ジャンル:CRAFT,出店者紹介

緒方伶香

【緒方伶香プロフィール】
1969年生まれ。印刷会社のアートディレクションやアパレル会社でのテキスタイルデザインを経て、現在は羊毛を使った活動を行う。2007年よりもみじ市に出店しており、今年で11年目を迎える。ふわふわの羊毛を特殊な針で刺し固め出来上がるのは、どこかとぼけた表情が愛らしい動物たち。最近では動物だけでなくいろいろなものも作っているのだとか……。いったいどんなものを作っているかは、この連載でご紹介していくので、ぜひチェックしてくださいね!
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『月刊 緒方伶香』記事一覧

7月号 第1回 「糸を紡ぐこと、織ること」
8月号 第2回 「テキスタイルデザイン、イラストレーション」
9月号 第3回 「えんぎもんフェルト」
10月号 第4回 「羊毛フェルト」


【月刊 緒方伶香 7月号】
特集「羊毛だけじゃない!? 緒方伶香の魅力を大解剖!」

もみじ市や布博など手紙社のイベントで人気を博す、羊毛作家・緒方伶香さん。どうしても羊毛の手しごとの印象が強いですが、実は彼女の活動は多岐にわたります。今回のもみじ市では各方面で活躍する緒方さんの姿を4回に分けてご紹介していきます。

第1回 「糸を紡ぐこと、織ること」

▼糸を紡ぐ
もみじ市では羊毛を使用したワークショップを行っている緒方さん。ふわふわな羊毛から作るのは、動物だけじゃないんです! 糸も紡いでいます。今回は、いったいどのようにして糸を紡ぐのかを教えていただきました!

今回は緒方さんがお気に入りだというメリノ系の羊毛を使って糸を紡ぎます。繊維が細いのにも関わらず、弾力があるのが特徴で、真っ白ではなく、生成色なのも緒方さんが気に入っている理由のひとつ。弾力と張りのある羊毛のことを業界では「バルキー」と表現するそうですが、この毛はまさに“バルキー”なんだそう。

刈り取った羊毛の状態、グリージーフリースから直接紡ぐこともできますが、今回は、羊毛を棒に巻きつけて筒状にした「ローラッグ」という状態を紡ぐ様子を見せていただきました。

「ローラッグ」を作ったら、いよいよ羊毛を紡いでいきます。紡ぎ車は、小さなコマのようなスピンドル、足踏みの紡ぎ車などいろいろありますが、緒方さんが愛用している紡ぎ車はhansencraftsという会社の電動紡ぎ車「ミニスピナー」。洗練されたデザインもさることながら、機能も素晴らしく、とにかく場所を取らず早い! ということで、長年使ってきた手動の紡ぎ車に加え、今年から導入したのだとか。

 

静かにゆっくり回り始める「ミニスピナー」。回転と同時にローラッグ状の羊毛に撚りが伝わります。そして、ある程度溜まった撚りを、ゴムの様に引き伸ばして糸にします。この時、抵抗を感じながら羊毛を引き延ばし、更にしっかり撚りをかけることで、中にたっぷり空気を含んだ柔らかくも強い糸が完成。このような工程を経て出来上がった糸のことを「紡毛糸(ぼうもうし)」と呼び、メリノ種で作った紡毛糸は弾力があり暖かくちくちくしないので、セーターや帽子などを作るのに向いているのだとか。

現在、緒方さんは手動の紡ぎ車と電動の紡ぎ車を1台ずつ所有しているそうで、電動を導入してからはその手軽さの虜に! 冬にはこたつの上でもできるそうなので、今はすっかり電動紡ぎ車の気分なのだとか。

 

▼糸を織る

紡いだ糸を使い、織りも行います。この織り機は、緒方さんが木工職人さんに頼んでオーダーメイドで作ってもらったもの。初心者でも20分ほどあればコースターが織れる代物です。バイアス織りもできるこの織り機の説明紙も緒方さんのお手製。緒方さん自画自賛!? の分かりやすさです。コースターをたくさん作っておいて、接ぎ合わせてマフラーを作っても楽しそうです。

近年は、小さくて手軽にパッとできる機械にシフトチェンジしているのだとか。小さく手軽な道具が流通するというのは、それだけ糸紡ぎや織りが一般的になってきた証拠。その一歩先をいく、緒方さんの活動に今後も注目です!


第2回 「テキスタイルデザイン、イラストレーション」

▼テキスタイルデザイン

手紙社のイベント「布博」でも、羊毛フェルトのワークショップで出展いただいている緒方さんですが、実は布博の王道を行けるようなテキスタイルも制作しています。左の「お結びパンダ」は、上野の百貨店で催事をした際に作ったもの。この他にもパンダ柄のてぬぐいを作っており、消しゴムハンコで描くパターンの細かさにかなり苦戦したのだとか。右の「絶滅危惧種」ハンカチは、緒方さんが羊毛フェルトで作り続ける絶滅危惧種にピントを当てたハンカチです。今まで作ってきた動物たちを落とし込んだハンカチは、ただ可愛いだけではなく「この動物も?」と気づかせてくれる1枚。緒方さんの娘さん(高校2年生)のお友達にも大人気だそうです。

大学時代、染織を学んでいた緒方さんは、卒業後に子供服の会社でテキスタイルデザイナーとして活躍。昔から絵を描くことが大好きと語る緒方さんは、これからはテキスタイルデザインやイラストのお仕事にも積極的に取り組んでいきたい、と意気込んでいらっしゃいます。

 

▼イラストレーション

もみじ市ではいつも羊毛フェルトのワークショップを行ってくださる緒方さん。どんな動物にするか決める際は、まずイラストを描いてイメージするのだとか。羊毛のようにさまざまな色をブレンドしてイメージを膨らまします。

他には挿絵のお仕事も! これは緒方さんが参加する映画サークルの冊子に掲載されたイラスト。コラムとともに、映画の1シーンを描写しているのだとか。いつも見慣れている緒方さんのタッチと違い、新鮮です。


もちろん、著書の挿絵も緒方さん作。羊毛の品種ごとに羊を描いており、描き分けが難しかったのだとか。どのイラストもとてもリアルでイラストにスポットを当てても見応えがある一冊です。


第3回 「えんぎもんフェルト」

今まで羊毛を使い、絶滅危惧種の動物をつくるワークショップを行ってきた緒方さん。実は、最近は絶滅危惧種以外のモチーフも製作されていたのだとか。それは「縁起物」シリーズです! 今月発売したばかりの著書には、55種類の“えんぎもん”たちが羊毛で表現されています。しかも、この本には完成したモチーフの原寸大写真が載ったレシピが掲載されています。今回は、完成までに約1年半の期間を費やした新刊『えんぎもんフェルト(誠文堂新光社)』にスポットを当ててご紹介します。

この本をつくるきっかけとなったのが、湯島天満宮で手にした「鷽替え神事」の木鷽。ちょうど手のひらにおさまるシンプルなデザインの木鷽に心を奪われた緒方さんは、「羊毛フェルトで作ってみたい!!」という衝動にかられたと話します。それからというものの、古来から日本に伝わる形、デザインを調べたいという思いから、日本全国津々浦々、「えんぎもんを巡る旅」がはじまりました。

まずは、膨大な量の郷土玩具やだるま、こけしや神社の授与品などの歴史とご利益を調べるところからスタート。そのなかから実際にモチーフにするえんぎもんを選びます。次に、製作の許可取りに奔走。著作権のあるものは、編集者と手分けして、全て連絡を取って許可を取ったそう。

ここまできて、やっと試作へ。木や粘土、張子など、さまざまな素材で作られた作品を羊毛で表現するということは、製作をはじめてみると苦難の道のりで、途中「何故、羊毛で作るのか!?」といった根本的な疑問が芽生え、めげそうになったこともあったそうですが、縁起物に関わるたくさんの人から、その起源や物語、後継者不足の現状を伺ううちに、すっかり“縁起物”にはまってしまったのだとか。自分の身近にある素材“羊毛”を使って紹介しなければ! という一心で、なんとか完成させることができました。

今、街のあちこちで見かけるようになった縁起物。昔の人が作り出した造形物の魅力を、日本中で再認識しているようです。そして、そのカラフルで小さな姿には、家内安全から健康、子孫繁栄など「生きる」ための願いと力強さが込められています。「お守りや郷土玩具が生まれた時代や風土に思いを馳せながら、それぞれの願いにまつわる自分だけのえんぎもんをおおらかに作っていただけると嬉しい」と緒方さん。もみじ市の会場にも“えんぎもん”たちが登場!? どうかお見逃しなく!


第4回「羊毛フェルト」

最終回の10月号では、もみじ市当日に開催するワークショップについてご紹介。今回のもみじ市で作るのは、長年続けてきた“絶滅危惧種”でもなく、新作の“えんぎもん”でもなく……ニューフェイス“楽器”シリーズの登場です!

今年の4月、新所沢パルコで行われた手紙社の催事の際に、ワークショップを行った「マラカスこぶた」に続く第2弾。その名も「ギターライオン」! なぜギターライオンかというと、或るロックミュージシャンに影響を受けているのです。そのミュージシャンとは……昨年、30周年を迎え紅白にも出場したエレファントカシマシ。初めて行ったライブで、その歌詞と歌声に圧倒され、自分の耳を疑うほど感動したそうです。その10日後にはギターを買って練習していたという緒方さん。今回のもみじ市の打ち合わせで「もみじ市と音楽は切っても切り離せないもの」と話しており、そのなかでひらめいたのが「ギターライオン」でした。デザインを考えていくうち、タテガミには紡いだ糸をむしゃむしゃ刺して、ギターも持たせてと、どんどん私淑するロックミュージシャンに見えてきたそうです。かっこよくも愛嬌のあるライオンが出来上がりました!

今回のワークショップは、今までとちょっと違い、新刊「えんぎもんフェルト」で紹介した型紙の中で刺し固めていく方法で作ります。ライオンのたてがみも緒方さんが手紡ぎ糸で紡いだもの。何色もの羊毛をブレンドして、グラデーションが美しい毛糸を生み出します。そして、ライオンが抱えているギターも緒方さんのお手製! 練ったり彫ったりと、緒方さんの試行錯誤の末、出来上がりました。粘土を削って模った(かたどった)土台に、フランスの吹きガラスでできたヴィンテージビーズをレジンで固め、更にはブローチになっているのだそうです。今回初参加の方も、以前ワークショップにご参加いただいた方も、新鮮な気持ちで楽しめるワークショップとなっています。ぜひ青空の河川敷の下で、「ギターライオン」を作りませんか? もみじ市でお待ちしております。

(編集・鈴木麻葉)