出店者紹介,ジャンル:CRAFT

IRIIRI

【IRIIRI プロフィール】
まるで絵本の中から飛び出してきたかのような、ロマンチックでいてミステリアス、さらにはユーモアを兼ね備えた人形たちが今年ももみじ市へやってきます! 人形作家・IRIIRIの手にかかれば、一見奇抜に見える布も、あら不思議。この人形の一部になることが必然だったかのように、しっくりと馴染むのです。どこか上の空な子に、こちらを見据え何かを訴えかける子、一人ひとりしっかりと目を合わせてみてください。きっとあなたの気持ちに応えてくれる運命の子がここにいます。
http://iriiri.petit.cc/


【IRIIRIの年表・YEARS】

【IRIIRIさんインタビュー】
布という素材を用い、命あるものを生み出す人形作家・IRIIRI。空想好きの少女の頭のなかを具現化したような無垢でファンタジックな世界に惹かれる者も多いだろう。これは絵を描くことが大好きな女の子が、人形作家になるまでを綴った物語。どうぞお楽しみあれ。

布を使った表現の模索

ーーーIRIIRIさんは小さい頃から絵を描くことが好きだったんですね。
IRIIRI:はい。小さい時から絵を描くことが好きで……、早い段階で自然と美術系の学校に進学したい、と決まりましたね。

ーーーグラフィックや絵画などを専攻する学科もあると思うのですが、なぜ染織に?
IRIIRI:高校時代、モダンクラフト科というところに通っていて、工芸や陶芸、染織などさまざまなジャンルの伝統的な技法に触れていました。そのなかでも絵で表現できる“何か”をやりたい、という気持ちがあって。絵を描くコースでもよかったんですけど、たまたま出会いがあって、染織を専攻することになりました。元々自分で手を動かすことも好きだった、というのも大きいかもしれません。だた絵を描くだけでなく、手でものを作る、その“一手間”に魅力を感じていました。なので、元々人形を作ってみたいとかは思っておらず、布を生かす何かを作ってみたいと思ったところから、人形作りに発展しました。

ーーーでは、1999年の「自分の作品をかたちにして、自分で発表したいという思いが膨らむ」という段階では、人形を作ろうとは思っていなかったのですか?
IRIIRI:思っていなかったです。特にこれになりたい、というものもなく。元々働いていた会社では、カーテンやベッドカバーなどのインテリアのテキスタイルデザインをしていたのですが、決められた縛りのなかで描かなくてはならず、自分でなくてもできる仕事だな、と思っていました。やっぱり自分の好きな絵を描きたい、という気持ちとの間で揺れていて。入社4年目くらいから、働きながらですが川島テキスタイルスクールのフェルトのワークショップに参加してみたりして、自分が作りたいものを模索していました。そんななか、布を使って何かするのはどうだろうか、と思い立ち、会社を退職する決意をしたのは、20代後半でしたね。

ーーーちょうどその時私ぐらいの年齢かと思うのですが、この歳で独立を決意することは勇気がいるな、と思うのですが……。
IRIIRI:その時は大きな決断とは思っていませんでしたね。あまり深く考えてなかったのですが、今振り返ると“転機”といえる出来事でした。

人形との出会い

ーーー独立後、人形を作ってみようと思ったきっかけはあったのですか?
IRIIRI:元々、染織を専攻していたこともあり、布が好きだったんです。手元に布があって、そして自分が描いた落書きがあった。「自分の絵を立体にしたらどうなるんだろう?」と思ったんです。それで、とりあえず人形を作ってみて……。ゆるい感じで始まったんですよね(笑)。

一番最初に作った作品のイメージ

ーーー一番最初はどんなものを作ったんですか?
IRIIRI:手のひらサイズのオーナメントを作りました。宇宙人が横を向いたような……。まだ、今のように布を継ぎ接ぎはしていなく、1種類の布に綿を詰めて立体にしていました。簡単なものでしたが、これをきっかけにショップの方に声をかけてもらったりして、思い出深い作品ですね。あとは、イベントなどに出店した時のお店の目印になる女の子の人形を作りました。最初に作ったオーナメントとは違い、自身でドレスにペイントし、顔は刺繍で描きました。

IRIIRIの看板娘

ーーーIRIIRIさんの作品は、布の柄の合わせが独特ですが、素材はどこで手に入れているのですか?
IRIIRI:ヨーロッパの端切を販売しているアンティークの手芸屋や生地屋、服地屋に足繁く通って探しています。

ーーー買う段階で、「こんなものを作りたい」とイメージして購入しているんですか?
IRIIRI:そうですね! 買う段階でビビッとくるものが多いですね。布のストックは常に把握しているので、これと合わそうとか、この色味のものが欲しいとか……。イメージがあって購入していますね。

ーーー布だけを見ても、「これとこれって合うのかな?」と思うものも、IRIIRIさんの作品になるとしっくりくるのがすごく不思議です。
IRIIRI:そう言っていただけると嬉しいです! 自分の好きな組み合わせでビックリさせたいという思いがあって。「この色合わせいいでしょ?」って知ってもらいたい(笑)。小学生高学年くらいからファッション誌に興味があって、「トップスはこのブランド、パンツはこのブランド……」と、雑誌に載っている服を勝手にコーディネートして、絵を書いていました。当時の将来の夢は、ファッションデザイナー。実際に服は買えないけど、空想の中では自由じゃないですか。昔から布の合わせを考えるのが好きだったんですよね。今思えば人形は借り物の姿で、生地の合わせや色合わせを楽しみたい! という思いの方が強いのかも……。

ーーー人形を作る上で、なにかイメージするモデルはいるんですか?
IRIIRI:基本は、空想の世界のひとたちです。作るときに、人形の性格や職業まで決めるんです。そうすると不思議とイメージが湧いてきて……。もちろん、生きてる上で関わってきた人や憧れの人、見たことのある動物などが潜在的に反映されていることはあると思いますが、「この人を作ろう!」というのはないですね。後から「この人に似てるね」とか言われることもありますし、自分に似てるなと思う人形も。でもそれは後から気づくことで、作っている時は思わないですね。

ーーー人形たちの目が特徴的だな、と思うのですが、ご自身で意識していることはありますか?
IRIIRI:人間もそうですが、目はその人の生き様を表すじゃないですか。心の内というか……。目があるから心が宿って、命が吹き込まれる。目は要と思って作っています。

ーーーみんなの目を見ていると、それぞれ違った光を宿していて、「この子はこんなこと考えてるのかな」と勝手に想像して、ワクワクします
IRIIRI:私が持っているイメージと、お客さんが感じるイメージは違ってもいいと思っています。人形たちには、手に取る人に寄り添って、友達のような存在になって欲しい。なので、作っている時はもちろん私の思いが込められていますが、お客さんの手に渡ったあとは、お客さんとのいい関係を築いて欲しいという思いが強いです。

ーーー私が小さい時にIRIIRIさんの人形に出会っていたら、おばあちゃんになるまで持っていたいと思うと思います。
IRIIRI:私の人形は大人に好まれることが多くて、子供には怖がられることもあるんですよね。ただ、パリに行ったときにひとりのおじいさんが、お孫さんにプレゼントしたいと言ってくれて、結構シュールな人形だったんで大丈夫かな、と思ったんですけど、そのおじいさんは「これなら友達になってくれる」と言って、買ってくれました。それがすごく嬉しくて……。やっぱり長い時間寄り添ってもらいたいので、布も良いものを使うように意識しています。その人の生活の一部であって欲しい、一緒に歩んで欲しい、と思います。

ーーーIRIIRIさんの作品には、どこか浮世離れした世界観を感じますが、いつからこの作風になったのですか?
IRIIRI:特に意識したことはないです。自分の空想を形にしていたら、結果的に同じような世界観になったのかもしれませんね。お客さんとかにも言われることがあるのですが、自分自身ではわからない。でも小さい頃からしている妄想のなかに共通の世界観があるのでしょうね。

ーーーモチーフはパッと思いつくことが多いですか?
IRIIRI:そうですね。割と思いつきます。完成系でなくても、手がかりだけでも描くようにしています。もちろん、アイディアが浮かばないときもあるので、本を読んで別の世界を散歩したり、ひたすら寝たり……。ときには頭をリフレッシュすることも大事ですよね(笑)。

IRIIRI、20YEARS

ーーー来年2020年で、活動を初めて20周年を迎えるんですね。この20年間で特に思い入れのある作品はなんですか?
IRIIRI:そうですね……。うさぎのモチーフはよく作っていたので、思い入れがありますね。あとは、愛犬だったラブラドール・レトリバーをモデルにした作品もあって。それは見た目というより、エッセンスとして使うというイメージ。ちょっとずる賢い性格を取り入れてみたり、もし愛犬がタバコを吸ったら、とか妄想してみたり。私のモチーフは動物を擬人化することが多いので、基本2本足で……、動物だけど、どこか人間らしい“ひとたち”なんです。

愛犬をモチーフにした作品。
実際は♀なのだが、紳士風に……。(2006年ver.)

ーーー2003年からは毎年個展を開催しているんですね。
IRIIRI:そうなんです! 2001年ごろからイベントに参加するようになってお声がけいただき、そこから毎年場所を変えて個展を行なっています。イベントとは違い、自分ひとりの空間での魅せ方を研究し、発表することで、真剣にこの活動で生きていこうと腹を据えたきっかけにもなりました。あとは、2010年から始めたワークショップの影響も大きかったです。元々、ワークショップはするつもりはなかったんですけど、開催することで自分の作り方を見直すきっかけになって。あとは色々な方と一緒に作って、一緒に楽しむというのがすごく良いな、と。普段は“作り手”と“買い手”の関係ですが、その垣根を超えて活動できるのが、良い刺激になります。

ーーー20周年を迎え、今後どんな活動をしていきたいですか?
IRIIRI:特別なことはないですが、20年を振り返って整理はしたいな、と。今まで駆け抜けてきたので、初心に返って、ものの形から見直したいと思っています。どの作家さんもそうだと思うのですが、仕事として確立する上で、依頼で手いっぱいになってしまうときがあるんです。やっぱり自分の好きなものを作りたいという気持ちもあって……。ある程度作品の方向が決まってしまうと、壊しづらくなってしまうんですが、今まで見たことのない組み合わせの新しい作品も作ってみたいと思っています。考え方をクリアにして、自分も見たことない世界へ踏み出したいです!

《インタビューを終えて》
IRIIRIさんの作品は、すべて入江優子さんの空想から生まれたもの。それぞれに性格があって、職業があって。その人形とじっと目を合わせると、私の気持ちを読み取ってくれるような愛に満ちた瞳を向けてくれる。すっかり私も、ただの“人形”とは思えない、人間味を帯びたその生命体の虜になってしまった。今回はどんな“ひとたち”が登場するのか、いちファンとして楽しみだ。

(手紙社 鈴木麻葉)