【PROFILE】
花生師・岡本典子。Tiny N主宰。園芸生活学科卒業後、イギリスへ留学。花コンペティションで多数の優勝や入賞を果たす。現在は雑誌、TV、広告の撮影を中心に、展示会・パーティー装花、店舗ディスプレイ、講師、イベント出店など多方面で活躍中。誰かへの贈り物だったり、思いを伝える時など、花はあらゆる場面で私たちのそばにあるもの。岡本さんは、その有り難みを誰よりも大事にしている。もみじ市では、頭を花器と見立て、生花を即興で生ける。花と人が一体化することで、心のみならず、からだ全体がエネルギーに満ち溢れるのだ。
http://www.tinynflower.com
【商品カタログ予習帳】
頭に花を生ける(写真:小野田陽一)
【スペシャルインタビュー「花、そしてプロとは」】
花生師・岡本典子さんに、柳川夏子(手紙社)がお話を伺いました。
一輪挿しから始めてみたっていい
ーーー花や植物に興味を持つようになったきっかけを教えてください。
岡本 小さい頃、祖父が趣味でやっていた庭で一緒に遊んでいるうちに、自然と興味を持っていったように思います。植物の名前を覚え、直接見て触れて。
ーーーお祖父様はどんな方だったのですか。
岡本 とてもハイカラで、おしゃれな人でした。手入れをしていた庭や畑がまるで絵本に出てくるような、とても素敵なものでしたね。
ーーー幼少期から、近くに花や緑があったのですね。岡本さんにとって花とはどういった存在ですか。
岡本 花とは、与えた以上のものを返してくれます。人間の生活にとって重要な「衣・食・住」のなかに、花は含まれていません。余裕があれば買うといった贅沢品のような印象がありませんか。
ーーーそうですね。花がある生活に憧れますが、なかなか手を出せないといったイメージは少しありますね。
岡本 例えば、プロポーズする時やお葬式などあらゆる場面で使われていますよね。花の有り難みに、皆さんあまり気づいていないように思います。いつだって私たちのそばにあるんです。いきなり部屋にたくさんの花を飾らなくても、一輪挿しから始めてみたっていい。そうした方が小まめに水を変えやすいですしね。
ーーー私自身、恥ずかしながら花瓶を持っていなくて、飲み物が入っていたビンとかに花を入れてしまうんですが、そういったものでも大丈夫ですか…?
岡本 大丈夫です。花瓶にささなくても、食器にお花を生けてもいいと思います。また、花を生けた小瓶を丸いトレイにまとめると1つの世界観ができて、それもまた良いですよ。最近、私は食卓に花を添えるのを気に入ってます。
ーーー食卓に?
岡本 お気に入りのお皿に食事をのせて、その周りに姫林檎といった小さいりんごを転がして置くんです。私はそれを転がしりんごと呼んでいますが。そうすると丸い球体が、お皿とお花を繋いでくれて、テーブルの上にまとまりができます。
ーーーなんとも素敵な食事の時間ですね!
岡本 料理は特別凝ったものでなくてもいいんです。見た目からおいしいと、体全体でも更においしい。そうすると体に一体化している感じがありますよね。朝ごはんは大好きな家族と過ごす時間なので、大事にしたいと思っています。
相手の望むものを超えなればいけない
ーーー花の仕事に携わる前は、どこか学校で学ばれていたのでしょうか。
岡本 短大の園芸学部に進学し、花の魅力にハマってしまいました。卒業後にはイギリスへ留学し、現地の花屋さんで働きながら、国家技能資格を取得して、帰国しました。
ーーー帰国後は?
岡本 友人の繋がりで様々な仕事をしながら、2002年頃からお店をオープンしました。お店を持つというのは面白かったです。どんな人がドア開けて入ってくるかわからない。常連さんであれば、全く知らない初めましての人がいきなり入ってきたり。人との繋がりが広がっていく感じでした。
ーーー現在もお店を続けられているのですか?
岡本 しばらく続けていましたが、お店は閉めました。現在は、アトリエでワークショップを行ったり、TVや広告の撮影、展示などフリーで仕事をしています。
ーーー仕事をしていく上で、岡本さんが大事にしていることはなんでしょうか。
岡本 相手が持つワクワク感を裏切ってはいけないと思います。むしろ、超えなければいけない! と思っています。またクライアントが望むものと自分が表現したいもの、そのバランスは大事ですね。どこまで自分の色を出すのか。
ーーー言われた通りにやるのは誰にでもできますし、選んでもらえたからこその責任感がありますよね。
岡本 そうですね。また、お花は生ものなので、直前になるまでどんなものを仕入れられるかハッキリわからないんです。欲しいものを仕入れられなかった、その時が重要ですね。どうするのか、試される瞬間です。
ーーー「プロ」としてやっていくには何が必要だと思いますか?
岡本 1人のプロとしてみてもらうには、年齢と実績が大事なのではないかなと思います。
ーーー年齢と実績? 経験を積むということでしょうか。
岡本 そうですね、一つの技術を持ったものとして自信を持つ、貫禄のようなものが必要だと思います。例え、立派な資格を持っていたとしても、それをアピールしたり掲げたりはしない。そもそも作品を認めてもらえないと駄目ですし、現場で直接見て、学んで、様々な技術などをどんどん吸収すべきです。
ーーー頭だけでなく、身体を使って学び、それを身につけていくという。
岡本 現場でこそ生まれる感性や、人との繋がりがあります。そして場数をふんでいけば、経験も引き出しも増えますよね。そうすれば何か想定外のことが起きたとしても、柔軟に対応できるはず。あと、手を抜くというわけではありませんが、力の入れ所、抜き所の加減も意識するべきだと思います。
ーーー多くこなさなければいけない時など、特にその加減が大事になってきますよね。そして、様々なジャンルのプロが集まるもみじ市ですが、他の出店者さんはどういった存在でしょうか。
岡本 出店者もお客さんも、全員がもみじ市を盛り上げるための一員ですね。みんなが本気で、一緒にもみじ市を作り上げていると思います。頭に花を生けることで、会場の至るところに花を咲かせていきたいと思います。
ーーー今回、一押しポイントはありますか。
岡本 先ほどお話ししたように、当日用意できるお花は仕入れによって変わるので、私自身も直前までわからないんです。もみじ市ではその日だけのお花たちが並びますので、どうぞ楽しみにしてくださいね。
ーーーありがとうございました! 今年も河川敷に、花と笑顔をまとった人々が多く現れることでしょうね。
~取材を終えて~
様々な現場で活躍している岡本さんに、プロというものについてお話を聞くのはとても緊張しましたが、どの言葉も重みがあり、私自身とても貴重な時間となりました。花や家族について話す時の柔らかい印象と、仕事へのまっすぐな姿と、どちらも魅力的で、とても美しかったです。インタビュー後、義姉へのプレゼントに岡本さんのスワッグを購入しました。喜ぶ顔が早く見たくて仕方ありません! もみじ市では、即興で頭に花を生けていく姿を、指先を見れるのが、とても楽しみです。 岡本さん、素敵なお話をありがとうございました(柳川夏子)