【WOLD PASTRIESプロフィール】
甘いものは好きだけど、甘すぎるものは苦手な私。そんな私が共感できる焼き菓子屋と出逢った。WOLD PASTRIESの主宰・鰤岡和子さんは、なんと甘いものが苦手なのだとか! 最初聞いた時は信じられなかったが、鰤岡さんの焼いたお菓子を食べると納得する。口に入れた瞬間広がる甘みにクドさはなく、なんとも自然な味わい。紅茶? いいえ、ぜひワインに合わせて食べてほしい。焼菓子の概念を覆すWOLD PASTRIESの焼き菓子をご賞味あれ。
Instagram:@wold pastries
【WOLD PASTRIESインタビュー】
東京にもこんな場所があったのか、と思わせてくれるほど、のどかな田園風景のなかに4畳半ほどのアトリエを構えるWOLD PASTRIES。前職は“美容師”という異色の経歴を持った現在“パティシエ”の鰤岡和子さんが、今のWOLD PASTRIESとなるまでの遍歴をご覧ください。
カフェ開店を夢見て……
ーーー鰤岡さんは元々は美容師として働いていたんですよね? なぜカフェを開こうと思ったんですか?
鰤岡:ちょうどその時、カフェがすごく流行っていて……。ブームに乗っかりました(笑)。
ーーー業種を変えるのは勇気はいりませんでしたか?
鰤岡:そこまで深く考えていなかったですね。カフェを開きたいと思った時に、何か作れないといけないな、となり。でも、もうこの歳から、コテコテのフランス菓子屋で修行するのもどうか、と迷い、お菓子作りのできるカフェで働こうと決めました。
ーーーその後、WeST PArK CaFEで7年ほど働いたんですね。WOLDさんはフランス菓子が中心ですが、このお店はアメリカンダイナーですよね?
鰤岡:はい、そうですね。まだここに入るときは、お菓子のことを何も知らず……。これを作りたい! というのも特になかったんです。ただ、このお店にオープンテラスがあったんですよ。それに憧れて(笑)。あと、店員として外国の方が働いていて、当時としては珍しく面白かったんですよね。
ーーーここではどんなお菓子を作っていたんですか?
鰤岡:アメリカンなお店だったので、ニューヨークチーズケーキや見た目が華やかな焼き菓子を焼いていました。定番のお菓子を作っていれば、あとは自由に作っていいお店だったので、自分で研究してフランス菓子をベースにした焼き菓子も作っていました。ただ、フランス菓子は見た目がシンプルなので、アメリカンなお店らしく、ちょっと華やかにして出していましたね。
ーーーフランス菓子の研究もされていたんですね。
鰤岡:そうですね。講習会に行ったり、ケーキの師匠とお店を回ったりしていました。学校にも通いましたよ。
ーーー数あるお菓子からなぜフランス菓子を?
鰤岡:昔から、ショーケースに並ぶケーキよりも、端にある焼き菓子ばっか買っていて…..。甘いものも苦手なので、生ケーキよりは焼き菓子かなと思いました。
ひなた焼き菓子店オープン!
ーーー2006年に「ひなた焼菓子店」をオープンしていますが、独立してすぐ開店したんですか?
鰤岡:元々独立するつもりで退職したわけではなく……。引っ越しがきっかけで退職しました。その後、町田のカフェに就職しようと思っていたんですが、あまりいいお店がなくて。そんな時、旦那が「自分でお店開いたら?」と。その一言を受けて、お店を始めようと思いました。
ーーーどんなお店だったんですか?
鰤岡:住んでいた家の一角でオープンしたんです。居住空間を使っていたので、ショーケースなど置けるわけもなく、自然と常温保存の効く焼き菓子をメインで販売するようになりました。その当時は棒状のパッケージのボールクッキーなど販売していました。いくつかフレッシュなケーキも販売していて、反応がよかったんですが、店先には出さず、注文を受けたら表に出すという形を取っていました。
ーーーひなた焼菓子店としては2007年の第2回からもみじ市に参加しているのですね!
鰤岡:そうなんです、実は(笑)。手紙社の北島さん(代表)とわたなべさん(取締役)がお店に来てくれて、少しお話しして。しばらくしてご連絡をいただきました。
ーーー当時、もみじ市というイベントはご存知でしたか?
鰤岡:知りませんでした。でも楽しそうだなと思って。不安よりも勢いで出店しましたね。小さなお寺での開催だったので、もっとゆっくりお客様が見ていくものなんだろうなと思ったのですが、バーゲンセール状態に……。イベント出店など慣れていなかったので、どこからお会計をすればいいのかわからなかったです。しかも初出店で数も少ししか持っていかなかったので、すぐ売り切れてしまいました。
ーーーそうなんですね、出店してみて楽しかったですか?
鰤岡:接客中はわけもわからず、という感じでしたが、完売したあとは他のお店など見て回って楽しかったです(笑)。
ーーー2011年には念願のカフェをオープンしたんですね!
鰤岡:はい、東林間にカフェ兼モデルルームをオープンしました。カフェといってもモデルルームの横にひっそりとある空間だったのですが。
ーーーそこではどんなお菓子を?
鰤岡:カフェだったので、やはり生菓子も作った方がいいな、と思い、パフェやロールケーキなども作っていました。ケーキといっても砂糖少なめであまり甘くないものです。タルトに使ったフルーツをパフェにのせたりして、作っていましたね。
ーーー美味しそう……!
鰤岡:アイスも自家製なんですよ! パフェは1〜2週間限定メニューとして、味を変えて出していました。ただ、基本的にレシピを残さない人なので、自分でどんな物をいれたか覚えていなくって。お客さんのが覚えているくらいでした(笑)。
ひなた焼菓子店からWOLD PASTRIESへ
ーーー2016年に屋号をWOLD PASTRIESにして、お店は閉めたんですよね。それはなぜですか?
鰤岡:1人でやれる範囲でやりたい、と思ったのがきっかけです。最初は今の場所でお店を出そうとも思ったんですけど、静かな場所なので騒がしくなるのもどうかなとか思ったり。なので、屋号を新たにリスタートしようと思いました。
ーーー今まで「ひなた焼菓子店」として10年間活動してきて、その屋号を手放すのは勇気がいりますよね。
鰤岡:そこまで勇気はいらなかったですね。気持ち新たに始めたいと思っていたので。未だに、「あ、ひなた焼菓子店さんだったんですね!」っていうお客さんがいらっしゃいますからね。それもそれでいいと思っています。
ーーー第2回からもみじ市にご出店されていますが、今回で12回目の出店ですか? これまでのもみじ市のエピソードを教えてください
鰤岡:途中2回くらいお休みしたので、10回目くらいですかね。もみじ市といえば、すっごい暑かったり、すごい雨だったり(笑)。基本、1日のみの出店なのですが(今回は12日のみ)、一度2日連続で出店してみようという年があったんです。その時、1日雨で中止になって……それ以来、1日出店にしよう、と決めました(笑)。
ーーー野外でお菓子を販売するというのは結構リスクがありますよね?
鰤岡:そうですね。天気を見てメニューを変えなくてはならないのがネックですね。暑いとチョコなどは売れないし。タルトは、事前に8種類くらいメニューを考えておいて、そのなかからお天気を見て5種類など選んで作っています。意外と雨の方が売れるんですよ!
ーーー鰤岡さんが甘いもの苦手ということから甘さ控えめな商品が多いですが、どんな客層の方が多いんですか?
鰤岡:もちろん女性の方もいらっしゃいますが、常連さんにも男性の方が多いです。全国各地の焼き菓子を食べ歩いていて、マニアックな方が多い印象ですね(笑)。焼き菓子といえば紅茶やコーヒーのお供というイメージがありますが、お酒と合わせて食べるというお客さんも多いんですよ。
ーーー今年のもみじ市のテーマは“YEARS”ということで、今までの20年間で作ってきたお菓子をリバイバルで販売してくださるんですよね!
鰤岡:はい! WeST PArK CaFEで作っていた「ニューヨークチーズケーキ」や、ひなた焼菓子店時代の「ボールクッキー」に「クグロフ」を作って持って行こうと思っています。当時のロゴシールやパッケージも残っているので、そのまま使って出そうかなと考えています。もちろんWOLD PASTRIESの焼き菓子も持って行きますよ!
ーーーきっと懐かしく感じる方も多いのではないのでしょうか? 当日が楽しみですね!
《インタビューを終えて》
WOLD PASTRIESの鰤岡さんはとても快活な方。「カフェを開くためには、何か作れるようにならなければ」と思い立ってからの20年間、まっすぐ進んできたのであろうと感じさせる、そのおおらかなお人柄は人を惹きつける。当日はもみじ市のテーマ「YEARS」に合わせて、今まで作ってきた焼菓子をもう一度再現して販売してくれるそう。WOLD PASTRIESとは違う一面をみせる、鰤岡和子の焼菓子を、ぜひ会場でお楽しみあれ。
(手紙社 鈴木麻葉)