もみじ市 in mado cafe,出店者紹介,ジャンル:CRAFT

はしもとみお

【はしもとみおプロフィール】
木という素材から生まれていることを思わず忘れてしまうほど、生き生きとした瞳を持つ動物たち。生きものの愛らしく伸び伸びとした姿がリアルに表現された作品を目の当たりにすれば、きっと誰もが「今にも動き出すのでは」と考えてしまうはず。特定のモデルがいるという彫刻家・はしもとみおさんの作品には、どれもはしもとさんの動物への愛が込められ、魂が宿っているかのようです。今年のもみじ市では、どんな仲間たちに出会えるのでしょうか。他の誰にも真似できない特別な彫刻の数々との出会いを、どうぞお楽しみに!
http://kirinsan.awk.jp
Instagram:@hashimotomio


【はしもとみおの年表・YEARS】

【はしもとみおさんインタビュー】
「もしかして、“彫刻の家”に行くんですか?」。のどかな田園風景の中、アトリエを見つけられるか不安に駆られていると、そんな言葉が聞こえてきました。彫刻の家……なんて素敵な響きだろう! ワクワクが止まらなくなった私の前に現れたのは、優しい笑顔の女性と、愛犬の月(つき)くん。彫刻家・はしもとみおさんの“YEARS”を、担当の富永が伺いました。

生きている、そのままの姿を残したい

ーーーはしもとさんは、兵庫県のご出身なんですよね。
はしもと:19歳まで兵庫県で過ごしていました。私はずっと動物が大好きだったので、獣医さんになろうと思っていたんです。彫刻の世界を志したのは、15歳のとき。阪神淡路大震災で被災したことが、大きなきっかけでした。当時は、避難所にも連れていけない動物たちがたくさんいたんです。医学では亡くなってしまった命を取り戻すことはできないから、「生きている姿をそのまま残せるような世界があったら」と考え美術の方へ方向転換しました。

ーーー兵庫を出たあとは、どうされていたんですか?
はしもと:兵庫を出てからは、彫刻もされている陶芸家の先生のところに弟子入りをして、21歳のときに東京造形大学の彫刻科に入りました。大学卒業後は愛知県芸へ行き、そこからの流れで三重に拠点を置くことになりました。

ーーー確か、大学はもみじ市にも出店しているkata kataさんと一緒なんですよね!
はしもと:そう! ちょうど同期のテキスタイル科で、今もすごく仲良しです。香川のプシプシーナ珈琲のオーナーも、彫刻科のクラスメイトだったんですよ。同級生で頑張ってる仲間がいるってことは、すっごく励みになりますよね。

ーーー現在のような木彫のスタイルが固まってきたのは、いつ頃からだったんでしょうか。
はしもと:木彫で動物を作るようになったのは、大学3年生のときかな。何でも彫刻であなたの好きなものを作っていいっていう授業があって、実家で飼っていた猫のトムの木彫を制作しようと母親に写真を頼みました。そしたら、ちょうどトムが家出をしたっていう連絡が入ったんです。そのときに、なぜ8年間も一緒にいたのにその姿をもっと覚えてあげられなかったんだろう、見てあげられなかったんだろう。写真を頼りにしないで思い出してあげられたらって、強く強く思いました。そんな気持ちを抱えながら、必死に自分の記憶をたどってトムの彫刻を作り上げたときに、ものすごく感動したんです。「もう一度会えた!」って。目の前のトムの彫刻を、「おかえり」という気持ちで撫でました。この思いをたくさんの人に伝えたいと思って、動物が生きている時の姿を木彫にすることを、一生の仕事にしようと決めたんです。

▲必死に作り上げた、トムの彫刻
▲必死に作り上げた、トムの彫刻
▲木彫の作業に欠かせないノミ。大小様々なサイズを使い分けます
▲木彫の作業に欠かせないノミ。大小様々なサイズを使い分けます

「肖像彫刻」という仕事

ーーーはしもとさんが作る彫刻には、全て“モデル”がいると聞きました。
はしもと:それまでの日本の彫刻の世界は、犬だったら「犬」の動物彫刻っていう扱いで、名前がついた犬の彫刻は少なかったと思うんです。私は、そうではなく、生きていたその子の「肖像彫刻」を作りたいと思いました。それからは一貫して変わってないですね。

ーーー今までに彫られた彫刻の数はどのくらいになるのでしょうか。
はしもと:多分、数千っていう感じだと思います。販売ものも合わせると、年間200体は彫るんです。

ーーー正確な図面を引いて作る人、木の中にあるものをイメージして彫る人、様々だと思うのですが、はしもとさんはどのように制作をしているのでしょうか。
はしもと:私はデッサンの時点で、3Dの姿を脳の中にイメージします。そこから下書きなしで、バッと作り出します。

▲アトリエにはたくさんの木彫の動物たちの姿が
▲アトリエにはたくさんの木彫の動物たちの姿が

ーーーはしもとさんの彫刻は、「ここだ!」という一瞬の表情や動きを切り取っているなと感じたのですが、どうやって、彫る形を決めているのですか?
はしもと:“らしさ”ですね。これから彫ろうとしている動物の、その子らしさ。去年のもみじ市にも持って行った作品で、月くんとハイタッチできるものがあったのですが、これは月くんの得意技、「タッチ」が本当にかわいくて、この子らしいなあと思って作りました。私は一番そのモデルらしさが現れる瞬間を見逃さないように、動物と触れ合う時間をたっぷりとります。取材がとにかく長くて、実制作時間以上の時間をとっている場合が多いんです。取材はとにかくデッサン取材。その子とおんなじ空気を吸いながら、どんどんスケッチをします。徹底的に観察するところは、動物写真家さんと似ているところがあるかもしれません。とにかく見守ること。こっちの気配を消して、3Dで動く感じを頭に焼き込む作業。

ーーーじっくりと取材を重ねるからこそ、モデルとなる動物の命が彫刻に吹き込まれるのですね。
はしもと:これまでの仕事で一番印象的だったのは、2010年のアラブ首長国連邦からのご依頼です。それまでは、犬、猫、ウサギのような、いわゆるペットしか作ったことがなかったんですが、そこでは「ガゼル」っていう動物の制作を頼まれて。ほとんど野生動物なんです。「おーい」とか呼んでも、20mくらい離れていて(笑)。その子の個性を彫りあげるのがいかに難しいかってことを痛感しました。でも、とてもやりがいがあった。どんな動物でも、触れ合っている方にとっては、虫でも、哺乳類でも違いがあって、なんというか“個の命”を欲しているんだなと感じた瞬間でした。そこからより一層、その子らしさを彫刻に落としこもうというきっかけなったというか、今まではラクして来たな〜って(笑)。

▲現在製作中のオランウータン・キューくん。優しい瞳に吸い込まれそうになります
▲現在製作中のオランウータン・キューくん。優しい瞳に吸い込まれそうになります
▲月くんのデッサンと作品たち
▲月くんのデッサンと作品たち

ーーーお仕事をする上で、ハードなことはありますか?
はしもと:やっぱり体力ですかね。木を切り出すのは、とにかく体力がいるんです! それ以外で難しいことというと……。私の彫刻には、私が主体になって彫りたいものを作る場合と、お客さんが主体になってオーダーされたものの2つがあるのですが、オーダーの仕事は、自分の目を一切無くして、その方の目にならなくてはいけない。お客さんが見てる一番その子らしい姿を残さなきゃいけない。やっぱりそこが難しいです。特に亡くなってしまった子は資料がないので、白黒写真1枚から復元することもあるんですけど、そういう場合は「耳の形はどうだった」「性格はどうだった」って徹底的なヒアリングをします。ピンボケ写真しかない! みたいな、「これで彫るの〜!」っていうのもたまにありますね(笑)。

ーーー生き物への愛がないとできないお仕事ですね。
はしもと:そうですね。動物愛は、深く深くあります!

▲これが噂の月くんタッチ!
▲これが噂の月くんタッチ!
▲彫刻の月くんとタッチ!!
▲彫刻の月くんとタッチ!!
▲次に作品になるのは、最近お得意のこのポーズ
▲次に作品になるのは、最近お得意のこのポーズ

今を、未来に残す

ーーーこれからの“YEARS”、やってみたいことはありますか?
はしもと:やりたいこと、いっぱいありますよ! 一番やってみたいことは、日本で見られない異国の動物を現地に取材に行って、日本の子供たちにも見てもらえる彫刻をつくりたいなって思っています。あとは考現学として、今この時代に、どういう野良猫が現存しているかっていうこととかを調べて残していきたいです。

ーーー歴史に残る仕事ですね。かっこいいなあ……
はしもと:100年後、1000年後に貴重な資料になるといいなって。昭和の猫と令和の猫の顔の違いとかね。最近の猫は、いいものばっかり食べてるからちょっと顎が退化してるそうですよ(笑)。そういう面白さを残して行きたいなって思います。

▲アトリエの作業机にちょこんと座る、猫のむぎちゃん
▲アトリエの作業机にちょこんと座る、猫のむぎちゃん

ーーー本格的に肖像彫刻のお仕事を始められてから10年以上の月日が流れましたが、当初から変わったことはありますか?
はしもと:逆に、あんまり変わらないようにしているんです。よくレストランに例えるんですけど、小さい頃食べた懐かしい味が、何年後かにそのお店を訪れた時も同じ味だったら嬉しいじゃないですか。そんな仕事をしたいです。あとは、若くてフレッシュだった頃の熱い情熱を大事にしたい。当時の思いをそのまま受け継いで、死ぬまで変わらないことを大切に続けて生きたいなって思っています。

ーーーいつまでも変わらずに、自分の夢や情熱を信じ続ける。それはとても尊いことで、同時にとても困難なことだと思います。それができるからこそ生み出せる、はしもとみおさんの世界。もみじ市で再会できることを、心から楽しみにしています!

▲これからもずっと、クスノキの香りに満ちたアトリエで
▲これからもずっと、クスノキの香りに満ちたアトリエで

《インタビューを終えて》
「生きている姿をそのまま残せるような世界があったら」。15歳の少女だった頃から揺るがない強い思いが、今もその彫刻に命を通わせています。それこそが、はしもとみおさんの“YEARS”。はしもとさんは、今日も明日もその情熱を燃やして大好きな“あの子”を彫り続けます。「おかえりなさい、また会えたね」そんな瞬間を夢見ながら。

(手紙社 富永琴美)