【kata kataプロフィール】
ぱっちりと開いた目のトラ。一度目が合うと、ぐんと引き寄せられ、逸らすことができない。松永武と高井知絵によるユニット・kata kataが描くのは、そんな不思議な引力を持った生き物たちの姿。日本の伝統技法である、型染めや注染を用いて作られる風呂敷や手ぬぐいは、国外からの注目も集めている。もみじ市ではそんな魅力的なアイテムだけでなく、その場にいる人々を楽しませるような仕掛けを用意してくれる。過去には染めのデモンストレーションや、顔ハメ布などを開催してくれた。自身のことを「口下手」だなんて話すお二人だが、本質はユーモア溢れるエンターテイナーなのかもしれない。
http://kata-kata04.com
Instagram:@katakata.jp
【kata kataの年表・YEARS】
【kata kataインタビュー】
もみじ市に第1回から参加し、「布博」や「紙博」など、手紙社の様々なイベントにも出展。アトリエは手紙舎つつじヶ丘本店の2軒お隣で、何かと手紙社と縁の深いkata kataの、松永武さんと高井知絵さんにお話を伺ってきました。
はじまりはもみじ市との出会いから
ーーーkata kataのおふたりは第1回のもみじ市から参加してくださっていますよね。
知絵:2005年に大学を卒業してすぐに個展を開催したときに、DMを色んな出版社の編集長に送ったんだよね。そのときはツテも全然なくて、これからの活動どう広げていこうって考えて思い付いたのが、その方法だった。雑誌宛じゃなくて、○○出版社の××さま宛の方がダイレクトに届くかなと思って。それが当時『自休自足』の編集長をやっていた北島さん(現・手紙社代表)の目に止まって、洋子さん(現・手紙社副代表)と一緒に会いに来てくれたんだよね。そこで、「新しいイベントをやる予定なんだけど、良かったら参加してくれませんか?」って声をかけてくれて……。
武:そう、展示の数ヶ月後だったよね。その年のもみじ市に初めて出店した。
ーーーまだ河川敷ではなく、仙川の「森のテラス」での開催のときですね。
知絵:そのときはまだ、型染めの手ぬぐいしか作っていなくて、しかも全部自分たちの手で染めてたから、1柄12枚くらいしかなくて。柄も5〜6種類くらいしかなかった。だから花瓶とか、布以外のものも売ったりして(笑)。
ーーー大学を卒業後すぐにkata kataとしての活動をスタートされていますが、他の仕事はされましたか?
知絵:半年くらいはアルバイトしながらkata kataをやっていたんだけど、こんな生活じゃ埒が明かないなと思って、2人揃ってバイトを辞めたんだよね。アルバイトだけでも生活できちゃうから、潔くkata kata一本でやろうって決めた。ユニット自体は大学2年生のときに結成して、学祭で手ぬぐいとTシャツを売ったら、1日3万円くらい儲けたの。それで、これを毎日続けたら結構稼げるなと思って、就活もしなかった(笑)。kata kataの方が絶対儲かるって思ったから。
ーーー大学など、周りでも作家活動を始める方が多かったのですか?
知絵:留学に行ったりしている人はいたけど、同年代では全然いなかった。でも、私の父と母が自営業で染色作家をしていて。お手本になる人がいたから、全然不安を感じなかった。父と母も、「やってこうと思えばやっていけるよ」って反対はしなくて。どちらかと言えば背中を押してくれる言葉をかけてくれる人が多かったの。武くんの母も、就活について何も言わなかったよね。
武:何も言わなかった。「kata kataでお金持ちになれる」みたいなことを俺が言ってたから(笑)。まぁ信じてはいないだろうけど、「好きにやったら」っていうタイプだったと思う。
知絵:反対する大人がいなかったんだよね。それで私たちも、何の疑問も不安も感じることなくスタートして、今に至るまで不安を感じたことは本当に無くて(笑)。どんな形でも暮らしていけたらいいし、何とかなるかなって。
染色技法の多様化、そして“布”以外の表現へ
ーーー2007年頃から、型染め以外の染色方法も取り入れ始めたんですね。
知絵:そう、kata kataの活動3年目くらいに、私たちが手で作ることのできる量の限界が見えてきたんだよね。作れる量の限界が見えるってことは、入ってくるお金の限界が見えるわけで。2人で3年間楽しく続けてきたんだけど、「なんか、思ったよりも割が良くないよね」みたいな。
武:そういう現実が見えてきたタイミングで、毎回対策を考えるんだよね。何年かごとにやり方を見直しているから、今も続いているんだと思う。
知絵:一番はじめの転機になったのは、型染めでの商品作りに限界を感じたときに、型染めとは別で注染の職人さんのラインを作ったこと。注染の産地は、東京、浜松、大阪と、割と近い場所にあって、相談に乗ってくれる人がいたんだよね。
武:そう、最初は浜松で作ったんだけど、上手くいかなかったんだよなぁ。あれは俺らが注染のことを理解していなかったんだよね。絵柄の作り方が型染めと多少違っていて。
知絵:今も東京と浜松の注染屋さんで頼んでいるんだけど、まず型染めでサンプルを作るようにしていて。職人さんは実際の染めを見て作るから、すごく忠実なものが仕上がってくるようになったね。
ーーー1つひとつサンプルを制作しているからこそ、安定したクオリティの商品を届けられているんですね。kata kataは「ものがたりのある布」をコンセプトに作品を作られていますが、活動を始めた頃から掲げられていたんですか?
知絵:いや、やっぱりイベントって対面販売でしょう。でも私たち接客が苦手で、上手いことお客さんに声を掛けるきっかけを作らなきゃいけないなと思うようになって。それで、お客さんが来た時に、手ぬぐいを広げて、ここに虫が隠れているんですよとか、説明できるような仕掛けがあれば、上手く会話ができるなと気付いたんだよね。作品を自然な形で紹介しやすい。それからは、会話の糸口、会話が生まれるようなデザインを作って行こうと常に話している。
ーーー販売活動を続けていく中で、だんだん定まっていったんですね!
知絵:今作ってるものも、そういう要素を残しながらやってるよね。自分たちが楽しむのはもちろんだけど、お客さんにも一緒に楽しんでもらえる模様作りをずっと続けているね。……だから目新しいことは、あまりないかも。
武:そうねぇ。
ーーー突然大きく変わったことは無く、徐々にアップデートして来て、今のおふたりがあるんですね。
知絵:そうだね。注染って、生産のロット数を1回につき100枚単位で増やせるの。だからお客さんの目に触れる機会がすごく増えて。全国に卸せるようになったし、イベントにも立て続けに出られるようになったし……。それで、企業とのお仕事が増え始めたのが2008年くらいからかな。
武:倉敷意匠さん、山田繊維さんとか。他には、布以外のものも作ったりして。
知絵:kata kataのデザインを気に入ってくれた方々が声をかけてくれるようになって。布の商品を買ってもらうというより、自分たちの“世界観”を買ってくれるというか。自分たちだけでできることってすごく限られているんだけど、デザインを提供することによって、色んな媒体に自分たちの絵が載るんだなってことが分かって、すごく面白いなって今思っているところ。
ーーー倉敷意匠計画室さんで作られている「切り抜き印判手皿」なんかは、模様から動物たちだけが抜き出されていて、まさにそうですよね。布以外のプロダクトを作ることに、抵抗はなかったんでしょうか。
武:ないかなぁ……。どう、ある?
知絵:うーん、初めはあったけど、基本的にやってみないと分からないって思うタイプなんだよね。先々のことまで想像して、行動できる人間じゃないから、やってみてダメだったらしょうがないっていう感じで。挑戦だね。
武:自分じゃできないことができるからね、そういう意味では面白いと感じている。
ーーーでは、2013年から、もみじ市に続けて「布博」への出展がはじまりますが、そのときのエピソードを聞かせてください。
知絵:布地も作ってみたいなって思った。周りはみんなオリジナルのテキスタイルを持っていたんだけど、kata kataは布じゃなくて商品、形になったものだったから、布地で勝負したいと思ったの。でも型染めで布地を作ろうとしても、工房の都合上6mまでしか染められないし、すごく高価なものになっちゃう。テキスタイルの勉強をして、型染めに自信を持ってやって来たけど、周りの人が布販売してるときに、kata kataは手ぬぐい販売していて、布博では全然勝負できてない気がするって思ったら悔しくて、私布博開催中に泣いたの(笑)。そこでもう、「一丁プリントの布を作ってみるか!」と決心した。
kata kataに一番大切なのは、やっぱり“型染め”
ーーー5年前にアトリエをオープンされた後、海外へ活躍を広げていますが、これはどんな経緯があって実現したんですか?
知絵:妹がNYにいたから、妹に会うついでに現地で販売や型染めのワークショップをしたね。その後、手紙社がポートランドでイベントをやってたから、合流してワークショップをやった。
武:型染めで和紙を染めるワークショップだね。
知絵:クリーブランドは、ギャラリーのオーナーさんがkata kataの絵をすごく気に入ってくれて、招待作家として個展を企画してくれたの。
ーーー海外では珍しい技法ですよね。海外の方の関心も高いのでは?
知絵:そう、型染めは日本の伝統的な染色技法の1つだから。やっぱりデザインを考える時は、型染めを中心にしている。プリントするにしても、何を作るにしても、型染めの技法を守ることは大切にしてる。
武:なんかもうちょっと、型染めっていう技法を大切にしたいという思いがあって。それをアピールするわけじゃないけど、積極的に海外の企業とコラボを始めているね。
ーーー昨年から始まった、グラニフさんとのコラボTシャツも人気ですよね!
武:そう、発表は2018年の8月だったんだけど、2017年くらいからずっとやってた。
知絵:それがね、イラストをデータで送らなきゃいけないんだけど、型染めだからデータで作ってるわけじゃないでしょ。グラニフさんとの仕事をきっかけに、データでも柄の準備をしておかなきゃいけないんだなと気づいて、最近は型紙を彫る段階から、型染めで使うものとデータで使うものと2枚まとめて作っているよね。やっぱり何か大きな転機があると、「これしなきゃいけないのか」って毎回気付かせてもらっているかなぁ。
武:傘を作る仕事をやったときに、初めてphotoshopを使って。使い方が本当にわからないから、SNSで教えてくれる人を検索して、教わりに行った(笑)。それから色んなデザインの仕事を受けられるようになったんだよね。
知絵:プライドは全然持たずに、分からないことは分かる人に聞くのが良いって思ってる。
ーーー初めからできないと決めつけないからこそ、活動の幅をどんどん広げていけるんですね。
知絵:そう。型染めっていう筋だけは一本持っておいて、あとはもう変わるなり挑戦するなりしてもいいんじゃないかなっていうスタンス。何か新しいことを始めるとき、最初はやっぱり勇気がいるんだけど、先のことって想像できないから、やってみた結果どうだったかで判断すればいいかなって。ありがたいことに、自分たちにとってはいいように転ぶことが多かったね。
《インタビューを終えて》
大学卒業と同時にスタートしたkata kataの活動は、もみじ市との出会いを経て、小さな転機の繰り返しによって少しずつ大きくなってきました。その表現のフィールドが布という素材から離れても、いきいきと描かれる動植物たちの表情が変わらないのは、何を作るときも原点である“型染め”を柱に据えているからなのだと、今回改めて知ることができました。もみじ市の当日は、そんな型染めの様子を生で見られるデモンストレーションを開催予定です。お見逃しなく!
(手紙社 南 怜花)
【もみじ市当日の、kata kataさんのブースイメージはこちら!】