ジャンル:TEXTILE

点と線模様製作所

【点と線模様製作所プロフィール】
北海道を拠点に、模様作りを行う岡理恵子さんによるテキスタイルブランド。紫陽花、たんぽぽ、カラマツの林、鳥の飛び交う庭……。北の大地の自然をもとに作られる模様は、しかしそんな大自然を身近に持たない人々にもどこか懐かしく、ほっと心を温めてくれます。岡さんの手によって生まれる模様を手にしてみて感じるのは、すっと生活の中に溶け込んで日々にそっと彩りを添えてくれるような、おおらかな魅力。終わりなく繰り返されて行く模様は、過ぎてゆく毎日の中で変わらぬ美しさを教えてくれます。
http://www.tentosen.info/

【商品カタログ予習帳】
刺繍生地のスクエアポーチ mori

刺繍生地のポーチ bird garden


レースチャームピアス・イヤリング

書籍「ten to sen の模様作り」


缶バッジ bird garden

レースチャーム付ハンカチ 林檎 グリーン


レースチャーム付ハンカチ 林檎 ネイビー

レースチャーム付ハンカチ ツバメ ピンクベージュ


レースチャーム付ハンカチ ツバメ ブルー

【スペシャルインタビュー「特別じゃない模様を作りたい」】
美しい自然をモチーフに豊かな模様を生み出す点と線模様製作所のデザイナー・岡理恵子さんに本間火詩(手紙社)がお話を伺いました。

空間作りからはじまった、模様作り

ーーーテキスタイルデザイナーになったきっかけを教えていただけますか?
岡:大学時代に模様作りを始めたのがきっかけです。3年間独学で、シルクスクリーンや木版画の技法を使って壁紙を作っていたのですが、いつか布にしたいと考えていました。漠然とではありますが、模様作りを仕事にしたい、というのもその頃から考えていました。

ーーー模様作りを始められたきっかけは何だったのでしょうか?
岡:元々、大学では空間デザインの勉強をしていたので、空間を考えたり、図面をひいたり模型を作ったりしていました。そうして空間を考えていくうちに、一から新しい空間を作ることよりも、「今、自分が住んでいる生活空間をカーテンやテーブルクロスを変えることによって新しくする」ことに惹かれていったんです。そこから、壁紙のための模様作りを始めました。今はもっと小さなものを作る想定で図案を考えることが多くなっていますが、最初は空間がスタートだったんです。

自分だけじゃない、誰かの模様になっていって欲しい

ーーー模様を作る際、どんなことを考えて作られているのでしょうか。
岡:私が作るのは特別な模様ではないんです。誰かの見てきた風景とか、思い出とつながっているような模様。自分が作る模様だけど、誰かの模様になるような……。出来上がった時点で自分の手から離れて、生地を持ち帰ったその人の家の模様になるような、そんな風であって欲しいなあと思うんです。

ーーー誰かの模様にもなる模様、ですか?
岡:例えば見る人を傷つけるような強い模様は、ずっと使っていたら疲れてしまうと思います。そうではなくて、点と線は健康的で、ずっとそこにあってもいやじゃない、そばに置いておける、日常に溶け込むような模様を作っていきたいなと。私は自分が育ってきた中で見てきたものって、そんなに特別なものではなくて、きっと誰かも同じような体験をしてきたんじゃないかなって思うんです。だから、その誰かにとっても自分の体験を感じられるような模様になるといいなと、そんなことを考えながら模様を作っています。

ーーーありがとうございます。そんな想いをもって作られる点と線さんの模様、完成するまでの工程を教えていただけますか?
岡:これはなかなか長い道のりです……。まず生地が生まれる工程としては、どんな模様を作るかというアイディアに基づいて原画を描くことから始まります。その時、力強い模様ならクレヨンを使ったり、透明感のある模様なら水彩を使ったりと、模様に合わせて画材を選びます。原画は、絵と違って全部描ききらなくても、模様にとって必要な部分ができていれば途中でやめて次の工程に進むようにしています。次はパソコンに原画を取り込んで、ひとつひとつ、パーツに分割して、模様が繰り返しになるように送りを作っていきます。そうして図案が出来上がったら、工場の方にお渡しします。その後も、どんな生地にどんな色の糸で刺繍をするか、どんな色で図案をプリントするか、色の作業などがあります。

アトリエの引き出しに並んだ、色のかけら

ーーー模様のアイディアは、どんな風に考えているのでしょうか?
岡:どんな模様にするかは、生地を作るその時に考え始めるというより、普段の生活の中から生まれて、頭の片隅に持っているものを原画に書き起こすイメージです。なにか特別な風景やモチーフがあるのではなく、普段の生活の中で、自分がふっと反応する出来事であったり、そういうことをずっと頭の片隅に持っていて、そこから模様を作っていきます。

ーーー特別な風景やモチーフはない、ということですが、模様を作るためにスケッチや写真を残されたりはするのですか?
岡:スケッチも写真も残さないんです。模様は事実をそのまま描こうとすると作りにくくなってしまう気がします。自分で見た世界を形や色に置き換えて図案化していくことだと思っています。なので言葉で整理してみたりします。例えば「ギザギザな葉っぱが隙間なくびっしりとある様子」など言葉で置き換えると特徴が抽出されて模様の特徴が浮かび上がってきます。そういう、モチーフとなるものの気配を残しながら、風景や題材を整理するように考えていきます。

ーーー模様は絵とは違うんですね。
岡:そうですね。私は絵を描いているという感覚ではありません。模様は何かに使われるために作るものなので、あくまで材料として絵を描くんです。そして材料として描かれる絵は役割を持った“図案”になるので、私はそれは絵ではないと思っています。私は線も花も描きますが、絵ではなく図案として接しています。でもいつか絵のように図案を描いてみたいです。

ーーー岡さんの模様作りは、どんな場所で行われているんでしょうか?
岡:アトリエはごく普通で、本に囲まれてミシンや道具や画材が並ぶところです。ずっと自宅兼アトリエで仕事をしているので、生活の隣にある場所の方が落ち着くんです。なので仕事をしながら家事もしますし、家の中の生活と垣根なくやっていきたいと思っています。家じゃない場所に仕事場を構えて仕事をして、と言われたら絶対に無理だと思います……。模様を作る時、落ちつかなくて考えがまとまるまではコーヒーを飲みに立ったり、洗濯をしたりと席を立ってしまうんですが、そういうことをしながら時間が無くなってくると、不思議にいつも模様作りがスタートして、作る方に没頭できるんです。

アトリエの本棚
時には切り絵でも模様を作られる岡さん。引き出しには、カッターなどの道具も並びます。

ーーー模様を作る上で、インスピレーションを受けていると感じるものはありますか?
岡:ラジオだと思います。インスピレーションというか、きっかけをくれるものでしょうか。仕事をする時によく聞いていて、AMが好きです。音楽2割とお話し8割、全国からのお便りで「日常でこんなことがありました」というのを聞いていると、自分がそのお便りの内容を体験しているわけではなくても、自分の記憶の引き出しを開けるきっかけになります。季節のお便りを聞いて「そういう季節になったんだ」と思ったり。夏休みにやっている子供向けのものとか、ああいったものも好きです(笑)。

ーーー私も毎年楽しみにしています(笑)。ラジオがきっかけになっているんですね。
岡:そうなんです。あとはAMのラジオはゲストでいろんな職業の方がお話しされるので、自分ではひとつしか体験できないようなことを10も100も聞かせてもらえて、想像の羽が広がります。

もみじ市と歩んできた作家活動

ーーーもみじ市には、作家活動を始められた2008年からずっと参加していますよね。はじめてのもみじ市は、どんな印象でしたか?
岡:とにかく圧倒されました。お客さんがあんなに沢山来ると思っていなかったので……。並べていたものも本当に手作りのものばかりですぐに無くなってしまって、2日目をどうしよう、と困ったのを覚えています。1年目はまだ生地を作ることができていなかったので、自分の手刺しのミトンや鍋つかみ、模様の切り絵の原画カードなどを販売していました。

ーーーこれまでにどんな経緯があったのでしょうか?
岡:活動1年目は、商品を置いてもらったり、イベントに出たりするために自分で営業に回っていたのですが、2年目からはもみじ市がきっかけとなって、そこで知り合った方のお店に置いてもらったり、デザインのお仕事を頂いたりするようになりました。生地を作ることができた2年目のもみじ市では、どうやって売ったらいいのかわからず手探りだったのですが、お客さんが喜んで買ってくださる様子を見て、「この活動を続けられる」と確信して、3年目、4年目を迎えました。3年目は初めて刺繍の生地を作って……という風に、4年目までは1年1年が違うことへの挑戦の繰り返しでした、

ーーーもみじ市からご縁が広がっていったんですね。
岡:そうですね。1年目のもみじ市で蒔いていった種がずーっとつながって、今の活動まで続いているのだと思います。

ーーー「生地を作りたい」という思いが初めにあったということですが、それ以外のアイテムについてはどう考えているのでしょうか。
岡:点と線模様製作所は、今も以前も、そしてこれからも、生地の切り売りをしていくことで、生地としての模様を提案することを軸にしていたいと思っているんです。ただ、その生地を使って何かを作ることに慣れている方もいれば、慣れていない方もいらっしゃるので、「何を作ればいいのかわからない」「自分では作れない」というお客さんに向けてアイテムの形でもお届けしています。なので複雑な小物はあまり作っていなくて、ハンカチや定番の形のバッグのような、「こういうのだったら私も作れそう」と思ってもらえる形を意識しています。なかなか、もみじ市のように小物と生地の両方を一緒に販売することができる機会は少ないのですが、出来上がったものと生地、2つのつながりが見えるようにありたいと思っています。

ーーー今やもみじ市を初めとした手紙社のイベントでも大人気の点と線模様製作所さん。プロの作り手になるためには、何が必要だと思いますか?
岡:私は生地を作って販売するために、誰かを参考にしたわけではなかったので、「人に使って欲しい」「使って喜んでもらえるようなものが作りたい」そういう思いが一番大事だったのではないかと思っています。9年前を振り返ってみて、例えばどこかの模様を作るところに就職してから独立したほうがよかったのではないか。オリジナルの生地を作って売っているお店の店員として生地の売り方を学んでからのほうがよかったのではないか、とも思うことはあるのですが、そうしていたら今の私はなかったかもしれないとも思うので、やっぱり思いが一番なのではないかと思います。

ーーー岡さんにとって、もみじ市というのはどんな場所なのでしょうか?
岡:拠点、というとおかしいんですけれど、私は手紙社さんのスタッフではないのですが、いつも成長させてもらっている、頼もしい存在だなと思っています。あともみじ市に限らずなんですが、布博も蚤の市も、いっつも立ち上げるテーマがすごいなって思います。「こういうイベントこれまでなかったな」って思うものばかりなので。きっとみんなで決めたというより、すっごく個人的な誰かのやりたいがいつしかみんなの「いいねやりたい!」になってるのかなって思っているんですけど……。本当にどのイベントも、たくさんのボランティアスタッフさんも、荷物を運んでくれていたり、お客さんもすごい人数の方がいらして、それが怪我とかもなく始まって終わるということにいつも驚いています。

ーーー岡さんにそんな風に思っていただけて、光栄です。最後に、今回のもみじ市、新作があるとの噂ですが、どんなものか教えていただけますか?
岡:ケミカルレースで作ったストールピンと、ピアスやイヤリングといったアクセサリーを出したいと思っています。可愛くできていると思うので、見に来てくださいね。

ーーー岡さん、ありがとうございました! 新作アクセサリー、とても楽しみにしています。

〜取材を終えて〜
実は手紙社を知る以前から、岡さんの作る模様が大好きでした。夏の布博から引き続いての担当、張り切ってこれまでに書かれた点と線さんに関するインタビューなどを読み、ドキドキとしながら迎えたインタビュー当日。実は最初、お話を伺いながら、「あれっ?」と思っていました。点と線さんといえばと沢山の方が思い浮かべるであろう、北の大地も、大自然も、あまり登場してきません。けれど模様作りに対する岡さんの想いを聞いているうちに、こうやって生まれてくる模様だからこそ、北の大地を持たない多くの人たちにも愛されているのだと感じました。特別ではない、誰かのものになっていく模様。お話を伺って、日々優しくそばにいてくれるような点と線さんの模様が、よりいっそう身近で温もりを持った存在に感じられたのでした。
(手紙社 本間火詩)

【もみじ市当日の、点と線模様製作所さんのブースイメージはこちら!】
岡さんの手によって生み出される美しい模様と出会いに、ぜひブースに遊びに来てくださいね。