ジャンル:CRAFT,出店者紹介

八重樫茂子

【八重樫茂子プロフィール】
神奈川県小田原市、自宅の一室の半分を占領するような大きな織り機を前に、日々を過ごす八重樫茂子さん。2000年の北欧への留学をきっかけに織りと出会いました。その楽しさに触れて以降、日本とスウェーデンで織りを学び、現在は日々織り機と向き合う毎日を過ごしています。彼女の作る作品は、暮らしの中で出会った好きなもの、心地よいと感じたものなど、「毎日の好き」が貯まってできた形。好きなものを源に、「楽しい!」と夢中になって織り上げる作品は、生き生きとした輝きに満ち、不思議と身につけた人の笑顔を引き出してしまうのです。
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【商品カタログ予習帳】

床マット


床マット


木枠シリーズ


ショール
緑色がカッコよく感じたら、止まらなくなって。大好きなショール

マフラー
雪がやんだら青空がきれいでした。ユキノソラ

がま口バッグ
あなたはどんな花畑を秘めているのでしょう。

ハンカチ
これを持っていたら百人力。と思わせるハンカチーフ。


『月刊 八重樫茂子』記事一覧

7月号 特集「ショールとマフラー」
8月号 特集「床マット」
9月号 特集「ピクチャーシリーズ」
10月号 特集「木枠シリーズ」



【月刊 八重樫茂子 7月号】
特集:ショールとマフラー

毎日織り機に向かい、「織りは日常」と笑って話す八重樫さん。彼女の手から生まれる作品は、日々の中で感じた“好き”が蓄積して生まれた“なんとなく”を形にしてできるのだそう。そんな本人にしか、いえ、本人にもわからない、彼女の感性と作品との関係性。それはいったいどんな風に作品に表れているのでしょうか? “八重樫茂子”の感性に迫るべく、彼女の作品の全貌をご紹介します。


八重樫さんの代表作といえば、きっと多くの人が一番にこの2つを挙げるのではないでしょうか。縦にラインの入った、小花の織り模様が愛らしいショールとマフラー。6月下旬から、翌年の3月末まで、間に他の作品も挟みながら、けれど1年の半分以上を、彼女はショールとマフラーを織って過ごすのだそう。似ているようで、違う二つ。形だけではなく、色や柄なども異なります。だけど実際、どんな風に違っているのでしょうか?

 

ショール
まだ作家活動を始めたばかりの、2008年頃から変わることなくずっと織り続けているというショール。きっかけは、自身の母に織ってあげたことなのだとか。幅広のショールは軽く羽織るだけでもふわりと暖かく身体を包んでくれます。

織り模様は2種類。主に織られている小花模様のほか、2016年のもみじ市から登場した「ユキノソラ」という模様があります。雪が止んで、晴れた青空のような美しい図柄です。

 


現在のカラーは全部で7色。一番最初に織った際は紫と緑の2色のみで、そこから少しずつ増えていきました。ここに並んでいるものの他、過去に作られていたカラーもあったそう。織り続けるかどうかはその年の感覚で決めるため、来シーズン同じ色が並ぶかどうかは彼女自身にもわからないのだとか。手に入る時期も10月のもみじ市の頃〜1月頃までだけだというので、気になる色と出会ったら、逃すことのないよう気をつけて。

 

マフラー


マフラーは、ショールよりも少し細身で、端のフリンジの丈が長いのがポイントです。ボリュームが出過ぎずさらりと巻けるので、男性にも愛用者が多いのだとか。


こちらも織り模様は2柄。ショールと同じ模様(上)と、小花のような模様が縦に並ぶ図案があります。8色展開の中で、この織り模様が使われているのは黄色のマフラー1点のみ。さりげない違いに遊び心が感じられてなんとも愛おしくなります。

 


現在使われているカラーは8色。マフラーは色鮮やかな緯糸だけでなく、経糸も白、ベージュ、グレーとさまざま。緯糸を途中で変えたバイカラー(写真右手の青と白、右から3点目のグレーと白のもの)などもあり、色遊びが楽しめます。「ショールとマフラー、同じ色は織らないんですか?」と尋ねると、それぞれにピンとくる色が違うのだそう。並ぶ図案や色柄が、そのまま八重樫さんの感性を映しているのかもしれません。

アイテム、図案、色などに対して、「満足すると織るのをやめてしまう」という八重樫さん。織り続けていると、「もう、これはいいかも」と思うタイミングがあるのだそう。そんな中でマフラーとショールは、八重樫さんにとっても特別な存在。こんなに長く織り続けているものは、他にはないといいます。「変化は突然だからね」と笑いながら、彼女は織り機に向かい、今年もマフラーとショールを織りはじめます。

 

八重樫茂子 今月の「好き!」
作品作りの源になっているという、八重樫さんの「好き」。今月のハイライトをお届けします。

最近ハマっているのは、Eテレ! 朝ごはんの時に見ているのだけれど、ピタゴラスイッチとか、何回見ていても飽きません。あと嬉しかったことはね、さくらんぼと枇杷。春頃に散歩をしていて、サクランボの木を眺めていたら、「食べてきな」って赤くて綺麗なサクランボをもらいました。そして先週、別のところを散歩していたら、枇杷の収穫をしているところに出会って、枝つきのまま、枇杷をもらいました。なかなかないでしょう。嬉しかったです。 (八重樫茂子)

(編集・本間火詩)

次号:床マット



【月刊 八重樫茂子 8月号】
特集:床マット

床マット
春から初夏へと差し掛かる季節。1年のうちこの時季にだけ、織り機には細く張りのある麻の糸が掛かります。緯糸にしっかりとした羊毛を通して出来上がるのは、ふっくらと立体的な模様の床マットです。この床マットの魅力は、経糸と緯糸の太さの違いによって生まれる立体感。羊毛を使った作品には冬のイメージがありますが、この床マットは経糸に使う麻がさっぱりとした表情を作り出すので、季節を問わず活躍します。ほんのりと汗ばむ7月の始めに取材に伺った際も、玄関先で涼しげな顔をして出迎えてくれました。

床マットは6、7年前から織り続けられている八重樫さんの定番品。こちらの大きな花模様は、制作初期から取り入れられているそう。実はこの写真の上部と下部の作品、どちらも同じ柄の表と裏なのに気がつきましたか? 大きな柄の床マットだからこそ楽しめるのが、このリバーシブルな表情の違い。経(タテ)と緯(ヨコ)、糸の太さの違いも相乗効果となり、裏返すだけで全く新しい顔が覗くのです。

 

鮮やかな暖色系をメインに織られている大花模様。バイカラーの切り替えに注目です。先月ご紹介したマフラーと違い、八重樫さんが「この辺かな?」と思ったところで自由に緯糸を変えるので、実は同じ色、同じ切り替えの作品は滅多に出来上がらないのだそう。同じ色の組み合わせでも、端っこで切り替えたり、中心の辺りで変化したり……時には1つの床マットの中で2回の切り替えをすることも。長さも少しずつ異なるので、お部屋のイメージにピタリとくるものを探してみてくださいね。ちなみにこちらの大花模様、八重樫さんから「そろそろ、いいかも?」といたずら気なつぶやきも。結果は、来年の春の八重樫さんのみぞ知る……。気になっている方、今年は見逃せませんよ!

4年ほど前から織られているというもう一つの模様は、表と裏でさらにググッと印象が変わります。整然と並ぶ格子模様が目立つ面と、ぷくりと浮かび上がる花柄の面。図と地の反転がよりはっきりと感じられ、まるで違った顔を見せてくれます。

萌黄色からはなだ色へのグラデーションが美しい、寒色系のカラーバリエーションは、どこか澄まし顔。こちらは単色のみで織られているそうです。

 

床マットは、年に一度、春から初夏にかけてまとめて1年分を織ってしまうそうですが、ショールやマフラーには使われない硬く“手強い”糸を用いた織り物なので、普段は小気味良い音を立てる織り機から、「ドスンドスン」という音が聞こえてくるのでは、と思ってしまうほどの体力勝負なのだとか。しかし、そうしてしっかりと織られた作品は、足元から毎日の暮らしを支えてくれるのです。

 

八重樫茂子 今月の「好き!」
八重樫さんの「好き!」を紹介するミニコラム。今月のハイライトは、夏の風物詩のようです。

最近の思い出は……、小田原の花火大会かな? 家から歩いて行けるんです。おにぎりや唐揚げ、ビールなんかを持って、夜のピクニック! 「みんなでバーベキュー!」なんてワイワイするわけではなく、ただ淡々と歩いて見るのだけど、人混みから離れてゆっくりと花火を眺める時間が、毎年8月にじんわりと嬉しいんです。川向こうの屋台のきらきらとした灯りを眺めたり、「近くを通る電車に乗っている人たちは花火を見れたかな?」って考えてみたり。派手なお祭りではないけれど、なんだか楽しいお祭りに、ささやかな贅沢を感じる夜でした。 (八重樫茂子)

(編集・本間火詩)

次号:ピクチャーシリーズ



【月刊 八重樫茂子 9月号】
特集:ピクチャーシリーズ

ピクチャーシリーズ

この1、2年“習い事”をしているという八重樫さん。「まだまだ日々苦戦してばかり」だという習い事から生まれた作品が、こちらの『ピクチャーシリーズ』。これまでの織模様とは違い規則性のない、まるで絵画のような作品は、八重樫さんの新たな一面を見せてくれます。

みなさんは、“織り”の模様が出来上がる仕組みをご存知でしょうか? 経糸と緯糸の組み合わせから生まれる模様作りは、予め色と並びを決めた経糸を全て張った後、1行ずつ緯糸を通していくことで織り進めていくため、計画性が大切です。複雑な模様を生みだすために、通常は図案を全て決めた上で慎重に綜絖(※)に糸を通していきます。縦と横、たった2方向の線の重なりから生まれる美しい織り模様は、緻密な計算の世界で成り立っているのです。そのため、糸の通し方、綜絖の動かし方を記した織り図が必要になるのですが……。このピクチャーシリーズには、なんと織り図がありません。簡単なラフを元に、少しずつ、少しずつ織っていくのだそうです。

※綜絖……経糸を上下させる織り機の部品。櫛状になっており、その隙間に経糸を通していく。基本の構造は、2枚の綜絖に交互に通した糸を上下させ、その間に緯糸を通していくことで織り進められる。綜絖の枚数が増えることで経糸の動きに変化が生まれ、様々な織模様を表現できる。

織り進めてはまた戻りを繰り返しながら織っていく作品作りには、大変な集中力が必要。大きなマフラーやショールを1日で織り上げてしまうという八重樫さんですが、コースターほどの大きさのピクチャーシリーズ1枚を仕上げるのに、丸2日はかかってしまうのだとか。「すごく楽しいからあっという間」と言いながらも、集中した面持ちで織り機に向かいます。


ピクチャーシリーズのラフは、全て八重樫さんの手描き。昆虫図鑑や植物図鑑を広げて描いていくそうです。「絵を描くのは不得意」との事ですが、気取らない線で描かれたモチーフはどれも独特の味わいがあり、眺めているだけで心を温めてくれるよう。

まだまだ挑戦の連続だという『ピクチャーシリーズ』。1枚のラフをもとに作る作品はたった1つだけのため、まさに一期一会。織り機で描いた“原画”とも呼べる作品です。これまでに織った作品は10点ほど。織り上げたらすぐにお店に卸してしまうそうなので、見つけた方は、ぜひお見逃しなく。画家の一筆のように、一織りずつ慎重に織り上げた作品たち。八重樫さんの心に留まったモチーフ、八重樫さんの描く線から生まれた1枚の絵画には、まさに彼女の感性が現れています。

八重樫茂子 今月の「好き!」
繁忙期真っ最中の八重樫さんを癒してくれるのは、日々の何気ない時間でした。

最近は、湯船に浸かっている時間がとても大事。私は毎日朝5時には起きて、6時前から織り機に向かいます。自宅で仕事をしている私にとって、お風呂に入ることは、その日の仕事を終えること。湯船に浸かることは、楽しみでもあり、身体を休めるために大切な義務でもあるんです。繁忙期に入ってぐんっと集中力が上がるのか、この時期は1日織っていると身体が疲れていることを実感します。その分、お風呂に入る時間が1日の中ですごく印象的な、大事な時間に。「さあお風呂に入ろう!」なんて嬉しくなります。(八重樫茂子)

(編集・本間火詩)

次号:木枠シリーズ



【月刊 八重樫茂子 10月号】
特集:木枠シリーズ
木枠シリーズ


この春、八重樫さんの作品に新たなシリーズが誕生しました。その名も『木枠シリーズ』。小さな木の枠に、1本1本釘を刺して、交互に糸をかけた簡素な手作りの織り機。そこにはふわふわと柔らかな緯糸が織りなす模様が描かれています。経糸と緯糸、そして自身の指だけで織り上がる、小さな作品。このオブジェのような作品は、どのようにして生まれたのでしょうか。

はじまりの織り機
「ずっと昔の、はじまりの頃の織り機ってきっとこんな風だったんでしょうね」。とてもシンプルで、小さな織り機を前にお話を聞いているうち、ふいにそんな言葉が出ました。「織り機」と言うと、今はつい大きく複雑なものを想像してしまって、初心者には手も足も出ない……そんな印象があるかもしれません。けれどこの織り機は、そんな固くなってしまった考えを解してくれるような簡素な姿をしていました。この織り機は、八重樫さんが小さなものを織ろうと思った時に、ショールやマフラーを織る大きな織り機が空いておらず、ふと「これでできるのでは?」と思いついたものなのだそう。「釘を打てばいいんだって気づいたの。織りって原始的なものなんだなって。きっと昔の人たちはこんな風に織りをやっていたんだね」。そうして手作りの小さな織り機での作品作りが始まりました。

 

小さなマス目に記した織り図を見ながら、1本1本、指で糸を拾い、どの経糸の上を緯糸が通り、どの糸の下を潜るのか、確認しながらゆっくりと織り進めてゆきます。「綜絖が無くっても、指で糸を拾っていけば何でも作れるんだよね。間違っても戻ればいいし」と言う八重樫さん。前号でお話した「綜絖」を動かすことで、現在の織り機は自動的に経糸が上下に分かれるため、その間に緯糸を通すだけで複雑な模様を織ることができるように作られています。マフラーやショールなど、大きく、同じ模様を幾度となく繰り返す作品を織るのには、確かに綜絖は必須。ですが、1本ずつ指で糸を拾うことが面倒でなければ、複雑な構造がなくとも模様を織り上げることができるのです。


こうして生まれた『木枠シリーズ』は、細い麻糸と、ふわふわとした起毛生地の裂き布を使っています。織り上がるのは、10cm四方のコースターほどの小さな織物。“織り機”の木枠が額となった絵画のようで、枠も含めて丸ごとオブジェのようにも思える作品です。「木枠を持って帰って、飾ってもらって、飽きたら糸を外してコースターにしてみたり。枠には自分でまた糸をかけて、織りに挑戦してみてもらえたら嬉しい」と言う八重樫さん。これまでの作品のように、何か用途を持ったわけではない、八重樫さんの作品の新たな一面。そして複雑に思われる織りの根源的な美しさを“発見”させてくれる作品が誕生しました。

「織りって楽しいんだよね。説明できないんだけど」と話す八重樫さん。9月号のピクチャーシリーズも、今月の木枠シリーズも、「織りってもっと易しいものなんだよ」「もっともっと、織りが身近なものになればいい。織りの楽しさを知って欲しい」。そんな想いが伝わってきました。経に張った糸に、交互に緯糸を通していく、ごくシンプルな行為から美しい模様が生まれる。そしてその模様はずっと昔に誰かが考えたもので、今も変わらず愛されている。それらが、“織り”が多くの人を、そして八重樫さんを魅了する理由なのかもしれません。

 

「あまり“新作”を作らない私にとって、木枠はとても新しい存在。新しいものができて私も楽しいし、制作過程が見えるような作品でもあると思うので、みなさんにも楽しんでもらえたら嬉しいです」と語ってくれた八重樫さん。「自分でも可愛いって思えるから、私って幸せなんだなーって思うよ」といたずらっぽく愛でていた新作『木枠シリーズ』。もみじ市で、ぜひご覧ください。

八重樫茂子 今月の「好き!」
織物に囲まれた毎日を過ごす八重樫さんは、これからが繁忙期。けれどその中に沢山のワクワクがあるそうです。

最近の楽しみは、朝の散歩。30分から1時間くらい、近所を歩きます。涼しくなったから歩きやすいし、立派な柿の木が沢山あったり、植物を見て歩くのが楽しいです。夏は暑くて「何もしたくない!」と思ってしまうから、秋になったら煮込み料理をしたり、温泉に入ったり、お掃除をしたり「色んなことをしよう」とワクワクします。秋冬は忙しいけど、一番好きな季節。「秋が来る!」ことが嬉しいです。(八重樫茂子)

(編集・本間火詩)