【ivory+安藤由紀プロフィール】
木と真摯に向き合い、ていねいにていねいにものづくりをしている木工作家のivory+安藤由紀さん。くたくたになるほど使い込みたくなる木の生活道具を目指し、徳島県にて、日夜制作しています。手彫りでつくるため、素材や塗料によって色合いや風合いが異なり、その味わい深さは格別。ずっと使っていたい、ずっとそばに置きたいと思わせる、心がほんわかする作品をこしらえます。もちろん道具としての使い心地も抜群。生まれてきたアイデアを実現すべく、果敢に挑戦し、新しい作品もつくり続けています。
https://ivory-plus.jimdo.com
【商品カタログ予習帳】
新作の「fog mirror」は、fog trayのような雰囲気の手鏡を作りたかったからと安藤さん。朝霧の幻想的な雰囲気です。革の入れ物は、徳島の革の作家 トリトヒツジさんとのコラボ。
【月刊 ivory+安藤由紀】
特集「自分の色を探し求めて」
木工作家のivory+安藤由紀さんは、木と向き合い、ていねいに木の器やアクセサリーをつくっている方です。そんな安藤さんが、今年に入ってから、自分はどういうものづくりがしていきたいのだろうと悩んでいたというではありませんか。昨年の悩みは工程のことでしたが、それを笑ってしまうくらい、自分の方向性について悩みはじめてしまったそう。そんな中、あるオファーが届きました。
台湾での講演依頼
それは、台湾でのイベント出店でした。しかも、“ものづくりについて”の講演をするというもの。異国の地で、急に人前で話すことになってしまったのです。
この出店のお話をつないでくださったのは、もみじ市にも「華華世界商店」として出店している仲良しのオガワナホさん。光栄に思い、オファーを受けてはみたものの、講演については、不安感が襲ってきたといいます。内容は、ものづくりの苦労話や経験談を話してほしいとの依頼でした。「徳島のこんな小さな工房でつくってるのに、立派なことなんか言えないし、どうしようかと気持ちばかりが焦ってました」と安藤さん。ましてや台湾でのスピーチですから、自分に台湾の方々に訴えかけられることなんかあるだろうかと自問自答を何度も繰り返していたそうです。
自分の原点を考えるきっかけ
それから「ものづくりについて」来る日も来る日も考えるようになっていった安藤さん。これからどういうものづくりをしていきたいのか、自分が大事に思っているのは何かを考え続けていました。ある日、答えらしきものがおぼろげながら見えたのです。当たり前かもしれませんが、木が大好きだということ。山に登れば、そこに生えている木に対して愛情が湧くし、木を彫れば、いつも木目に感動します。そして、徳島という地に流れ着いて、藍に触れられるご縁があり、藍染の道に進んでいること。木と藍染が融合した時、どちらもその素材の良さが残りつつ、引き立てあっていることに気づかされたのです。
開催日が近づくにつれ、気持ちは少しずつ変化しはじめました。
「こんな私でもやれてますというふうにお伝えすればいいのかもと思うようになりました。不器用だし、やり手でもないし、マイナス思考気味だったんですけど、好きという一心でやっているということで、勇気を与えられたらなと思うようになっていったんです」
そして迎えた当日。緊張の中、出店場所にお店を構え、イベントはスタートしました。イベントは大盛況で、お客さまに精一杯説明しつつ、過ごしていました。そうして講演の時間がやってきたのです。自分のやってきたことを、ていねいに伝えました。
翌日、ひとりの女の子がブースにやってきました。その手には、昨日買ったという安藤さんのカップの写真がありました。写真を受け取るとその裏には、こんなふうなメッセージが書いてありました。
「あなたの講演を聞いてすごく感動しました。あなたの作品は技術的に美しいし、そのアイデアとセンスも素晴らしいです。ありがとう」
昨日も、その女の子がきていたことを知っていた安藤さんは、思わず泣きそうになったといいます。
「こんなこと初めてで、本当に嬉しく思いました。私の気持ちが台湾の人に伝わったことが実感できた瞬間でした」
他にも多くの人から、心に響いたといわれたり、ある人からは「私はあなたみたいになりたい」との感想もあったそうです。このことから、自分のこれからに対するひとつの光が見えはじめました。
つづく
(編集・樫尾有羽子)