【Mellow Glassプロフィール】
瑞々しく柔らかい光をまとう、幻想的な街並みを硝子オブジェで紡ぎ出す作家「Mellow Glass」タナカユミさん。粘土を型にする“パート・ド・ヴェール”と呼ばれる伝統的なガラス技法で、一つの型から約二ヶ月かけてただ一つだけ産み落とされる作品たちは、どれもはかなくもあたたかな生命の明かりを灯しながら、寄り添うようにどこかに在るはずの神秘の景色、パッセージ(一群)を形作っている。その独特の技法そのものが物語るとおり、そこには一人に一度しかないからこそいじらしくも愛おしい、人々の営みそのものへの想いがほんのりと宿っている。
https://mellowglass.tumblr.com
【商品カタログ予習帳】
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月の舟
『月刊 Mellow Glass』記事一覧
7月号 植物と作品と暮らすということ
8月号 植物と作品と暮らすということ
9月号 植物と作品と暮らすということ
10月号 植物と作品と暮らすということ
特集「植物と作品と暮らすということ」
昼にベットにいくジャック
ぼくは昼の12時になると眠るのだ
ねる時がすぐくるから
ぼくはとても忙しい
なにしろ12回 フッ!と吹く
その合図でぼくの花は かたく閉じるのさ
朝のうちだけぼくの花をみることができるよ
CICELY MARY BARKER『Jack-go-to-bed-at-noon』
7月の朝の散歩道
黄色い花を咲かせているバラモンジン
ずっとこの時を楽しみにしている花のひとつ
2時間だけ花を咲かせるという黄色い小花は
ジャックの妖精のうたによると12回
閉じたり咲いたりをするそう
そのあとに
直径10cmを超える大きな綿毛となります
この美しい綿毛の虜となった私は
毎年7月の朝の散歩道を一番楽しみにしているのです
「キバナバラモンジン(黄花婆羅門參)」は高さ60~70センチ、Mellow Glass・タナカユミさんが暮らす長野では7月ごろに茎頂に黄色い頭花を咲かせ、そのあと大きな綿毛となる植物。その根茎は「ブラックサルシファイ(西洋黒ゴボウ)」と呼ばれ、薬用・食用根菜としてヨーロッパでは利用されているのだとか。
野に根を張り静かに強く息づく、かくも気高く美しい植物たち。そんな自然そのものと共生しながら生命を吹き込まれるMellow Glassの作品群に宿る、光の源を紐解くための全4回のレッスン「植物と作品と暮らすということ」。タナカさんの眼差しの向こう側に、その煌めきの秘密がきっとあるはず。
(編集・藤井道郎)
【Mellow Glass 8月号】
特集「植物と作品と暮らすということ」
自然そのものと共生しながら生命を吹き込まれるMellow Glassの作品群に宿る、光の源を紐解くための全4回のレッスン「植物と作品と暮らすということ」。一つの型から約二ヶ月かけてたった一つしか作品が産み落とされないという“パート・ド・ヴェール”という手法は、そのプロセス自体を慈しむタナカさんにとって、あるいは必然だったのかもしれない。
硝子と日々むきあう
硝子はヒンヤリとした素材
わたしは
長い制作過程を経て
硝子が作品のカタチとなって完成するとき
あたたかくて
ぬくもりのある硝子をつくりたいと思っています
わたしの作品は
技法でいうとパート・ド・ヴェール(仏・Pate de verre)という技法になります
本来は色彩豊かな硝子の色粉を作品に練り込んでいく技法なのですが
わたしは
表面に硝子の色粉を使い
硝子本体には主に硝子素材そのままをつかっています
この技法は長い制作過程となるのですが
その過程も時間も大切にしたいと思っています
そんな彼女が真冬の大地の上で出逢ったのは、天から舞い降りた大きな大きな綿毛の原体である、つる性多年草「ガガイモ」。絹のように柔らかく輝く光沢に魅せられ、彼女はその存在が神々しく描かれる神話に導かれることに。
わたしの住んでいるところは
雪はあまり降らないのですが
冬は地面の奥底から冷え外気温はマイナス15度
大地はカチカチに凍りつき
春が訪れても 地面が溶けるまで時間がかかります
あるときの冬の寒い朝のこと
凍りついた地面の上に
大きな大きな綿毛がポツンと舞い降りていました
その綿毛の美しいこと
絹のような光沢をもち
直径は3cmほど
一瞬にしてこの美しい綿毛の虜になりました
寒い冬に
この綿毛はどこから飛んできたのだろう…
それからというもの
綿毛の原体探しの日々
その正体がわかったのは春がやってきてから
「ガガイモ」
わたしはこのガガイモの研究をはじめることにしました
ガガイモは古事記にも出てくるほど
古くから記されている植物です
古事記を書いた人のそばにガガイモがあったのでしょうね
神話のなかでは
ガガイモは日本をつくる神様を乗せる舟として出てきます
この時期は緑色のガガイモが
秋になり葉を落とし
ツルとサヤだけになります
冬になり薄茶色になりサヤが二つに割れて
絹のような美しい綿毛を飛ばします
この小さなサヤの舟に神様が乗っていたとは
“パート・ド・ヴェール”という手法にたどり着いた必然も、まるで学者のごときそんな求道心も、彼女にとっては等しく地続きなのであろう。つまり、ただただ自然の前でどこまでも純粋で誠実であらんとすることこそ、二つとしてないそれぞれの営みを祝福するたった一つの術である、と知っているのである。
(編集・藤井道郎)
【Mellow Glass 9月号】
特集「植物と作品と暮らすということ」
Mellow Glassを紐解くための全4回のレッスン、「植物と作品と暮らすということ」。いつもの散歩道にふと気づいた大きなアザミに、今日まで非日常だった日常を見出すこと。その足取り軽やかな熱狂こそが、彼女の掌から創り出される“パート・ド・ヴェール”のシルエットの瑞々しく柔らかい所以、なのかもしれない。
いつもの散歩道
見たこともない大きなアザミの花がポツンと1本咲いていました
花の直径は8cmほど
コロンとした丸いカタチ!
何とも美しい濃いピンク色
ガクはアーティチョウークのよう
はじめてみる種類のアザミに大興奮したことを
今も覚えています
美しくてガクや葉のトゲトゲまで紫で美しいこのアザミ
わたしは家にかえってから
制作もせず調べる調べる調べる
この勢いでは
わたしはアザミ学者になるに違いないと感じる
ものすごい勢いでした
それは
美しいアザミの姿から
そうさせられたのでしょう
ダイニチアザミと思われる
日本の高山帯でみられるアザミの一種
アザミ種の詳細の判別は
葉っぱの切れ込み方や形状でみるそうです
綿毛を撒いて
翌年葉がでてきたら
正式な名称がわかります
わたしを虜にさせたアザミはこのあとも美しい変化を見せてくれました
机の上に置いたアザミが
朝になるといきなりフサフサの綿毛になっていました
綿毛になるまでには
通常変化の工程があるのですが
アザミは突然花開くように個々の綿毛となりました
ちいさな頃から
野原に咲くアザミは日常の片隅のものでした
関心を抱くことがありませんでした
とても美しいアザミは
こうして綿毛まで魅せてくれました
秋の机の上の綿毛の様子は
まるで
冬のはじまりの雪とよく似ていました
(編集・藤井道郎)
【Mellow Glass 10月号】
特集「植物と作品と暮らすということ」
その眼差しの向こう側に、Mellow Glassが宿している煌めきの秘密を見つけ出したくて全4回に渡り繙かれたレッスン、「植物と作品と暮らすということ」。大きな綿毛もアザミも鶯の巣もヤドリギも、そのすべてを湛えた八ヶ岳の風景のなかで暮らし観察しものづくりをするということが「植物と作品と暮らすということ」であり、Mellow Glassの光の源だ、ということ。そのいずれかが欠けたとしても成り立たぬフラジャイルな瞬きは、畢竟にして一人に一度しかないからこそいじらしくも愛おしい、人々の営みという名の冒険にとてもよく似ている。
わたしのいつも眺めている景色は
目の前に広がる雄大な八ヶ岳
日々の景色として眺めています
朝日のでるまえ
空がコバルトブルーからオレンジ色に変わるグラデーション
空気が凛としていて
気持ちもシャキとする朝
散歩をすることがわたしの日課
植物や実もののパトロールも兼ねています
芽吹きの季節には
小鳥の巣をみつけたり
めずらしい花々をみつけたり
秋になると
カラマツの葉が黄金色になり散歩道は一面黄金の道に
葉っぱが落ち始めると
生い茂っていて見えなかったものが
見えるようになります
そして長い冬がやってきます
散歩道でみた植物や景色が
わたしの作品づくりのモトになっています
4回に渡り
こうして取り留めもなく綴ってみて
自然のなかの発見がわたしの心を虜にして
手を止めて観察することばかり
綿毛の核の部分の構造も
アザミの美しいガクの成り立ちも
わたしたちには作り上げることのできない
繊細で規則正しくデザインされたものだと
観察するたびに思います
モノづくりの時間が半分だとしたら
観察が残りの半分
観察から成り立つモノづくりなのかもしれません
今回のもみじ市のテーマ
「DISCOVERY」
新しい発見の旅の1つとして
「Circus」という作品をつくりはじめました
この夏から
少しずつお披露目しています
作品の全貌は
『もみじ市2018』でお見せしたいと思います。
「DISCOVERY」のグラフィックのなかに
Mellow Glass作品が2つ隠れています。
どこにあったか会場で是非教えてくださいね。
Mellow Glass
(編集・藤井道郎)