ジャンル:CRAFT

柴田菜月

【柴田菜月プロフィール】
1975年東京生まれ。やきもの作家。女子美術大学芸術学部工芸科陶コース卒業。東京藝術大学大学院修士課程美術研究科美術教育専攻修了。女子美術大学専任助手を経て、「滋賀県 陶芸の森」の創作研修館研修生に。その後、ベルギーのセントルーカス大学に陶芸コース研究生として留学。「生活に少しのいろどりを。少しの楽しさを。」をモットーに制作している。色トリドリの作品は、一つずつ形も表情も異なっている。置物かと思いきや、振ると音がなるマラカスが人気。色合い、触り心地、聴き心地と惑わせられる要素がたくさん!
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【商品カタログ予習帳】

色トリドリ
ジョッキー
ねこだるま
色トリドリ
がんばるねこ
おどり子
ねこ取っ手
ねこ取っ手
ブローチ
コメン
カベカケ
ちょっとふたもの
飾るうさぎ

【スペシャルインタビュー「トラブルをもろともしない度量の持ち主」】
橋本のアトリエにて、やきもの作家 柴田菜月さんに、樫尾有羽子(手紙社)がお話を伺いました。

陶芸で培われたおおらかさ
ーーーつくりてになったきっかけは?
柴田 小さい時から、ものづくりをしやすい環境にあったというのもあります。母がデザインの仕事をしていたこともあって。あと小1から絵を習いに通っていました。今思えば、作家さんが開いていたと思うんですけど、まず、描き方を教えてくれるようなところではなくて、作家としてのアプローチの仕方を教えてくれるようなところでした。そこで現在の素地が培われたと思います。そこには中学くらいまでずっと通っていました。なので、美術系の学校にそのまま中高大と進んでいってしまった感じです。

ーーーいつから陶芸をはじめたんですか?
柴田 大学に入ってからですね。工芸科に入り、その時は、染織に憧れていたんです。色もいっぱいあってきれいだったので。そう思って入ったのに、専攻を選ぶ頃には、クレーモデルや陶芸の方に惹かれてたんですよね。憧れていた色の世界とは反対の地味な世界に。もうそこからは、陶芸以外は考えられなくなりました。というのも、やりはじめたら、おもしろくなって、もっともっとやりたくなったんです。絵を描いていた頃は、わりと細かく進めていくタイプだったんです。絵は、自分が根を詰めてやればやるほど、完成形が見えてきますから。でも、陶芸って、乾かすとか窯に入れるとか、ある時間は必ず手を離さないとできあがらない。それで、完成したものを見て、がっかりすることが続きましたね。でも、そのおかげで性格も変わって、けっこう大雑把になってきました。失敗を受け入れるといいますか、トラブル歓迎といいますか(笑)

ーーー今のこのテイストになったのは、いつくらいからなんですか?
柴田 7年くらいですかね。最初は、器じゃないと売れないと思っていたんです。あるとき、器じゃないものを世に出してみたら、意外とみんなが興味を持ってくれて…。自分がつくりたいものをそのまんま形にしたとしても、欲しい人がいるんだって、気付いたことがきっかけですね。

ーーーこの形はどうやって思いついたんですか?
柴田 もともと真面目じゃないものが好きなんですよ。どこかぽかっとしていて、笑っちゃうような。私、ペットを飼っていたんですけど、やはり動物って、ちょっと抜けているところがかわいかったりするじゃないですか。そのあたりが影響していますね。あとは中学か高校の頃にフィンランドが好きになったんです。ブームのはるか昔で、まだ誰も見向きもしてない時代に、フィンランドの生活空間の楽しみ方みたいなものを知ったんです。室内を楽しくするためのオブジェを目にしたときに、こういう世界があるんだなと思って、そのへんから、インテリアとしてのオブジェがつくりたいという気持ちが芽生えたと思います。今は、動物っぽいものを多く制作してますけど、真面目過ぎず、かわいらし過ぎない、ちょうどいいものを目指してつくっています。

ブローチ削り完了、乾燥へ

ーーー確かに、おどけ過ぎず、飾って存在感がある、ほのかなかわいさがあるオブジェだと思います。こういった色合いのオブジェは他にないですよね。
柴田 色に関しては、ストレス発散ですね。そもそも絵を描くのが好きだったのですが、粘土だと物足りなくて、すごくストレスだったんですね。その物足りなさが、この色づくりに出てきた気がしています。

ーーー色は思い通りに出るんですか?
柴田 色の出方は、このくらい入れたら、このくらいの色合いになるというのは、随分マッチングしてきましたけど。でも、やっぱりロスはありますね。たまに、自分ではがっかりだった色なのに、お褒めいただくことがあるんですよ。

ーーー気に入らなくても出してはみるんですか?
柴田 場合によりますけど、それが“推しメン”を飾りたてる役目になるなら、いっしょに出したりします。意外と相乗効果で、思わぬスポットが当たったりして。自分の想像通りの色に焼き上がらないとものすごくがっかりするんですけど、そのがっかりは、最初に想像してた私だけなんです。私だけが想像していた色なので、他の人が最初に見たら違う印象を持つということがだんだんわかってきました。

ーーー今までは、そういう意味でもロスが多かったんですか?
たぶんロスは多い方だと思います。器の人がどうやっているかはわからないですが、同じものをひたすら何個もつくるという場合、意外と1個つくるのに時間がかかっちゃうんですよ。だからロスが出ると、ああ、数が揃うまでの道のりから遠ざかったぞと思ってがっかりもしますけど、またすぐにつくりはじめます。陶芸をやるようになって、切り替えがすごく上手になりましたね。許容範囲がどんどん広まっていっている気がします。

素焼き完了、釉薬掛け待ち

どんどん進化する作品たち
ーーー作品が完成するまでの過程を教えてください。
柴田 最初は粘土なんで、ぼろぼろした状態から形づくります。たとえば、マラカスにもなる「色トリドリ」の場合は、粘土の粒を新聞紙とかに包んでおき、それを粘土でくるんで封じ込めます。乾きはじめたら、削って、素焼きをして、色をつけて焼き上げるという感じです。普通の陶芸をやってる方と同じですね。

ーーー1日の流れはありますか?
柴田 工程として、生の粘土をつくるということをやりながら、別のものを削るとか、大きい作品に手を入れるとかありますけど、1日の流れは、特に決まってないですね。やらなければいけない過程にめがけて、臨機応変にやっている感じです。アトリエでつくる場合と自宅でつくる場合があって、アトリエでは、生の粘土をつくることと釉掛け、絵付けは必ず行います。削るのは自宅でやっています。場所を変えることで気分も変わるので。いい気分転換にもなります。

ーーー型は使わないんですね。
柴田 はい。すべて手でつくっています。型を使えばとアドバイスいただいたりもするんですけど、なんとなくまるっきりおんなじものをつくることが好きじゃなくて(笑)。ちょっとずつ変えちゃうんです。顔の向きとか、あっち向きやこっち向きにしたりして。表情もちょっとずつ変わってますし。たまに起きるのが、同じ大きさで10個つくって納品した後に、追加発注を受けると前回納品したものとの大きさに誤差が生まれたり。ですが、型じゃないからこそできる、そのときの風合いだったり、気持ちがだったりが、表情に出るので、それも楽しんでいただけると嬉しいですね。

ーーーでは、その時々で違ってくるんですね。
柴田 そうなんです。過去の私の作品を持ってきてくれる人がいるんですけど、あまりの違いに、自分でびっくりしています。長期連載の漫画だと、初期の絵柄と現在絵柄の違いに驚くじゃないですか。そんな感じで、自分ではちょっとずつ変わっていっているので、気づいてないんですけど、10年前のを見たら「えーーーっ!?」って驚くことがよくあるんです(笑)。でも、お持ちいただくのは、うれしいですね。ありがたく思っています。

ーーー柴田さんがおもしろいのは、すごく細かいところとおおらかなところが共存してますよね。
柴田 そうなんです。大きいトリ作品の首と背中のところは、小さいみみずみたいなのを、ひとつひとつくっつけているんです。

ーーーその貼り付けはいつやるんですか?
柴田 貼ると厚みが出るので、その分をまず削ります。そして、粘土がしっとりしている状態のときに水をつけて、つくりながら貼り付けていきます。その後でハンコを押したりしていますね。

ーーー貼り付けとハンコの部分をうまい具合につかってつくられているんですね。
柴田 最初は全部削りだったんですけど、つまんなくなって、貼り付けをやり、最終的にハンコにまで手を出したのが、今の状態です。変えていきたいタイプなんです。だから、過去の自分の作品にびっくりしちゃうんですよね。

ーーーどんどん作品が進化してて、おもしろいですね。

本焼き完了、窯から出て無事完成

転んでもただでは起きないバイタリティ
ーーー先ほど、ロスがあるとお話しされていましたが、もう直せなくなってしまうのは、どの過程なんですか?
柴田 どんなに小さくても亀裂が入ったら、さようならです。

ーーー亀裂は、どうして入ってしまうんですか?
柴田 私のつくり方が適当だからですかね(笑)。原因はいろいろありますが、一例をあげると、粘土は縮むので、穴を開けるんですね。穴を開けた瞬間、プシューって音がするときがあるんです。それは、粘土がだいぶ縮んでいて、穴を開けられるのを待ってた状態なんですね。穴を開けるのをうっかりして放置していると、中で空気がパンパンになってしまって、亀裂が入ります。土の状態が悪くても亀裂が入ります。

生の粘土のときに穴を開けてもいいんですけど、穴が閉じてると入ってる空気がどこにも逃げないので、形を自由に変えても、やせないんです。そうするとやりやすいんですね。逆に穴が空いていると、撫でるだけでやせちゃって、戻しづらくなります。だから、形が完全に決まってない場合は、そのまま置いておいて、後で形づくります。私は、ちょっとだけ硬くなってから穴を開けたいタイプで、そのタイミングを見誤るとプシューという音がして、後で亀裂が入ってしまうんです。天気とか暑さ寒さ、湿度とかで、乾き具合と自分のうっかり具合によって、事件が起きることがあります。でも、音がしたからといってすべて使えないわけではなくて、平気な場合もあるし、ダメージが出るものもあります。

ーーー奇跡的になんとかなったトラブルはありますか?
柴田 前習えをしている動物をだんだん大きくなる仕様にして3体くらいつくったことがあって。一番後ろの動物の大きさは60cmくらいの台座がついたものです。それが全体的にちょっと乾きが甘くて、窯の中で台座が爆発を起こして、開けたときには、前習えの姿勢で動物たちが横たわっていたんですね。急いでるとよく爆発するんですけど。今からつくり直すのは、どうしても間に合わないという状態だったんです。そこで、爆発した破片を集めて、全て接着剤でくっつけて、展示会で披露しました。なかなか上手になおせましたね。実は、子供の頃からジクソーパズルがすごい好きで、その力を遺憾なく発揮しました。窯詰めも、ある意味パズルなんで、大好きなんですよ。うまく入った時の達成感といったら!

ーーートラブルにも臨機応変に対応されてますけど、絵をずっと続けていたら、方向転換しにくかったのでは?
柴田 そうですね。根詰め過ぎて、やめちゃってたかもしれないと思いますね。陶芸に出会ったおかげで、受け入れられる素養を見出せすことができた気がします!

ーーーこれからつくってみたいものはありますか?
柴田 小さいものばかりつくっていると、衝動的に大きいものをつくりたくなったりしますけど。その他でいうと、インテリアの一部になりそうなものをつくってみたいですね。生活の一部として存在するものを。例えば、鏡の枠とか取手とか、ペット関係のもので、水飲みとか。やきもので今まであるけどあんまり選べなかったようなものをやりたいなと思ってます。使いやすくつくるといった方向ではなくて、自由のきくようなものを。いつもそんなことをモヤモヤと考えながら過ごしています。

ーーーおもしろくて、新しいものができそうな気がします。もみじ市に出るにあたって、つくってみようと思っているものはありますか?
柴田 色をそれぞれ合わせて違うものをつくってみたいと思っています。例えば、黄色を合わせてディスプレイするとか。新しいものができあがるかどうかはわかりませんけど、ざっくりと考えています。

ーーー柴田さん、どうもありがとうございました。柴田さんの色トリドリが、河川敷でシャラシャラと音を奏でるのを楽しみにしています!

〜取材を終えて〜
柴田菜月さんは、絵で培った細やかさと陶芸で築き上げたバイタリティが共存していて、非常におもしろかったです。器の大きさを感じずにはいられませんでした。これからインテリア生活雑貨のようなものをつくっていきたいとおっしゃっていましたが、目から鱗のような、みんながアッと驚くようなものを絶対つくり出すと思います。その日がやってくることを楽しみにしています。
(樫尾有羽子)

【もみじ市当日の、柴田菜月さんのブースイメージはこちら!】

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