【谷内亮太プロフィール】
京都で生まれ育ち、現在北白川でギャラリー雑貨店「ちせ」の店主を務める彫金作家・谷内亮太。真鍮やシルバーを削り出し、万物のつながりをテーマに動物や植物、星をモチーフにした指輪やアクセサリーを生み出しています。月の満ち欠けのリングや太古の生物のブローチなど、どこか神秘性を感じさせる作品に目が離せません。物語から飛び出してきたかのようなアクセサリーに、思い思いのストーリーを紡いでみてください。
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【谷内亮太・YEARS】
【谷内亮太さんインタビュー】
太陽と月の満ち欠け、幾何学的な結晶、古から伝わる生物……。谷内亮太さんの金属作品は見る側の想像力を掻き立て、その物語の世界が頭の中を駆け巡ります。そして、谷内さんは作家でもあると同時に、自身のお店「ちせ」の店主でもあります。一体どのような背景が谷内さんにはあるのか、幼少期からの今に至るまでをお聞きしました。
自然への興味
ーーー谷内さんは生まれも育ちも京都なんですよね?
谷内:京都の外れの方で生まれて、近くがすぐに森で、自然をそばで感じられる環境でした。ですから、興味の対象はおのずと動物とか草木とか、夜見上げた時の星空とか。そういったものが今の自分に蓄積されています。
ーーー僕も出身は北海道の田舎の方なので、自然のあるところは落ち着きますね。森や山も、向こうに住んでいる時は当たり前のように身近にあったので、全くその良さに気付けずにいましたが、たまに帰省したりすると、なんて贅沢なところにいたんだと思います。
谷内:この間、北海道に行ってきたのですが、良いところですよね。落ち着きもあるし、どこを歩いても自然に囲まれていてワクワクするというか。小さい頃は家に天体望遠鏡があって、天体観測をしているような生活をしていたので、きっと北海道の夜空とか綺麗なんだろうな、と憧れたりしますよ。
ーーー幼少期からの自然との関わりが、谷内さんの作品のモチーフに表れているのですね。
谷内:他にも古くから伝わる動物、神話とか伝承にしか出てこないような神様のような生き物とか好きですね。あとは鉱石とか結晶とか、科学的な要素のあるものは小さい頃図鑑を見て想像を膨らませていました。そういった点で言えば、北海道には自然もたくさんありますが、神様の使いとされる動物が多くいますよね、フクロウや鹿など。
ーーーそうですね、最近漫画で知ったのですが、アイヌの文化で「カムイ」と呼ばれるように、動物や自然が様々な神だと言われていますね。
谷内:僕も最近教えてもらって読みました(笑)。北海道から帰ってきて読んだので、またすぐにでも北海道に行きたい気持ちが高まりました。そういえば北海道のカラスって東京と違うって知ってましたか? 東京よりも身体がひと回り大きくて渡り鳥の一種とされているんです。「ワタリガラス」と言って北米に普段はいるんですが、冬になると北海道に戻ってくんです。
ーーーそう言われてみれば、クチバシが立派だったような気がします。カラスも八咫烏など日本神話に出てくる動物として、シンボルなどに使われることもありますよね。
谷内:そうですね。やはり生物や自然のものには神秘が宿るというか、目に見えない魅力がありますよね。
喜んでもらえるものを作り続けたい
ーーー谷内さんは大学時代から作品を作っていたんですよね?
谷内:通っていた京都精華大学では、陶芸を専攻していました。オブジェのような方向性の陶作品が多かったですね。卒業してから手作り市でアクセサリーを作って販売したいと思ったのが、今作っている作品の基盤となっているかもしれません。真鍮の板をホームセンターで買ってきて、削ってみたシンプルなものだったんですけど、それが思いの外友人などに気に入ってもらえて、とても嬉しかったのを覚えています。
ーーーずっと金属で作品を作られていると思っていました!
谷内:金属で作品を作るようになったのは結構最近のことで、手作り市に出す年には郵便局でアルバイトをしたり、その前はステッカー屋で働いていたこともありました。そこではカッティングシートなどを使い、お店のロゴなんかを板に貼って看板を作ったりしていました。ステッカーを作る所から任されていたので、パソコンを使ってデータを作ることなど、そのときの経験が今に活きていたりしますね。
ーーー作家をしながらも他のお仕事もされていたのですね。その後お店「ちせ」を開くことになると思うのですが、自分だけのお店というのは昔から考えていたのでしょうか?
谷内:はじめから予定していたわけではないんです。作品が作れる環境は欲しいと思っていたので、お店を開きたいから製作活動をする、という訳ではありませんでした。たまたま物件を探していたら良い場所が見つかり、周りの作り手仲間にも話をしてみたらやってみようということになり。流れのまま来てみたら雑貨ギャラリーショップ「ちせ」が出来上がっていたんです。でも昔から考えていることは変わっていなくて、自分の作りたいものを作って、手に取ってもらった人たちに喜んでもらえる生活がしたい、そう思っていたんです。
ーーー偶然でもこんな素敵なお店を開けたのは、谷内さんの感性の賜物で、成るべくして成ったという感じがしますね。先日までギャラリーでは、同じくもみじ市に参加される小菅幸子さんと展示もされていましたよね。
谷内:小菅幸子さんとは「森、道、市場」のイベントで5年ほど前にお会いしたのが縁で、今回こうして一緒に展示をさせていただけるようになりました。小菅さんもそうですが、もみじ市には憧れの作家さんがたくさん出ているので、自分ももっとがんばらなくては……、と意気込みも強くなります。今年のもみじ市では小菅さんとのコラボが決まり、小菅さんが僕の作品『塩の結晶』の指環からインスピレーションを受けた作品を作ってくださるそうで、楽しみにしています。
挑戦し続ける日々
ーーー谷内さんは昨年、もみじ市初参加となりました。手紙社との関わりは実はその前からになるんですよね?
谷内:手紙社の「trois」と言う店舗がある時からアクセサリーを取り扱っていただいていました。2017年には洋服店の「soel」で初めて個展をさせていただいて、そこからもみじ市にも参加するようになって。
ーーーsoelでの展示は、谷内さんの物語性のあるアクセサリーとの調和が取れていて、素敵な空間でした。
谷内:はじめの個展ではとにかく今自分にできることをやってみようと思い、全てを出し切ってみました。翌年2018年には「ときのはて」とテーマを付けて、宝石を組み合わせたアクセサリーを発表したり、毎回挑戦をしています。10月末からは京都で「ゆめみのたび」と題し、神話や星座など想像上のものが作品として表れたものを出そうと思っています。
ーーー谷内さんの頭の中が覗ける内容の展示になりそうですね。本日はありがとうございました。
《インタビューを終えて》
いつでも自然を感じられる場所にいたという谷内さんと私は、共通するところが多く、お互いの故郷のことを思い出し、懐かしくなる場面がありました。あらゆるものが整った現代的な環境よりも、元々自然に存在しているものに強く心を惹かれる谷内さんだからこそ、わたしたちの魂に直接訴えかけてくる作品を生み出せるのです。そこには谷内さんが見てきた原風景そのものが、指環となり、耳飾りとなり、ブローチとなって姿を現します。神秘性が宿るアクセサリーを身につけ、その世界の一端に触れてみませんか?
(手紙社 上野 樹)