【Chappoプロフィール】
浅草橋の帽子職人の家に生まれる。当初、帽子職人を志してはいなかったが、紆余曲折し4代目となりました。初代は帽子洗いの仕事から始まり、2代、3代目も、それぞれのやり方で帽子に関わり、帽子を作り続けてきました。4代目の須田さんもまた、3代目のご両親とは違うやり方で帽子を作っているそう。「“職人”でも“作家”もない、ただ帽子を作る人でありたいと思っています」と静かに語るその姿には、深く帽子に向き合う強い信念が見えました。
https://www.chappo.co/
【商品カタログ予習帳】
『月刊 Chappo』記事一覧
7月号『Chappoが育った風景』
8月号『Chappoの帽子修理』
9月号『Chappoとuzuraのコラボレーション〜uzuraの帽子作り〜』
10月号『Chappoとuzuraのコラボレーション〜Chappoの靴作り〜』
【月刊 Chappo 7月号】
特集「Chappoが育った風景」
職人の街、職人の家
Chappo・須田さんの実家は、浅草橋で明治時代から続く須田製帽という帽子店。1代目である須田さんの曾祖父が立ち上げ、2代目の祖父の代の頃は、住み込みの職人を複数抱える、自宅兼工場を構えていました。
須田製帽の、そして須田家の歴史について、須田さん曰く
「父(3代目)は5人兄弟の3番目の子供で、2人の姉と職人のおばちゃんに育てられたそうです。祖母はお酒が大好きな祖父の世話で忙しかったようで……。でもその祖父(2代目)も、帽子に向き合う姿はとてもひたむきで、とにかく帽子がすきだったんだなぁと、しみじみ思います。」
当時の貴重な写真を今回お借りしました。工場と生活が密接だった当時の暮らしが窺い知れます。
昔の実家の前での一枚。
須田さん一家と住み込みの職人さんとの集合写真。様々な年齢層の職人が、家族同然に過ごしていたそうです。
須田製帽の社員旅行での一枚。明治から大正、昭和初期にかけての日本人男性にとって帽子は正装のアイテムだったそうです。
須田さん自身が幼少の頃も、住み込みの方はいないにせよ、毎日通ってくる職人が作業に打ち込む姿を目にしていました。地元の浅草橋は、様々な工場や工房が集まった、ものづくり文化が根付く職人の下町。同級生の家も、家業で町工場を経営し、父親が職人という環境が馴染み深かったそうです。そのため、大人になって、「父親≒サラリーマン」がとてもポピュラーであり、自分の育った環境はとても珍しいものだったとだということを知って驚いた、と笑います。
屋号である、chappo=「シャッポ」の由来には、心温まるエピソードが隠されていました。
「帽子のことは フランス語でchapeau=『シャポー』と言うらしいのですが、曾祖父が『シャッポ、シャッポ。』と言っていたのを思い出し、名づけました。」と。
今回、須田さんの家族の歴史とも言える写真を見せていただき、須田製帽(初代〜3代目)から、Chappo(4代目)へ、脈々と引き継がれる帽子への情熱と、家族のつながりを感じました。
今月の1枚
颯爽と帽子をかぶって、馬に跨る、若き日の祖父の乗馬姿。
【月刊Chappo 8月号】
特集「Chappoの帽子修理」
くたびれた帽子も、かたちの崩れた帽子も、Chappoの手にかかれば……?
新たな帽子を作る一方で、 Chappoは帽子の修理(リペア)も手掛けています。 大量に生産され、シーズンごとに展開、消費されるファッションアイテムの帽子が世に溢れている一方、須田さんの元には、様々な理由でお直しが必要になった帽子が届きます。洋服や靴の修理(お直し)は馴染みがあるけれど、帽子の修理? と思ったあなた、須田さんの修理にかける想いをぜひご一読ください。
今回ご紹介する修理依頼された帽子は、2013年に作りはじめたカンカン帽。
約5年間、毎夏使用されていたため全体的に形が変わっていることがわかります。持ち主の方が言うには、長年愛用していて「クタッとしてきたかな」と思っていた矢先、風で飛ばされて車にはねられてしまったのだそうです。大きく形が崩れていたことから「結構濡れてしまいました?」の問いかけに、「実は……海にも落ちてしまいました」と打ち明けた持ち主の方。果たして、この帽子は甦るのでしょうか。
今回の修理の工程は、大まかに4つ。 年数も経っているので、全体的にお直しが必要な状態でした。
1:縫製をほどく
まずは全ての縫製をほどきます。全体に帽子用の糊をつけ、乾かします。
2:型の入れ直し
作った時と同様の工程で木型に入れ、成型します(お直しには同じ木型が必要なため、Chappoで製作したもの以外はお直しを受けていません)。周りを紐で縛り、素材を蒸しながらアイロンの熱で形を固定していきます。 そのまま1日乾燥。
3:糊付け
完全に乾いたら帽子用の糊を塗り、乾かします。型から外し、糊付け→乾燥、を2~3回繰り返し、形を固定させます(帽子の糊が取れてくると、柔らかくなり形が崩れやすくなります)。
4:仕上げ
もう一度木型に入れて形を整え、ミシンで内側部分に一周、スベリ(サイズを固定したり、汗止め・汚れ防止の役割)を縫い付けます。表側の飾りリボンは手縫いで付け、再度軽く型入れをして細かな部分を整えていきます。
乾かす時間もいれると少なく見積もって2日弱かかります。このお直しの作業の中でも特に 1番最初の、縫製をほどく工程に最も気を使うそうです。「素材が傷ついたりしないか慎重に目打ちなどで丁寧にほどいていきます」と須田さん。
上記の工程を経て、帽子の修理が完了します。 Chappoでは木型を使う型入れの帽子のお直しと、布で作られた帽子のお直しと、両方を行なっています。
須田さんは修理の魅力をこんな風に語ります。
「どうやったら綺麗に直せるのか考えながら直していく時に、普段帽子を作っている時には思いつかなかった縫い方を思いついたり、その素材の特徴が新しく見えたりするのが面白いと感じます。作るよりも、直す方が時間も手間もかかりますが、お直しには一つ一つに破れたり形が崩れてしまった理由と同時に、これからもかぶりたいから直して欲しいという気持ちがあって、それがとても嬉しいです」と。
そしてこう言葉を続けてくださいました。
「お直しをする理由の一つには、帽子に使う素材や編み手さんが年々減少しているということ、加えて、昔に比べ素材の質が下がってきているということもあります。一つの帽子をずっと大事にしていくのは、なかなか難しいことだと思いますが、帽子はお直しをすることで思っているよりずっと長くかぶれます。家具のメンテナンスと同じで、凹んだところも水を含ませれば治っていくように、少しくたびれた素材でも水を含ませてあげれば素材が元気になり、型入れすることで帽子として凛々しく蘇ります。お直しの際に飾りのリボンの色や雰囲気を変えたり、かたちには制約はありますが違う木型に入れて変えてみることだって出来ます。だから今の自分に合わせて、帽子も変化をさせながらかぶってもらえたら。いつかお直しのワークショップが出来たら楽しいだろうなぁとも想像していて。その時は、Chappo以外の帽子も要相談にはなりますが、一緒に直してみたいです」。
熱を込めてお直しについて語ってくださった須田さんに、お直しで特に印象に残っていることをお聞きしました。
「お受けしたお直しはどれも印象的なのですが、最近受けた“祖父が被っていた帽子を自分でも被りたいので直して欲しい”というもの。全てを直して欲しいのではなく 、芯が折れてしまったツバの部分はそのままにして、帽子としてかぶれるように直して欲しいという依頼でした。渡された古いハンチング帽子は表面はあまり古く感じられなかったのですが、内側はさすがに古くなっていて、糸も弱くなり縫製がほどけて、ボロボロになっている箇所もありました。直すところ、そのままにするところ、そのバランスを考えながら古びた帽子の独特の雰囲気を壊さないようにお直しをしました。 その帽子はおじいさんの思い出と共にこれからもかぶっていただけるようになって、僕も嬉しくなったんです。もともと自分で作った帽子ではなくても、お直ししていくと帽子がどんどん凛々しくなっていくので愛着は芽生えていきますし、帽子の技術が少しでも役に立てるという嬉しい発見もありました」。
過去に作った帽子が、時を経て再び“発見”の機会となる修理。何十年も愛されたのち、新たな持ち主に引き継がれる喜びに立ち会える機会となる修理。作り手である須田さんも、持ち主の方も、そして帽子自身にとっても、もしかしたら購入したとき以上の喜びと驚きが生まれるワンシーンなのかもしれません。
(編集・柴田真帆)
《次号予告》
Chappoとuzuraのコラボレーション
【月刊 Chappo 9月号】
特集「Chappoとuzuraのコラボレーション〜uzuraの帽子作り〜」
uzuraのお二人の、帽子作りの様子をお届けします。今回はuzuraさんが文章を書いてくださいました。
今回のchappoとuzuraのコラボは、
Chappoが靴を作ってみる
uauraが帽子を作ってみる
というのをやってみました。
今回のもみじ市のテーマはDISCOVERY、
お互いに発見できたことがたくさんありそうだな。
帽子作りと靴作り、共通しているのは「木型を使う」ということ。
木型を使うといっても、きっと使い方は違うのかもしれない。
どんな道具を使うのかな、どんな方法で形を作って行くのかな。
妄想が膨らみました。
uzuraが帽子を作る体験をするのは初めて。
材料の買い出しから一緒に連れて行ってもらいました。
色んな素材の色んな形の帽子の材料が倉庫のようなお店に、た〜〜〜くさんありました。
その中から、おさむ、ひろみ、それぞれが作りたい素材を選ぶ。
と言っても我々には知識がないので、Chappoの二人に相談しながら一緒に選んでもらいました。
まだ作っていないのにすでに面白い!楽しい体験でした。
実際に作ってみると、本当に知らないことがたくさん。
一番印象的だったのは、『蒸す』というのがとても大切だということ。
蒸した素材を木型に合わせて伸ばしていく際に、蒸しているから伸ばすことが可能になっている。
靴では革を蒸す、ということは無いので、面白かった。蒸して伸ばしてを繰り返し、帽子の素材が
どんどん木型の形になっていきました。この作業は『型入れ』と言うらしく、すごく力が必要!
おさむは大体自分でできましたが、ひろみはほとんどシャッポくんの力を借りることになりました。
それから数日置いて、今度はすべり(帽子の内側のちょうどおでこに触る部分)をつけたり、
ツバを縫ったり、リボンをつけたりしました。
ミシンだったり手縫だったり。縫い方も知らない方法だったりで、とても勉強になる!
靴と一緒で完成が見えてくる感覚はとてもワクワクでした。
今回は木型を使って作る帽子でしたが、木型を使わない帽子もあるみたいで、
それはきっと型紙が面白そうだな〜と想像します。
いつかわがままを言って、木型を使わない帽子も作らせてもらいたいな、と思っています。
初めての帽子を楽しく作らせてくれたChappoの二人、見守ってくれたふわちゃん、ありがとう!
“ものづくり”の魅力は、ジャンルを越える様子が伝わってきますね。来月号では、Chappoがuzuraのもとで靴作りに挑戦した模様をお伝えします。帽子作りと共通する手順や作業はあるのでしょうか!?果たしてどんな発見が生まれるのか、乞うご期待!
(編集・柴田真帆)
《次号予告》
Chappoとuzuraのコラボレーション〜Chappoの靴作り〜
【月刊 Chappo 10月号】
特集「Chappoとuzuraのコラボレーション〜Chappoの靴作り〜」
今月号では、Chappoの靴作りの様子をお届けします。今回はChappoの須田さんが文章を書いてくださいました。
uzuraさんの工房に伺い数日かけて靴作りを体験させていただきました。
工程の多い靴作りは大変! ということで、Chappoは2人で1足の靴を作らせてもらうことにしました。
uzuraのお二人のご指導のもと、初めて使う道具や機械にあたふたしながら、
惜しみなく繰り返される手間隙に、こちらは感心するばかりでした。
帽子作りにはない、漉くや削るといった作業に新鮮な気持ちになったり驚いたり。
中でも”釣り込み”という、木型に合わせた革を、底部分に引っ張りながらひだを作って貼っていく作業は技術と力の加減が重要で難かしかったです。
“ワニ”と呼ばれる専用の道具も、最後までなかなかうまく使えなくて、おさむさんに助けていただきました。
そうしてゆっくりと形になり、6日間かけてなんとか完成まで辿り着けました。
uzura さんの靴作りは、お客様の話をじっくり聞いて、作る。
その人の足の形に合った靴を、その人の為に一つ一つ作っています。
「靴作りの作業に追われる中、 uzuraが靴を作る意味って何だろう? と思って、途中から今のような形にしたんだよー」
と、ひろみさんに教えてもらいました。
“一人一人の要望に合わせた靴作り”、そのハードルの高さを考えると簡単に手は出せないと思っていましたが、
オーダーで作るというのは、作り手側の作る面白さがギュッと詰まっているということも知りました。
工程一つ一つを楽しむよう作る、ひろみさんの人柄のおかげというのも大きいと思います。
「靴のオーダーに来てくれる色んな人の話を聞いて作っていると、だんだんとね、デザインというのは大事なことだけど、
“その人の足に合っていること”の方が優先的になってきたりするんだよねー」と、おさむさん。
靴と帽子。どちらも装飾品という側面を持った実用品です。
歩きやすさ、使いやすさを考えて、靴を履くその人の視点に立ってモノを作っているuzuraのお二人には、まさに脱帽!
おそれいりました。
修理に来た靴を眺めながら、まだまだ改善点を探る二人の姿は、とてもかっこよかったです。
自分の仕事を見つめ直させてもらった貴重な体験は、時間の流れも心地よく、なんだかやる気が湧いてきました。
uzuraのおさむさん、ひろみさん、タビくんありがとうございました。
今度は靴の修理も体験してみたいです。
「デザインというのは大事なことだけど、“その人の足に合っていること”が優先」というuzura・おさむさんの言葉と、「手を離れたら、使ってくれる人に馴染む帽子を作りたい」というChappo・須田さんの帽子作りの信念。2回にわたってお届けしたそれぞれの製作過程を通し、お二人のもの作りは根底で似通っているように思いました。材料も道具も工程も異なる帽子作りと、靴作り。使い手への想いは、きっと共通しているのだと感じた、Chappoとuzuraのコラボレーションでした。
(編集・柴田真帆)