もみじ市 in 神代団地,出店者紹介,ジャンル:CRAFT

mitome tsukasa

【mitome tsukasaプロフィール】
節々が角ばって華奢とは言えない私の手は昔からコンプレックスのひとつ。指先に全く興味のなかった私に、指を飾る楽しさを教えてくれたのがmitome tsukasaさんでした。草花の形や水の流れ、泡などの自然にあらわらる現象を主なモチーフとして、真鍮、シルバーなどで作られるmitomeさんのアクセサリー。原型をロウ(ワックス)で作ることで、作品の表情がほころぶように感じられます。また、原型から型を取り、金属に置き換えられた後も、有機的な手触りが残るようにと、一つひとつ手作業で仕上げられます。どの作品も身に着けると、まるで体温と一体となっているかのように体に馴染みます。


【商品カタログ予習帳】

【mitome tsukasaの年表・YEARS】

【mitome tsukasaさんインタビュー】
mitome tsukasaといえば、金属なのにとろみや体温のようなものまで感じさせる自然モチーフのアクセサリー。普通は“固”や“冷”の印象が強い金属。その対極に近い表現からなる今日の作風は、どのように生まれたのか。ものづくりを目指すこととなった原点から、担当・丸本が紐解いていきます。

“手触り”という表現の扉を開く

ーーー高校時代に最初の転機を迎えていらっしゃいますね。mitomeさんの心を動かした先輩の言葉について教えてください。
mitome:高校入学当初は漠然と美術大学で”絵”を専攻したいと思い、美術部に所属しながら、チェロやヴァイオリンを弾く室内楽部にも所属していました。そこに年に何回か通ってきて定期演奏会をサポートしてくれていた、県内の盲学校出身の先輩です。

2年生の冬の日、室内楽部の友人が私の絵を褒めてくれたことがありました。するとその先輩が「いつか見てみたいな。」と言ってくれたのです。とてもさりげなく発せられたその一言に、心が震えました。

絵だと”見る”行為から感じ取ることがほとんどだと思うけれど、形あるものなら”触れる”ことで直接伝わってくる温度やこまかなテクスチャーなど、見ること以上に感じ取れる要素が多いのではないかと考え始めました。「自分の描きたい対象は何なのか?」と行き詰まって時期とも重なり、見る↔︎描くという方式以外にどんな表現の領域があるのか、そして表現したものをどう伝えていけるのかを、その言葉をきっかけに探し始めました。

ーーー藝大入学時から、扱うマテリアルは金属と決めていたのでしょうか?
mitome:いいえ、全く。色んな素材に触れながら、自分にしっくりくる技法を在学中に見つけて、作りたいものもその後で見つかれば良いと思っていました。そうやってのんびり考えていたら、本当に時間がかかってしまって(笑)。鋳金を専攻すると決めたものの、何を作っていきたいのか不透明なままで、結果卒業後ももがき苦しみました。

ーーー在学中は金属で何を作られていたのですか?
mitome:両手に収まるほどのオブジェのような用途のないものを作っていました。

ーーーmitomeさんがオブジェを?
mitome:はい(笑)。家にありますよ。わたしの片鱗が見えるかもしれません。

藝大時代に制作したオブジェ「磯の小さな生き物」

手のひらに収まるアクセサリー作りの始まり


ーーー2004年、アクセサリーづくりを始める第2の転機を迎えました。
mitome:縁あって、アパレルメーカーのアクセサリー部にて製作のお手伝いをすることになりました。始めてみるとその小ささにしっくりきましたね。手のひらに収まるものづくりが自分には一番集中できることがわかり、アクセサリーの技術を徐々に身につけました。

ーーーそこでは今の作風に近いものを作っていましたか?
mitome:そこでは自らデザインをすることはありませんでした。与えられたデザインの試作を繰り返したり、世界中の珍しい石を色やサイズごとに地道に分類したり、初めてのことだらけでした。そしてラフィアや絹わたなど特殊な素材を用いたカジュアルなアクセサリーから、ダイヤモンドや金などを使ったハイジュエリーの製作まで、たくさんの貴重な経験をさせてもらいました。自身のアクセサリーを作り始めた頃の展示会では60点作るのが精一杯でしたが、現在の個展では400点近く用意するのが基本になったので、成長したと思います(笑)。

ーーー作家活動もスタートされました。当初はどのような作品を?
mitome:おもに真鍮とシルバーで、身近な事象をアクセサリーで表現していたので、現在とさほど変わりません。在学中にめぐり会い、こつこつと続けてきたワックスによる原型制作という技法も、呼吸をする感覚に近いくらい何時しか身近に寄り添い、この技法に落ち着きました。植物や鳥、水面の現象などをモチーフにしてきたのも、緑の多い山の中で生まれ育ってきたからで、すべては自然な流れのなかにあるように思います。


病から気付いた平穏の大切さ

ーーー4年前に手術をされていたんですね! その後はもみじ市をお休みされた年もありましたよね。さぞかし大変だったのでは。生活だけでなく制作活動に関しても変化があったということでしょうか?
mitome:年齢とともに、無理をしないように心がけています。身の丈にあった暮らしをすることの大切さを改めて知りました。制作もそうです。ゆったりした気持ちで、余裕を持って作った方が作品にも余裕が出てくる感じがして、より多く手にとってもらえる気がします。

今年の初夏は、初めて高知と札幌でイベント出店をしました。移動中の風景も時間をかけて楽しみました。そんな傍にあるささやかな日常を慈しむように、ゆっくりと歩んでいる今日この頃です。

ーーー身近な植物や風景、日常に目を止めて、1つ1つじっくり作品を制作されてきたmitomeさん。大変な病気をきっかけに、ご自身の内側とも向かい合い、自らを手当てするようになったのですね。ライフスタイルと、制作への考え方がシンプルに変化したこと、それによって生じた心の余裕。mitomeさんの心の平穏を映し出すような作品に、今年のもみじ市でも注目しています。ありがとうございました!

《インタビューを終えて》
同性の私から見ても素敵な女性で、尊敬する作家、mitomeさん。“漂う空気”と“流れる時間”、彼女をご存知の方には共感いただけるでしょうか。インタビューを終えて、mitomeさんの作品自体にもそのふたつが漂っていることに気づきました。女性として、作家として、紆余曲折しながらたどり着いた今日のライフスタイルと作品の表現。mitomeさんはご自身が思い描くユートピアを、その手の中で形作っているように思えるのです。最後に。ある日、元気のなかったわたしにmitomeさんがメールをくれました。「傷を負ったからこそ気付けることがありますが、早く穏やかな時間を過ごされますように。きれいな水を飲んで、気の流れをととのえましょう!」mitomeさん、ありがとうございます。大好きです。

(手紙社 丸本菜穂)

【もみじ市当日の、mitome tsukasaさんのブースイメージはこちら!】