松本寛司「木工」

「このお皿にはあの料理を盛りつけたら美味しいだろうな」
「いや、このお皿はもしかしたら、食事以外にも使えるかも…」
松本寛司さんの作品を見ると、たちまち想像がふくらんでいく。

松本さんは、お皿やカトラリーなど、おもに毎日の生活にまつわるモノを作っている木工作家。今年、活動拠点を岐阜県多治見市から愛知県田原市へと移した。田原市は渥美半島に位置する、海と山に囲まれた自然豊かなところだ。取材当日は、松本さんと豊橋市の豊橋駅で待ち合わせ、そこから田原市まで車で向かった。大きな街を抜けて、どんどん南下すると、海が見えてくる。

車の中で話したこと。サーフィンが趣味である松本さんは、多治見市に暮らしていた時からこの地を度々訪れていて、次第に「ここで暮らせたらいいな」と思うようになったという。実際に移り住んでみると、毎日の暮らしはもちろんのこと、作品の作り方にも変化が出てきたと言う。

「この街はすごく静かで、そういうところで機械のグィーンっていう音を出すのが嫌だから、機械で磨くことはあまりしないようにしようと思って。機械の音じゃなくて、ノミのサクッサクッっていう手仕事の音だったらいいなあって。環境から来るものづくりっていうのがあるんじゃないかな」

海からの気持ち良い風を受けながら車は走る。途中お寿司屋さんに寄って海の幸を満喫したり、ケーキを買ったりと、海なし県出身の私は、やや観光気分になりながらも、ようやく松本さんの工房に辿り着いた。

作品が生み出される場所にいざお邪魔するとなると、少し緊張してきたが、「さっき買ったケーキでも食べましょう。今コーヒー淹れますね」と松本さん。この優しい言葉に、私はすっかり肩の力が抜けてしまった。

「このお皿を使って下さい」

出てきたのは松本さんが作ったお皿。「うわぁ…」と思わず声が出た。目の前にいる作家さんが作ったお皿を使わせていただけるなんて、なんて贅沢なことなのだろう!


表面に彫り痕が残ったお皿は、しっかりとした厚みがあって、まるで命がそこに宿っているような力強さがある。けれど、不思議とどんな風景にも自然に馴染んでいくような、さりげなさや大らかさを感じる。

お皿を眺めながらそんなことを思っていると、今度はコーヒー豆が入ったガラス瓶を松本さんが持って来てくれた。

こちらは、ガラス作家の左藤玲朗さんとのコラボ作品。実は去年のもみじ市でブースがたまたま隣だった左藤さんとお話をしたことがきっかけで、この作品が出来たのだそう。(こちらは、今年のもみじ市にも持ってきて下さいますよ!)

そして、中に入ったメジャースプーンは松本さんの作ったもの。小さな取手と、コロンとした全体のフォルムが何とも可愛らしい。

このスプーンはもちろんのこと、作品が一つ出来上がるごとに寛司さんは自分で使ってみてその使いやすさを確かめている。

「豆の粒が大きいとあまり入らないから、じゃあスプーンの丸みの大きさを変えてみようとか、やっぱり手に触れるところは木がいいなとか、そういう発想で作っていく。そして実際に使ってみて、ああ、こういう風に色が変わって行くな、これなら間違いないな、という感じで、商品化していきます」

作品が一つ出来上がるごとに、納得が行くまで自分の目と手でテストを繰り返して、そしてお客さんの元へ届ける。その徹底した姿勢から作品に対する強い自信が生まれていくのだ。

松本さんは、左藤さんとのコラボ作品を作る過程を実際に見せてくれた。まず、大きめの板から蓋の丸い形を切り出す。そして、それを機械にはめ込んで、回転させながら刃をあてて削っていく。すると次第に窪みが出来ていく。このくぼみがガラスとの接点になる。

もちろん左藤さんのガラスも手づくりだから、穴の大きさがひとつずつ微妙に違うので、ガラスの口を当てはめてながら蓋の大きさを微調整していく。その作業を何度か繰り返していき、丁度良いサイズになったところで、ヤスリをかけて滑らかにしていく。

  

蓋の内側部分は機械で溝をつけているが、表面にでてくる外側部分はすべて手で彫る。こうすることで、機械によって作られたシャープな線と、手作業によるやわらかい線の対比が生まれる。機械と手仕事、両方の良いところを使って、この蓋は作られているのだ。

「企業が作るなら、コストダウンを考えて、デザインした規格を作る方がお客様にしたら買いやすいものができるんだと思うんです。でも自分が作るものは手作業も含まれるから、『高い』って言われて仕方がないんだけど、『それでも欲しい』って言われるようなものづくりが出来れば。ほどよくわがままに、自分の居心地が良いように、暮らしたり作ったりできないかな、というのが目標ですね」

自分が良いと思うものだけを徹底して作っていく。そしてそれを繰り返していくことは、容易いことではない。さらにそれでお金を得ていく、というなら尚更難しい問題に直面する。それでも、松本さんは「木工で生きて行く」という覚悟が決まっているからこそ、発する言葉に迷いがないのだ。なんと凛々しく真っ直ぐな人なのだろう。

もみじ市には4回目の出店となる松本さん。取材に訪れた日は、末広がりというテーマにちなんだ作品はまだ考え中の様子だったが、きっと素敵な作品を連れてきてくれるに違いない。みなさんもぜひ、実際に松本さんの作品に触れて、その力強さと大らかさをその手で感じて欲しい。

*松本寛司さんに聞きました。

Q1. もみじ市2011で、どんな作品を発表していただけるのでしょうか?
コーヒーグッズ、お皿、孫の手など

Q2. もみじ市にお見えになるお客さまに、“末広がり”な自己紹介をお願いします!
展示会場のどこかに末広がりを忍ばせます。探してください。

Q3. もみじ市の宣伝部長になったつもりで、お客さまに一言お願いします。
楽しくて1日会場に居ることになるでしょうから、疲れない靴で、敷物を持ってこられるといいと思います。
友達と来て、ライブ会場に陣取って、交代で食べ物買に行くと、いいんじゃないかな~

さて続いては、もみじ市史上初となる、イタリア人と日本人のイラストレーターさんがコラボで登場です! イタリア流「末広がり」とは一体…?

文・中澤永子