【キノ・イグループロフィール】
日本中のカフェや雑貨屋、書店、ブーランジェリー、美術館などのさまざまな空間を、世界各国の映画を上映しながら演出してゆく移動映画館、「キノ・イグルー」。120年におよぶ映画史をくまなく紐解ける博覧強記なまでの映画愛が屋台骨にありつつ、どこか彼らのディレクションがいわゆるシネフィル(フランス語で映画通、映画狂)のそれとは一線を画すのは、映画そのものに対する論説ではなく、彼らがどこか映画との出逢い方をこそ慈しんでいるから、ではなかろうか。誰と、どこで、どんなふうに――つまり、映画と出逢うこととは、人生の愉しみそのものなのだと。
http://kinoiglu.com
『月刊 キノ・イグルー』記事一覧
7月号 ロマンティーク2018
8月号 ロマンティーク2018
9月号 ロマンティーク2018
10月号 ロマンティーク2018
特集「ロマンティーク2018」
「いい映画を観ると、観終わったあとって余韻が残るじゃないですか。それって、どう面白かった、って言葉で説明できないから余韻が残る、と思っていて。だからシンプルに人と場所と映画を言葉にならないような感覚でつなげる、体験してもらうってところに行き着いて。そこからしか見えない風景がやっぱりあるんですよね」(有坂)
コンテンツのあらすじそのものではなく、映画との出逢い方をこそディレクションする移動映画館、「キノ・イグルー」。有坂塁さんと渡辺順也さんの二人が運んでくるのは、ライフスタイルをちょっとだけ洗練させる気の利いた小道具としての映画、ではない。映画という装置を通じて誰だって世界と繋がれると信じさせてくれる、じつにエスプリの利いた力強い“生”へのエール、なのだ。
では彼らがいかにしてかくなる視座に至ったかをアナライズするならば、それは映画にとどまらずさまざまなカルチャーの荒野を無尽に駆け抜ける、勇敢な知の冒険者だったからにほかならない。はたして彼らにとってのマスターピースともいえる4冊の書物の頁を繰った先に描かれていたのは、先達が見た知の過去と現在、そして未来だった。
◯小西康陽/『ぼくは散歩と雑学が好きだった。小西康陽のコラム1993-2008』
90年東京発の音楽シーンをエレガントに彩った渋谷系サウンドの最先鋒、ピチカート・ファイヴのリーダーにしてプロデューサー、編曲家の小西康陽によるコラム、レコード評、インタヴュー、対談、鼎談、映画レヴュー、惹句、日記ほかを精選したヴァラエティ・ブックの2冊目。「19歳からさまざまなカルチャーを吸収してきましたが、なかでも強烈に影響を受けているのが小西康陽さん。音楽はもちろんのこと、それ以上に彼が綴る言葉と、ものごとを見る視点に、時制とジャンルのフラットな超え方をこの一冊から教わった気がします」(有坂)
小西康陽
『ぼくは散歩と雑学が好きだった。小西康陽のコラム1993-2008』
朝日出版社・2008年
(編集・藤井道郎)
特集「ロマンティーク2018」
伝えたいのはあらすじそのものにあらずーー有坂塁さんと渡辺順也さんによる、映画との出逢い方をこそディレクションする移動映画館、「キノ・イグルー」。彼らが映画という装置を通じて、誰だって世界と繋がれると信じさせてくれる術を手にしたのは、誰よりも自身たちが映画と、そして世界と本気で向き合おうとしたからであって。
◯増田喜昭/『子どもの本屋はメリー・メリーゴーランド』
面白い本に出逢ったら人にも勧めたい、すごい人と出逢ったらみんなにも逢わせたい。子どもも大人も巻き込んで、豊富なアイデアで人生の愉しみ方を伝えていく、そんな子どものための本屋「メリーゴーランド」を営む店主・増田喜昭による本屋術。「ぼくたちが本を面白いと思うのは、ぼくたちが生きてその本に向き合っているからであって。本が一方的に面白いわけじゃない。そんなことを教えてくれた一冊。映画も同じだと思う」(有坂)
増田喜昭
『子どもの本屋はメリー・メリーゴーランド』
晶文社・2001年
(編集・藤井道郎)
特集「ロマンティーク2018」
特定のジャンルやタイトルというより、映画という体験そのものを楽しんでもらいたい、そんな初期衝動にも似た無垢なイノセンスに導かれ移動する映画館、「キノ・イグルー」。そんな彼らの眼差しは、真実を見抜く力を持った透徹した“子どもの目”そのものであり、その瞳に映る風景はそれがどんな世代に向けて当て書きされたものかなどという大人の都合を一笑するように、またしても圧倒的に純粋で。
◯河合隼雄/『<うさぎ穴>からの発信――子どもとファンタジー』
戦後日本を代表する心理学者にしてユング派分析家・河合隼雄による、児童文学についての論考、解説を編んだもの。<ファンタジーと切り離された時、我々は機械と類似の存在になる>として、大人にこそ児童文学の有用性を強く説いている。「ぼくはなぜだか昔から人の心にとても興味があるのですが、この本は児童文学を心理学の視点で読み解くという、楽しくて興味深い一冊。冗談好きでチャーミングな河合さんが大好きなんですよね」(有坂)
河合隼雄
『<うさぎ穴>からの発信――子どもとファンタジー』
マガジンハウス・1990年
(編集・藤井道郎)
特集「ロマンティーク2018」
人と場所と映画を言葉にならないような感覚でつなげ、そこからしか見えない風景を映し出してゆく移動映画館、「キノ・イグルー」。日本中のカフェや雑貨屋、書店、ブーランジェリー、美術館などのさまざまな空間に変幻自在に投影されるそのフィルム・ディレクションの手さばきと所作は、回を重ねるごとにこの上なく鮮やかなロマンティシズムに満たされてゆき。
◯永井宏・編/『ロマンティックに生きようと決めた理由』
湘南・葉山に構えたアトリエ「サンライト・ギャラリー」を拠点に、誰にだって表現はできる、という“ネオ・フォークロア”という思想・哲学を標榜、集った若き才能たちをバックアップした美術家・永井宏の編によるエッセイ集。「堀内隆志さん、根本きこさんなど、この豪華メンバーに、こんな素敵なタイトル。ロマンティックに生きたい、と願っていた当時のぼくにドンピシャだった一冊。あれから12年、ぼくもロマンティックに生きています」(有坂)
永井宏・編
『ロマンティックに生きようと決めた理由』
アノニマスタジオ・2006年(新装版)
彼らは気づいているのだろう、心が通じる瞬間のコミュニケーションとは、とてもシンプルだということ。そして、そうすることでしかそこに血は通わない、ということに。だからこそ、今年も彼らはあの河川敷へとやってくるのだ。日々の活動でも「もみじ市でしか使わない」という、あのロマンティックで眩しいブルーをまとったテントえいがかんとともに。
(編集・藤井道郎)