【onkäプロフィール】
世田谷・経堂のまちかどにあるベーカリー。アイヌ語で“発酵”という意味をもつonkä(オンカ)の食パンは、噛むほどに味わいたっぷり、口いっぱいにその香りが広がります。子どもが大好きなあまいパンも、大人が楽しめるクロックムッシュなどのお食事系のパンも、店内には家族みんなが楽しめるパンが勢ぞろい。地元の人はもちろん、遠方にもファンが多いonkäの愛される味わいを、ぜひお楽しみください。
https://onka.jp/
Instagram:@onka_pan
【商品カタログ予習帳】
【onkäの年表・YEARS】
【onkäインタビュー】
パンの香りがたちこめる店内。10時のオープンとともに、予約した食パンを、焼きたてのホットドッグを、冷たくて甘いチョココロネを求めて、様々な世代のお客さまが次々とやってきます。取材中にも、オーブンを確認したり、生地を混ぜたりと常にパンのことを考え続けているonkä店長・下山亜紀子さんの姿がありました。お客さまとの話に、最後まで耳を傾け楽しく対話する姿も印象的でした。そんな下山さんの、パンとの出会いやパン屋になるまでの道のりについて、担当・永井がお話を伺ってきました。
初めてのパンとの出会い
ーーー印象的なパンとの出会いはありますか?
下山:一番最初の印象的なパンとの出会いは、1992年。私が中学生のときです。
ーーー中学生のときですか、よく覚えていますね! どんなパンだったんですか?
下山:まずそのベーカリーは、細い坊主の女性オーナーが営むお店でした。スーパーでパンを買うのが普通という日常の中に、小さいおしゃれなベーカリーができたことは、当時地元ではちょっとした事件でした。そのお店は車でしかいけない場所だったので、母に連れていってもらったんです。そこで出会ったパンが、八角やひまわりの種が練りこまれているハード系のパンで。そのときはまだハード系のパンを食べたことがなかったから、初めての味に決して「おいしい!」と感じたわけではなかったんですけど、きっとこれが美味しいものなんだろうなって思ったのを覚えてます。
ーーー細かく覚えているんですね。そこから、直接パン屋さんになりたいという夢につながったのですか?
下山:それが、直接は結びつかなかったですね。ただ本当に印象的で、よく覚えています。
パン屋になろうと決断したきっかけ
ーーー札幌で働き始めて3年。そこで急に上京しようと思ったのはなんでだったんですか?
下山:最初は札幌が大好きだったので、ずっと住むつもりでした。東京は都会すぎて住むなんて想像すらしていなかったけれど、ライブで行ったり、弟や友人が上京したりして、より身近に感じるようになったんですよね。弟の家探しについて回って、その後すぐ自分の家も決めました。
ーーーすごい行動力!
下山:そのときは札幌でも1人暮らしをしていたし、住む場所が東京に変わるだけと考えていたので、特にそこまで何も思っていなかったのですが、今考えると、東京に来なければ旦那とも知り合うことはなく、パン屋にもなっていなかったので、大きな転機だったと思います。
ーーーパン屋になろうと決断したのは、何がきっかけだったんですか?
下山:女性1人で営むパン屋のTV番組を見たのがきっかけです。決断してすぐ、(当時働いていた)メッセンジャーの会社は退職することにしました。
ーーーこれもまたすごい行動力ですね。女性1人で営むパン屋に惹かれた理由はなんだったのですか?
下山:当時はパンづくりというと、男性が多いイメージでした。女性が1人でつくっている、というところにぐっと惹かれたんです。女性は今でこそいろいろな場で活躍していますが、その頃はまだ活躍し始めたばかりで。そういうのもあったから余計、女性がしかも1人でパン屋を営むなんて、なんか素敵だな~、かっこいいな~と思ったんです。
ーーーその女性の生き方、働き方に惹かれたのですね。でも実際、経験のないパン業界に入ることに恐れとか、迷いはなかったのですか?
下山:そのとき30歳だったので、今からパン業界に入るのは、年齢的にも性別的にも厳しく、大変な職業だろうと最初から想像していました。たぶん男性が活躍する職場なんだろうなと感じていたから。実際はやっぱり大変で、でもその大変さは想像とだいたい同じくらいでした。なので続けて働くことができたし、たぶん他の職業でも、目標を持ってある程度楽しみながら仕事ができる性格(?)なのもあるんだと思います。
独立に向けて
ーーー 実際雇ってくれるパン屋さんが見つかったのですね。
下山:なんと、未経験の人だけを集めてパン屋をやりたいというお店があったんです。そこのオーナーが技術指導の協力を町のパン屋さんにお願いをしていました。そのパン屋のご主人はおじいちゃんなんですけど、よく褒めてくれるし、ちゃんと一から教えてくれて、パン作りの楽しさまで知ることができました。今でも一緒にお酒を飲みに行ったり、お店に遊びに行ったりしています。
ーーー素敵な出会いですね。そこのお店で経験を積んでいったのですか?
下山:いえ、そこでパン作りを習ったあとは、もう2軒のパン屋さんで働きました。1軒目
は大手パン屋さんで、2軒目はもう少し小さく、個人店っぽいお店です。独立を考えていたから、今考えれば、大手のお店から個人店へ働く場所を変えていった流れは、とても良かった気がします。そして、そのあと私の第二の転機、onkäの姉妹店である表参道の「パンとエスプレッソと」で働き始めました。
ーーー「パンとエスプレッソと」私も大学時代に行ったことがあります!
下山:え! じゃあ会っていたかもしれませんね、ちょうど働いていましたよ。たぶん来ていただいた後から、だんだん有名になっていって、行列もできるようなベーカリーカフェになりました。ここでの経験は独立に向けて、本当に為になったことが多かったです。「パンとエスプレッソと」の総シェフだった櫻井さんが「1人で完結できるパン屋さんをやってみたい」と言ってつくったのがonkäなんですが、自分がその後を継いでonkäの店長になったときは本当に学ぶことがいっぱいでした。
ーーーどんな学びがあったんですか?
下山:基本パン屋って、分担して作業することが多いんですけど、そうすると何かうまくいかなかったときに、原因を探りづらいんですよね。でも全工程を一人で完結することで全体が見えているから、あのときが原因でこうなったんだとか、そういう今まで気づけなかったことを知ることができました。あとはお客さんの様子も見れたり、経理とかも自分でやったり……。独立するとなったら全部自分でやらなきゃいけないと思っていたので、すごくいい経験でした。
ーーー移転は独立のタイミングで?
下山:前onkäがあった建物は古くて取り壊すことになるときいていたので、この独立のタイミングで移転しました。探していたら、たまたま100m先に良さそうなところを発見して!
ーーーこんな近くにちょうどいいところ、よく見つかりましたね! 今一緒に働いている旦那さんはその独立のタイミングで合流したのですか? そういえば旦那さんとの出会いは?
下山:旦那とは前働いていたメッセンジャーの会社で出会いました。
ーーーえ! そのときに出会った方だったんですか!
下山:私がメッセンジャーの会社を退職して3年後、旦那も退職してパンの世界にきたんです。パン屋って、朝すごい早いし、家族になるんだったら生活リズムもあっていたほうがいいので。私が最初修行したところで、旦那も初めは週1無給でパンを習ったんですよ。私一人でやっていたときは、朝も2時起きで、作る量を増やしたくても増やせなかったりしたのですが、合流してからはそういう面が解決されました。
ーーーとても心強いですね。
onkäのこれから
ーーー移転から1周年。今後の夢、やってみたいことはありますか?
下山:感謝の気持ちを伝えていきたいです。2014年あたりは何も知らなかったけど、お店に行ってみたり、自己紹介したり、日常をお店のある経堂駅周辺で過ごすことが多くなるなかで、知り合いや友達がふえ、「地域に恩返ししたい」と思い始めました。なので、できるだけ地域のイベントには参加したいと思っています。それと、思いを発信していくために最近「パン通信」を作り始めたんです!
ーーーすごく素敵ですね!
下山:SNSでももちろん発信していくけど、やっぱり紙が好きで。onkäがどういうパン屋で、どういう思いがあるのか、もっと届けていきたいなと思っています。
ーーー“経堂”ってどんな町ですか?
下山:「サイクリングマップ」という経堂周辺のマップがあるんですけど、毎年そのマップにのっているお店が集まってやるイベントがあって。そこに来た方が「経堂の人たちは経堂の街のなかで楽しそうに買い物して、そしてみんな満足そうだ」と言っていたそうなんです。わたしも小さなイベントがあれば行って、そこで買い物をし、たっぷりお話しをして満腹で帰ってきます。そして、onkäにもまた誰かがやって来てパンを買って帰ってくれます。伝えるのが難しいんですが、そんな地域の人の交流がある幸せな街です。
ーーー“経堂”のなかで素敵な繋がりがたくさんあるんですね。地域に根付いた素敵なパン屋さんだなって改めて思いました。
ーーー今年のもみじ市はどんな“YEARS”になりますか?
下山:ちょうど昨年のもみじ市のときは移転と独立が決まり、ばたばたと準備していた時期でした。昨年11月1日に独立&移転をして今年1周年を迎えようとしています。実はonkäがオープンしたのは2011年の11月で、今までも11月は大切にしてきました。今回のもみじ市では、移転&独立して1周年ということにフォーカスして、去年の11月からのこの1年、愛されたパンや人気のパンを集めてみようと思っています。
ーーーこの1年のonkäのオールスターが集合ですね! 当日並ぶパンが今から本当に楽しみです。
《インタビューを終えて》
上京から10年で、そのときは思ってもいなかったパン屋の店長になり、今では地域に愛されるonkäを営む下山さん。厨房で下山さんからお話を伺っていると、地域の方や一時帰国してきた前職の後輩、知り合いの方など、色々な方がお店を訪ねてきました。美味しいパンを買うという目的だけでなく、下山さんご夫婦に会いに来ているんだなと、人との繋がりの深さを感じる場面が多くありました。経堂の地で、なくてはならない“街のパン屋”として、移転しても変わらない愛着を感じさせるonkä。前店長が作り上げた精神を大切に守りつつ、新たなonkäを届けていく下山さんに、これからも一ファンとして注目していきたいです。
(手紙社 永井里実)
【もみじ市当日の、onkäさんのブースイメージはこちら!】