【古書モダン・クラシック】
オンラインの古書店「古書モダン・クラシック」。店主の古賀大郎さんが男性向け、妻の加代さんが女性向けの本をセレクトしています。古書だけに捉われず、古い紙ものやマッチ箱など使われていた当時を感じさせるものを取り揃えています。SNSが一般的になり、だれでも気軽に情報を得られる時代に、すぐに手に取れる新本ではなく一期一会の出会いがある古書の魅力を人々に伝えています。手紙舎の店舗にある古書も、すべてモダン・クラシックさんによるセレクト。手紙社西調布基地・EDiTORSで開催している古本イベント「3days Bookstore」の立役者でもあり、「コアな古本好き」にも「素朴な古本好き」にも楽しんでもらえる場を作っています。
http://www.mc-books.jp
【月刊 モダン・クラシック 7月号】
特集「人生を変えた本」
オンラインの古書店「モダン・クラシック」を営む店主の古賀大郎さんと加代さん。常に本に囲まれた生活をしている、根っからの本好きであるお二人。その二人がお勧めする本とはどんなものなのか、みなさん気になりませんか? そこで今回は「人生を変えた本」というテーマで、大郎さん加代さんの思う一冊をお互いに紹介してもらいました。はたして、人生に影響を与えた本にはどんなエピソードが隠されているのでしょうか。
大郎:小学生くらいまでは何でも出来て、怖いものなんてないと思っていた。所謂やんちゃな少年だったけど、中学生にあがるとそれが激変したんだよね。急に周りのことが気になりはじめて、大人の言うことや将来のこと、人の考えとかが途端にわからなくなった。今思い返せば「思春期」という言葉で片付けられる時期だったけど、常に不安な気持ちでいっぱいで、映画とか音楽とか色々なものに手を出して助けを求めてたね。そんな時出会ったのが本だったんだ。周りの言うことが嘘に聞こえてきて仕方なかった時に、本には真実が書かれている、そう実感した。心情、思考、出来事、そこにはありのままのことが書かれていて、何に悩んでいるかわからなかった自分にスッと手を差し伸べてくれた存在のように思えた。頭がおかしくなるんじゃないか、そこまで深刻に思っていた思春期に、まさに求めていた答えが本にはあった。
このリルケの書いた「ドゥイノの悲歌」に出会ったのも悩みが多い時期だった。はじめは何を書いているかわからなかったけど、何度も読み返しては気になる言葉を調べ、そしてまた理解を深めていきどんどん世界を掘り下げていった。強さ、美しさ、儚さ、そういったものが文字という枠組みを超えて感じられた一冊。この本があったからこそ、自分というものを肯定でき、さらに本の世界へと推し進めてくれた。まさに人生を変えた一冊だね。
加代:17年同じ会社に勤め事務の仕事をしていましたが、本当にやりたい仕事かと言われるとそうではなかったんです。何がやりたいとかは無くて、でもそんな中、唯一本を読むことは好きで、本を買いに書店にはよく通っていました。あるとき、手に取った本に感動したんです。それがこの「暮しの手帖」。あの朝ドラのモチーフにもなった大橋鎮子さんが編集を勤め、花森安治さんが装丁を手掛けた初期のものが特に好きだったんです。何といってもその装丁に一目惚れしてジャケ買いをし、中を読み進めていき更に感動しました。
この写真に写る61号の最初の特集は“入院しているひとを見舞うときに”というものなんですけど、お見舞いに行くときに喜ばれる道具やお土産を、貰う人の視点になってしっかり考えられたラインナップで紹介されているんです。ユニークな内容でしょう。単なる商品紹介じゃなくて、人を労わる気持ちとか優しさが丁寧な文章で書かれていて、当時こんな雑誌は他には無いって思いました。
雑誌から熱意というものを感じ取ってからは、さらに本に没頭するようになって、30代半ばあたりからオンラインの古書店というものが流行りはじめてからは、これだ! って思ったんですね。気づいたときには自分もその道でやっていきたいと思うようになって、長年勤めていた会社に辞表を出してました。本を仕事にしていこうと思えたきっかけ、それが暮らしの手帖です。
いかがでしたでしょうか。二人の人生観そのものを変えてしまう出会いが、この本たちには隠されていました。それまで自分の中で燻っていたものがなんだったのか、本が教えてくれたのですね。さて次はどんな本を紹介してくださるのか、乞うご期待!
(編集・上野樹)
【古書モダン・クラシック 10月号】
特集「これまでの古書モダン・クラシック、これからの古書モダン・クラシック」
前回まで店主の古賀大郎さん、加代さんの思い入れの深い本を特集してきました。次に紹介する本の取材に伺った私は、到着するなり突然大郎さんから「これまでの古書モダン・クラシックは、今回のもみじ市で最後になると思う」という衝撃的な発言を聞かされました。「最後とはどういう……」と呆気に取られる私に、大郎さんはその真意を伝えてくれました。予定していたテーマを大きく変更し、その言葉に隠された意味を追っていきます。
まず、この話をするために古書モダン・クラシックと手紙社の関係をお伝えしようと思います。元々もみじ市の前身となる「花市」というイベントに参加してくださったのが、私たちと古書モダン・クラシックとのはじまりでした。それからは手紙社のイベントに参加してくれたり、各店舗の古書をセレクトしてくれたりと、古書にまつわるものは古賀さんの力がなければ成立しないものばかりでした。
また、今年の春には西調布・EDiTORSで古書店だけを集めたイベント「3days Bookstore」を開催し、厳選された本と店主の個性的なテーマで、魅力的な空間をつくってくださいました。もみじ市や東京蚤の市を飛び出し、古書だけを扱うイベントとしてははじめての試み。そこで感じた古本好きの人々の生の声を聞くことで多くのことを感じたそうです。また、ひとつの店舗ではできないいくつものお店が集まることで生み出される化学変化というのも、新しい発見だったと言います。取り扱うアイテムも古書だけでなく、戦前のポストカードやマッチ箱、版画で刷られた蔵書票など古い紙ものも新たに取り入れました。
古書モダン・クラシックは今年で設立12年になります。長年古書だけを扱ってきて、ここへ来てがらりと古書店としての方向性が変わったそうです。3days Bookstoreというイベント、もしかしたらもっと前からかもしれません。目に見えない変化の要因が大郎さんの中に溜まっていき、ドカン、といきなり何かが弾けたそうです。
蛹から蝶になるように、今まさに古書モダン・クラシックは孵化しようとしている真っ只中にいるのです。これまで選んできた大郎さんの男性向け古書、加代さんの女性向け古書の集大成を、このもみじ市で見せたいと思っているそうです。「その変化の現場がこのもみじ市であったこと。よりたくさんの方に見てもらえることを嬉しく思います」と大郎さんは仰います。
これからは古書も扱いながら、ひとつのジャンルにとらわれることなく、古いものをメインとした様々なチャレンジをしていくそうです。その“新”古書モダン・クラシックは秋の東京蚤の市で少しだけお披露目できれば……と予定しているそうです。といってもこのもみじ市も見逃せません。大郎さんと加代さんの12年分の審美眼が光る古書を、ぜひこの機会に手に取ってみてくださいね。