【feltico 麻生順子プロフィール】
羊毛花作家。羊毛フェルトと布花による花・植物モチーフを中心としたアクセサリーを制作。日常の「きゅん」と心をくすぐるものや、瞬間をカタチにしたいという想いから、温度を感じられるものづくりを目指す。小さなブローチから、ウエディング、アーチストへの衣装アクセサリー提供をはじめとするオーダー1点ものを手しごとで日々制作。屋号の「feltico(フェルティコ)」は「フェルトのこども」の意味を持ち、ひとつひとつ時間をかけた手しごとは想いのこもった自分の分身、というところから付けた造語。
子どもの頃に草花に触れて感じた「きれい」という素直な感激を、ただただ羊毛フェルトで再現しようとしていることが活動の源と語る麻生さん。花にまつわる思い出や、作品へ込める想いを語ってくださる麻生さんがまさに、凛と咲く花のような存在です。
http://www.feltico.net/
【商品カタログ予習帳】
『月刊 feltico』記事一覧
7月号「過去・今・未来を行き来するスイッチ~シロツメグサ~」
8月号「庭先や散歩道の花~ミモザ・白木蓮・ビオラ・ポピー~」
9月号「花摘みのブローチ」
10月号「花嫁」
【月刊 feltico 7月号】
特集「過去・今・未来を行き来するスイッチ~シロツメグサ~」
作品が持ち主にとっての「過去・今・未来とを行き来するスイッチ」になれたら、と語る麻生さん。このスイッチは、作品を手に取ることで、ふと懐かしい記憶を思い出したり、物語を想像したり、ありふれた日常に少しだけ特別な花が心に灯るような気持ちが芽生えるきっかけのこと。過去を思い起こすことは今の自分を知り、未来の自分を想像することでもあります。この「月刊 feltico」では、毎号1つずつ、スイッチとなる花(作品)を紹介します。
今月はシロツメグサ。felticoのシロツメグサをモチーフにした作品は、花びらや葉の先端の細かな質感、染色を重ねた独特の色合い、花の香りまでしてきそうな佇まいです。野原に咲いていた姿がそのまま、この作品に生まれ変わったよう。
こどものころ、公園や原っぱでシロツメグサを摘んだり、花かんむりを作ったりした記憶がある人は少なくないはず。一方で、その記憶自体はおぼろげに残っていても、日頃思い出すことや、そのディテールが頭に浮かぶことはなかなかない……。
ところが、この作品を目にし手に取ったとき、思い出すことのなかった記憶の細部がふわりと甦るのか、その、こどものころのエピソードを共有してくれる方が多いのだそう。例えば、摘んだ小さな花束を母親に渡したこと、花かんむりの輪を結ぶのに苦心したこと、摘むと夕方にはくったりと首がうなだれてしまう花に切なさを感じたこと。そんな思い出を話してくれる方の表情は、キラキラと輝きを増し、その人“らしさ“が垣間見える瞬間でもあるのかもしれません。身近に咲くシロツメグサだからこそ、ささやかだけれども、実はかけがえのない思い出と共にあるのでしょう。
今月の花々
このリボンの、なんとも言えない味わい深さのあるグリーンは、1本ずつ麻生さんが手染めをすることで生まれました。「緑色でもなく水色でもなく、何年も陽に当たって淡く色褪せてしまったようなビロードのリボン、そんな感覚の色を目指しました。」(麻生談)
(編集・柴田真帆)
《次号予告》
「庭先や散歩道の花」
【月刊 feltico 8月号】
特集「庭先や散歩道の花~ミモザ・白木蓮・ビオラ・ポピー~」
麻生さんが作り出す花々は、どれも記憶の1ページや日々の暮らしの中からインスピレーションを受けています。
例えば、ミモザ。麻生さんのご自宅の玄関先には立派な枝ぶりのミモザがあります。
年に1回の約束を守るかのように、毎年丸くて黄色い花を咲かせるミモザ。そんなミモザを慈しむ気持ちから生まれた作品がこちら。
ニードルで刺す工程を見せてもらったときに作ってくれた、一輪のミモザ。ふわふわの羊毛が瞬く間に密度を増して、黄色の球体になる様子に驚きました。
そして、白木蓮。麻生さんの家の近所には、それはそれは大きな白木蓮の木が。何か悩みがあるときにはこの白木蓮の元に足を運び、胸中をそっと打ち明けるように見上げ、幹に寄り添っていたそう。そのおおらかな枝ぶりや、上向きに咲く白い花は、そのときの胸のつかえや悩みをそっと溶かしてくれるような力を持っていました。日が暮れた後に満開の白木蓮を見に行くと、暗闇の中で輝き、まるで白い花自体に光が宿っているようだったそう。そのなめらかで大ぶりな花びらを思い返して作ったのがこちら。
ところがある日突然、この白木蓮との別れが訪れます。久しぶりに足を運んだ麻生さんが目にしたのは、なんと残された切り株。病気だったのか、それとも何らかの事情で伐採となったのか、理由が全くわからないだけに、やりきれない気持ちばかりが募ります。麻生さんの記憶には、くっきりと焼き付いている満開の白木蓮。手を動かして白木蓮を作る度に、あの気高い姿が思い起こされるのです。
それから、ビオラにポピーといった季節ごとに庭に咲く花々。麻生さんのお母さんはよく、小学校に向かう麻生さんに「教室に飾ってね」と、庭の花を摘んで持たせてくれたそうです。咲いた花を庭で楽しむだけではなく、“おすそわけ”の気持ちで、皆に楽しんでもらいたいというあたたかいお母さんの気持ちの表れでした。
>幼少期から、花を身近に感じながら育ったことが今の活動の源になっているそうです。実際の花をじっくり観察して制作しているのかと聞くと、意外なことに花よりも葉や茎を重要視しているとのこと。葉の先の反り具合、茎の太さや長さ、どの花もその花“らしさ”を支えるのは、花びらや花弁ではない、というのは驚きでした。
今も麻生さんの庭では四季折々の花がやさしげに揺れ、その花に囲まれて、羊毛花が一輪ずつまた咲いていきます。
(編集・柴田真帆)
《次号予告》
特集「花摘みのブローチ」
麻生さんが年に何度か開催しているワークショップがあります。それは「花摘みのブローチ」。その内容は、麻生さんが手掛けた花を参加者が自由に選び、オリジナルのコサージュやブローチに仕立てるというもの。材料となる花や葉は、ニードルフェルトや布フェルト、型抜き、染色、コテあてを施した布花と羊毛を組み合わせ。全て麻生さんがひとつひとつ丁寧に作ったものです。
幼い子どもも、歳を重ねた大人も、色とりどりの素材を目の前にすると、夢中で手を動かすそう。散歩道や野原で、花を摘んでうる風景を彷彿とさせる光景が会場に広がります。あれこれ組み合わせやバランスを見ながら花を手に取る人、「ピンクと黄色が大好き!」と好きな色で直感的に選ぶ子ども。そして意外なことに、ご夫婦やカップルでの男性参加者もこのワークショップにはいらっしゃるそう。
「お互いに言葉を交わしながら花を選ぶ方々も、それぞれ黙々と花と向き合う方もいますが、出来上がった手のひらの花束を嬉しげに見つける姿は、いつも幸せな気持ちで満たせれる瞬間です。花を摘む、という原体験がこのワークショップで蘇ってきたのか、“そう言えば昔こんなことがあって……”と思い出話をしてくださることもあります。そんなとき、私の羊毛花が“過去・今・未来とを行き来するスイッチ”になれたのかもしれない、と本当に嬉しくなります」と麻生さん。
野原で摘んだ花は限られた命ですが、お花摘みのブローチは手元で凛と咲き続けます。「枯れない花を作りたかった」と語る麻生さんの想い。その想いの元に作られた羊毛花は、眠っていた記憶を呼び起こし、今を彩る力を持っています。
(編集・柴田真帆)
《次号予告》
特集「花嫁」
麻生さんはオーダーメイドで花嫁のための髪飾りも作っています。一人の女性の輝く瞬間を彩る、特別な品にかける想いをお聞きしました。
「ウェディングの髪飾りのアイテムとして、花冠、コサージュ、カチューシャ等を作っています。お一人ずつオーダーメイドで受けるので、可能な限りお会いして色々お聞きするのがモットーです。不思議なことに、依頼主と待ち合わせすると初対面にも関わらず、人混みの中でも大体すぐに分かるんですよ。花嫁さんって皆さん光をまとっているようなオーラがあって、ぴかぴか輝いてるんです! ヒアリング時は、まずどんな花が好きなのか、どんな花を入れたいか、お聞きします。その花によって、その方がどんな風に自身を見せたいのか、なんとなく伝わってくるんです。例えば、芍薬やダリアなど大輪の花がお好みな方は、華やかなイメージ。かすみ草やスズランは、可憐で楚々としたイメージ。その花をベースにイメージを膨らませます。イメージを膨らませるときに欠かせないのが、他のウェディングアイテムの情報。特にドレスは何度も写真を見せてもらいます。後ろのトレーンの長さや、スカート部分のボリューム感等、ドレスの試着の度に写真を送ってもらうことも。花嫁さんがドレスを決めるまでの過程を私も一緒に楽しませてもらっています。それから髪型です。スタイル、ヘアアレンジ、そのボリューム感、トータルでバランスが取れるように、髪飾りが調和するように気をつけますね。
意外かもしれませんが、会場の広さや、式のスタイルもお聞きします。広い会場の場合、遠くからでも見えるか、ガーデンウェディングならナチュラルな雰囲気にまとめた方がいいか……。私への依頼は髪飾りではありますが、ウェディングを構成する要素の一つとして、花嫁のその人らしさを演出するアイテムでありつつ、なにより調和することを念頭に置いています。まるで、結婚式にまつわるあれこれ世話をやく親戚の一人、みたいな存在かもしれませんね。」
花嫁へのオーダーメイドをライフワークにしていきたいと語る麻生さんと一緒にこれまでのオーダーメイド品と、それを身に着けた花嫁の写真を眺めていると、思わず「花嫁さんこそが、一輪の“花”のような存在ですね」とぽろりと言葉が出てしまった柴田。その一言に、「ウェディングを迎えたお嫁さんは、本当に咲き誇る花のようなんです。そう思うと、“花嫁”って本当にぴったりの言葉ですね! 花嫁のための花を私は作っているんですね」と麻生さん。この会話から、「なぜ花嫁を“花”嫁と言うのか」と、ひとしきり盛り上がりました。調べてみるとその由来はいくつかあるものの、2人で共感した由来を紹介します。それは、人の一生を「花」に例え、生まれる時が「芽吹くとき」、そして花嫁として美しい時が「花を満開に咲かせるとき」、その花嫁は家族という実を実らせていく、という説。
「この由来を聞くと、自分の手がけるものが、花である新婦をより輝かせる、幸せの象徴になるようなものであってほしいと改めて実感しました。人生のハレの日のためのアイテムを手がけることは、本当に背筋が伸びる仕事です! これまでにも、花摘みのブローチで知り合った方が、旦那さんとなる方ともみじ市にも来てくれ、その後、結婚が決まった際には髪飾りのオーダーを受け、数年後には子どもを連れて再びもみじ市へ、なんてこともあるんです。羊毛花を通して生まれたつながりが、さらなるつながりを連れてきてくれています。人生のワンシーンに立ち会えて、その後の人生にも関われることもある。ウェディングの仕事はずっと続けていきたいと心から思います」と、麻生さんは語ります。
麻生さんが手掛けた髪飾りを身に着けた花嫁は、きっと幸せで満ちた“今”を胸に刻み、今を支える過去を振り返り、それに続く未来を歩んでいくに違いありません。そう思うと、麻生さんが思い描く、「作品が持ち主にとっての“過去・今・未来とを行き来するスイッチ”に」という願いは、まさにその通りの役目を担い、果たしているのだと感じました。
(編集・柴田真帆)