【山羊のメリーさんプロフィール】
満を持して、もみじ市初出店の山羊のメリーさん。ひとたび目にすれば、決して忘れられない圧倒的な存在感で、河川敷をメリーさんワールドに包み込みます。カラフルな布と粘土を使ったファンタジックでシュールな動物人形が集うメリーさん小屋では、ドールメイキングのパフォーマンスを開催予定。一点ものの作品は、全てご購入可能です。さらに、可愛らしいゲストもやってくるとかこないとか……? みるみるうちに人形が作られる魔法のようなひとときを、どうぞお見逃しなく。
https://nakamurat.exblog.jp
【山羊のメリーさんの年表・YEARS】
【山羊のメリーさんインタビュー】
突如として現れ、遭遇した人を夢の世界へと誘う山羊のメリーさん。その誕生までには、一体どんなストーリーがあったのでしょうか。山羊のメリーさんこと、美術作家の中村正さんに、担当富永がお話を伺いました。
映画に夢中になった少年時代
ーーーご出身は、台湾なんですよね。
中村:母の祖国の台湾で生まれ、半年後くらいに日本に来ました。兄と妹に挟まれた3兄妹の次男ですが、美術の世界に入ったのは私だけでした。日本では、東京の郊外で当時飼っていた犬や野良猫と遊びながら過ごしていましたね。野良猫なんかは、餌付けして半分家に住んでるような状況で(笑)。そういえば、リスザルも飼っていました。
ーーー子供の頃から絵を描いたり工作をするのが好きだったんですか?
中村:当時から絵を描くことが好きで、当時流行っていた漫画の真似をしていたりしましたね。それから、小学校高学年くらいからにジョージ・ルーカスやスピルバーグの映画作品が流行って、すっかり夢中になったんです。特に好きな映画は『E.T.』。映画館にも何十回も行って、好きなシーンの真似ばかりしていましたね。それから、実際に撮影で使われた人形などが見られる、ハリウッドの特撮展みたいな展覧会にもよく行ってました。
ーーー年表によると、中学時代になにやら衝撃的な事件があったようですが……
中村:そんなにたいした話じゃないんですけどね。中学1年生のときに映画が好きだったので、家にあったビデオカメラ使って撮影してみることにしたんです、友達を巻き込んで。バケモノに変身する系のやつですね。材料をなんとか集めて、主演の子の顔を歯医者さんで使うような材料を使って型取りをして。呼吸するために鼻にストローを挿していたんですけど、その子が途中から鼻炎か何かになって息ができなくなって、窒息させそうになりました。それでもなんとか型取りできて、友人も無事でした(笑)。
ーーー無事でよかったです(笑)。それにしても、中学一年生にして随分本格的にやったんですね。
中村:言われてみれば確かにそうかもしれませんね。雑誌や本で撮影の方法を調べたり、特撮に必要な材料を売っているお店に電話したり、絵コンテも書いてました。でも結局最初の数分間のシーンを撮って、自然消滅してしまったんですよね。自分を含め、みんなの興味の対象が次々それてしまって。その時に共同作業の難しさを知りました。
銅版画との出会い
ーーーその後、多摩美術大学へ進学されていますが、美術の学校へ行こう思ったきっかけは何だったんでしょうか。
中村:高校に入った頃は、映画監督の黒澤明さんが美術系の学校出身だったというのがなんとなく頭にあって、本当に漠然と美術系の大学に進路を決めたんです。油絵学科に入ったのですが、3年生のときに銅版画に出会い、版画に没頭するようになりました。
ーーー銅版画ですか! 油絵とは、全く違う方向に。
中村:ちょうど油絵をどう描こうか煮詰まっていたときに、「版画がいい、版画がいいよ!」という友人がいて、流されました(笑)。でも実際にやってみたら本当に面白かったんです。銅版画で手がけた作品には、動物をたくさん出したり、ピエロみたいな人物がいたり……。なんというか、自分の作りたかった世界観を版画で構築できたような気がしました。
ーーーモノクロな版画の中に、中村さんの世界が凝縮されていたんですね。
中村:実は版画とは別に、大学在学中に人知れずコマ撮りの人形アニメーションの人形アニメーションの制作もやっていました。
ーーー人形アニメーション! それは、今作られている作品に通ずる部分があったのでしょうか。
中村:そうですね、今作っている人形に近い部分はあったと思います。制作したアニメーションは、大学の展覧会で流していました。シルバニアファミリーのような…..。森のクマさん、ウサギさんが、山の映画館にレイトショーを見に行くっていうお話です。
ーーー少年時代から胸にあった映画への思いが、人形アニメーションの制作に繋がったのでしょうか。
中村:なんていうか、映画への憧れはあったけれど、どうやって近づいていいかわからなかったんです。でも美術の世界に進んだことで、自分の手の中におさまるサイズで映画的なものを実現できたような気がして。知らずしらずのうちに、小さいときに思っていたことを実現させようとしていたのかもしれないですね。
ーーー大学を卒業されてからは、どのように過ごしていたのですか?
中村:アルバイトをしつつ版画の活動を続けていました。貸画廊を予約して3〜4回個展を開くみたいな。それもしばらくして行き詰まり……。「これが本当にやりたいことなのだろうか」という疑問を覚え始めていたんです。だからといって、今から映画関係の仕事を目指すというのも無理だよなあ、なんて考えてみたり。暗中模索の時期でした。
ーーー何をきっかけに、そこから抜け出せたのでしょうか。
中村:大学時代に「版画がいい、版画がいいよ!」と言っていた友人が、またしても声をかけてくれたんです。なんと演劇の世界に(笑)。友人が参加していた舞台に欠員が出て、その代役を頼まれました。その劇団の立ち上げと、演出家をしていたのが現在の妻です。その時間が僕にとってはとても刺激的でした。20代後半〜30代中盤までは演劇に関わっていましたね。
【転機】「山羊のメリーさん」爆誕
ーーーそしていよいよ2009年に山羊のメリーさん」が誕生したんですね。
中村:なんか馬鹿みたいなことをやってみようかなっていう気持ちになって、被り物を自分で作って、人前でパフォーマンスをやってみたんです。一番最初にやったのは、東京ビッグサイトでやっていた村上隆さんの主催するアートイベントに出展したときにはじめてお披露目したんです。お客さんがどんな反応をするか全く読めなかったんですが、「どうなってもいいか!」という、半分やけくそな気持ちでちょっとやってみました。
ーーーこれだ! という手応えはありましたか?
中村:やりたいことを実現できた気持ちよさがあったし、絵を発表していたときとは全く違うお客さんの生の反応があったので、「これは楽しいなあ」と思いましたね。演劇と一緒で、リアルな時間をお客さんと共有している感覚があったので、それが満足感につながって、面白いなと感じました。
ーーー制作されている人形は、ほとんどが動物ですよね。
中村:版画では人物も登場していたんですが、人形は動物しか作っていないですね。登場人物を動物に寄せることで見た人がすんなり入り込んでいけるような気がするんです。バリエーションも豊富じゃないですか。地球上にはいろんな生き物がいるんだなあと思いを馳せながら、この世界観にどこまで奥行きを出せるかなあって考えています。
ーーー人形に対してどのような思いを持っていますか?
中村:“生命”を作ってるんだっていう気持ちで作っています。ファンシーになりすぎないようにとは思っているのですが、架空の生き物を作っているという意識もあるので、あえて写実的なところから一歩はずした、完成されすぎない形になるように心がけているんです。
ーーーメリーさんを通して、どのような表現をしていきたいと思いますか?
中村:僕は、イマジネーションが増殖していくようなことをやりたいんだと思います。見た人が家に持ち帰って深読みしていくような世界観をつくれたら。僕自身が見てきたことや感じたことを、違った形で体験して欲しいなと思っています。
―――今年でメリーさん誕生から10年ですが、当初からなにか変化を感じることはありましたか?
中村:どんどん変わってきたと思います。初めは自己満足のエネルギーを発散させるためにやっていたけれど、それだけじゃないことに気づきました。自分がいろんな世界や人の繋がりのなかにいることがわかったんです。
―――活動するうえで、大切にしていることを教えてください。
中村:「夢」を持つことですかね。まだまだ先があるんだっていう。自分に限界を与えないことが大事かなと思います。周りとの関係性によって自分も変わっていきますしね。どう変化するかはまるでわからないけど、変われるときに柔軟な自分でいたい。そのときの自分の気持ちに正直になることを大切にしたいです。
―――これからの“YEARS”、やってみたいことはありますか?
中村:やりたいことはいっぱいありますよ。ひとつは、山羊のメリーさんの世界観を表現した、写真集を作りたいです。被り物をした森の動物が、森のなかにいて、抽象的な物語があるようでないような……。具体的なイメージはこれからですね。
―――ありがとうございます。それでは最後に、今回もみじ市に初参加ということで、ぜひ、ご来場のみなさまへのメッセージをお願いします!
中村:楽しみにしております。山羊のメリーさんも楽しみにして、テンションMAXです!! ぜひぜひ、見にきてくださいね!!
《インタビューを終えて》
「山羊のメリーさん」という存在が風景の中に現れるだけで、一瞬にしてそこが劇場に変わります。心に深く残る映画をみたとき、映画館の外に広がる世界がいつもより特別に思える。中村さんのお話を聞いて、メリーさんと出会う人にはきっと、その感覚に近い現象が起こるのではないかなと感じました。少年時代に映画に憧れたこと、版画家としての活動、演劇との出会い、そんな中村さんの“YEARS”が繋がり、突如爆誕したメリーさん。河川敷に現れるメリー小屋では一体どんな物語が生まれるのでしょうか。今からその時が楽しみでなりません。
(手紙社 富永琴美)
【もみじ市当日の、山羊のメリーさんのブースイメージはこちら!】