【初雪・ポッケプロフィール】
その年初めて降る雪を目にしたとき、あなたは何を思いますか? 珍しいものを見て心踊る気持ち、移り変わっていく季節に対する感傷的な気持ち、温かさに恋い焦がれる気持ち……。そんな様々な感情が入り混じった心の動きを、ポケットに入れて持ち続けたいという想いから、「初雪・ポッケ」の名前がつけられました。その屋号の通り、浅野英雄さんと眞左子さんご夫婦が制作している装身具を眺めていると、切ないような懐かしいような、それでいて心の奥底に光を灯してくれるような、えも言えぬ感情が湧き上がってくるのです。もみじ市初出店となるお二人が、河川敷にどのような世界を表現してくれるのか、どうぞお楽しみください。
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Instagram:@hatsuyuki.pokke
【商品カタログ予習帳】
【初雪・ポッケの年表・YEARS】
【初雪・ポッケインタビュー】
今年初めて、もみじ市に出店することになった初雪・ポッケの浅野英雄さんと眞左子さん。2018年に移住したばかりだという金沢のショップ兼ギャラリー「ザクロ文庫」にお邪魔し、お話を伺ってきました。
英雄さんと眞左子さん、2人の出会い
ーーーもみじ市に参加されている作家さんはご夫婦で活動されている方も多いのですが、おふたりもまさにそうですよね。それぞれ専門にしていたことは、もともと違っていたんですか?
英雄:僕は学生の時に漆を習っていて、木工もちょっとやったりしていました。卒業してからは色々な場所で働いていましたが、何かしら手作業で作るようなところばかりでしたね。素材が変わるたびに一から覚えることが多く、新鮮ではあったんですけど大変でした。
眞左子:私は学生の時は彫刻科で、その後彫金教室に習いに行くようになりました。ちょうどそのタイミングで欠員が出て声をかけていただいて。ジュエリーとか、工芸とか、その両方をミックスしたようなものを手がけていました。
ーーー異なる分野で活動されていたんですね。どんなきっかけで知り合ったのでしょうか?
英雄:友達と木で作るスプーンのワークショップを開催していて、それに彼女が参加してくれたんです。
眞左子:お互いに作り手ということもあり、誕生日やクリスマスなどの記念日のプレゼントとして、自分たちの手作りのものを贈り合うようになりました。
ーーーそれぞれが作ったものをプレゼントし合うなんて、とても素敵ですね!
英雄:当時は扇子屋さんで働いていたため、扇子を贈ったこともあります。あとは、片方が作ったモチーフを使って次の作品を作ったりしていました。ひょうたんや靴、本など、モチーフも様々ですし、出来上がるものも色々なバリエーションがありましたね。
眞左子:贈り物を重ねるうちに一緒に装身具を作り始めるようになって、私は一足先に仕事を辞めて独立しました。
山里での暮らし
ーーーそうして、初雪・ポッケの活動がスタートするんですね。
英雄:活動を始めた当初はまだ仕事を続けていたため、仕事とは別の空いた時間を使って一緒に作品制作を行なっていました。会社を退職した後は、本腰を入れて制作に臨もうと京都の山奥の方に移住しました。
ーーーどうしてその場所を選ばれたんですか?
眞左子:制作するのにスペースはそんなに必要ないのですが、やはり音が出てしまうので街を離れて田舎の方がいいかなと思い決めました。
英雄:周りに何もないので、他にすることがなくて。近所を散策するか、制作するかしか選択肢がないので、とても集中しやすい場所でした。他の物事の影響を気にせず、自分たちのやりたいこととしっかりと向き合える環境だったので、2人で楽しくやれていましたね。
ーーーこの頃に作っていた作品はどんなものだったのでしょうか?
眞左子:最初に2人で作ったのはりんごのネックレスです。木と金属が合わさったもので、初期からの定番作品ですね。あとはちっちゃなクマの木彫りのネックレスも、いまだに変わらず作り続けている作品です。
英雄:この時は、セレクトショップで開催される個展のテーマに合わせて、作品を作っていました。“ニュートン”をテーマにしていたのでりんごを選んだり、科学系のイメージからコンパスや三角定規などをモチーフにしたものもあります。
ーーー制作するときは完全に分業ですか? どのようにアイディアを出すかなど、決まっていたりします?
眞左子:それぞれで好きなものを作っているという感じです。自分では出来ないような作業のときは相手に頼んだりして。2人で相談しあって案を出すこともありますね。お互い好きなものを作らないと喧嘩になってしまうので(笑)。
2度目の移住で金沢へ
ーーー金沢に移住されたのは昨年のことなんですね。
英雄:僕が金沢出身なんですけど、長男だからいつかは金沢に帰ろうとは考えていました。ちょうど息子が小学校に上がるタイミングで、少しでも早い方がいいかなと思い、2018年に戻ってきました。もうちょっと山でのんびりしたかったんですけどね(笑)。
眞左子:この建物は、かつては物置きとして使われていた蔵だったんですけど、制作と生活をまかなえるような空間に改装し「ザクロ文庫」と名付けました。直接作品を見てもらえる場所を作りたいなと思っていて、スタジオ、ショップ、ギャラリーの3つが合わさった空間になりました。月に何日とか決めて、その日だけ開けるような形態にしていく予定です。
ーーーこちらにいらっしゃるお客さんはどういう方が多いですか?
英雄:結婚指輪の打ち合わせにいらっしゃる方が多いですね。京都にいたときは、自分たちが市内に出て打ち合わせしていたんですが、わざわざ外に行かなくてもお客さんに気軽に来てもらえる場所にしたいと、長年思っていたんです。
ーーー体験教室なども開催されているようですが……?
眞左子:シルバーの指輪を作るコースや、糸ノコで切り抜いてピンブローチやペンダントトップを作るコースなどがあります。1回3時間ぐらいで、一つの作品を完成させる内容です。
英雄:展示をしているお店など、外でワークショップを開催することはあったけれど、工房でも開催できればいいなと思っていたので実現できてよかったです。体験教室はまだシステム化できていないので、これからそういう部分を整えていきたいです。いずれは、音楽家の人に演奏とかもしてもらいたいですね。
背景のある作品づくり
ーーー作品は大体、何点ぐらいあるんでしょうか?
英雄:同じものの在庫を抱えているというよりかは、少ない点数でたくさんの種類を用意しているので、収拾がつかなくなってきました(笑)。昔から作っているものもあるし、新しいものもあるし。新しいものだけに絞ってしまうと、「前のアレはないの?」とお客さんに尋ねられることも多くて。
ーーー素材も技法も様々ですもんね。最近はどんな作品が多いのでしょうか?
眞左子:銀の板を糸ノコで透かし、打ち出し技法でほんのりと凹凸をつける“透かし”のシリーズを増やそうと思っています。あとは、原石が入ったちょっと無骨な1点ものの指輪も、最近は多いですね。
英雄:元々石とかも好きで、今まで集めていたものを使ってみようと思い始めました。石にはそれぞれ特徴や意味、歴史などがあるので、その都度勉強しながら使うようにしています。
ーーー他に作品を作る時に意識されていることはありますか?
英雄:動物モチーフの作品を作る時も、ちゃんと意味があったりします。たとえばフクロウは、「不苦労」で苦労知らず、「福籠」で福がこもる、「福老」で不老長寿と福を呼ぶ縁起物とされています。ただ見た目が可愛いというだけでなく、こういう意味を大事にしながら、背景のあるものを作るように心がけています。
眞左子:お客さんでも、込められた意味から作品を選んでいく方もいますね。先日は70歳の古希のお祝いで、長寿を意味するメンフクロウの置物を購入された方がいました。古希には、紫の色のものを贈る風習があるので、頭の上の冠にはアメジストを入れました。
ーーー作品に込められた意味を知ると、一層愛着が湧いてきますね! これから新たに挑戦したいことはありますか?
英雄:今、金沢の伝統工芸である“加賀象嵌”を2人で学びに行っています。
眞左子:彫った金属に異なる金属を埋めて、その色の違いで模様を見せる技法なんです。金属のタガネという道具作りからやっていて、人間国宝の先生に見てもらえることもあります。
ーーーまた異なる技法を学んでいらっしゃるとは……! 象嵌の技術を習得されたら、さらに表現の幅が広がりそうですね。日々進化し続けているおふたりの作品のこれからを、楽しみにしています!
《インタビューを終えて》
京都と金沢、2度の移住を経て制作活動に打ち込んできた英雄さんと眞左子さん。どちらも歴史ある地ながら豊かな自然に囲まれていて、そんな場所の穏やかな雰囲気が、おふたりの作品からもにじみ出ているようでした。初めてもみじ市参加することになった2019年。この1年も、初雪・ポッケにとってこれまで以上に大きな年となりますように。
(手紙社 藤枝 梢)