ジャンル:FOOD

アンリロ

【アンリロ プロフィール】
「野菜が美味しいレストラン……?」と疑いの目を向けている、そこのあなた! まずは、アンリロの「人参フライ」を一口どうぞ。口に入れた瞬間に「サクッ」という音が聞こえてきそうな衣の中に潜むのは、ほのかな甘みを感じられるやわらかい人参。もうこれだけでお腹が空いてきませんか? 地元・栃木産の野菜がふんだんに使われたアンリロの料理は、五臓六腑に染み渡るような優しい味わい。類稀なる感性を持ったシェフ・上村真巳さんが考案したお食事を、どうぞご堪能ください。
https://www.facebook.com/an.riz.leau/

【商品カタログ予習帳】

定番メニューの人参フライが挟まれた、人参フライドッグ

【スペシャルインタビュー「栃木が誇る、野菜が主役のレストラン」】
鹿沼を、いや、栃木を代表するレストラン・アンリロ。その人気の秘訣を探るべくオーナーの上村真巳さんに、担当の藤枝梢(手紙社)が話を伺いました。

フレンチベジタリアンというジャンルの確立

ーーー野菜が美味しいフレンチと謳っているアンリロですが、なぜフレンチベジタリアンというジャンルになったのでしょうか?
上村:調理科のある高校に通っていたんですが、その時に見たフランス料理の美しさに惹かれ、フレンチの道を志しました。学校を卒業後は、東京にあるフレンチのお店で5年働き、その後は益子にあった動物性食品を使わないレストランに移りました。アンリロのテーマである野菜の美味しさについては、この益子のお店で学んだことが生かされています。お肉やお魚は旨味が強いので、単純に焼くだけで美味しいんですよね。それに比べて、野菜本来の美味しさってとても淡いもので。特に田舎の人は野菜を食べ慣れているので、そこをどのように魅せるかが面白く感じました。誰にとっても外食はちょっと特別なものだと思うので、その中でどういう風にしたら喜んでもらえるか、満足感や幸福感を与えることができるかを考えた時に、フレンチベジタリアンという新しいジャンルでお店を開くことにしました。

ーーー元々独立されたいという気持ちがあったのでしょうか?
上村:そうですね。高校生の頃から、将来は自分のお店を持ちたいと思っていました。

ーーー創業の地として、鹿沼を選んだのには何か理由が?
上村:場所には特にこだわりはなく、あちこちの物件を探していたんです。そんな時に、日光珈琲の風間さんからここを紹介されて、面白いなと思って即決しました。約1年間は益子のレストランで働きながら、休日は風間さんに解体の仕方を教わりお店の改装をするという日々でしたね。

ーーー私も今日この路地に入るまで「本当にここであっているのか!?」と思ったのですが、結構奥まった場所ですよね……。それこそ開店当初は、お客さんを集めるのが大変だったんじゃないでしょうか?
上村:まったく来ていませんでしたね。1日10人も来ればいい方という感じで。

ーーーお客さんがいらっしゃるようになった、きっかけは何だったんでしょうか?
上村:当時、『自休自足』という雑誌の編集・出版を行なっていた北島さん(手紙社代表)が取材に来てからですね。益子のレストランで働いていた時に知り合った、陶芸家の石川若彦さんからの紹介でした。雑誌に載ってから、県外のお客さんが来るようになり、徐々にその波が栃木県内の人にも広がっていたという感じです。

「AN–RIZ–L’EAU」の“A”に込められた意味

ーーー様々な繋がりから、アンリロの名が売れていったんですね! アンリロという店名には何か意味があるのでしょうか?
上村:“un riz”が米、“l’eau”が水を表すフランス語で、日本語に訳すと「一粒の米と一滴の水」となります。正しい表記は“UN-RIZ”なのですが、ある意図があり“AN-RIZ”という、本来の単語とは違うスペルにしました。

お店の入り口に飾られている「AN–RIZ–L’EAU」の看板

日光東照宮にある陽明門の柱の中に1本だけ、彫刻の模様が反対になっている「逆さ柱」というものがあるんです。完成すると同時に崩壊するという伝承から、不完全な状態にしているらしいのですが、これに倣ってスペルを1つ変えているんです。2号店の「Le Perican Rouge」も“Pelican”の“l”を“r”して、あえて間違った綴りにしました。

ーーーそんな秘密が隠されていたとは……! ルペリカンルージュという名前には、何か由来があるんですか?
上村:アンリロで使用していた、コーヒー粉が入っていた缶にこの名前が記されていて、そこから取りました。直訳すると「赤いペリカン」ですね。もちろんそんなペリカンは実在しないのですが、酔っ払って顔を赤くしているペリカンの姿がパッと頭に浮かんで。ルペリカンルージュは、ビストロでワインも出すお店なので、渡り鳥のペリカンがお酒を呑みながらお店をはしごするというイメージで、この店名になりました。

アンリロの代名詞「マクロビオティック」とは?

ーーーアンリロの存在を語る上で、マクロビオティックというワードは欠かすことができないと思うのですが、そもそもマクロビオティックとはどんなものなのでしょうか?
上村:日本人が発案した食事に関する思想で、陰陽論をもとにしています。2つの大きな原則があるのですが、1つ目が「一物全体」という考えで、皮や茎・葉っぱに花・根っこまで、食材を丸ごと味わうという意味です。どんな食材にも部分ごとに陰陽があるため、全体を摂取することで中庸にすることができるんです。

ーーー“陰”と“陽”のバランスが大事なんですね。
上村:マクロビオティックでは、すべてのものに“陰”と“陽”があると考えられています。たとえば、地面より上にできる食材は陰性のため、キュウリなどの夏野菜は体を冷やしてくれるんです。反対に、地中に向かってのびる根菜類などの陽性の食材は、体を温めてくれる効果があります。

実はアンリロの店内の空間づくりにも、この陰陽論を取り入れているんです。入り口から入って右手側は、白を基調に明るくて開放的な空間にし、左手側は床も一段上げ少し狭くて暗いつくりにしました。

アンリロ店内の“陽”のスペース。大きな窓からは、自然の光が差し込みます。
“陰”のスペースは、対照的に仄暗さを残した雰囲気に。

上村:マクロビオティックの2つ目の原則は、「身土不二」というもので、自分の生活圏の半径50kmで採れたものを食べていれば、健康でいられるという考えです。その土地の気候でできた食材を摂取すれば、その気候にあった体がつくられていくので、おのずと健やかな状態でいられるというわけです。アフリカに住んでいる人たちが、エスキモーの料理を食べていたら体もおかしくなっちゃいますしね。

原点回帰のもみじ市

ーーーもみじ市には初期の頃から参加されていますが、初めて出た時の印象はどうでしたか?
上村:当時『Elle a table』などの雑誌に載っていた有名な料理研究家の方が出店していて、瞬く間に商品が売り切れてしまったんですが、その場ですぐに料理を作り始めたんですよね。それを見て「すげぇ!」って思いました。

ーーー今年のテーマは“ROUND”ですが、何かイメージされているものはありますか?
上村:昨年が10年という節目の年で、一周まわって今年は原点回帰かなと思いました。アンリロで働いている人は主婦が多いため、どうしてもイベント時の人員を確保することが難しいのですが、その分丁寧に、初心に返った気持ちでメニューを作ろうと考えています。

ーーー東京蚤の市や布博など、手紙社が主催している他のイベントにも出店されていますが、もみじ市との違いはありますか?
上村:やっぱりもみじ市は緊張しますね。他の出店者もびびるような人ばかりだし(笑)。みんなが本気でやっているからこそ、中途半端な気持ちではできない。周りに負けないよう、料理もディスプレイも作り込んでいこうと思います。

ーーー上村さん、ありがとうございました! もみじ市に、アンリロのおいし〜いお野菜が登場することを楽しみにしております。

〜取材を終えて〜
初めて訪れたアンリロのお店は、まるで夢の世界に迷い込んだかのように幻想的で、豊かな香りで満たされたとても居心地のいい空間でした。「店内のディスプレイにまで、マクロビオティックの考えが取り入れられているとは!」と驚きましたが、そのあくなき姿勢が、多くの食通を唸らせている理由かもしれません。体にも心にも優しいものが食べたくなった時に、ふっと帰りたくなるようなそんなお店に、いつかまたお邪魔させていただきますね。(手紙社 藤枝梢)