は、インターネット販売や東京の骨董市などへの出店を中心に活動していましたが、今はお店の方が軌道に乗ってきて、店舗販売がメインになっています。

ーーー古道具のお店を始めたきっかけを教えてください。
仁平:23歳までは東京でサラリーマンをしていたんですが、実家の都合で地元の栃木県に戻ってきたら、あんまり働きたいと思うような会社がなかったんですよね。田舎なので、やろうと思ったら工場勤めくらいしかなくて……。働いては3ヶ月で辞め、違うところに行っては3ヶ月で辞めみたいなのを繰り返していたので、これはもう自分は向いてないんだって思って。自分で何かやろうって思ったんです。元々古いものが好きだったので、好きが高じて今がある、という感じです。

ーーー仕事を辞めて、一人で一歩踏み出すことに不安はなかったんですか?
仁平:今でも覚えているんですけど、工場勤めをしたとき、とても辛かったんです。一週間夜勤をやって、次の週は日勤をやっての繰り返しで……真夜中の自動車工場で、隣の人の声も聞こえないようなガチャガチャした騒音の中で、防御服を着て作業をしながら、「俺、こんな生活を一生するはの嫌だ」って途方にくれた。新しい世界に一歩踏み出す怖さはもちろんあったけれど、あの感覚を一生続けるくらいなら、この怖さはなんでもないなっていうくらい、あの空間が嫌だったんです。新しいことを始めて失敗することにビクビクして、あそこに一生居続ける方が怖いと思った。いい意味で忍耐力がなかったので、思い切れたんだと思います。

落ち着いた雰囲気が漂う真岡店の店内
お店で実際に使われている、アンティークレジスター

捨ててある家具を拾って喜んでいた青年時代

ーーーいつから日本の古道具に魅力を感じていたんですか?
仁平:二十歳そこそこの頃に、インテリアとかに興味を持つようになったんですよね。自分の部屋を改装するとかそういうのが楽しくなってきて……。そのときに、素朴でかっこいい日本の家具が僕にすごく合っているな、好きだなって気づいたんです。その当時はまだ、今うちで扱っているような古家具は価値がないとされていて、そこらに捨てられていたんです。僕は、それが価値があるとかないとかではなく、ただ純粋に好きで。潰れた商店の前に置き去りにされた家具や、粗大ゴミで捨ててある家具を拾ってきては、手入れをして自分の部屋に並べて、「いいね~、俺の部屋いけてるわ!」みたいな、そんな20代でしたね。

ーーー本当に古いものが好きだったんですね。
仁平:本当に面白いし、楽しいんですよ古いものは。僕は古いものを残したいっていうよりも、この面白さを人に伝えたいっていう気持ちの方が強いんです。アンティークっていう言葉を使うと敷居が高いというか、お高いもののイメージがあるんですが、日本の古いものは逆に安いなって思っていて。棚ひとつにしても、現在ではなかなか使わないような良い木で作ってあります。これを今作ろうとしたら、とても高額なものになる。でも古いものだったら、格安で買えるんです。うちに来るお客さんには、「本当に良いものを、こんな値段で買えるんだ!」っていうのを楽しんでもらいたいなと思っています。

ーーー手が届く値段で、気軽に生活に取り入れられるのは嬉しいですよね。
仁平:例えば、都会のいわゆるコンクリートジャングルで暮らしている人の家に、ちょとした古い椅子が部屋に一脚あるだけでちょっと心が和むような気がするんですよね。そんな古道具の世界に足を踏み入れる入り口というか、とっかかりになれるようなお店でありたいっていうのは、始まる時からずっと思っています。

古材を生かしたオーダー家具の製作もしています

重要なのは、メンテナンス

ーーー商品がお店に並ぶまでは、どのような流れを踏むのでしょうか。
仁平:骨董屋が集まる市場っていうのがあるんです。業者しか入れない結構閉鎖的なところなんですけど、そこで仕入れています。いわゆる肉や魚の市場と一緒で、セリの市場なんですよ。「はいこの机六千円スタート!」「八千! 一万!」みたいなやりとりで競り落としてきて、トラックにいっぱい積んで。

ーーーへええ! そんなシステムになっているとは思いませんでした。
仁平:仕入れた段階ではボロになっているものばかりなので、まず全部洗って、ガラスが割れていたら入れ直す。足が腐っていたりしたら、足を切ったり付け替えたりとか、色がすすけて汚くなっていたら、ワックスやオイルをかけて色を入れ直したりして……。それぞれの商品に合った仕上げをします。ダイニングテーブルのようなものだったら、水じみができないようにワックスを塗ったり。きちんと使える状態まで工房で仕上げて、店に入れる。ひたすらそれの繰り返しですね。うちにあるものは、結婚して家を建てたとか、新しい生活を始める時に欲しいとか、飲食店を始めるときにこういうものをまとめて買いたいとか、そういう方に売りたいものなので、いわゆる古かろう悪かろうじゃダメだと思っています。安心して使えるように、メンテナンスをかなり重視しているんですよね。

ーーー仕入れたものを、そのまま店頭に出すわけではないんですね。
仁平:それはまずないです。何年もやっていると、直す前にこういう仕上がりになるなっていう予想ができるようになるんですよ。でも、実際に直してみたら想像よりもすごい良く仕上がったりすることが結構あって。そのときに、なんていうか自分の息子が育ったみたいな感覚になるんですよね。それがすごく嬉しいんです!

ーーーメンテナンスの一手間が加わることで、そこに何かが宿るんでしょうね。
仁平:一手間にどれだけ思いを込められるかっていうので、仕上がりが全然違くて。ちょっと思いが行き届いてないと、足が曲がってたりとかバランスが悪くなったりとかする。お客さんに買ってもらって、初めて食べている商売だから、常にいいものを届けようという気持ちでやらなければと思っています。

ーーーインテリアの勉強をされたことはあるんですか?
仁平:全くないです。どこかのインテリアショップや古道具屋で修行を積むってこともなくて、全部独学です。やり方がわからないままやっていたから、色々なお店を覗いては、「なるほど、こうやって直しているのか」ってこっそり技を盗んだりして。良いとこ取りじゃないですけど、自分なりに良いと思うものを取り入れてきたので、それが良かったのかもしれないですね。

工房で作業をする様子

常に新しい発見がある古道具の世界

ーーーお店をオープンして9年、これまでを振り返っていかがですか?
仁平:オープンした頃はお客さんなんてもちろん来ないし、「今日も売り上げゼロだったな」みたいな日が続いて、半年くらいは本当に食べられなかったんです。でも大きな家具は一人で運べないし、最低一人は従業員を雇わなきゃいけない。その従業員への給料を払うのが大変で、自分のお給料はなくて当たり前、みたいな。きちっとしてる人だったら、そういうのを辛く感じるんだろうけど、僕はそういうのも楽しかったんですよね。「今月は給料3万しかないから、このお金でどうやって1ヶ月を過ごそう!」って楽しめたし、後になるとそれがいい思い出になったりもして。僕は、好きなことをやって食べられているっていうだけで幸せです。だから毎日幸せ。いつも、この幸せだっていう気持ちを忘れないように生きていかないとって思います。

ーーーお仕事の中で、ワクワクする瞬間を教えてください!
仁平:これまで相当数の古いものを見てきましたが、作った地域とか作った職人によって微妙なニュアンスの違いがあるんですよ。机の足の太さ一つにとっても、その職人のセンスや思い、当時の流行とかいろんなものが宿るんです。仕入れに行くと、そういうものを数え切れないほど発見できる。未だに見たことないとか、「このセンス、たまらないな〜!」「こんなものがあったんだ!」っていう感じで、いつまでやっても新しい発見があって、その瞬間が一番楽しいです。

名脇役のような存在を目指して

ーーーもみじ市には、いつもどんな思いで参加されていますか?
仁平:手紙社さんから伝わってくる、良いイベントを作り上げたいんだっていう気持ちに応えたいです。良い仕事をしないとなって。100店舗以上並ぶ大きい枠の中での1店舗なので、なんていうかドラマでいう名脇役みたいな、「小さいけど、あの人好きなんだよな~」っていう役者みたいな存在になりたいと、いつも思いますね。全体を作るのは手紙社さんだけど、それぞれの役者が立ってないとしょぼいものになっちゃいますから。誘っていただいたからには名脇役になりたい。僕は脇役好きなんです(笑)。呼んでよかったなと思ってもらえるような存在でありたいと思います。

ーーー“ROUND”というテーマについては、どのように感じていますか?
仁平:また結構な無茶振りがきたなって(笑)。輪になってみたいな意味だと思うんですけど、グルーブ感というか一体感。個々がいいものを作っていこうの輪ができると全体的にいい空気が流れるというか。そういう意味での “ROUND”なんじゃないかって思いました。その感覚は、すごく良くわかります。

ーーー他の出店者の方との交流はありますか?
仁平:もみじ市は、結構栃木県のお店の出店が多いんですよね。そのメンバーとは元々仲が良くて、イベントのタイミングでみんなで集まって飲んだりとか、そういうのもすごく楽しいです。真面目な話はほとんどなくて、いつも馬鹿話して終わるんですけど(笑)。仲間というか、戦友というか、そんな存在だなって感じる部分もあります。

ーーーいろんな場面において、仲間の存在が励みになるということがありますよね。
仁平:自分にとって欠かせないものは、やっぱり人ですね。友達とか、従業員、関わっているいろんな人。僕は、仕事ばっかり突き詰めても面白くないなと思っていて。仕事仲間だったり、周りの人と遊んでいて生まれるものって結構あるんですよね。「今度はこういうことやってみよう!」っていうふうに、面白いことが遊びの中から生まれたりする。同業者と話しても、異業種の人と話しても勉強になるし、いろんなものの見方ができるようになるんですよね。何か自分でことを起こそうと思っている人全員に共通することだと思うんですけど、楽しいことを提供しようと思ったら、自分が何を好きで何を楽しんでいるかっていうのがわかってないとできない。なので、仕事と同じくらい遊びが大事です。

ーーー今年のもみじ市でやってみたいことを教えてください。
仁平:うちはそこが難しいんですよね。全部一点ものだから、「これ持っていきます!」とはなかなか言えなくて。もみじ市の日に持っていきたいものがあっても、前日に売れたら持っていけない。常にあるもの勝負でしかないんです。良いものをたくさん取りそろえようとは思うんですけど、その時の全力を尽くすしかないですね。当日は、できる限り、楽しんでもらえる商品をたくさんたくさんトラックいっぱいに詰めて持っていきますので、お楽しみに!

ーーーありがとうございました。夢がいっぱいに詰まったトラックがやってくるのを、河川敷でお待ちしています!

〜取材を終えて〜
物腰柔らかな仁平さん。お話を伺っているうちに、勝手ながら「日本の古道具の面白さを知ってほしい!」という情熱を常に胸に抱いている、純粋で真っ直ぐな方なのだと感じました。インタビューを終え、店内を見渡した私の目に写ったのは、どこか誇らしげな様子でそこに並ぶテーブルや棚。丹精込めて美しくメンテナンスされた家具たちに出会えば、誰もが古道具の世界への扉を開かずにはいられなくなるはずです。(手紙社 富永琴美)