【Renプロフィール】
京都に工房を構える金工作家の中根嶺さん。金鎚を使い金属を叩いて加工する「鍛金」という技法で、アクセサリーやカトラリー、オブジェにランプなど、暮らしを豊かにするようなモノを製作している。手の動きの一つひとつが確かに刻まれた金工作品は、無機質なのになぜか温かさを感じる。触れると壊れてしまいそうなほど繊細なものもあれば、ときに場の空気を変えるほどの力強さをも感じさせることもある。そんな様々な要素を孕んだ彼の作品を目の当たりにすると、ついつい目が離せなくなってしまうのだ。
http://ren-craftwork.com/
【商品カタログ予習帳】
葉型ブローチ (Silver)
四角のリング (Silver)
オーバルのペンダント (Silver)
大きな五角のピアス (Silver+gold foil)
アカシカ(銅+枝)
おたま スープスプーン(真鍮+洋白)
フォーク(真鍮+洋白)
白鳥(真鍮)
クジラとカモメのモビール (真鍮)
ランプシェード (真鍮)
ランプシェード (真鍮)
クジラのランプ (真鍮)
『月刊 Ren』記事一覧
7月号「旅と創作-ベトナムにて-」
8月号「旅と創作-白い景色-」
9月号「旅と創作-ふるさと-」
10月号「旅と創作-錆びゆくもの-」
いつもの日常を離れた旅先だからこそ、発見できる何かがあるのかもしれない。今回は、Ren・中根嶺さんが旅先で見つけたものや出会ったもの、そしてそこからインスピレーションを受けて手がけた作品をご紹介します。第1回目の旅先は、異国情緒漂う国・ベトナムです。
ベトナムにて
中根さんがベトナムを訪れたのは、2012年のこと。東京にある金工の会社で修行をしていた時期でした。
焼き物などの工芸も有名な場所なので、いつかは行ってみたいと思っていたのだとか。目覚ましい発展を遂げている部分もありながら、東南アジア特有の雑多な雰囲気がいまだに残っていて、面白く感じたそう。
そんなベトナムのマーケットで出会ったのが、水牛と思しき動物のオブジェ。パートのおばちゃんが作ったものを置いているような、お土産屋さんに転がっているところを発見したのだそう。人が持っている紐の先にも何かがついていたはずなのですが、取れてしまった状態でも販売するという大雑把なところもベトナムらしさ。
「独立して『何を作ろうか?』と考えている時に、このオブジェがたまたま目にとまりました。もともと修行時代は指輪しか作っていなかったのですが、自分の好きなものを作ろうと思ったきっかけとなったもので、普段は作業場の後ろにある棚に飾ってあります。」
こうして生まれたのが、Renの代表作のひとつとも言える動物のオブジェです。こちらのアカシカは最初に作った作品で、銅でできた身躯に枝をさすことで完成するつくり。その凜とした佇まいは、見る人を圧倒させるほどの美しさです。
(編集・藤枝梢)
白い景色
中根さんの旅先の写真の中に、度々登場する「白い景色」。今回は特定の国や街ではなく、“白”という共通点を持つ場所をご紹介します。
こちらは、群馬県と新潟県の境にある谷川岳。東京にいた頃によく登りに行っていた山なのだそう。山並みに沈む夕日が残雪に反射し、淡く色づいた白が美しい1枚です。
同じく東京在住時の休みの定番スポットだったという千葉県・金谷の港。横須賀から出ているフェリーで金谷に行き、再び横須賀に戻ってくることで、ちょっとした旅行気分になっていたのだとか。風や波によって、少しずつ変化していった跡が大地に刻み込まれています。
こちらは、雲海が立ち込める八ヶ岳。眺望が遮られてしまう雲や霧は一般的には敬遠されがちですが、こんな風景にこそ惹かれるのだそう。
最後の1枚は、北海道の雪景色。「元々そこにあったものの様子が分からないところが、想像力を掻き立てる」と語る中根さん。そんな彼の作品の中でも、特にアクセサリーは白を基調としたものが多く並びます。
これらの作品は塗装したのではなく、熱した後に急冷すると真っ白になるという、銀の特性を生かして作られたもの。
白と一口に言っても、無機質でクールな印象だったり、包み込んでくれるような柔らかさがあったりと、実に様々。ですが、どの作品にも共通するのは、金属本来の持ち味を大切にし生み出されたということ。白い輝きを放つアクセサリーは、身に纏う人にすっと馴染みながらも個性を引き立ててくれるのです。
(編集・藤枝梢)
ふるさと
今回は、滋賀県にある中根さんの生まれ故郷と、そこで過ごした在りし日のエピソードをお届けします。
目の前には澄み渡る川が流れ、周りには数多の樹木が生い茂る。そんな豊かな環境で育った中根さん。
陶芸家と織り工の両親が工房を構えるため、人里離れた場所に住んでいました。大自然のなかで、犬や猫、うさぎに鳥、さらには馬まで(!)、あらゆる動物を飼っていたのだそう。
こちらは家の中の写真。大きなリビングのみで自分の部屋がないことを嫌に思い、当時空いていた馬小屋を、自分の手で改装し始めた中学生の中根さん。木材などの材料を集めるところからスタートし、半年かけて念願のマイルームを作り上げたのだとか。
写真の左下にうつっているのが、改装前の馬小屋。「いざ、自分だけの部屋での暮らしを始めたのも束の間。屋根の隙間から入り込んだヘビが落ちてきて、恐くなりすぐに使わなくなってしまいました(笑)」
これらの原体験が、中根さんがつくりだすものに影響を与えているのでしょう。馬のオブジェは、実家で飼っていたこともあり「いつかは作ろう」と思っていた作品。線画がそのまま立体的になったかのようなつくりは、うつる影までも美しく、馬の悠然さが見事に表現されています。
(編集・藤枝梢)
【月刊 Ren 10月号】
特集「旅と創作-錆びゆくもの-」
錆びゆくもの
いよいよ最終回となった10月号。今月は、中根さんが旅先で出会った、“錆び”の風景をご紹介します。
赤く錆びたトタンの壁。ところどころ崩れ落ちている箇所も。
こちらは緑青の壁。雨に濡れることによって酸化し青緑色の錆になるため、雨水が垂れた跡が残っています。
中国の博物館を訪れた時も、館内の展示よりも外にある水がめに興味をそそられたという中根さん。時を経るごとに、少しずつ変わっていく金属の表情に惹かれるのだとか。
「経年変化によって生まれた、意図せぬ風合いに侘び寂びを感じます。そんな金属の様々な面を見せたくて、古いものが宿す魅力をあえて作品に落とし込んでいます。」
こちらは、金箔を施した「Boro」シリーズのアクセサリー。他にも、錆びた金鎚で叩いたり、銅版画の技法で金属を腐食させたり、試行錯誤しながら枯れた表情を出しているそう。身につけ共に時を重ねることで、味が出ていく様子も楽しむことができるでしょう。
(編集・藤枝梢)