出店者紹介,ジャンル:CRAFT

Ren

【Renプロフィール】
毎朝目覚める度に、私を静かに奮い立たせてくれるものがある。昨年、手紙舎 2nd STORYで行われたRen・中根 嶺さんの個展で手に入れたアカシカのオブジェだ。中根さんの作品の中で初めて目にしたものであり、彼がつくりだすものに惚れ込んだきっかけでもある。ベッドサイドテーブルに飾られたそれは、どんな日も変わらず(当たり前だけれど)颯爽とした佇まいで、気が滅入っている時でも、そっと私の背中を押してくれるように思えるのだ。金槌で叩き上げられた作品から滲み出る、揺るぎない力強さがその理由かもしれない。それでいて、移ろいゆくものへの儚さも感じられるのだから不思議だ。照明器具やオブジェ、器に装身具など、彼の手から生まれくる金工作品は、絶大な存在感を放ち日常を味わい深いものに変えていく。
http://ren-craftwork.com/
Instagram:@ren_nakane

【Renの年表・YEARS】

【Renインタビュー】
2017年の初出店時からずっと担当をさせていただいているRenの中根 嶺さん。公私ともに新たな局面を迎えた中根さんのもとに訪れ、手紙社の藤枝 梢がお話を伺ってきました。

モノ作りの原点

ーーー焼き物屋の父、染織家の母を家族に持つ中根さん。やはり幼い頃からモノ作りの世界に興味があったんですか?
中根:一番最初の思い出は、保育園の時にシールを剥がすのがめっちゃ上手いと褒められたことですね。剥がしちゃダメなものを剥がしてしまって怒られたりもしたんですけど(笑)。小学生の頃までは、何かを作って褒められるというのが嬉しくて。

ーーー周りからの声がきっかけになっているんですね。
中根:中学生の時にはルアー作りに没頭していました。滋賀県の人たちはよく琵琶湖にバス釣りに行くんですけど、釣りそのものよりルアーを作る方が面白くて。その後、進学する高校を選ぶことになった時に、受験勉強が少なくて済むという理由で美術系の高校を選択したんです。それまでは「絵が上手い」「手先が器用」って褒められていたんだけど、実技試験の対策で画塾に通うようになってから、自分がめちゃくちゃ下手くそだなということに気がつきました。

昔作ったルアー

ーーーその画塾でデッサンを学び、美術系の高校に進んだんですね。高校では何を専攻していたんですか?
中根:彫刻のコースを専攻していました。彫刻科を選んだことが、ある意味1個のターニングポイントになっているかもしれないです。この時に教わった立体的に形を捉える方法などは、今作っている動物のオブジェの原点になっているので。通っていた高校は美術系の進学校だったので美大や芸大に進む人がほとんどなんですけど、どの分野に進むのか決めきれず進学はしませんでした。

高校時代に使っていた鑿

ーーー同級生とは違った道を選んだ後は……?
中根:木工やガラスなどにも興味があったんですけど、その世界で活躍している人が周りにいる両親から、「食べていくのが大変だぞ」という苦労話をたくさん聞いていて。それならまずは、自分の力だけで生活する大変さを知ろうと東京に行きました。

東京での日々

ーーーいきなり上京したんですね!
中根:しばらくの間はステージ設営や、テレフォンアポインターなどのバイトをして過ごしていました。高校生の時にライブハウスで照明のバイトをしていたことがあって、舞台美術などの大きなモノ作りに興味を持ったんですけど、規模が大きすぎて自分の性には合わないなと。ひとりで完結するような小さなモノ作りの方が向いていると気がつきました。

ーーー自分の進むべき道を悟った後は、どうされたんですか?
中根:求人サイトでたまたま見つけた工房に応募し、拾ってもらいました。もしそこと出会っていなかったら、今は全く違うことをしていたかもしれないです。そこは金工とレザーをやっている場所だったんですけど、実は最初はレザーの方が気になっていたんです。上京してアルバイトをしていた時期は、ハンズでレザー材料を買って手を動かしていたこともあったので。でも、どこの部門に配属されるのかは自分の意思ではどうにもできず、入社後は金工の部署に配属されました。

ーーー金工をやることになったのも、本当に偶然のことだったんですね!
中根:最初は「金工か……」と思いました(笑)。ところが、金工の技術をイチから教えてもらううちに、思い通りにならないのが悔しくて、すっかり金属という素材にのめり込んでしまって。19〜24歳までの5年間、その工房でブライダルリングの制作を主に行なっていました。

ーーー当時のことで特に印象に残っていることはありますか?
中根:やはり師匠の存在は大きいです。「技術に終わりはないと思え」とよく言われていました。教えられたことができるのは当たり前なんですよね。たとえ時間がかかったとしても、手取り足取り教えてもらえば誰でもできるようになる。でもその教えてもらった技術が100%正解というわけではないし、自分が作りたいものをいかに上手く作れるかというのを、自分の頭で考えられるようになって初めて、やっと一人前と言えると。職人たるもの、常に満足することなく試行錯誤し続けるべきだと教えられました。

自分がいいと思えるものを

ーーーその工房はどういったきっかけで出ることになったんですか?
中根:京都の町家に空きが出て、先輩に「一緒にやろう」と声をかけてもらい、独立することになりました。築90年の建物を自分たちの手で少しずつ改装していって、「PolarSta」という工房兼ギャラリーをオープンしました。

金閣寺の近くにあるPolarSta

ーーー独立した当初はどんな作品を作っていたんでしょうか?
中根:それまでは指輪ばかり作っていたので、違うものを作りたいなと漠然と思っていたんですが、あらかじめ構想を練っていたわけではなくて。ふと、飾ってあったベトナム土産の動物のオブジェが目にとまり、最初にアカシカのオブジェを作ったんです。アクセサリーは用途があるからある程度制約があるんですけど、オブジェは作り手の個性が露骨に出るのでそこに惹かれました。

最初に作ったアカシカのオブジェ

ーーー代表作のひとつとも言える動物のオブジェは、この時にすでに誕生していたんですね。
中根:あとは、最初の頃は京都の手づくり市などに出しながら、その日暮らしのような感じで自分の作品を売っていました。万人受けするキャッチーなものの方がいいかなと思い、ブローチとかを作っていたんですけど、「これでいいのかな?」ってなんか引っかかっていて。

でも、とあるイベントで小学生の子がアカシカのオブジェを買ってくれたことがあったんです。動物だからパッと見て食いついてくれる子供は多いんだけど、お母さんが値段を見て「大人になったら買いなさい」となることがよくあって、その時も同じパターンかなと思っていたんですけど(笑)。イベントの1日目にジッと見ていて、その日の帰り際にもまた戻ってきてくれて。そしたらその子が2日目に「これください」って、大量の500円玉を握りしめて来てくれたんですよ。ちっちゃい頃から貯金していたお小遣いとかお年玉とかを、このために崩してきて。動物のオブジェは最初は自己満足で作ったものだったし、用途もないからそんな簡単に売れるものじゃないなって思っていたけど、キャッチーなものでなくても気に入って欲しいと思ってくれる人がいるんだっていうのは、すごく自信になったし有難かったです。それからは、売ることを意識して媚びるようなものを作るのは極力避け、自分が「いい」と胸を張って言えるものを作るのが大事だなと感じました。

ーーーRenではブライダルのオーダーなども受けてますけど、純粋に自分が作りたいものとの違いはありますか?
中根:ベクトルの違いというか、問われるものが違うと思っています。オーダーの場合は、センスというよりかは技量が問われる。お客さんがどんなものを希望しているのか意思疎通をしっかりとるコミュニケーション能力や、欲しいものにいかに近づけるのかという再現能力だったり。自分が作りたいものを作るときは、センスが問われると考えています。この間、「クジラ以外のランプを作ってください」という注文があって「マグロで作れないですか?」って言われたんですよね。マグロのあのフォルムをどう再現するのかというのは技量が問われる部分だけど、自由に新しいものを作る場合は何のモチーフを選ぶかというところから大事になってくる。それに、「クジラの方がいいよね」って言われるのは避けたいから、「こうきたか!」って前のものを超えるものを作り出したいと思っています。反対にオーダーの場合は、自分では想像できないものができたりするので、それもそれで面白いですね。

新たな拠点の始まり

ーーー現在、新しい工房を絶賛改装中ですが、こちらも後々のターニングポイントになりそうですね。
中根:そうですね。5年前のPolarStaを作るときに「もういい」と思うぐらい改装作業をやったので、またやるのは嫌だなって思ってたんですけど(笑)。経験があるから要領は分かっているんだけど、その分大変さも記憶に残っているので。

改装中の様子

ーーーそれは確かに辛いですね……。今、何か新しく作ってみたいものってありますか?
中根:空間を作っているので、それにまつわるものが多いですね。取手とか、「あったらいいのにな」って思うものが次から次へと出てきます。DIYは普段のモノ作りとは違うモノ作りだけど、繋がるところがあると思う。作品に関連づけるのには時間がかかるかもしれないけれど、どう影響を及ぼしていくのかが楽しみです。あとは、工房の改装作業と並行しながら、車の中にも工房を作ろうとしています。

 

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ーーーInstagramで拝見しました! 中はどんな感じになっているんですか?
中根:後部座席は全部取っ払ってしまい、拾ってきた古い机の天板を中に入れて、作業台にする予定です。金工はそんなに作業スペースも必要ないし、バーナーと叩く場所と少しの電気が使えれば十分なので。

ーーーなぜ車の中に工房を作ろうと……?
中根:現在改装中の物件を探している時も、大きな音が出るのがネックでなかなかいい場所が見つからなくて。発想の転換で、音が出るなら自分が人のいないところに動けばいいかなと思いやってみました(笑)。

あとは、ここ最近展示やワークショップなどを色々と経験していく中で、やっぱり作るものが一番大事だなと実感したんです。そのためには、常に新しいものを作っていかなきゃいけないけど、場所や環境が変わると作るものも変わるなと思っていて。旅している時とか山を登っている時とかにデザインを考えたり、周りの環境からインスピレーションを受けることが多いので、車の中で作業すれば出てくるものも違うものになるんじゃないかなと思っています。やってみないと分からないですけど(笑)。だから今一番やりたいことは、色々な景色を見てインスピレーションを受けながら作品を作ることですね。

《インタビューを終えて》
5年間拠点としていた「PolarSta」を離れることが決まり、新たにDIYで作っている最中の工房兼ギャラリーを訪れることになった今回。壁が取り払われ、これからの改装作業に使うであろう木材や道具が並べられた空間は、どんな場所になっていくのかまだ全く予想がつかない状態。2020年の完成を目指して鋭意制作中の工房を見ることができる、とても貴重な機会になりました。どのようなお店が誕生するのか、そして移動する工房が作品にどう影響していくのか、ひとりのファンとして心から楽しみにしています。

(手紙社 藤枝 梢)